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白銀世界  作者: Natsusaka
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一章・一 (1)

 一章・一


 吐く息は街灯に照らされて白く浮かび上がり、そのまま闇夜に溶けていく。乾燥した頬に風が当たって痛む。今すぐにでも雪が舞いそうな気がしたけれど、見上げた先には満天の星空が広がっていた。


 星座を知っている者には、星空は細かく分けられた絵でいっぱいに見え、そうでない者にはただの光の数々でしかない。いつか国語の教科書で読んだそのことは、ああ、星だ、という感想しか出てこない今、すこぶる納得できた。冬の大三角はたしか、シリウス、プロキオン、ベテルギウスだったか。一周ぐるっと見回してひときわ明るい星を見つけた。零等星、あれがシリウスだとしても…あとの二つがわからなかったので断念。

 

 小学校の裏の細い道を抜け、無駄に歩道が広い大通りに出た。大通り、といっても生粋の田舎者である僕の眼だからそう見えるだけであって、所詮は片側一車線のこんな道路、東京人からすればむしろ裏路地なのかもしれない。新宿まで鈍行で三時間、二千円ちょっとでいけるというのに首都が全く身近に感じられないのは、わが山梨県を取り囲む尊大なる山々が原因だろう。


 電力効率の悪そうな豆電球で照らされた道路に人の姿はなかった。まあ、天気予報ではこの冬一番の冷え込みと言われた日の深夜に外出しようなんて人間はそうそういない。民家とマンションとオフィスビルが混在するその道を三分ほど歩いて、目当ての二十四時間営業のコンビニへと辿り着いた。


 店内に他の客がいないのをいいことに成人雑誌を立ち読みするおっさんの背後を通って軽く牽制、舌打ちしてきたおっさんに勝った気がして優越感に浸りながらホットのお茶とおにぎりを手に取り、唐揚げをレジで注文した。


「スプーンは温めますでしょうか?」

「はいお願…スプーン?」


店員の顔を見る。大学生くらいの若い女性店員だった。瞼は半分くらい閉じかけていて、やる気というものがまるで感じられない。というか半ば意識が飛びかけている。


「いや、しなくていいです」

「…」 


 

 いや無視かよ。店員は商品と、おそらく唐揚げとおにぎりには一切必要ないであろうプラスチック製のスプーンをビニール袋に適当に詰めると、そのまま手渡してきた。もう買い物は終わったという風に、腰を折って「ありがとうございます」と。いや、支払いがまだなのだけど。僕が電子マネーを振りかざして主張すると、慌ててレジを打ち始める。

 

 こんな店員一人で店を回しているって、いやもはや回ってすらいないが、店長の職務怠慢は本社から糾弾されるべきことではないのか。最近ニュースで取り上げられていた某ブラック食品企業でも、もうちょっとマシなシフトを組みそうだけれど。

 

「ありがとうございましたー」

 

 店を出るとき、まだ成人雑誌コーナーに張り付いていたおっさんがこっちを見た。


 するなよ、いくら店員が半分寝てるからって、エロ本万引きだけは絶対するなよ。仮に捕まって、流されたニュースのテロップに「成人雑誌を万引きした疑いで四十代男を逮捕」などと出てきたら目も当てられない。めったに事件らしい事件も起きない我が町のことだから、ありえないと否定することもできないのが怖いところだ。


 自動ドアを出ると、これまた田舎特有の無駄に広大な面積を誇る駐車場に出迎えられる。大方が、元々はもっと大きな建物が建っていた場所を買い取って、コンパクトなコンビニを建てたら空間が余ったので駐車場を広くしてしちゃいました、的なパターンだ。二十台も止まることはまずないと思うけど、逆にこれが都会となると、駅前でもないのに一台も停められない場所があるというから恐ろしい。


 家庭ゴミ持ち込み禁止と大々的に書かれたゴミ箱の前には、いつもは行き場のない不良少年少女がたむろしているのに、幸い今日はいなかった。寒さは不良にも善良な市民にも平等だ。


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