1話 彼女との記憶
遠い日の記憶。
初めて自分で作ったゲームを幼馴染の愛架と一緒に遊んだ日のことだった。
「トウリくん! すごい、すごく面白いよコレ!」
コントローラーを握りながら喜ぶ愛架の姿に見惚れてしまっていた俺は、突然彼女に声をかけられてはっとなった。
「そ、そうだろ、すげぇだろ!」
俺は得意げになりながらも、自分史上で最高の幸せを感じていた。
その時は10年も生きてはいなかったが、以来これほどの多幸感と充実感を人生で感じたことはない。
友達と遊びにも行かず簡単なゲーム制作ソフトを使い、ずっと自室にこもってゲームばかりをコツコツと作り続け何度もテストプレイを重ねて何度も作り直した。
そしてついに完成させたのだ。自分が思う最高のゲームを。
それもこれも他でもない、ただ今目の前にいるこいつだけのために。
「うわっ! 死んじゃった! もう、聞いてないよぉ、モンスターが村人に化けてるなんて……。しかもめちゃ強いし!」
不満を上げる声を上げる愛架に、俺は戸惑いながらも言い繕った。
「ご、ごめん。ノーヒントでそれはちょっと難しかったよな……」
テストプレイを重ねていくうちに自分自身がゲームに慣れてしまって、いつの間にかバランス調整の感覚が麻痺してしまっていたのだろう。
一人でゲームを作る時に陥りがちなミスだ。
「もうっ! 次は絶対に勝つ!」
それでも愛架は何度死んでも諦めずにモンスターに立ち向かい、とうとう俺が作ったゲームを全てクリアしてしまった。
「あー、楽しかった! って、もうこんな時間! どうしよ、先生に怒られる!」
昼の早い時間から遊んでいたのに、いつの間にかすっかり日は沈んでしまっていた。
先生というのは俺たちにとって親のような存在であった。
「ごめん、遅くなっちゃって……。そうだ、愛架の先生に連絡した方がいいんじゃないか」
「……うん。だ、大丈夫だよ! じゃ、じゃあさ、心配なら私の家の近くまで付いてきてよ!」
「え? まぁ別にいいけど……」
言葉を濁す幼馴染に気を引かれながらも、俺はゲーム機の電源を切って彼女と共に外に出た。
当時の俺は異性を家まで送る意味が分かっていなかったが、ただ歩きながらこいつからゲームの感想などを聞いて歩くのが楽しかった。
あまりに楽しそうに話す彼女を見ていると、ふと俺の口から今まで考えたこともなかった言葉が溢れ落ちる。
「俺さ、将来ゲームクリエイターになって、もっとすげぇゲームを作るんだ!」
「ホントに!? じゃあさ、完成したらまた私にもやらせてよ!」
彼女はその日見た中で一番の笑顔を浮かべてながらそう言った。
「お、おう! ま、任せとけ!」
「やったあ! じゃあ楽しみにしてるね!」
「ああ、約束な! 絶対お前をもっと楽しませてやる!」
「よぉし、じゃあ約束」
そう言うと彼女は恥ずかしそうに右手の小指をそっと俺に差し出した。
息を呑みながら俺は自分の小指を彼女の指に絡めようとする。
彼女と指が触れそうになる瞬間、俺の記憶はぶつりと途切れた。
そしてあれからもう二度と彼女に会うことはなかった。
数日後、俺は彼女が交通事故に遭って死んだと聞かされた。