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第二次恋愛大戦  作者: 魂月恭介
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第1話 「始まりと変化の予兆」

授業終了のチャイムが鳴る5分前。皆の気が緩みだす。

「もうすぐ授業が終わるんだ」「この後どこに寄ろうか」

なんてことを考えだす、だってあと5分だし。もうすぐ終わるんだから。


というか先生の授業は眠くなるんだよ。ゆっくり子守唄を歌うかのように話すんだもの。

そのくせうとうとしてる生徒を発見すると静かに歩み寄り本の角でごつん、だ。


それを見た皆がくすくすと笑う。


それを見た先生が一喝。


それを見た僕が笑う。

笑う状況から笑えない状況へ。僕はその流れが面白くて笑う。


当然「えっ」と言わんばかりの視線を大いに不本意だが独り占めしてしまうのだ。

笑いのツボなんて人それぞれでしょうが。笑ったっていいじゃないの。

なんで僕が笑うといつもこうなるんだ。

「……篠田奏楽。後で職員室に。」


「……はい」



「篠田。なんでお前はいつも…。」

僕の名前は篠田奏楽(しのだそら)。恒春高校の2年生だ。

そこそこ頭はいい、と思う。多分。

というかなんで僕だけいつもこんな目に合わなくちゃならないんだ。


ふと、職員室の窓に目をやると。


「ねーえ先輩♪このあとお、寄り道しませんかあ?」

「まーたかよ……しょうがねえな、今日も可愛がってやるよ」

「やった♪先輩さっすが♡」


世の中というのは不平等なものだ。つくづく思う。

「だから、少しずつ態度を改めてだな……」

「真面目なやつほど馬鹿を見る、か…」


しまった!


「篠田ァ!」

「はいい!!」

校庭の桜木。小鳥が飛び立ち微かに枝が揺れた。

僕の気持ちも揺れた。冷や汗付きで。



「はああ、疲れたなあ……。」


力いっぱい怒られてきた。

確かに人が話している時によそ見したのは悪かったよ。


「んー……よし」

怒られて疲れたしお腹も空いたのでコンビニに寄って帰ろう。


「いらっしゃいませ〜」

商品の陳列作業をしている大学生らしき男が気だるげに挨拶をする。



「ありがとうございました〜」


「うん、美味いな」

コンビニ前の端っこでもぐもぐとアメリカンドッグを食べながらさっきの続きを考える。


いやしかし、黙って突っ立って真剣にずーっと「すいません、すいません」って謝り続けて、そんでもって話を聞き続ける……そんなお利口さんなメンタルは僕にはない。

もしもそんなメンタルがあるのならば、趣味や勉学に回したいものさ。まあ回す力もないことは自覚しているけれど。


というかさっきのイチャイチャカップルはなんだ。

学校は勉強するところじゃないのか。不純異性交遊だろう!


……いや、分かってるんだよ本当は。

それを言ってしまったら文化祭とか合唱コンクールとか、やる意味無くないか?って思ってしまう。

…………ん?いや……座学だけが勉強じゃないよな……。

こう、ほら。部活の決勝戦で惜しくも負けて仲間と涙を流す経験も勉強なんだろうなと思う。

サッカーとか、野球とかマネージャーやチアがいたりして付き合ったりとかして


……話が脱線してしまった。僕の悪い癖だ。

横断歩道を手を繋いで渡るカップルを見て僕はぽつりと。


「……恋愛……ね」

ずっと夢見てたけど毎日を過ごしてる内に諦めてたな。


好きな子に告白したら泣かれて女子グループから冷たい視線を浴び続けたりしたし、告白されたかと思えば実は罰ゲームでしたとかな!


なぜかヤンキー的な女の子と付き合いたいって思ってたっけ。

パリピ女子が好きなんじゃなくってただ理想のシチュエーション的な意味で。恋に恋をしてたんだ。

誰かを好きになるって分からない。

ただ影響されて真似をしたくなる時期があったっけなあ。


…………というか、いわゆる「モテる人」ってどんな人だ?

ふと疑問に思った。


「やばい、スイッチ入った」

がぶりとアメリカンドッグに食らいつく。

思考欲を掻き立てていく。立てていってしまう。

このコースは最高のやつだ。


モテる人か。なるほど。

条件としては、まずいい人ではある。

いや、いい人ってアバウトすぎか僕は。


ええっと、そうだな優しくて勉強も出来る。

まあ勉強はそりゃ出来た方が良いだろうけどこれはそこそこでも問題ないだろう。いや、むしろ理想か?


要は話したら楽しそうと思わせる人か話しかけづらくて仮に話しても会話が続かなさそうと思わせる人か。

そう、思わせるか思われるか。


それは本人の努力次第でどうにでもなるからいいんだ。


だけど、この僕の持論を見事に打ち砕くワードがある。


「ねー昨日のあれ見た!?」


「見た見た!もーうカッコよすぎだし!」


右側の道から女子中学生2人組が楽しそうに話しながら歩いてきた。

丁度いい。僕が身をもってお教えして差し上げようじゃないの。

先程のワードの答え合わせといこう。


チラッ

「敢えて」女子中学生を見る。

これは実験だ。答え合わせだ。

ただどんな顔してるのか見てみたくなった訳じゃなくなくない。


「それでさー!あの曲……うわっ」

「何あの人……目が怖い…リカ、早く行こ?」

タッタッタッと去っていった。


いやあ実験は疲れるなあ!

体を張って検証するというのは!

目から汗が出たりしてね?


さてさて正解は〜!?


「ただじい…い゛げめ゛んに……かぎる……ひっく」

ボロボロ涙を流しながらとっくに食べ切ったアメリカンドッグの串を持って悲しくって震えた。


泣いてるところを見られたくなくて僕は俯いていたけど視線はガンガン感じていた。

アイドルが視線を集めるのと今僕が視線を集めること。

どこがどう違うか皆は分かるカナ?



…………日本語って、怖い怖い。あと女の子。


「ただいま〜」


靴を脱いでいるとひょこっと妹が顔を出した。


「あっにーちゃんだ、おっかえ〜」


「だから「おかえり」だろ」


「はいはいそーだねー」


妹の愛夏(あいか)

地元の恒春中学三年生で陸上部に所属していたが受験勉強の為引退。

インターハイに出場したことがあるほどの実力者でそれはそれは引退を惜しまれたものだ。

というか受験生だろ、こんなことしてないで勉強しなさい勉強を。

「まあ、頑張りなよ」

そう妹に言い残し2階への階段をとんとんっと上る。


ガチャッ


「ふう、今日も相変わらずだったなあ」

疲れからか、いつもバッグをポイッと投げてしまう。

1階にバッグの衝撃が響いているのか


「奏楽!バッグを投げないでっていつも言ってるでしょう!」


「ごめーん!」


このやり取りも相変わらずだ。



窓から差し込む夕陽。


小学生達の無邪気に笑う声。


耳を傾ければそれぞれの生活の景色や音が分かる。



宵寝(よいね)()いね……。」

ふっ、しょーもな……。


オレンジ色の風と光が制服を着たまんまの僕を眠りへと導いていった。



……ん!



……ちゃん!


……にーちゃん!


「にーちゃん!」


「んん……?ああ、愛夏……。」


外はもうすっかり暗くなっていて夕ご飯も食べず眠っていたようだ。

「にーちゃんぐっすり寝てた、どれだけ声掛けても揺さぶっても起きないから逆に関心したよ……。」


「いやあ、今日はいろいろあってな……。」


「…………。」


「……あんさ、にーちゃん。」


「あのさ」だろ、といつもなら突っ込んでいるが妹の珍しく真剣な眼差しを前にすると「なに」としか返せなかった。


「にーちゃん、前はもっと笑ってた。」


「どっ、どうした……急に。」


思わず姿勢を正す。


「うーん……なんでもない………ごめんね、おやっすー!」


妹はそう言うと自分の部屋に戻って行った。


「「おやすみ」な……。」


僕は制服を脱ぎ、部屋着に着替え静まった1階のリビングにラップして置いてあるご飯を温め直し、食べ終えた。

シャワーを浴びて寝る準備も終わって時刻はもう午後11時を過ぎていた。

「もう寝よう」


明日はどんな日になるだろう。また怒られるのかな。


「なんかいい夢でも、見れるといいなあ。」

まさか明日僕の生活が一変するとはこの時の僕には知る由などなかった。そしてそんな僕の心に夜の深く青い空が、ブランケットをそっとかけてくれる感覚を胸に。


「おやすみ……なさ……」





(えー、発表……ま………。……の全……高校……画フェス……バルの……)



お願いだ。お願いだ。


(優勝は、…………さんです…………)

パチパチパチパチ……



そ、そんな……。


僕はあんなに……頑張ったのに……。

(奏楽クン。君…の………絵が………だよ…。)


えっ、よく聞こえないよ。



(だから………。)



「だから、なんですか?」


僕はすっと起き上がっていた。


外は静かな雨だ。


静寂に紛れた霧状の雨と音が。朝を、包んでいる。



ひゅるりと冷えた風が身体を撫でると共に。


僕は冷たさに震えながら現実に引き戻された。


「おはようございます。今日のお天気は―――――」


「雨のち晴れかあ、嫌だなあ雨は」


「奏楽、早く食べちゃいなさい」


「はーい」

もう家を出なければならない時間だ。

トーストを口に詰め込んで牛乳で流し込んだ。


「じゃ、行ってくるよ」


「はいはい、気を付けて行くのよ〜」


「あっ、母さん」


「何?忘れ物?」


「僕、最近笑えてないのかな」


「何よ急に……そうねえ、昔はもっと笑ってた気がするわねえ」

母さんは少し考え込んでから答えた。


「どうしてそんなことを聞くの?」


「いや、それが実は昨日――――――」

「おはよ〜お母さん……」

僕の言葉を遮った愛夏が目を擦りながら階段を降りてきた。


「おはよう愛夏。ご飯出来てるわよ」


「う〜ん」

あくび混じりの返事を返した愛夏はリビングへと去っていった。


「で、昨日がどうしたの?」


「………いや、なんでもないよ。行ってきます」

僕は少し足早に家を後にした。


いつものバス停からいつものバスに乗って学校へ。

見慣れた景色がいつもと違った色をしたように感じるのは気のせいだろうか。

そんなことを考えているうちに学校近くのバス停に到着した。



「起立、礼」


「おはようございます」


「よし、出席取るぞ〜芦川」


なんとか間に合った……。


「よし、全員揃ってるな。えー、1時間目は……」


美術だ。僕、音楽とか美術とか体育とかは苦手なんだよな。


「えっと、スケッチブックは……」

バッグをガサゴソ探しながら考える。


苦手な理由は「答え」がないからだ。

もどかしいんだ。答えも分からずただ突っ走るだけなんて。

それに比べ数学や社会は答えがはっきりしているから好きだ。

「勉強」が好きなんじゃない。

問題(パズル)解答(ピース)をはめていくのが好きなだけなのさ。


「あっあれ……あれ……嘘だろ?」


最悪だ。スケッチブックとデッサン用の鉛筆を忘れてしまった。

美術の先生怒ると怖いんだよな……何故か知らんが僕目つけられちゃってるし。

美術室に行きますか……。


「ああ、足が重い……。」


その後の僕はというと、無論怒られて廊下に立たされていた。

「なんて古典的な怒られ方なんだろうか」


反省している人間の思うことじゃないよなこれ。

水が入ったバケツを持たされないだけマシだよ。

10分ぐらいすると先生から授業に戻るよう指示され、デッサンの理論についての授業を受けた。

そして、ここから僕の人生が変わっていく。

その転機が訪れたのは帰りのホームルームが終わってからのことだった。


「起立、礼」


「ありがとうございました」


「おう、皆気をつけて帰るように。あと、篠田。」


僕だけ呼ばれた。今日忘れ物したからか?

いや、それぐらいで呼ぶか普通?


「ちょっと、職員室に来てくれ」


またいつものように黙って謝ってればいいんだろう。


「本当に反省しないな僕は……。」


「何をぶつぶつ言ってるんだ?早く来い」


「すっ、すいません!」


どうせいつもと同じだ。今日も帰って寝るだけ。


ガラガラッ


「ふう、篠田。お前コーヒー飲むか?ブラックしかないが」


「あ、大丈夫です」


「いや、どっちの意味だ?」


「ノーセンキューの方です」


最初からそう言え、と言われ先生はインスタントコーヒーを作り自分のデスクの椅子に腰をかけて衝撃の一言を言い放った。


「篠田、お前美術部に入れ」


「……えっ?」


ビジュツブ……えっ美術部?


「いや、実はな――――」


超要約すると「お前は感性と社会性が足りないから美術部入れ」

ということらしい。


「感性なんか社会で必要なんですか」


「それは「私日本人だから英語なんて勉強しない」と言ってる奴と同じことだと先生は思うがな」


「はあ……」

まあ、このまま変わらない毎日を送るよりまし……かな。


「明日から入部だからよろしくな。ああ、それとだな――――」

いや拒否権なしかよ!入部するけど!


そんなセルフ突っ込みをかましていると追い打ちをかけるかのような一言を告げられる。



「実はな、部員が女子1人だけなんだ」



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