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20話 町長の館

「なんだよこれ……。なんなんだよ、これはっ!」


 おぞましい光景を目の当たりにした俺は、馬車から飛び出すと震えながらまっしぐらにキリリンの元へと飛んでいった。


「どうだ、妾の言った通りであっただろう?」


 キリリンはそう言いながら得意げに小さな身体に不釣り合いな胸を張って見せた。


「ドヤ顔している場合じゃないだろ! この街、やっぱり何かおかしい! こんな場所オルサなんかじゃないっ!」


「……!!」


 俺は飛び回りながらまくし立てると、キリリンは鋭い視線を周囲に向けた。


「おい、貴様よ……。もう目立つような行動は慎んだ方がいい」


「なんだ……?」


 キリリンに指摘されて俺も周囲を見渡すと、さっきまで普通に行き交っていた街の人々から、凍りつくような視線が一斉にこちらへと向けられているのに気づいた。


 そんな異様な空気に当てられ、俺の全身にぞわぞわと悪寒が走る。


「……トウリよ、一旦ここから離れるぞ」


「あ、ああ」


 俺は再びすごすごとキリリンの腰にある皮袋に身を潜めてその場から立ち去ろうとした。


「お待ちください」


 不意に冷たい男の声が俺たちを引き止めようとしていた。


 そこには黒いタキシード姿の男が、白い手袋で包んだ右手を胸に当て、こちらに恭しく頭を下げながら立ち尽くしている。


 俺はその男の顔を見て思わず息を飲んだ。


 ────ゼル。


 俺は心の中で目の前の男の名を呟いた。


 顔は死体のように蒼白な陰りを見せるが、間違いない。いや、俺が見間違うものか。


 なぜなら彼は俺が作ったゲーム、ラピュセリア・クロニクルに登場する勇者パーティの一人だからだ。


 ゼルは冒険者の盗賊を目指す主人公の幼馴染で、乱暴な物言いが特徴でずる賢く、悪友のようなポジションに設定されていたはずだ。


 それがなぜ執事のように上品に振る舞って見せているのか、俺にはその理由が全く分からなかった。


「その姿、あなた様はなかなかの実力を持った冒険者とお見受けいたします」


「何者だ、貴様。人の素性を伺う前に、まずは名乗ってはどうだ?」


 不愉快そうに鋭い視線を向けながら、キリリンはゼルに向かってそう言い放った。


 そんなキリリンの態度に対して全く意を介さず、ゼルは機械的で抑揚のない口調でボソボソと話し始めた。


「申し遅れました。私の名はゼルと申します。この街の町長に仕える者です」


「妾の名はキリリンだ」


 キリリンがそう名乗ると、ゼルはゆっくりと顔を上げて見せるが、彼の目の焦点は定まらず、虚空を見つめているような不気味さを感じた。


「この街に冒険者がご来訪されたことを聞及びまして、町長がぜひお会いしたいと申しております」


「……それで、その町長が妾に一体何の用なのだ?」


 まるで関心がなさそうにキリリンはため息混じりに問いかけた。


「はい。実はこの街の地下にモンスターが住み付いているという噂が広まっているのです。それが本当なのかあなた様に確認するクエストをお願いしたく、お声をかけさせていただきました」


 街の地下にモンスターだと?


 俺が知る限りそんなモンスターはオルサの村に存在していない筈だ。もしかしてこの街の異様な雰囲気に何か関係があるのだろうか。


 ゼルの淡々とした説明を聞きながら、俺はそう思慮を巡らせる。


 そんなさなか、キリリンは俺に念話で話しかけてきた。


『トウリよ、どうする? どうもこやつ様子がおかしいようなのだが……』


『確かにな。でも、もしかしたらオルサの村が変になった理由が、そのモンスターと関係があるのかもしれないからもっと詳しく話を聞いてみたほうがいいだろう』


 キリリンは小さくうなずいて見せるとゼルに向かってこう言い放った。


「いいだろう。詳しい話を聞かせてもらおうか」


「ありがとうございます。詳しくは町長からさせていただきます。では、館までご案内いたします」


 ゼルは再び頭を下げると、踵を返してゆっくりと街の中心部に向かって足を進め始めた。


 キリリンは怪訝に思いながら辺りを見回すと、未だに街の人々の視線が俺たちの姿を捉えたまま離されてはいなかった。


 それはまるで一つの意思を持った生き物から監視されているかのようであった。


 キリリンはフンと小さく鼻を鳴らすとマントを翻してゼルの姿を追った。


──


「こちらが町長の館にございます」


 街の中心部にある建物は立派な洋館で、重厚な意匠が施されたレンガと鉄格子でぐるりと囲まれており、その入り口には仰々しい鉄門が備え付けられていた。


 ゼルに導かれるまま鉄門を潜ると、左右には緑とバラの花で覆われた庭園があった。


 建物自体は建築されてからそれほど経っていない様子だったのだが、街全体を覆う暗い霧のせいで、廃墟のような雰囲気が立ち込めていた。


 キリリンは警戒しながらも、館の扉へと続く道をゼルと共に歩いくが、その間何事もなく館へとたどり着いた。


 ぎぎぎぎ、と木が軋む音を鳴らしながら重々しく扉が開くと、そこには大理石で出来た大広間があり、目の前には巨大な階段とその向こうには別の部屋へとつながる扉があった。


「どうぞ中へ……」


 キリリンはゼルに大広間へと通されると、館の中を見回すがそこには俺たちとゼル以外の人の気配は感じることは出来なかった。


「誰もいないようだが、町長とやらはどこにいるのだ」


 キリリンは振り向きながら問いかけるが、そこには壁に設置された獅子の彫刻の口に手をかけるゼルの姿があった。


「間もなくお見えになられます」


ガタン!


「!!!!」


 ゼルの声が聞こえると同時に、大理石の床が音を立てて勢いよく開き、足場を失ったキリリンは俺もろとも穴の中へと落下し始める。


「落とし穴とか、ふざけんなぁっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」


 俺が思わず上げた抗議の声も虚しく、俺とキリリンは重力に従って暗い底の中に吸い込まれていった。


お読みいただきありがとうございます。

ついに7万字に到達しました!

ここまで続けられたのも皆さんのお陰です!


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よろしくお願いいたします。<(_ _)>

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