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第二次恋愛大戦  作者: 魂月恭介
4/4

第4話 「夏の終わり」

蛇口から水が流れる音は、この暑い夏から逃れられるような一時。

風鈴とはまた違った風情があるといったところだろうか。

少しばかり変わった趣向ではあると思うが。

部活は終盤、使い終わった筆を洗っている先輩がなんとなく後ろを向き、ある方向を見たまま僕に言った。


「ダメだよ。」


「えっ?……えっ?何がですか?」


いつも通り先輩節炸裂である。主語が抜けているので何が言いたいのか分からない。もう慣れつつある自分が怖い。


夏も終わりかけの今日この頃。

相変わらず僕らは部室で作品制作に励んでいた。

部室中の光と影のコントラストが更に強くなっている。


「こんなに散らかしちゃ。」


「あ、ああ……。」

そ、そういう意味ね。


「いやあ、片付けとか僕苦手で……はは」


「ちゃんとなおさなきゃ」


「気をつけます……」


石膏像が置いてある部室隅、木製の棚の辺りに

僕の画材……というか買ってもらった画材を故意ではないんだけどぞんざいに扱ってしまっていることを痛感し、申し訳なくなってすぐに片付けた。


「ダブルの意味だよ」


「あ、え?」


「片付けるの直すと苦手な部分を治すの意味」


「そ、そうですね」


ガラガラッ


「おっ2人ともお疲れ様!作品は進んでるかーい?」

「おっ!」という顔をした秋山先生が入ってきて、僕らの作品をまじまじ見ながら言った。


「そういえば、この前ちゃんと任務達成してくれたかな?吉田さん」


この人は前科を覚えていないのだろうか。

来ると言っておいて来なかった、しかもしっかりドタキャンしてくれちゃった前科を。

そんなことを心の中でぶつぶつ言ってると、先生の頭に電球がピカーンと光ったかのように何かを思い出した顔をした。


「え、待って……2人きりだったってことよね?」


「そ、そうですけど……それがどうかしたんですか?」


「デートしちゃったってことにならない?」

ニヤニヤしながら聞いてきた。ちょっとうざい。ちょっと。


「違いますよ!!俺はただ先輩に……」


「内緒」


「へっ?」

先輩は顔色ひとつ変えず、でもはっきりと主張するかのような言い方をした。


「きゃーっ!やっぱりそうなのね!!先生の作戦通りねっ!!」


「えっ……作戦通り……?」


「い、いやねえ……作戦通りは冗談よ?ほら、この通り!」

先生は急にぴしっと気をつけの姿勢になった。


「なんで気をつけなんですか」


「嘘をついてないという意思が伝わると思って……って先生をからかうんじゃありません!」


「先生が勝手に始めたことでしょう!」


ただでさえ暑いのに、ツッコミを入れて更に暑くなってしまった。

汗が止まらない。


「後輩君」


「はい?」


「今何度かしら」


「へ……?何時じゃなく……ですか?」


「今日は37℃よ!」


(さらっと答えた先生すげえ……)


「さらっと答えた先生凄いって思ったでしょ」

ドヤ顔で言われたので少しイラッときた。


「勝手に人の心を読まないでください!」


「まあまあそれは置いといて……明日は部活お休みにします」


「え」




「ふう、疲れた……」


部活はとっくに終わり、帰宅した僕。

自室に戻るなり僕はカバンをその辺に放り投げ、ベッドにだらんと横たわる。

制服のままだということにはっとし、半袖半パンの部屋着に着替えもう一度ベッドに横たわる。

何気なくスマホで時刻を確認すると午後4時を回ろうとしていた。


別に夕飯の時間でもないし、なにかする時間でもないし。

ちなみに夏休みの宿題はもう終わらせている。

僕は小さい頃から嫌なことは先に終わらせておくタイプだからだ。


「あっ、そういや先輩なんであの時「内緒」って言ったんだろ……」


「何も隠すことなんかないと思うんだけどなあ……」


「退屈って、苦痛だなあ……」


そんなくだらないことを考えてるうち、疲労感が増してきた。

少し眠るか……。


ブーッブーッ


「わわっ、なんだ……?」


着信だ。知らない番号からだ。

普通の人なら怖くて出ないだろうが、僕は何故か変な好奇心で出てしまう。

一体誰からかかってきたのか気になるからだ。


「だいぶやばいな僕……」


ピッ


「はい、もしもし」


「あ、篠田君?ごめんねこんな時間に電話して」


「なんで僕の番号知ってるんですか……」


「うーん、先生だから?」


「流石にその理由はめちゃくちゃですよ」


まあまあ、と言われ戸惑いながら通話を続ける。


「明日、部活おやすみって言ったでしょ?その事なんだけど……」


翌日


「なんで僕らここにいるんですかね」


「何故かしらね」


「というかこのパターン怖いんですけど……」


午後1時。

駅前の時計塔前で僕と先輩は2人突っ立っていた。

先生が遅れているが、大丈夫だろうか。

交通の心配はしてない。来るか来ないかの問題を心配しているのだ。


「おまたせー!ごめん遅れちゃって……!」


「来た」


「裏切られた」


「良い意味で?」

先生が到着するなり先輩の言葉に続いて言った。

てか先生がそれを言うのはちょっと違うのでは?まあいいけど。


さあ行きましょう、と先生が言って僕らは先生について行く。

そしてパーキングエリアに停めていた先生の車に乗せられ、僕は後部座席で、先輩は助手席。

車を出して窓から見える景色が過ぎ去っていく中、少ししてからふと思った。

実は昨日の電話でどこで何をするのか聞かされていないのだ。

というのも……


「秘密!?」


「まあちょっとした息抜きよ、でも秘密!着いてからのお楽しみ」


「今回はちゃんと来てくれるんですよね?この前緊張したんですからね!」


「デートのこと?」


「違いますってば!」


「とにかく明日、駅前の時計塔に午後1時でよろしくね!」


「いやいや、まだ詳しく話を……」


ぷつ。ツーッ。ツーッ。


「はあ……あの人本当に先生かよ……。めちゃくちゃだよ……。」


とまあ昨日はこんな感じの電話だった。

昨日のことを思い出しているうち、先輩があの時「内緒」と言った理由が気になっていたことを思い出した。

今先輩に聞こうとしたが先生がいるからちょっと面倒くさいなと思ったので、たまたま僕と先輩2人になった瞬間に聞いてみることにした。


そんなことを考えていると「着いたわよ」と先生が車をバックで停めながら僕らに言った。


大きな入道雲。透明水彩で描いたかのような透き通った海。

微かに空を水面が映している。

たくさんの海水浴を楽しむ人、たくさんのビーチパラソル。


「もしかして、海水浴ですか?」


「違うわ!!今回の目的はね……」


この暑い夏。そして海に来て泳がない人はほとんどいないと思う。海を散歩するのが好きな人もいるだろうが、海水浴をする人達に比べれば少ない。現に目の前はそんな状況だし。


「先生、部活は休みって言ってなかったですか?」


「部室での活動はね。気分を変えてこうしてお出かけしてデッサンするのも悪くないでしょ。」


先輩がこくりこくりと頷く。


「さあ描くわよ!今回は先生も挑戦するから負けないわよー!」


先生が持ってきたビニールシートを砂浜に敷き、3人並んで座り海のデッサン開始。

制限時間は2時間になった。各々水分補給するように、と先生から僕らは言われてデッサンモードに入る。


「………………。」


30分ぐらい経った頃。



「…………い……。」


「え、何か言いました?」


「暑っつい!!!!」


「えええ!!言い出した先生が先にリタイアしちゃんうんですか!?」


そりゃ無理もない。

今日の気温はなんと38度。海水浴をするにはうってつけの日だ。

だがデッサンするとなると最悪すぎる環境である。


「先生ちょっと海の家に行ってくるわね」


「あーっ!先生だけ抜けがけしようなんてずるいですよ!?」


先輩もこくりこくりと頷く。……さっきより激しく頷いてない?


「違う違う、本当に違うのよ!2人はここにいて。」

そういうと先生はスタコラサッサと海の家に行ってしまった。


「はあ……先生めちゃくちゃですよね、僕らもついて行きますせん?」


「集中」


絵に集中しろって言いたいんだな。先輩節に対応出来てきてるぞ僕。だけど……!


「ついて行ったら、かき氷奢ってくれるかもしれませんよ?」


「!!」


「熱中症になったら絵かけなくなっちゃいますよ?」


「……!!!」


「仕方ないわね。これは仕方ないわ。」


必死に口のニヤつきを抑えようとしている先輩だが、思っきし不自然だ。

心なしか、先輩の目がキラキラしているような……?


「そうこれは仕方ないんですよ、そもそも僕らを置いて先生だけどっか行くなんて教師としての管理力がなってないと思いませんか?」


先輩はぶんぶん頭を縦に降った。


「さあ、行きましょう……(楽園にな……!)」


と、先生が向かった海の家に行こうと2人立ち上がった瞬間、辺りが急に薄暗くなった。

というか僕らのところだけが薄暗いような。


「これがないとダメね!」



広げられたビーチパラソルは海の家からレンタルしてきたようだ。

僕らの近くにパラソルを設置すると先生が言った。


「少し休憩にしましょうか!」


「これでかき氷食べてきていいわよ!先生は後で自分の分も買って戻ってくるから!先に行っててちょーだい!」


と言い残し1000円札を渡された後先生はまたどこかに行ってしまった。

なんだかバタバタしてる?うーん、まあ僕が気にすることでもないか。


「とりあえず行きましょう先輩」


「ブルーハワイ」


「僕はいちごにします」


脱いでいた靴を履き、海の家へと向かう。


「にしても暑いですね〜あのまま2時間デッサンしてたら本当熱中症になってたかもしれませんね……」


「休憩大事。かき氷大事。」


「ははは……」


今の先輩はかき氷のことで頭がいっぱいのようだ。

なんだかこんな先輩珍しい気がする。


「あっ……!」


(先輩と2人きりになったら「内緒」の理由を聞いてみるか……)

僕は大切なことを思い出した。本日のサブミッション的な。いや、メインか?


「どうしたの」


「いや、その……」


あれ?なんで僕緊張してるんだ。

冷静になるんだ僕。何が引っかかってるんだ。


『 「え、待って……2人きりだったってことよね?」


「そ、そうですけど……それがどうかしたんですか?」


「デートしちゃったってことにならない?」


「違いますよ!!僕はただ先輩に……」


「内緒」』


これだ。デートとか言われたから、その……なんか付き合ってる?とか思われたのかな?

いや僕なんかが恋愛のこと考えるってなんか自分でも気持ち悪いな……いや、でも。いや……でも……!!



「分かるよ」


「えっ?」


「後輩君の考えてること」


「あ、そ、そうですか……」


そうですかじゃないだろ!話途切れちゃったじゃないか!


「いちごのかき氷に練乳かけたいんでしょ」


「え、は……はい?」

思わぬ言葉に拍子抜けしてしまった。

少し笑ってしまった。


「ほら、これで言いたいこと言えるでしょ」


「先輩があの時内緒って言ったこと……はっ!!」

緊張感の糸が緩んでいたから思わず口が滑ってしまった。


「ああ、あの時の」


「あっ、いや!その……なんていうかその……」


「お願いごと聞くって約束内緒にしたかったからね」


「え?」


「私らだけで秘めておきたいというか」


「理由はないけどね」


「そっ、そうだったんですね……!」

僕のとんだ勘違いだったようだ。


それから、先輩と一緒にかき氷を食べていると、先生が戻ってきて3人でデッサンを終わらせた。

先生は席を外していたので、僕らよりデッサンの進みが遅かった。

なので僕らの作品と先生の作品の完成度の違いがなんだか可笑しくて笑いあった。

時間はあっという間に過ぎ、もう夕暮れ時。

海さえもオレンジ色に染まってしまいそうな強い夕陽。

見ているだけで心が燃えそうだ。

……って、スポ根漫画みたいなセリフだな。


「先生車を取りに行くから待っててくれだそうです」


「少し歩こう」


「はい」


右手に海が見える状態で、僕が海側を、先輩は砂浜側を歩いていると「場所交代」といわれ逆のポジションになった。

少しでも海の近くが良かったのだろうか。

2人分の足音が波音と相まって心地いい。

海特有の塩くささも。


「もうすぐ夏休み終わりますね……」


「そうね」


先輩の白く細い首。夕陽に照らされ横顔が綺麗で思わず僕は目を逸らした。


「後輩君」


「は、はい」


「上手くなったね」


「え、何がです?」


「絵」


「そ、そうですかね?ありがとうございます……。」


な、なんだこの雰囲気。いつもの先輩じゃないような?

いや考えすぎかな。


「私嬉しい」


「絵を描く仲間が出来たこと」


「えっ、先輩みたいに絵が上手い人にはたくさん同志がいそうですけど?」


「そうでもないよ」


「……私、前は絵を描くことが嫌いだったんだ」


「見るのも、ね」


その時の先輩の目はなんだか虚ろで、苦い過去を思い出すかのような。

そんな表情を浮かべながら、つらつらと先輩はゆっくりと。

今の夕陽のように強く、深い海のように寂しそうに語りだした。

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