アボット①
ついにこの日が来た。
ローデリア嬢との婚約締結の日。
一年以上待たせてしまった。
あの日、祖父の決めた婚約者に会うために行った侯爵家で運命の出会いをした。
何をするにも口煩い祖父の決めた令嬢ってだけでも気に食わないのにハイゼル・バルモティの妹だと、ハイゼルは学園でも、お高くて嫌な奴だ、まあ、美形一家と有名なバルモティ侯爵家の娘だから、私の横に並んでも見劣りはしないだろう。
仕方なく見合いを受けた。
当日、メレディ嬢を見て確かに美しい。この美貌ならば、ウェルソン侯爵家、私の婚約者としても恥ずかしくはないだろう。
しかし、メレディ嬢は見た目と違い鈍い令嬢だった。会った瞬間に階段から転げ落ちた。
侯爵令嬢としてどうかと思う。
私に見とれて足を踏み外したようだ。
結局その日はメレディ嬢と話すことなく終わったが、その時、私は女神に会った。
見合い相手の居ないこの状況に、もう、帰ろうと思っていた。
「失礼致します。」
とても優雅な所作、ゆっくりと顔を上げ私を見つめる赤い美しい瞳。
一瞬で心を奪われた。
見とれていると、女神がこてっと傾げて、見つめ返してくる。
「ああっ、初めまして、アボット・ウェルソンです。」
「ローデリア・ダウガードでございます。」
これは運命だ。
鈍い令嬢が階段から落ちたのも、見合い相手ではない美しい令嬢と出会ったことも、運命。
ローデリア嬢に手を差し出した。
「少しお相手いただけないですか?メレディ嬢が部屋に戻られてしまって。」
ローデリア嬢は躊躇しながらも私の手をとってくれた。
「私でよろしいのですか?」
こくりと頷いた。
彼女との会話はとても楽しく。
美しい微笑み、声に仕草、何をとっても完璧だった。
「アボット様は侯爵家を継がれるお方なだけありますわね、色々な事をご存知でいらっしゃる。社交界のことも私は疎くてお恥ずかしいですわ。」
「ローデリア嬢はまだ、デビュー前ですから、あと2年ですか?その時は是非エスコートの相手に選んでいただきたい。」
ローデリア嬢を熱く見つめ返事を待つ。
「・・・とても、嬉しいお話ですが、アボット様はメレディ様と婚約されるお方、エスコートのお相手はメレディ様ですわ・・・」
ローデリアが悲しげに俯いてしまった。
そうだった、すっかり忘れていたが、今日此処にいるのはメレディ嬢との見合いだった
(ちっ!)心の中で舌打ちした。
それからは、ローデリア嬢に対する気持ちが抑えられず、手紙や花、アクセサリーなどダウガード子爵家に使いを出した。
しかし、ローデリア嬢の返事は素っ気ないものだった。
「アボット様はメレディ様の婚約者です、この様なことはお止めください。」
メレディ嬢は私の仮の婚約者になった。
あの後、祖父に断りを入れても、却下され、話を聞いてくれなかった。
前バルモティ侯爵とメレディ嬢がこの婚約に乗り気でどうしてもこちらからは断れなかった。
それなので、一年と期限を決めて、ウェルソン侯爵家、私に釣り合うのか見定める事になかった。
(鬱陶しい、鈍い女が私に釣り合う訳もない。お祖父様も友情だとか甘い事を。)
もう少しアボットにお付き合い下さい。




