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3話 女神の願い

 気がつけば俺は真っ暗な部屋の中で一人佇んでいた。


 不思議とさっきまでの激しい痛みは忘れてしまったかのように一切感じず、まるで夢の中にいるかのように心地よい浮遊感に包まれていた。


 この場では呼吸すら必要ないようだ。


「ここは……」


 文字通り右も左も分からない空間の中に放り出された割には既視感があり、俺の心は不思議と落ち着いていた。 


「わっ!」


「うわぁっ!」


 急に背後から大声をかけられて、身体が跳ね上がりそうになる。


 まるで重力を感じないので、飛び上がろうものならどこへでも飛んでいきそうだ。


「ふふふ、びっくりした?」


「びっくりしたって……お、お前……」


 振り向くとそこには仰々しく煌びやかな装束を身に纏ったちんちくりんの可愛い少女が立っていた。


 俺はその少女を見て驚きを隠せなかった。


 なぜなら彼女が誰だか俺はよく知っていたからだ。


「お前は女神ナーシャ! どうしてここにお前が!?」


 そう、彼女は俺が作ったゲーム、「ラピュセリア・クロニクル」の中に登場する女神ナーシャに瓜二つであった。


「ええ、私が女神ナーシャよ。そしてここはあなたが作った世界、ラピュセリアの女神をやっているの」


 ふふん、と女神ナーシャは長い髪を掻きあげてふんぞり返ってみせる。


「それにしても、あなたがイシガミトウリねぇ。なんかこの世界を作った人間のわりにはパッとしないなぁ……」


「悪かったな、パッとしなくて」


 不服そうな顔でまじまじと見つめてくる女神ナーシャに、俺はとっさにボヤき返した。


 てか、こいつ今なんて言った……?


 そう言えば目の前にいる女神といい、今いる場所に何か思い当たるところがあった。


「俺がこの世界を作っただと? 一体ここはどこだ?」


「あれ、この風景に見覚えない? あなたならここがどこだか知っているはずなんだけどなぁ」


 くふふ、と含み笑いをしながらとぼけた口調で語りかけてくる女神に、俺はさすがに苛立ちを感じつつも、僅かな間に考えを巡らせる。


 真っ暗な空間に女神が目の前に佇んで語りかけてくる空間と言えば考えられる場所はたった一つだ。


 分かってはいるのだが、その答えを口にするのはそれなりの覚悟が必要であった。


「もしかして……ここは天界か? しかも俺が作ったゲーム、ラピュセリア・クロニクルの……」


「ピンポン! ピンポン! ピンポン! 大正解〜〜〜〜!」


 狼狽する俺の前で、その女神な大はしゃぎしで拍手喝采を俺に送った。


 それもそのはず、ここはゲームオーバーになった時に訪れる場所だったのだ。


 それはあくまでゲームの中での話なのだが。


「そうか、これは夢だな。仕事のしすぎでとうとう夢にまでゲームが出てくるようになったか」


 俺はしきりに自分の頬をつねったり頭を叩いて見せたが、目の前の女神はさも不憫そうに小さくため息を漏らした。


「残念だけど、これは夢じゃないわ。天界にいるっていうことは、あなたは死んだの」


「し、死んだ?」


 俺は素っ頓狂な声を上げて女神に聞き返す。


 いきなり死んだと言われてもにわかには信じられない。


「前にいた世界でね。ちなみに死因は過労とカフェイン過剰摂取で引き起こされた心臓発作ってところじゃないかしら」


 そういえばここにくる前に心臓が停止するような感覚をリアルに感じたのを思い出した。


 ゲームのプレイ中に心臓発作とか……。


 そう言えば海外のニュースとかで、よくゲーム中毒者が過労で死んでしまうという話は聞いてはいたが、まさか自分がそうなるとは思わなかった。


 だがもし俺が死んだとすると、疑問に思うことがある。


「お前、この世界は俺が作ったこと知っているみたいだが、どこでそれを知ったんだ? 一度も会話したこともないのにおかしいだろ」


「そんなの決まってるじゃない」


 俺の疑問に女神ナーシャはあっけらかんとした態度で答えた。


「この場所にスタッフロール? っていうの? この世界を作った人間達のリストにあなたの姿と名前が刻まれているからよ」


「ええっ!? 俺の姿だって!?」


 驚愕する俺を尻目に、女神がパチンっと指を鳴らすと目の前にスタッフロールが流れ、最後に偉そうな雰囲気で腕を組んだ俺の姿を映した画像が表示された。


 そう言えばここはバッドエンディングを迎える場所でスタッフロールが流れるんだった。


 てかなぜ俺だけ写真入りなんだ?


 プロデューサーが逃げる前になんかエンジニアに頼んでいたみたいだけど、内緒でこんなことをしていたのか。


 あ、あの野郎。自分への非難を俺になすりつけるために、つまらんことしやがって……。


「じゃ、じゃあなぜ俺はゲームの中の天界に来れたんだ? 死んだらゲームの中に飛ばされるなんておかしいだろ」


 俺がそう指摘すると、女神ナーシャは両手を上げて肩をすくめて見せた。


「悪いけどあなたがこの世界に来れた理屈は知らないわ。まぁ、あえて言うならこれはあらかじめ仕組まれていた、と言うことだけ」


「仕組まれていた? 誰に?」


「さあね。私に感知できないことだから、もしかしたらあなたがいた世界に関係しているのかも」


 なんだよ、女神なのに分からないのかよ。案外大したことないんだな。


 まぁ神とは言えど、把握できるのは自分が統治している存在だけで、俺がいた世界までは力が及ばないのかもしれない。


「早速だけど、トウリにお願いしたいことがあるのよ」


「な、なんだよいきなり……」


 突然ニタニタと薄気味悪い笑みを浮かべながら頼んでくる女神の姿に、俺は胡散臭い何かを感じて後ずさった。


「あなた、アイカって娘のこと知ってる?」


「愛架だって!?」


 その名前を聞いて俺は胸を摘まれる思いがした。


 女神ナーシャは戸惑う俺の態度を見て確信をえたのかさらに俺の方へと詰め寄ってくる。


「あの娘のこと知ってるんだ? やっぱりね。」


「愛架が、愛架がどうしたんだ!?」


 俺は思わず女神ナーシャに詰め寄り彼女の小さな両肩を掴んだ。


「まぁ落ち着いて。あなたがここにくる前、アイカっていう女の子がこの世界に転生してきたのよ。それも天界を通らない不完全な形でね」


「愛架がこの世界に転生しただと?」


 一瞬俺の胸の奥で、熱い何かがこみ上げてくるのを感じた。


 死んでから希望を感じるなんてなんという皮肉であろうか。


 しかし、どう言うことだ?


 彼女は俺が小学生の時に死んだと聞かされていた。


 それなのになぜ今頃、愛架はこの世界に転生したのだろうか。

 

 もしからしたら同名なだけの別人なのかもしれない。


「だけどその転生は不完全せいなのか、その娘がこの世界に転生してから世界が滅茶苦茶におかしくなっちゃって……」


 それを聞いて俺はギクリとした。


「そ、それってバグのことか……?」


「バグ? なんだかよくわからないんだけど、なんか急に通れるはずの道が通れなくなっていたり、雑魚モンスターが凶暴化して暴れ回っていたりもう散々よ」


 明らかに今起きているバグじゃねーか……。


 それがどれだけデバッグしても何も解消されない理由なのだろうか。


「なんとかしようとしてみたんだけど、なぜか私の力が通用しなくてさ。これってこことは違う世界の力が働いているとしか思えないんだよね」


 そう言いながら女神ナーシャは、パンっと手を合わせてお願いポーズをしてくる。


「そこであなたを地上に転生させてあげるから、そのアイカって娘を探してきて欲しいの。今なら出血大サービスで最強のステータスと全てのスキルを持った状態で転生させてあげるからさ。この世界を作ったのはあなたなんだから、これ以上の適任者はいないわ!」


 ね? お願い。ね? と両手を擦るような素振りを見せながらウィンクを投げてくる女神ナーシャに俺は一抹の胡散臭さを感じざるを得なかった。


 まぁ、にわかに信じられるような話ではあったが、ゲームのプレイ中に愛架の声が聞こえてきたり、修正しても新たなバグが無限に発生したりと思い当たる節があったので彼女の言うことを無下に否定できないでいた。


 愛架に会うことができる可能性があるのなら、その女神の頼みは決して悪いものではない。しかも最強のパラメーターと全てのスキルを解放した状態なら怖いものなしだ。


 だがどうしても転生という行為自体、経験するのは初めてなので、どうしても女神の頼みを承諾するのに躊躇してしまう。


 う〜ん、と俺が悩んでいると痺れを切らしたのか、女神ナーシャは地団駄を踏みながらこう捲し立てた。


「ああ、もう焦ったい! アイカってあなたの大切な人なんでしょっ!? 何を悩んでんのよ!? 彼女を探し出してこの世界を元に戻しなさいっ!」


 女神ナーシャがパチンと指を鳴らすと俺の背後に巨大な門が開いて、そこから幾多の光が渦巻いて見える。


 このゲートにも見覚えがある。


 リトライを決定したプレイヤーが再び生を得るためのゲートととして俺がクリエイターに作らせたからだ。


「いや待て、まだ心の準備が……っ!」


「いいから早く行けっ!」


「ぐへぇっ!」


 女神の放った蹴りが容赦なく俺のみぞおちに食い込み、ゲートの手前まで追い込まれる。


「こ、このクソ女神……」


 と、その時だ。


 辺りにドゥゥゥゥンと重低音が鳴り響くと、巨大なゲートからこぼれ出していた光の筋がドロドロと禍々しい闇の蠢きへと変わり、女神ナーシャは悲鳴に近い声を上げた。


「まさか、ゲートまでおかしくなっているの!?」


「な、なんだこれ!?」


 溢れ出す闇の渦が急速に回転し始めて、恐るべき力で俺の身体を吸引し始める。


 俺は耐える間も無くそのゲートの中へと吸い込まれていった。


「トウリっ!」


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 必死にナーシャに向けて手を伸ばしたが、光のような速さで彼女の姿は遠退いていき、闇の中で俺の魂はミキサーにかけられたように粉々に砕かれていく。


 意識が消えゆく瞬間、再び愛架の声が響き渡るのを聞いた。


「たすけて」

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