14話 新たなスキルと失われしスキル
──『異端審問』がランクアップしました。『異端審問』に新たな能力が解放されました。
俺は視界に不意に現れたポップアップウィンドウに目を奪われていた。
俺とキリリンが助けた金髪の女性と赤いローブを着た魔導師は、白い灰と化した遺体の前で両膝をついて静かに祈りを捧げている。
その姿に胸を締め付けられる思いをしながらも、俺は不意に告げられたスキルのランクアップのせいで気が気ではなかった。
『異端審問』がランクアップしただと? しかも新しい能力も解放されたらしい。
一体どんなスキルが解放されたのだろうか。そのポップアップウィンドウに詳細ボタンが表示されていて、俺はビクビクとしながらも視界にあるボタンに意識を集中させてみる。
すると目の前にHUDが表示されてスキル一覧が現れた。そこには取得したけど身体が耐えきれずに封印されてしまっている強力なスキルがずらりと並び、下の方に新しい名前のスキルが表示されていた。
なんだ、スキル一覧があるじゃないか。どうやらこの画面でスキルを選択するとスキルの詳細が分かるらしい。『異端審問』を覚えたての頃、必死でスキルの効果を調べようとしていたのがバカみたいだ。
そして肝心の新しく解放されたスキル名は『霊廟の衛兵』と表示されていた。
名前を見ただけではどんな効果なのか判別がつかないが、新しいスキルを調べる前に、まずは『異端審問』の効果を一覧画面で選択して確認することにした。
するとそこには「スキル発動後、視界に入った異端を実体化させる」と表示されていた。
……大雑把すぎる。
ウィンドウにヘルプボタンがないか隈なく探しがして見たものの、本当に概要だけしか記載されていないようだった。
ランクアップしたらしいが、前回とどう変わったのかはこの画面だけを見だけでは分からない。
まぁ、スキルの概要が確認出来ることが分かっただけでも良しとしよう。
俺は気を取り直して肝心の新しく解放されたスキル、『霊廟の衛兵』の効果を調べることにした。
「…………」
詳細画面を見た瞬間、俺は思わず息を飲んだ。
そこには「任意の異端を1体のみ操ることができる」とだけ書かれてあった。
これはつまり『異端審問』によって実体化させられた、最初に現れた蜘蛛やさっきのウジ虫や蜂などの異端を、自分の意のままに操れるということだろうか。
どのように、そしてどの程度まで操ることが出来るのかは不明だが、使いようによっては有効な場面もあるかもしれない。
しかしこの場に異端がいない以上、その効果を確かめる術はない。
『霊廟の衛兵』については一旦は心に留めておくとして、その他に自分が使えるようなスキルがないか確かめてみることにした。
するとスキル一覧にはグレー表示になって使えなくなっているスキルの以外に、たった一つだけ白い文字で有効であることを示しているスキルがあることに気がついた。
一覧には『鋭針技』と表示されており、詳細画面を見てみても説明文は書かれておらず、その代わり六つのスロットが存在し、スロットの一番上には『魔力吸収』と文字が書かれてあって、それ以外は空欄であった。
不意に俺は金髪の女性の血液を吸った時に、自分の魔力が回復したのを思い出した。あの時、無意識にこのスキルを使っていたのか。
そう言えば蚊は六つの針を持っているとどこかで聞いたことがある。
残り五つの空スロットには『魔力吸収』を使い続けると新しスキルが解放されていくということかもしれない。
『異端審問』がランクアップした際に新しいスキルが解放されたのだから、その可能性は十分に考えられる。
俺は思慮深げに沈黙していると、祈りを終えたのか金髪の女性と赤いローブを纏った魔導師が俺たちの方に近づいてきた。
「先程は危ないところを助けていただいて心から感謝いたします。あなた方が助けてくださらなければ、今頃私達は全滅してしまうところでした。ありがとうございます」
金髪の女性は恭しく頭を下げると、それに習うように隣にいた赤い魔導師の女の子も頭を下げるが、彼女の怪しげな物でも見るかのような視線が常に俺に突き刺さっていて離されることはなかった。
どうやら彼女は蚊の姿をしている俺を怪しんでようだ。
……当然の反応だろうな。どう見ても彼女は金髪の女性の護衛だろうし、蚊に助けられたとあれば、そのプライドが傷つけられたのも相まって、俺を不審に思わずにはいられないだろう。
「そ、それは何よりだ。……生き残ったのはあんた達二人だけか?」
俺がそう言うと金髪の女性は目を伏せて悲しむようにこう答えた。
「ええ、他の者達は皆、モンスターにやられてしまいました。遺体は手厚く葬りたいのですが、私達だけでは……」
「遺体を葬る? 確か上位司祭だけが使える『蘇生魔法』があるはずなんだが、使える者はいないのか?」
俺から投げかけられた問いに金髪の女性は顔をしかめながら返事を返す。
「『蘇生魔法』はもはや伝説でしか伝えられていない魔法です。私の知る限りその魔法を使える者はこの地上において存在しておりません」
「なんだって……」
俺は驚愕しながらもそう呟くと考えを巡らせる。俺が転生する前にゲームとしてこの世界を作った時はたしかに『蘇生魔法』は実装されていた。これも何かの異端の影響なのだろうか。もしそうだとしたら影響範囲が広すぎる。
「もしかしてあなたは『蘇生魔法』を使える方をご存知なのですか。数ヶ月前からこの世界は新たな魔王の手によって脅威に晒されております。もし『蘇生魔法』が使える方がいらっしゃるのであれば戦況は大いに変わります。お願いです、もしご存知なのであればその方をご紹介いただけないでしょうか」
「……いや、俺の勝手な思い違いだったようだ。てっきりこの国であれば『蘇生魔法』を扱える人間がいてもおかしくないと思ってしまって……。期待させてすまなかった」
「そう、なのですか……」
神妙な面持ちで訴えかけてくる金髪の女性に、俺は謝罪しながら言い繕うと彼女は悲しそうに顔を伏せて失意に陥った。
その姿を見ながらも俺は彼女の言葉の中に妙な違和感を感じていた。
すると隣にいたキリリンからワナワナと殺意に似たような感情が溢れ出してくるのを感じてくる。
「魔王だと……」
『ど、どうした、キリリン。いきなり何を怒っているんだ?』
慌ててキリリンの耳元まで飛んでひそひそ声で話しかけると、キリリンも小声で返してきた。
『どうしたもこうしたもあるか! 妾が目覚めてか間もないのだぞ! 数ヶ月前に魔王が現れたと言うことは、妾を差し置いて別の者が魔王を名乗っていると言うことだ。これを許さずにおれるものか!』
確かにキリリンの目覚めた時期と目の前にいる金髪の女性との話とは、魔王が復活したタイミングが一致しない。
そして俺が気がかりに思っている点もそこにある。
俺が作ったゲームの中で魔王が現れるという設定はなく、代わりに破壊神を復活を目論む邪教徒が世界の平和を脅かすと言う設定だった筈だ。
では今魔王を名乗っているのは一体誰なんだ。
俺は妙な胸騒ぎを感じて困惑しながらぷ〜んと飛び回っていると、心配そうな顔つきで金髪の女性が尋ねてきた。
「あの、何かお気に触るようなことでも申しましたでしょうか……」
「い、いや、何でもない! そうだ、俺たちは魔王を倒すために旅をしていているところで、こいつは魔王と聞いたら昂らずにはいられないんだ! な、なあ!?」
俺はキリリンに必死で同意を求めるような素振りを見せるが、彼女はそんな俺のことをガン無視を決め込んで自分の右手にある親指の爪をガリガリと噛みながら苛立っている。
「まぁ、そうだったのですね!? どうりでお強いと思っていたら。そう言えば紹介が遅れました。私の名は……」
そう金髪の女性が自らの名前を告げようとした瞬間、僅かに辺りの空気が張り詰めるのを感じた。
続きを楽しみにされてた方、投稿が遅くなってごめんなさい!o(╥﹏╥)o
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新しい構想をじっくりと練いましたのでどんどん投稿していきますよ!ᕦ(ò_óˇ)ᕤ“
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