58話 メルカとの再会
再び人間の姿に戻ろうと『隔世輪廻』のスキルをなんども発動させようとするが、なぜか上手く行かない。
まだまだ修行が足りないと言うことか。
休憩すればまた人間に戻れることができるだろう。
俺はひとまず人間の姿になるのは諦めて、メルカに話しかける。
「……それでお前はなんでこんなところでウェイトレスなんかやってんだよ。ティルニアで商売でも始めるんじゃなかったのか?」
「それがね! 聞いてよ!」
するとメルカは前のめりになりながら食い気味で大声を上げた。
「REDKILLを思いの外、高値で売り捌くことができて、それで小さな商船を買うことができたんだ!」
「「「「ふ、船ぇ〜〜〜〜〜〜〜っ!?」」」」」
俺たちはメルカの言葉を聞いて目を丸くした。
REDKILLは転生する前の世界で売られていたエナジードリンクだったのだが、新人エンジニアが無断でそのアイテムを実装して封印されたテストアイテムであった。
効果としては体力を回復させるだけしかないのだが、それがまさか船を購入できるぐらいの金額で売却できたとは……。
「そう! それで結構な借金もして海運業を始めてみたんだけど、ある日突然ティルニアが海に沈んじゃったの! ティルニアの停泊場に停めてあった私の船もろともよ!」
「船が沈んだ……? ティルニアもか?」
「ええ、おかげで私は大損! 借金ばかりが残っちゃって、どうしようもないからここの酒場に住み込みで働かせてもらっているの」
「そ、そんな、信じられません……。あれほど大きな海洋都市が、全て沈んでしまうなんて……」
ククリがメルカの話をすぐに受けいることが出来ず、愕然とした表情を見せた。
「本当よ。ここで飲んだくれている商人も、みーんなティルニアで海運業をしていた商人や船乗りたちなの」
「悲惨な話でさぁ……」
ため息混じりで吐き出されたゼルの言葉に、メルカはぶんぶんと手を左右に振りながら、あははと悲しみまじりの笑みをこぼした。
「そうでもないよ。私たちは命があるだけまだマシ。ティルニアが沈んだ時はたまたま私たちは積荷の準備とかで岸に上がっていたけど、多分ティルニアの住人はみんな死んじゃってるよ、多分」
なるほどな、と俺は周囲を見回した。
ようやく酒が回りはじめたのか、さっきまで鬱屈した雰囲気を醸し出していた行商人たちは、ジョッキ片手に騒ぎはじめてきた。
「借金が怖くて商人なんてやってられるかっ!」
「おうよ、兄弟! 借金なんて海の中に沈んじまえー!」
「俺たちはラッキーだ! 生かしてくれた女神様に乾杯だー! がはははははは!」
もう時間も夕暮れになりはじめて、人の入りも激しくなってきてだんだん賑わしくなってきた。
「もう船は出せないの? 私たち海を渡ってアークライト帝国まで行きたいんだけど……」
アイシャはここにくるまでに岸にいくつかの船が停まってあったのを思い出したようだ。
確かに残された船を使えば海を渡ることは可能なように思える。
するとメルカはだめだめ、と首を横に振った。
「あそこにある船は、運よくティルニアに停泊してなかったから沈まずに済んでいるけれど、ティルニアがあった付近まで出た途端、急に渦巻きが生まれて結局沈んじゃうの。何人もの船乗りが挑戦したけど、みんなだめだった」
「そうなんだ……」
アイシャは顔を曇らせると、俺もう〜んと頭を抱え込んだ。
メルカのおかげで、ティルニアが海底に沈んだことが明確となった。
おそらくそれは異端が影響しているに違いないのだが、どこに問題となる異端が存在しているのかわからなかった。
もし海底に沈んだティルニアに異端があるのなら、海底にまで潜らないといけないが、その方法を思いつくことができない。
これはツンだな……。
「トウリはどうしてここにいるの? キリリンの姿が見えないようだけど……」
天井を仰ぎながら悩んでいる俺に、メルカは問いかける。
「い、いや、それがだな……」
俺はキリリンの名が出た途端、気まずそうに視線を逸らした。
「キリリンは、殺されちまったんだ……」
「え……」
それを聞いてメルカは思わず言葉を詰まらせてた。
──
俺はオルサでの出来事や魔王イースターエッグが現れてエターニア王国が陥落したことをメルカに話した。
「……この世界で『蘇生魔法』が使えなくなったのは、きっと魔王イースターエッグのせいだ。だからそいつを倒せばきっとキリリンを生き返らせることができると信じて、俺たちは旅を続けている」
「そうなんだ……」
キリリンの死を聞いてしばらく暗い表情をしていたメルカであったが、すぐに持ち前の明るさを取り戻してこう言った。
「私にできることがあったら言ってね! 必ず力になるから!」
メルカは力強くそう言い放つと、周囲の行商人や船乗りから注文の声が飛んできた。
「おーい、メルカちゃん! エール、もう一杯!」
「こっちのテーブルもだ!」
「はーい! 混み出してきたみたいだから、私もう行かなくちゃ! みんなも今日は楽しんでいってね!」
「ああ」
その返事を聞いてメルカは元気にカウンターへと戻っていくと、隣のテーブルで酒を飲んでいた船乗りたちが俺たちに絡んできた。
「おい、兄ちゃんたちも飲め、飲め!」
「い、いや、俺子供だから……」
「そうですかい? へへへ、じゃあお言葉に甘えて……」
ゼルは遠慮する俺の横で舌舐めずりをしながら、酒杯を船乗りから受け取った。
「こら、ゼル! 私たちはお酒を飲んでいる暇なんてないんだからね!」
「堅いこと言うなよ、アイシャ。 ……じゃあ俺たちの出会いに乾杯!」
諫めてきたアイシャを尻目に、ゼルは船乗りたちと酒杯を打ち付け合ってがはははは、と笑い合う。
ちなみにこの世界の法律では15歳以上であれば飲酒は認められているらしいので、アイシャやゼル、ククリが飲んでも問題ないらしい。
「そうだ、そうだ! 姉ちゃんたちも飲め! 遠慮するな、俺たちの奢りだ! ぱぁ〜とやって、辛いことなんて全部わすれちまえ!」
「え、ええ……」
「ト、トウリ、いいの?」
そう言いながらも、アイシャとククリは恐る恐る俺に目配りをさせてきた。
そうだな、旅が始まってから大変なことばかり起きたんだ。
ほんの少しくらいハメを外してもバチは当たらないだろう。
「……そうだな、たまには息抜きしてこい!」
「やったぁ! ククリ、一緒に飲もうよ!」
「わ、私はほんの少しだけしか飲めませんが……」
こうして俺は温かい眼差しを彼女たちに向けたのであった。
この後、とんでもないことが起こるとは知らずに……。
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