戻ります
「バルモティ侯爵家に何度目かのお目通りの後、アボット様が、森に入っていかれました。私は、それを御止めすることが出来ず、中へと付いていきました。池の側に舟があり、その舟に穴を空けることを命じられました。」
チラリとアボットを見る。
アボットは違う違うと首を振っている。
「でたらめだ!私は森に入ったことなどありませんっ!」
アボットの言葉を無視して、そのまま話を続ける。
「舟は侯爵家の物ですのでと、お諌め致しましたが、私の力不足、愚かにも舟に穴を空けました。」
「確かに、舟には小さな穴がありました。」
ソイネルが頷く。
「そ、そうだ!クレイだ、クレイが穴のことを話しておりました。こいつです、メレディ嬢を殺したのは。」
元付人のクレイを指差し大きな声をあげた。
「この男は愚図で使い物にならない、しかも、侯爵家の舟に穴を空けるなど、だから、クビにしたのです。」
アボットの言い訳を聞いたウェルソン侯爵も同じ様に元付人が勝手にやった事だと騒ぎ出した。
「クレイが勝手にしたこと、アボットは全く関係ございませんわ」
「では、何故、その付人だったクレイという男を騎士団に引き渡さなかったのですか?」
静かにセイデイルが問う。
「それは・・・」
夫人は慌てて夫を見る
「逃げ出したのです、私に気付かれたとわかると、屋敷から消えておりました。」
そう言うとアボットはクレイに近づいた。
「私に罪を被せるきだな!そうはさせない。」
クレイの腕を掴む
「直ぐに騎士団に連絡を!」
カチャリと扉が開いた。
「もう、来ております。」
騎士の制服を着た脇に剣をさげている、男が入ってきた。扉の外にも何人も待機している。
「こいつが、メレディ嬢を殺した男です。」
アボットが騎士にクレイを引き渡そうとする。
騎士はチラリとバルモティ侯爵を見て、クレイではなく、アボットの腕を掴む。
「!?何をしている、離せ、私ではない、こいつだ!」
「アボット殿、まだ、話は終わっていないよ。」
クレイから聞かされた話を、セイデイルが静かに話した。
話が進むにつれウェルソン侯爵家の面々が青くなっていった。
「嘘よっ!アボットがそんなこと出来る訳ないですわ!」
ウェルソン侯爵夫人の悲鳴
「そ、そうだ、何を証拠にメレディ嬢を無理矢理池に連れていき舟に乗せたなど、勝手な妄想だ!」
「ロベルト、貴様、何を言ったか解ってるのか!バルモティ家は娘が死んで気でも狂ったか!?」
「ドガリオ、お前とはもう、友でも恩人でもない、二度と会うこともな・・・」
ハイゼルは祖父をソファーに座らせた。
「妄想?証拠だと」
セイデイルはソイネルに目配せをする。
ソイネルが部屋の隅の衝立の向こうに入っていった。
「嘘でも妄想でもありません」
その声を聞いて一同静まりかえった。
「アボット様が無理矢理、舟に突飛ばし、私が倒れている間に足で舟を押して、岸から離したのです。」
衝立ての向こうで震える声が部屋の中に響いた。
「池の中程で舟が止まり、そして・・・舟から落ちました。」
「うそだ、嘘だ!」
騎士の手を払い衝立てに駆け寄りそれを倒した、騎士に床に倒されながら、衝立ての先を見て驚愕した。
中にはソイネルに庇うように抱き締められているメレディがいた。
「きゃあぁーー」
メレディはアボットを見て悲鳴をあげ気絶した。
「死んだ筈じゃあ、確かに池の中に沈んだのを見たんだ!その女はメレディじゃない、違う、違う」
騎士に無理矢理立ち上がらされ、連れていかれた、ドガリオ、ウェルソン侯爵夫妻も騎士団に連れていかれた。
クレイも詳しく話をするために騎士と共に出た。
メレディに駆け寄り抱きしめるバルモティ侯爵夫妻、その側には二人の兄達。
その様子を唖然と見ている、ローデリア。
「何故・・・メレディがいるの?」
ローデリアは憎々しげにメレディを睨んだ。
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