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36話 悪夢、再び

「ダメだよ、キリリン。野菜も食べないと大きくなれないよ」


「ええい、鬱陶しい。主菜はさきほど食したのだ! 全くこれだから……って、だからわざわざ野菜だけを取り分けんでもいい! 妾のオカンか、貴様!」


 俺の横でアイシャとキリリンが仲良く食事を続けている。


 幼い時にああして愛架が俺に世話を焼いていたことを思い出す。


 あの面倒見といい、こうして見ているとアイシャはやはり愛架とそっくりだった。


 アイシャは今までキリリンのことをとっつきにくいと感じていた節があった。


 しかしこうして同じ食卓を囲むことで結構お互いの距離が縮まったのだろう。


 やっぱり同じ釜の飯を食うって大切なことだったりするんだなぁ、と俺はしみじみと思った。


「……それで、ある日を境にオルサの住人たちがだんだん変になっちまって、夜になると何かに操られるように他の人々を攫っていったんでさぁ」


 宴はすっかり落ち着きを見せ始め、空腹を満たしたゼルはワイン片手にオルサでの出来事を、さも武勇伝であるかのように語り始めていた。


「奴らの動きはまるでゾンビのようにフラフラとしてるんですが、ものすごい怪力で多くの人間の首根っこを一度に捕まえてどこかへ連れてっちまうんですよ」


 ごくり……。


 クリスタは喉を鳴らしながら神妙な面持ちで聞き入っている。


「それからどうなりましたの?」


「俺はアイシャをとりあえず教会に隠したところで様子のおかしい住人に俺は捕まっちまって、牢屋に放り込まれちまったんでさぁ。まぁ村のチンケな牢屋なんて抜け出すなんて造作もないんですけどね」


 そう言いながらゼルは指で輪を作り片目で覗き込むような仕草を見せた。


「……そして俺は見たんでさぁ。町長が自分の口の中からオエオエとへんな液体を出して食べ物の中に入れているのを」


 それを聞いてアイシャは苦虫を噛み潰したような表情を向けながら食事の手を止めた。


「ゼル、それって今する話? せっかくのご馳走が台無しだよ」


「そいつぁ、失礼。だが大切なことでよ、それを食べた人間は次々に白目をむいて泡を吹き始めちまって、ついには意識を失っていくんでさぁ」


 その話は初めてゼルから聞いた。


 そういえば俺も町長がオルサの住人たちをどうやって洗脳したのかは気にはなっていたが、もう終わったことだったしそれどころではなかったので今まで詳しい話を聞けずにいた。


「しばらくして意識を取り戻したと思ったら、夢遊病みたいにフラフラと立ち上がりやがる。結局そいつらは町長の言うことをなんでも言うことを聞く奴隷になり果てちまって、働きアリのように働いては小さな村を大きな街にまで作り変えちまった!」


「そ、そんなことが……」


 自分の話を聞いて恐怖に怯えるクリスタを見て気を良くしたのか、ゼルは得意げに話を続ける。


「奴らどうも仲間を認識するときに視線を合わせたりしない。その代わりお互いの匂いを嗅いでる様子を見せてやがる。そんな奴らの様子を見て俺はピンときやしてね。もしかしたら奴ら匂いで仲間かどうかを認識しているんじゃないかって」


 そう言えば奴隷と化したオルサの住人達は、俺とキリリンに敵意を向けながらも視線は全然定まっていなかった。


 まさかあいつらが敵味方を匂いで嗅ぎ分けていたとは気づかなかった。


 洞察力にかけてはゼルはこの中でも群を抜いて優れているのかもしれない。


「そこで思いついたのが、町長が変な液体を入れた食べ物を匂い袋に入れて持っていたら、俺も奴らに仲間として見られるんじゃないかって。試してみたら大成功! まんまと奴らを騙すことができたんでさぁ」


「そんな安易な方法でよく生き残ってこれたものだ……」


「ま、まぁ、それで町長の目を盗みながら、いろんな情報を集めてオルサを抜け出す機会をずっと窺っていたわけなんですけど、人間離れした監視を出し抜けなくて長らく困っていやした」


 キリリンの冷たいツッコミに、ゼルはゲフンゲフンとわざとらしい咳払いをして気を取りなおす。


「……そこに現れたのが、ここにいるトウリの旦那とキリリンの姉御なんでさぁ!」


「おい、姐御はやめろ。お前にそんな気色の悪い呼び方をされる覚えはないぞ」


 ゼルとクリスタとの会話にキリリンが口を挟んですごんで見せた。


 話の腰を折れれたゼルだったが、構わず身振り手振りで俺とキリリンの勇姿を熱く語り始める。


「トウリの旦那が町長の正体を暴くと、奴の姿がみるみるうちに膨れ上がって館を潰すくらい巨大なアリへと変貌を遂げる! そこにキリリンの姉御が果敢に切り込んで行った!」


「すごい! さすがトウリ様とキリリン様! もしかするとお二人こそが神が遣わした勇者なのでは」


「え……」


 目をキラキラさせながらクリスタは、俺とキリリンのことを見つめる。


 あれ、この流れはなんかまずいぞ……。


 クリスタ姫と会うことの目的は、ただこうやって宴にありつくことではなく、アイシャにオルサを救った英雄として『勇者の証(ブレイブハート)』というアイテムが与えられないとゲームは進行しなくなる。


 だがこの流れのままだとクリスタは俺かキリリンに渡してしまいそうだ。


 どこかでアイシャが勇者であることを証明しないと、せっかくクリスタ姫に会うことができたのに元の木阿弥になってしまう。


「そ、そう言えばクリスタ、話の途中で悪いんだが、他に何か解決してほしい事件とかないか。もしあれば遠慮なく言ってくれ」


「解決してほしい事件ですか?」


 手ごろなクエストをアイシャに解決させることで、なんとか彼女を勇者として認めてもらうようにできないかと考えた俺は、ダメ元でクリスタに聞いてみた。


「いえ、トウリ様にお願いできるようなことは特に……」


 んー、とクリスタは少し考えながらそう答えた。


 やはりダメか。


 仕方がない。明日の朝に城を出てアイシャを勇者にするためのクエストがないか探してみよう。


 ならば早く身体を休めて明日に備えなければ。


 そう考えていた矢先、城の奥から何人かの給仕たちの悲鳴が聞こえ扉の向こうから慌ただしい足音が近づいてくる。


「姫様! 火急の件につき、失礼いたします!」


 勢い良く開かれた扉には血相を変えた兵士が立っていた。


「何事ですか!」


 慌てて声を上げるクリスタであったが、その兵士の様子を見て顔を硬らせた。


「姫様! 敵襲です! お逃げ、げげげげげげげげげげ……」


 部屋に入ってきた兵士の身体から、ブブブブと虫の羽音のようなものが聞こえたと思うと、彼の全身を食い破るようになにやらもぞもぞと湧き出してきた。


 湧き出たそれらは兵士の身体中をバキバキと食い尽くし、ついには鎧と剣だけが床に残っていた。


 それを見て部屋にいた給仕が悲鳴を上げる。


 兵士の身体を食い尽くした存在の正体は、鮮やかな緑色に包まれた蜂であった。


 その瞬間、俺は数日前に倒した蜂の姿をした異端(バグ)のことを思い出した。


「こいつら、まだ生きてやがったのか……」


「はぁっ……!」


 キリリンは一気に間合いを詰めて、自分のマントを蜂の集団に覆いかぶせるように投げると、床に落ちた兵士の剣を拾い上げ、あの小さな蜂たちを驚異的な速さと精密さで切り刻んでいく。


 蜂たちはバラバラにされてもなおギチギチと顎を鳴らしていたが、キリリンに踏みつけられて遂に事切れていった。


 生き残った蜂たちは勝てないと悟ったのか、群をなして部屋の外へと逃げていく。


 なにかがおかしい……。


 俺の心の中で小さな違和感が胸を打つ。


 あの蜂たちは群れをなして攻撃することはあったが、逃げたりはしなかったはずだ。


「追うぞ、トウリ」


「ああ、みんなも行くぞ!」


「……」


 俺はみんなに指示を飛ばすが、クリスタだけは顔を青くしてその場に硬直したまま立ち尽くしていた。


「クリスタ!」


「は、はい!」


 俺が檄を飛ばすと気がついたようにクリスタは声を上げた。


 先日の悪夢のような出来事が、今こうして再び起きたのだから無理はない。


「覚悟を決めろ。俺たちと離れないでくれ」


「え、ええ! 行きましょう」


 ゼルが残りの料理を慌てて書き込む中、クリスタは気を引き締めると毅然とした態度を取り戻して返事を返した。


──


「これは一体どういうことなの?」


 大広間にたどり着いた途端、クリスタは呆然と立ち尽くしながら城の中を見渡した。


「誰も、いない……?」


 あれだけ給仕や兵士がいた城の中は大理石の床に鎧や衣服が落ちているだけで、もぬけの殻になっていた。


 みんなさっきの異端(バグ)モンスターに喰われてしまったと考えるべきなのかもしれない。


「ソアラ、そうソアラはどこ!?」


 クリスタは王宮魔導師として信頼を置いているソアラの名を叫びながら大広間を飛び出した。


「あ、離れたらダメだよ、クリスタ!」


 慌ててアイシャはクリスタを呼び止めるが、足を止める気配はなかったので仕方なく俺たちも彼女の後を追った。


「ソアラ!」


 しばらく城の中を走っていると、奥の礼拝堂へと続く扉になにやら黒い影が入っていくのが見えた。


「お、おいちょっと待てって!」


 礼拝堂の女神像の下にフード姿の人影が背を向けて佇んでいるのが見える。


「その法衣は、まさかマライア……。マライアなのですね!? よかった、あなたの亡骸だけ見当たらなかったから、もしかしたら生きているのかと」


「おい、そいつに近づくな!」


 キリリンの警告が耳に入っていないのか、クリスタは安堵にみちた表情でその人影に近づいていく。


 その人影が身体をこちらに向けた瞬間、クリスタの顔は凍りついて小さく悲鳴を上げた。


「そ、そんな……。あなたまで……」


 確かにそこにいたのはかつてクリスタが最も信頼に置き、この国の至宝とまで謳われた魔導師の一人マライアだった。


 しかしそれは生きた人間とは到底呼べるものではなく、顔の穴という穴から無数の蜂が這い回り、目の奥から黄色い光を放ちながらクリスタを睨みつけていた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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