49話 異端錬成《ポリアガス》
ヒヒィーーーンッ!!
渦巻くような炎のエフェクトに包まれながら、巨大な赤毛の馬が現れて耳をつんざくような嘶きを上げる。
俺たちは目の前で起こった信じられない出来事に、ただ圧倒されるしかなかった。
「あれは伝説の、赤毛の馬……」
「う、うそ? 目撃されたという情報しかない幻馬って、あれがそうなの?」
ククリとアイシャが口々に驚きの声を発する。
かく言う俺も戸惑いの色を隠すことができないでいた。
なぜなら赤毛の馬はゲームとして作られたこの世界において、序盤では決して登場することはなく、終盤に差し掛かった頃に初めて登場するからだ。
しかもただ単純に姿を現すのではなく、かなり低い確率で出現するレアモノである。
出現条件はノーヒントで、広大なマップの特定の場所に1%の確率でレアモンスターが出現するのだが、『クリスタルの腕輪』を装備するとさらにその1%、つまり0.01%の低確率で出現する。
見つけるのも大変だが乗りこなすのは更に大変で、デバッグツールで出現確率を100%にしたのにも関わらず、腕のいいデバッガーも手懐けるのに一週間はかかったほどだ。
確実に言えることは、赤毛の馬がこの場に姿を現すこの事象は、異端で間違いない。
俺の感覚も異端であることを察知している。
それにしても……。
「で、でけぇ」
そしてその馬の体格は普通の馬より一回りから二回りほど大きく、毛並みも炎が煌々と燃え上がるような赤くつややかな光を放っている。
それはまさに世紀末覇者が跨ってそうな、王者の風格を持った巨大馬であった。
あまりの威厳さに、さっきまでいた馬の群れはまたたく間に逃げていってしまったようだ。
しかし目の前に存在する赤毛の馬は、疑いようのない異端だ。
なにか危険が及ぶ前に対処したほうがいいかもしれない。
そう思って俺はその圧倒的な雰囲気に呑まれながらも、異端を除去すべく『異端審問』のスキルを発動させようとした。
その時だ。
「シスター、その馬に近寄っちゃダメっ!」
不意にアイシャの声高く叫ぶ声が聞こえた。
気がつけばシスターがすたすたと赤毛の馬に近づいて行くのが見える。
「お、おい。下手に近づくと……」
俺が止める間もなく、シスターは躊躇することなく赤毛の馬に触れて何度も撫で回す。
「触れた? 熱くはないのですか?」
ククリが恐る恐る近づくと、赤毛の馬はブルルル……と唸り声を上げて恐ろしい程の殺気を放ってきたので、あっけなく彼女は「ひぅっ!」と身を引いてしまった。
最近のシスターは何故か命令なしでも、俺の気持ちを汲んで行動を起こすことがある。
だが基本的には異端によって洗脳された彼女を、俺が『霊廟の衛兵』と呼ばれるスキルで傀儡にしている。
もしかすると赤毛の馬は感情の欠落が著しいシスターだからこそ近づけたのかもしれない。
「……」
そしてついにシスターは無言のまま軽い身のこなしで飛び上り赤毛の馬の背中に跨ってみせた。
「っ!!!! ブヒヒーーン! ヒィーーンッ!!」
その途端、赤毛の馬はそこで初めてシスターと意図を察したのか、一心不乱に暴れ始めた。
赤毛の馬は激しく嘶き、自分の巨体を天に掲げると前足を荒々しくバタつかせて、空高く舞い上がりかなりの高度からの落下する。
まるで絶叫マシン級のロデオショーだ。
無理矢理に振り落とされそうになるシスターだが、それでも無表情に赤毛の馬の背中に食らいついて離さない。
「シスター!」
俺は思わずシスターの名を叫ぶ。
このままだとシスターの身が危うい。
だがもし俺が『異端審問』を発動させれば、異端である赤毛の馬は正常化されて消失してしまう。
そうなれば全力疾走中のジェットコースターを、コースごと消し飛ばすようなもので、シスターの身体は上空に放り投げられてしまう結果になり無事では済まないだろう。
なにか、なにか俺にできることはないのか!
なんとかシスターを援護できるようなスキルがあれば……。
そういえば──。
俺は必死で思考を巡らせると、オルサの街で巨大アリを倒した時に習得したスキルのことを思い出して、すぐさまHUDからスキル一覧を表示させて当該スキルを探す。
……あった!
『異端審問』や『霊廟の衛兵』などとともに『異端錬成』というのスキルが並んでいた。
そして『異端錬成』のスキル説明欄を見てみると、「異端を強化する」と書かれているのを確認する。
「これだ!」
シスターはスキル『霊廟の衛兵』によって未だに異端に冒されている状態だ。
だとしたらこのスキルで異端を強化することにより、シスターを支援することが可能になるのではないか。
『異端錬成』でどれだけシスターに影響をあたえるのかどうかは未検証だが、なにもやらないよりかはずっとマシだろう。
スキル習得したときは敵である異端を強化するという効果にひどく失念してしまったが、こんな場面で使用することになるとは……。
俺は迷うよりも早く意識を集中させると、シスターに標準を合わせてスキル名を強く思い浮かべながら叫んだ。
「『異端錬成』ッ!」
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