51話 転生者の告白
伝説とまで謳われる超レアな赤毛の馬を捕獲した俺たちは、そのままこの平原に野宿することにした。
夜もすっかり暮れてしまって、みんなで焚き火を囲み食事を始める。
そろそろ話す頃合いかな……。
俺のこと、そして死んでしまったキリリンのことも。
「ちょっとみんな、聞いて欲しいことがあるんだ」
「どうしたのです、トウリ? 改まって」
焚き火に枯れ木を焼べられパチパチと音を立てる中、俺が話を切り出すとククリは重たくなったまぶたを擦りながらそう言った。
サラマンダーと名付けられた赤毛の馬が大人しく座り込んでいるところに、シスターとククリがクッションに寄りかかっている様を見るとすごく心地よさそうに思える。
「い、いや、大した話じゃないんだが……」
俺はあたふたと間を持たせながら、心をゆっくりと落ち着かせる。
この話は普通の人間にとってあまりにも突拍子もないことで、下手をすると逆に正気を疑われるのではないかという不安から、なかなか話す気になれなかったのだ。
しかしアイシャやゼルが俺の力に気付いた以上、何も話さないわけにはいかないだろう。
「実はその、俺、転生者なんだ……」
「……」
「「「ええっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」」」
僅かな沈黙があった後、この場にいた全員が目を丸くして驚き、捲し立てるように言葉を浴びせてきた。
「転生者っ!? トウリって転生者だったのっ!?」
「天運の定めの元に生まれてくるというあの……?」
「どうりで不思議な力を持っていると思っていやしたが、まさか旦那がそうだったなんて……。転生者なんて童話の中でしか聞いたことありやせんよっ!!」
俺が転生者と言ってこれほどみんなが驚くとは思っていなかった。
この世界では転生者はメジャーな存在ということなのか?
「あ、ああ、どうやらそうらしい。俺は異世界からこの世界に生まれてきた」
「て、転生者といやぁ、生まれてくる時に女神から願いを叶えてもらうって、話に聞きやしたぜ。旦那は一体どんな願いを叶えてもらったんですかい?」
転生者と聞いてゼルは前のめりになりながら話に食いついてくる。
願いを叶えてもらえるとかの話、コイツ好きそうだもんなぁ。
だがゼルが期待しているような答えはできそうにもなかった。
「いや、残念だが願いは叶えられなかった。それどころか何者かの邪魔が入って蚊の姿に転生させられちまったんだ」
「ええぇ……、それじゃ転生して損じゃないですかい!? よく旦那はそんなにまともでいられやすね。俺なら間違いなく絶望して自暴自棄になってやすよ」
呆れ果てたゼルを見ながらも、俺は酷いことを言うもんだな、と思いつつ心の中で苦笑した。
「そう落ち込んでなんていられなくてさ。実は俺が転生するより前に、親しかった幼馴染もまたこの世界に転生してきているらしいんだ」
「幼馴染……ですか?」
「あ、ああ……」
幼馴染という言葉を聞いて、ククリとアイシャの間で途端に張り詰めた空気が流れる。
俺はたじろぎながらもこの世界に生まれてきた経緯をみんなに説明した。
幼馴染の愛架のことを。
そして仕事をしている時に連日の徹夜がたたって過労死してしまったこと、転生する前に何者かによって蚊に変えられたこと、キリリンと出会った城のこと、そこで出会した異端という存在。
ちなみにこの世界は実はゲームの世界で、俺がそのゲームを作ったという話は伏せておいた。
なぜなら『ゲーム』と言ったところで、この世界の住人にはなんのことだかさっぱりわからないだろうから、説明しても理解できないと思ったからだ。
それに上手く説明できたとしても、自分たちが女神ではなく人間によって作られたと知ったらショックで寝込んでしまうかもしれない。
「転生する時、確かに俺は聞いたんだ。愛架が俺に助けを求める声を。女神ナーシャによるとこの世界がめちゃくちゃになったのは愛架が不完全な形で転生したかららしい。だから俺は愛架を探さなきゃならないんだ」
「……その愛架って娘、私にそっくりなんだよね? 彼女と仲は良かったの?」
アイシャの口調は優しさに溢れていたが、なぜか目は笑っていなかった。
「え、まぁ……一緒にいたのは子供の頃だから今はどうなのか、と言われると微妙なんだが、ごっこ遊びか何かの拍子に結婚の約束とかしてたから仲はそんなに……」
「「け、け、け、結婚!?!?」」
え、そっち?
なぜかアイシャとククリが思いもよらないところであわわ、と動揺し始めた。
「こ、子供の頃の遊びだって! よくあるだろ、そう言うの!」
忙しく羽をバタつかせて飛び回る俺に、アイシャとククリが訝しげに睨みつけてくる。
「……それで話を戻すと、落ち込んでいるわけにもいかず、俺はキリリンと外へ出ることにしたんだ」
俺は話をしながらキリリンと出会ったときのことを思い出す。
だけどそのキリリンもイースターエッグによって殺されてしまった。
言葉を紡ぐ度に自分の胸の中からやるせない気持ちが溢れてくるのを感じ、俺はすこし間を置いてとめどなく溢れてくる感情に堪えながら話を続けた。
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