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40話 激闘の果てに

「『隔世輪廻リーインデグレーション』っ!!」


 スキルを発動させた直後、一瞬のうちに俺の身体は人間の子供の姿へと変貌を遂げていた。


 目の前にポップアップが表示され、封印されていたスキルが次々と解放されていくのが告げられる。


 邪魔だ。


 俺はそれを無視して続けざまにスキルを発動させる。


「『神加速の羽フェザー・アクセラレイト』っ!」


 周囲の時間がゆっくりと流れ、黒い光がキリリンに突き刺さる寸前で一気に減速する。


 俺はキリリンの前に躍り出て、彼女の身体を抱きかかえると瞬時に離れた場所に移動し、頭を伏せながら『神加速の羽フェザー・アクセラレイト』を解除させた。


 背後で黒い光が本来の速度を取り戻し、空を切り裂く音が聞こえる。


「キリリン様、トウリ様!」


 クリスタの悲痛な叫び声を上げた。


 彼女にはきっと俺とキリリンがさっきの衝撃で消し飛んだように見えているのだろう。


「俺たちはここだ!」


「え、トウリ? その姿、人間に……?」


「詳しい説明は後だ! シスター、早くキリリンに回復魔法を!」


 戸惑うアイシャを尻目にシスターを呼び寄せる。


 キリリンの傷口を見るとすでに黒い光は消え失せて、そこからドクドクと大量の血液で溢れかえっていた。


「こ、こいつぁひでぇ……」


 シスターが回復魔法をかける最中、キリリンの傷を見てゼルは声を震わせる。


 助かってくれ、キリリン……。


 俺は心からキリリンの無事を祈ったが、一向にキリリンの傷が塞がる様子はない。


「止めを刺す必要はなかったな。そいつはもう助からん。さしもの元魔王と言えど、その力失ってしまえば呆気ないものだな」


「黙れっ!」


 イースターエッグの冷酷な言葉を打ち消すように、俺は必死で言い放った。


 腹の奥底から憤怒が湧き上がり、炎のように心を包んでいくのを感じる。


 渦巻くような殺意が俺の意識の全てを支配していく。 


「『狂戦士の怒りレイジ・オブ・バーサク』……っ!」


 俺はほぼ無意識にスキルを発動させていた。


 内に秘められた殺意が解放されて、全身に破壊のオーラが駆け巡っていく。


「そ、そのスキル……。あの時に見た……」


 ふとキリリンの声が僅かに聞こえてくる。


「キリリン!」


 俺は思わずキリリンの身体を抱え込んで彼女の名を叫んだ。


 ごぼっ、と彼女の口から血溜まりが吐き出される。


「イシガミ、トウリ……。そうか、妾はイシガミと、すでに再会して……」


「もういい! 話すなっ!」


 彼女から魔力が急速に失われていくのを感じながら、俺は必死な想いで彼女の手を取った。


「また、貴様と会えて、うれしかっ、た……」


「待ってろ、俺がなんとかしてやるっ! だから!」


 その言葉が届いたのかそれともそうでなかったのか、キリリンは力なくにっこりと微笑むと彼女の瞳から光が消えていく。


「死ぬなっ、キリリン!」


「キリリン、死んじゃ嫌だよっ!」


「キリリン様!」


「姉御!」


 皆の必死の呼びかけも虚しく、俺の手からキリリンの手が力なくこぼれ落ちる。


 もはやキリリンの身体からはもう生命の息吹は感じられなかった。


 ちくしょう。ちくしょう。ちっくしょうっ!


 俺は自分の不甲斐なさを呪いながらも、燃え上がるような怒りを抑え切れずにいた。


「茶番はここまでだ。お前たちも奴の後を追うがいい」


 イースターエッグが右手をおもむろに掲げ、さっきの黒い光の矢を再び放とうとこちらに狙いを定める。


 あれをくらえば、全滅間違いなしだ。


 俺は転移魔法を唱え、魔法のゲートを開く。


「ここは俺が食い止める。お前たちは先に脱出しろ」


「そんな、私も戦える!」


「いいから早くいけっ!」


 食い下がるアイシャに俺はピシャリと言い返す。


 この世界のボスである破壊神を、イースターエッグはいとも簡単に始末している。


 アイシャの力が奴に通じるとは、どうしても思えなかった。


「『神加速の羽フェザー・アクセラレイト』!」


「『神加速の羽フェザー・アクセラレイト』……」


「なに!?」


 俺とイースターエッグは同時に同じ魔法を発動させる。


 周囲の時間がゆっくりと進み、俺とイースターエッグだけがこの時空の中で自由に動くことができるようになった。


 まさか奴も俺と同じスキルを使うことができるなんて……。


「そんなに驚くことでもないだろう。私もお前と同じ異端なる存在なのだから……」


「なんだと!?」


 いくつもの黒い光がイースターエッグの右手から解き放たれ空間を引き裂く。


 俺は『狂戦士の怒りレイジ・オブ・バーサク』によって強化された身体を投げ出し、叩きつけるようにその閃光を全て弾き飛ばした。


「ぐぁあああっ!」


 迎撃に成功したものの、骨の髄まで激痛が走り右手の指がグニャグニャにひしゃげてしまっている。


「そんなことで、いつまで仲間を守っていられるかな」


「はあっ!」


 イースターエッグが不敵な笑みを浮かべながら次の攻撃態勢に入るのを見て、俺は両手を地面に思いっきり叩きつけた。


 するとアイシャたちを巻き込みながら、周囲一帯の岩盤が陥没し間一髪で奴が放った黒い光が頭上を掠める。


「悪あがきを……」


 この場所から脱出するためには、イースターエッグとみんなとの距離を離さなければならなかった。


「はぁあああっ!」


 俺はすぐさま陥没した地面から飛び出し、回転しながら踵落としを奴の頭に放つ。


 陽炎のような動きで攻撃がゆるりと躱され地面にクレーターができる。


 着地と同時に跳躍し、身体を捻るように回転させると奴の顔面に回し蹴りを放つ。

 だがそれも身体を柳のように逸らされ、俺の足は空を裂く。


 それでも俺は動きを止めることなく、続けざまに次々と攻撃を仕掛けていくが、ことごとく躱されてしまい、身体に触れることさえも叶わなかった。


 くそっ! せっかく『狂戦士の怒りレイジ・オブ・バーサク』で超人的な力を得ても攻撃が当たらないのであれば意味がない。


 もうすぐ『神加速の羽フェザー・アクセラレイト』の効果時間も切れてしまう。


 攻撃を当てさえすれば……。


「まさか攻撃が当たりさえすれば、勝てるとでも思っているのではないだろうな」


 囁くような呟きに、ヒヤリと背筋が凍るような予感がよぎる。


 いや、ハッタリだ。


 そうでないとこうして俺の攻撃を躱す意味がない。


 するとイースターエッグはピタリと動きを止める。


 罠かもしれない。


 だが今しか攻撃を当てるチャンスはない!


「でやあああぁっ!」


 ズドムッ!


 鈍い音とともに奴の顔面に俺の左拳が打ち込まれる。


「!?」


 どんな岩でも破壊できるほどの力を持つ打撃を受けてもイースターエッグは涼しい顔を向けていた。


「ただ無意味に殴られるのだけは性に合わないのでね。だがもうこれで分かっただろう。私には全ての攻撃に対する耐性があって、たとえ異端なる力であったとしても私に傷一つつけることができないのだ」


 急に押し寄せてくる絶望感に、身体が一気に重くなる。


 さっきまでのキレのよい動きがなりを潜め、俺は不意に足を止めてしまう。


「先程のお返しをさせてもらおうか」


「し、しまった……!」


 言うが早いかイースターエッグは雷鳴の如きスピードで腰の剣を抜き放ち、俺は無意識に身を捩って躱そうとする。


 一閃。


 意図が途切れるような張り詰めた音が鳴ったかと思うと、いつの間にか俺の右腕が肩から切断されていた。


「うわああああぁぁぁぁっ!」


 噴水のようにおびただしい量の血液が右肩から噴出する。


「絶命を避けたか。まさか私の攻撃を凌げる者がいたとは……。しかしもう実力の差が分かっただろう」


 実力の違い。


 確かに俺と奴とでは実力が違いすぎる。


 決定的なのは、俺は奴ほど自分の力を全て活かしきれていない、ということだ。


 ドゴォッ!


 そう反省している暇もなく、イースターエッグはうずくまる俺の頭を豪快に蹴り上げる。


 そのまま俺は地面の岩を削りながら吹き飛ばされ、元いた位置にまで戻されていた。


 『神加速の羽フェザー・アクセラレイト』の効果も喪失し、周囲は元通りに時間が進行し始めた。


「ト、トウリ! なんてひどい傷を!」


「あの一瞬で一体何があったんだ……」


 転移魔法を唱えてからおそらく1秒も経過していないのだろう。


 アイシャたちは突然目の前に起こった出来事に唖然とする他なかった。


「お、お前たち早く逃げ……」


「逃げられると思うなよ」


 必死で発した俺の言葉を、イースターエッグの冷淡な囁きが打ち消した。


 一瞬で移動してきたのか、奴はもう目と鼻の先に立っており、持っていた大剣を素早く突き出そうとしている。


「これで、終わりだっ!」


 その刃が俺の胸元を貫こうとする瞬間、俺は反射的にある魔法を唱えていた。


 大剣の刃が胸の上を迫りくるのを感じながら、左拳に膨大な魔力が蓄積されるのを感じる。


「『無限並列魔法エンドレス・パラレル・アリア』っっっ!!!」


 それは俺が生まれて最初に習得ししたスキルであった。


 蚊の姿をしている理由ですぐに使えなくなってしまったが、人間の姿なら使用の解除がなされていたのだ。


 いくつもの攻撃魔法が小さな左拳から同時にかつ無制限に放たれる。


 一点集中、上級攻撃魔法の固め打ち。


 イースターエッグはその攻撃をアクロバティックに躱そうと試みるが、放たれた魔法はあらゆる角度から奴を追尾するように動いて回避することを許さない。


 とうとう魔法が奴の姿を捉え着弾すると、爆炎、暴風、凝結、爆散、縮爆、神罰、消失とあらゆる破壊事象が一気にイースターエッグの身に襲いかかる。


 魔力の減りが半端ない!


 これだけの魔法を打っても奴に傷一付けることはできないだろう。 


 だがこれで時間がいくらか稼ぐことができれば……。


「あああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」


 俺は今持てるだけの魔力を振り絞って『無限並列魔法エンドレス・パラレル・アリア』を放ち続ける。


「トウリっ!」


 え?


 幼いときに一緒にいた女の子、愛架の声がしたと思って、俺はふと我に返る。


「もう十分だよ! それ以上魔法を使えばトウリが死んじゃう!」


 振り向くとキリリンの身体を抱いたアイシャの姿があった。


「お願い、だからもうやめて……」


 アイシャは涙で顔をくしゃくしゃにしながら、そう訴えかけてくる。


 『狂戦士の怒りレイジ・オブ・バーサク』の効果も切れ、魔法の発動も止まっている。


「トウリ様!」


「旦那! 無事ですかいっ!?」


「あ、ああ……」


 そこにはアイシャだけでなく、クリスタ、ゼル、シスターも逃げずに俺の様子を伺っていた。


「みんな、まだ逃げてなかったのか」


 気がつけばイースターエッグの身体も既に見えなくなるくらいまで遠く吹き飛ばされている。


「当たり前でさぁ! 旦那一人置いたまま、逃げるわけにはいきませんって!」


「お前ら……」


 心配そうにゼルがそう言い放つが、周囲にはモンスターたちが俺たちのことを睨みを効かせて取り囲んでいるのが見える。


 ボスであるイースターエッグがやられているのを見て戸惑っているようだが、何かの拍子で今にも飛びかかってきそうだった。


「い、今がチャンスだ……。ゲートを抜けるぞ」


「行かせはしない!」


 満身創痍でみんなにそう告げた瞬間、吹き飛ばしたはずのイースターエッグが急接近してくる。


「急げっ!!」


 イースターエッグは飛翔しながらも俺たち目掛けて黒い光を放つ。


 俺は必死でみんながゲートに向かうのを確認すると最後の魔力を振り絞った。


「『無限並列魔法エンドレス・パラレル・アリア』っ!!」


 正直、もう魔力は底をつき始めている。


 だがここで魔法を止めてしまえば、俺たちは全滅確定だ。


「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」


 すると切断された右腕から流れる血が宙に浮き始めて光を放つ。


 そしてなぜか魔力はあまり減らずに寿命ゲージがどんどん減り始める。


「マジかよ……」


 ついには『無限並列魔法エンドレス・パラレル・アリア』は自身の血潮を媒介にして発動し、イースターエッグと黒い光を迎撃した。


 だがそれでも撃ち落とせなかった黒い光はいくつがこちらに猛スピードで迫りくる。


「トウリっ!」


 身体が誰かに引き寄せれるような感覚を覚えると、それを最後に俺の意識は暗い闇の淵へと落ちていった。


──


「……」


 トウリたちがこの地を去った後、天を見つめながらイースターエッグは身を起こして服にかかったホコリを払う。


 口の中に鉄の味が舌の上にまとわりついているのを不快に思い、ペッと地面に吐くと唾液に僅かな血が混じっているのが見えた。


 イースターエッグには魔法攻撃にも耐性があり、ダメージを与えることができない。


 そのはずだった。


 だが現にイースターエッグは軽症を負っている。


 考えられる原因があるとすれば、トウリが使っていたスキルの中に、自分を傷つけるものがあるということだ。


「……」


 トウリたちをすぐに追って始末するのは簡単だった。


 奴を今殺しておかなければ、いずれまた障害となって自分の目の前に立ち塞がることになるかもしれない。


『待て、イースターエッグ』


「お前か……。なぜ止める?」


 イースターエッグの頭の中で謎の声が響き渡る。


『お前を傷つけたその力。我々がずっと探していたものだ』


「なに?」


『この世界を破壊するのにまだまだ我々の力は不十分。その力の解析を試みてみたが、あまりに弱すぎて完全に解析するには至らなかった』


「……」


『計画を変更する。奴の力の正体がわかるまで殺してはならぬ』


「……承知した」


 その声に従うようにイースターエッグは静かに目を伏せた。

 

「トウリ……」


 思い出すようにトウリの名を口にすると、イースターエッグはマントを翻してその場から姿を消した。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


この話にどういう反応が寄せられるかで方向性が決まるかもしれません。


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