準備中②
翌日の早朝、薄靄の中、店の扉を叩いた。
そろりと扉を開けたのは、この店のご主人のダン、その後ろから覗いているのは妻のメリー。
「本当に来た。」
「昨日の話は本当なんですね。」
やはり半信半疑だったようだ、まあ、相手は子供だから、しょうがない。
中に入り、テーブルにお金と小さくなったドレスなどを置いて、借金の返済と、当面の営業資金と説明しました。
「これ、全部ですか?多いと思いますが、レティ様。」
私は2人にレティと名乗っている。
このお店のオーナーになり、店の運営と、住居の一室を私の私室にして、いつでも、生活ができるようにする、と条件を出しました。
2人はチラチラと私の後ろを気にしてみている。
「ああっ、紹介しますね、こちらはアニーです、私の補佐をしてくれます。」
「アニーと申します、よろしくお願いいたします。」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。」
明らかにほっとしている、そりゃ子供よりしっかりしてそうなお姉さんを頼りにしますよね。
アニーこと、アーニャに挨拶をしている。
昨日こっそり戻って着替えていたら、後ろにアーニャが立っていた。
心臓バクバクでひっくり返って驚いた。
アーニャの顔もそりゃ恐ろしかった。
「お嬢様、ご説明願います。」
アボットに襲われて殺されるかもしれないこと、殺されずに逃げて身を隠そうと思っていると、話す
「襲われたときにその場で捕らえてしまえばいいんです。」
そうですよね
「絶対にお嬢様に傷などつけさせません!」
はい、わかっております。
ですけどね、『痴情のもつれ』があって、私が消えて、ローデリア嬢の モテモテ伝説がないといけない気がして・・・。
「アーニャが、私を守ってくれると信じてますが、私はこの舞台から降りなくてはいけないのです。」
「はぁぁ?」
眉間にシワを寄せて聞いている。
「そうしなければ、私はずっと命を狙われる。」
何言ってるんだって顔で見ている。
「あっ、あのね、これは秘密にしてほしいのだけど、階段から落ちたときに、夢の中で逃げなければ、いずれ死がやってくるとかなんとか・・・お告げがあって、その、あの・・・」
「それからも、何度か夢みて」
「えっ、ではあの時、お嬢様が気を失っているときに、ブツブツと何やら呟いていたのは、この事だったのですね!」
「・・・わかりました、お嬢様のお話を信じます。」
大きく頷いてくれた。
「あとね、お父さまたちには内緒にしてほしいの。」
アーニャは首を傾げる。
「何故ですか?訳もわからずお嬢様が消えてしまったら、旦那様や皆様がご心配されます、悲しまれます。」
「そうなのだけれど、これも、夢で言われたことなの、本当はアーニャにも言えない事だったのだけど」
チラリと上目遣いでアーニャを見る。
「・・・お嬢様お一人で背負われて消えようとしていたのですね、お労しい、お嬢様!私が側におります。」
無理矢理な話しに納得してくれたのか、それとも、私のやりたいように、やらせようと思ってくれたのか、アーニャの協力が得られた。
それからは、食堂メニューの改善、広報活動等が効を征し、お店も客足が伸びてきた。
商売も安定して、私の新生活の基盤も出来た。
そして、いよいよ運命の日をむかえた。




