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42話 クーデター

「国家の反逆者、クリスタを捕らえろ!」


 ソアラの叫んだ意外な言葉に、俺たちは愕然とした。


「な、なにを言っているのです、ソアラ? 私が反逆者って……」


 俺たちが呆気に囚われているうちに、屈強な兵士達が俺たちの周りを取り囲む。


 忠実な配下の変貌ぶりを目の当たりにしてクリスタは動揺を隠せないでいた。


「だまれ、この反逆者めっ!」


 ソアラがそう叫ぶと、兵士の槍がクリスタの首元を突きつけて、ヒヤリと張り詰めた空気がこの場を支配する。


「やめろっ! クリスタが反逆者なわけないだろうがっ!」


「証拠ならあるわ!」


 口を挟む俺に、ソアラは間髪入れずにそう言い放つ。


「お前みたいに人の言葉をしゃべる蚊がいるはずがない! お前もあの奇妙なモンスターの仲間なんでしょっ!?」


「お、俺のせいかよっ!?」


 不満の声を上げながら飛び回る姿に、ソアラたちは殺意に満ちた冷たい視線を放つ。


「奇怪なモンスターが現れたのは、反逆者クリスタがお前のような蚊を城を招き入れたからだ!」


「そうだ、そうだ!」


 武器を構えた兵士たちが口々に同意の声を上げる。


 俺は蚊という存在がこの世界において凶悪な疫病を流行らせた「死を運ぶもの」として忌み嫌われていることを思い出した。


 しかし、何かがおかしい。


 突然クリスタに向けられた殺意に戸惑いつつも、僅かな違和感が胸の奥から溢れ出す。


 これは正真正銘、クーデターだ。


 しかし彼らの様子をよく見てみると攻撃的な口調とは裏腹に、顔は恐怖に引きつり手足を僅かに震わせていて、こいつらが正気じゃないということがすぐにわかった。


 それにもし仮に俺が異端(バグ)モンスターを呼び寄せている元凶であるとするならば、憎しみの矛先はクリスタではなく俺に向くはずだ。


 長年クリスタに忠誠を捧げてきた兵士が、こうも簡単にクリスタへ刃を向けるなんてどう考えても不自然である。


 これはなにかあるな。


 もしかするとこの違和感の正体は、奴らが異端(バグ)に冒されていることから生じているのかもしれないが、イースターエッグとの戦いで魔力を使い果たしてしまった俺は異端審問(アドミンズセンス)で察知することができない。


「血迷ったことを。見なさい、あのモンスターの死体を! 城を襲撃したモンスターを倒したのはトウリ様なのですよ! この方々が城を救ってくれた英雄であることがわからないのですかっ!?」


 クリスタはモンスターと化したマライアの死体を指さしながら声を張り上げるが、兵士たちはクリスタの話しをまともに聞き入れようともしない。


「し、信じられるか! きっと我々を騙すために仲間のモンスターを殺したんだ!」


「この卑怯者めっ!」


「そんな……」


 クリスタは絶望に打ちひしがれていると、礼拝堂にぞくぞくと兵士が集まってくるのが見える。


 その兵士たちもソアラと同様に敵意をむき出しにしていた。


 出口が塞がれ完全に逃げ場が塞がれた、と思ったその時だ。


「ふふふ……ふぁーっはははははははっ!!」


 ゼルが不敵な笑みを浮かべると、頭のシルクハットを押させながら仰々しく体を仰け反らせて笑い声を上げた。


「ど、どうしたの、ゼル? 頭がおかしくなっちゃったの?」


 心配そうに見つめるアイシャにゼルは肩肘を上げて制すると、ゆっくりとソアラたちを見据えた。


「バレてしまってはしょうがない。……ああ、その通りでさぁ。この方は何を隠そうこの世界の征服を企む魔王トウリ様であらせられるっ!」


 あまりのことに脳が追いつかず、一瞬だけ沈黙が訪れる。


「えええええええええええええええええっ!?」


 ゼルの傲然としたうそぶきに、クリスタやアイシャだけでなく張本人の俺も驚愕した。


「そ、そうだったのですか!?」


「んなわけないだろ、クリスタ! ゼルもなんてことを言いやがる!」


「いやいや、旦那。この種の手合は何を言っても無駄でさぁ。そんな時は奴らの恐怖を煽ったほうが活路が見えるかもしれやせんぜ」


「そんなバカな……」


 そんな茶番を目の前で繰り広げていたにもかかわらず、兵士たちはゼルの言葉を聞いてどよめき始める。


「ま、魔王だって…? そ、そんな……」


「みんな、騙されてはだめよ! あんな虫けらみたいな魔王がいるわけないんだからっ!」


 狼狽え始める兵士に向かってソアラが檄を飛ばしていさなめた。


 はやりそんな突拍子もないことをいきなり信じるわけないか。


 そんなソアラたちの様子を見て、ゼルはゆっくりと人差し指を左右に振りながらチッチッチッと舌を鳴らす。


「愚か者! この姿は人の目を欺く仮の姿に決まっているだろう! 見るがいい!」


 そう言いながらゼルは懐から何かを取り出すと高々と掲げてみせた。


「これぞ魔王のみが持つといわれる伝説の笛だ!」」


 なんだよそれ……。


 ゼルが手にしているのは不気味な意匠が施されたただの横笛だった。


「おい、ゼル。どこからそんなアイテムを持ってきたんだ?」


「へへへ。旦那がイースターエッグと戦ってたときに破壊神の亡骸と一緒に、この笛も落ちてたんで拾っておいたんでさぁ。ちなみに何の笛なのかは俺にもわかりやせん」


「……」


 俺はゼルに耳打ちするとゼルは僅かにウィンクを返して、囁くような声でそう言った。


 破壊神の亡骸の傍にあったアイテム?


 それが何かは嫌な予感がするが、そんなもので俺が魔王であることを証明できるわけがない。


 実際にソアラたちは訝しげな視線をこちらに向けている。


 このままだとハッタリであることがバレてしまう。


「にわかには信じられないようだな。よかろう、絶望の音を聴くがいい!」


「お、おい、よせ! 勝手に吹くな!」


 調子に乗ったゼルはおもむろに構えると、不快なメロディを奏で始めた。


 ぼえ〜〜♪


 その音はあまりの爆音で、城だけではなく王国中に響き渡っていく。


「ゼル、もういい! もうやめろ!」


 調子の外れたその大音量に脳髄が揺さぶられる思いがして、思わず俺はゼルに向かって悲鳴を上げた。


「心を蝕むようなその音色、それはもしや……」


 横笛の音色を聞いただけで、ソアラたちの表情は恐怖に打ち震え始める。


「それは、もしや伝承に記されたアイテム『降魔の笛』!?」


 ん? そうなのか?


 俺も『降魔の笛』については知ってはいるが、ゼルが持っている笛は形状が明らかに異なっている気がする。


 それはソアラが伝承について正しい知識を有していないのか、それとも気が動転して盲目的に違うアイテムを連想してしまったのかはわからない。


 俺は思わずクリスタの横顔を伺うが、彼女にもそのアイテムがなんなのかが分からないのか首をゆっくりと横に振った。


「そ、そのとおりだ、よく分かったな! これがその『降魔の笛』だ! さぁ、トウリ様を畏れ奉るがいい!」


「ま、魔王だっ! 魔王が現れたぁ!」


「まじで信じるのかよ……」


 もしかするとあの音色を聴いたせいで、精神がどうかしてしまったのか?


 だとしたらこれはチャンスだ。


 ここはゼルの話に乗ってみるか。


「えー、ごほんごほん。そ、そうだ、我こそが魔王トウリだ! 死にたいやつから前へ出るといい。真の地獄を味わわせてやろうぞ!」


「ヒィィィィィィィィィっ!」


 俺がそう凄んで見せると兵士たちは怖気づき、ソアラだけを残して壁の端まで後ずさっていく。


「ああ、ああああ……」


 取り残されたソアラは、あまりの恐怖に持っている杖を弱々しく掲げながら、足を内股にしてガクガクと震わせていた。


 ソアラは見るからに他の兵士たちよりも怯えてしまっている。


 俺たちと出会う前、異端(バグ)に冒されたゴブリンどもに為す術なく殺されかけた経験がトラウマになっているからかもしれないが、それにしてもボス級のモンスターに物怖じしない世界トップクラスの魔導師が、これほど怯えているのがどうも引っかかる。


 これもゼルが奏でた笛の効果なのかもしれないと思いつつも、俺は引き続きソアラを威嚇する。


「ふわははははははっ! 小娘よ、我が前に出るとはいい度胸だ! まずは貴様から始末してやろう!」


「ち、違……ぅ……」


 逃げ遅れただけ、とでも言いたいのか、ソアラは恐怖で言葉もろくにしゃべることができずに首を横に振って見せる。


「て……てったい、みんな撤退……」


 かろうじて紡がれる撤退の声に、俺はニヤリと笑ってみせた。


「撤退だと? 知らなかったのか! 魔王からは逃げられないのだっ!」


「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 ソアラはあまりの恐怖に身体を震わせながらぺたんと尻餅をつくと、じょわーと礼拝堂の床を濡らす。


 え? 失禁? マジで?


 そこまで怯えさせるつもりはなかったのに……。


 反省しながら思わず仲間の顔色を伺うが、クリスタとアイシャ、なぜかシスターさえも瞳から光を失いドン引きしていた。


 えぇ……。


 だがここで威嚇の手をやめてしまう訳にはいかない。


 この場を凌ぐためにはただ脅すだけでなく、戦意を失わせるためだけの見せしめが必要だろう。


 しかし、魔力が尽きた俺には何もできそうにない。


 いや、魔力、か……。


 俺は目の前でへたりこんでいるソアラに視線を向けると、ゴクリと喉を鳴らした。


 そういえばソアラは王宮四天導師の一人で、この世界でもトップクラスの魔力を持っているはずだ。


 トップクラスの魔導師に流れる血はどんな味がするのだろうか。


 ソアラの血の味を想像するだけで、いつもの吸血欲求がムラムラと湧き上がってきた。

 

「ふふふ……。すぐには殺さん。我が毒牙で貴様の身体を汚してくれよう。さぁ血を捧げるがいい」


「い、いやよ……。や、やめて……」


 怯えながら懇願するソアラに構わず、俺は彼女の白くて柔らかそうな肌に針を突き立てた。


「んんん〜っ!!! やだ、やだ、やだ、こんなのやだぁ……。感染するぅ……。魔王に疫病を感染させられるぅっ……。お母さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!」


 ソアラは身体を仰け反らせながらも、吸血による甘美な誘惑と恐怖の感情に理性が呑まれないよう必死に耐え続ける。


 恐怖に引きつっていただけのソアラの顔がとろんと緩み始めて、力なく開けられた口から熱いヨダレがこぼれ落ちる。


「負けないぃ……。蚊なんかに決して負けないぃぃぃぃ……」


 負けない、とか言いながらも身体を捩らせながらも自分から法衣をはだけさせ、順調に俺に魔力を供給し続けるソアラ。


 すごい。この魔力は世代を超えて脈々と受け継がれたものなのか深くて芳醇な味がする。


 しかも身体に馴染む。馴染みまくる。


 どれだけ吸ってもなかなか満腹にならないし、ソアラの身体からなかなか枯渇する様子もない。


 五臓六腑に染み渡るというのはこういうことを言うのだろう。


 これはヴィンテージ物、そうヴィンテージ魔力だ!


 今までとは異なる感覚がクセになり、俺は我を忘れてソアラの血を吸いまくった。


 すっからかんだった魔力も一気に補充され、減少していた寿命ゲージもみるみるうちに回復していくのがわかる。


「負けなイッ……くぅっ! はあ、あああぁ……」


 なかなか底が見えなかった魔力であったが、ついに俺に吸いつくされてしまいソアラはビクビクと身体を痙攣させると、涙ながらにぐったりと床を見つめて熱い吐息を漏らす。


「まぁ、今回はこの程度で許してやろう」


 ソアラの肌からおもむろに針を抜くと俺は兵士たちを睨みつけた。


「そこを退くがいい。さもないと貴様らの血液も吸い尽くしてやる!」


 すると兵士たちは一斉に後ずさり、礼拝堂の扉までの道を開ける。


「よし! みんな、とりあえずこの城から脱出するぞ!」


 そう張り切って仲間たちの方へと振り向くと、未だにクリスタとアイシャ、シスターはドン引きしたまま白い視線をこちらに向けていた。


「トウリ、サイテー……」


 アイシャのポツリと呟いた言葉に胸が締め付けられながらも、俺達は城を後にしたのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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