そう来たか!
お客様に挨拶をしている間もソイネル兄さまが一緒にいてくれるので心強い、同じような内容に同じ受け答え、さすがに疲れてきた。
「メレディ、疲れただろう、少し休むといい」
椅子に座らせて、アーニャを呼ぶと、ハイゼル兄さんのところに行ってくると、私から離れて行った、喉が渇いたのでアーニャに冷たい物を頼んで、ひと息ついていた。
(あの、2人はどこにいるんだろう)
キョロキョロと辺りを見回すと、ローデリア様はお父様とお母様と話している。
アボット様はどこだ?
「メレディ嬢」
突然後から声を掛けられ、びくっと跳ねた。
「ア、アボット様・・・」
「少し、散策しながら、2人でお話しでもしませんか、メレディ嬢」
ニコッと笑顔で話しかけてきた。
(もう、この笑顔とか悪いこと考えてる顔にしか見えないよ)
「メレディ嬢?」
「あっ、は、はいっ」
手を取って立上がり、アボット様に付いていく。
(来た、来たよ・・・)
ドキドキしながら少し距離をとってアボット様の後をついて行く
「とても、天気が良くて気持ちがいいですね」
「そ、そうですね」
どこまで行くつもりだろう、それにしても本当に良いお天気。
空を見上げると、木々の隙間からキラキラと光が見える
(お日様?ん?光が降りてくる?)
目を凝らして光の行き先を見つめている。
急にアボット様が振り返ったので、立ち止まった、お互いに向き合う形になったけど・・・・黙って相手の出方を伺っていると、
アボット様が手を出してきた。
(えっ、やだ手なんて繋ぎたくない)
そう思っていると、強引に手を捕まれ、引っ張られた。
(!?)
「あそこに、舟があります、御一緒にどうですか。」
ずんずんと手を掴んだまま離さずに引っ張っていく。
(えっ?舟?ちょっと待って、水!?)
「ちょっと、お待ちください、アボット様。私泳げないと思いますので、2人っきりでは少々心許ないのですが」
引っ張っている手を外そうとしているが、離してくれない。
「そうですが、それはちょうどいい・・・」
「はっ?今、何ておしゃいましたの?」
手を繋いだまま、アボットが先に舟に乗り引っ張られる
「きゃあ!」
舟が揺れ、私は舟の中に倒れた。
アボット様は舟から飛び降り、私が乗っている舟を思いっきり蹴った。
舟がゆらゆらと動き出した。
起き上がろうと動くと舟が大きく揺れ、身動きが取れない。
「きゃあ、だ誰か!誰が助けて!」
舟はゆらゆらと池の真ん中辺りで止まった。
舟の底に倒れたままの状態でいると、濡れているのを感じて足下を見ると、穴が空いていて水が入ってきていた。
(やだ、沈んでいく)
舟が沈んでいる恐怖を感じて、思わず立ち上がってしまった。
舟がぐらりと、大きく揺れて、後ろに倒れた。
(しまった!)
そのまま池の中に体が沈んでいく。
大きな水音が辺りに響いた、アボットは水音の大きさに辺りを見渡した。
池の真ん中には逆さまになった舟が一艘あるだけだった。
池の水はまた、静かになっていく、アボットは舟から落ちたメレディが浮いてくるかもと、様子を見ている、舟の側にメレディが着けていた髪飾りが浮いている。
(沈んだか・・・)
額の汗を拭い、パーティー会場へと戻る、池へと振り返ることはなかった