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剣の娘  作者: 田中
第九章 孤児と演劇
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殺陣

 ステラに戻ったカミュは雪丸に演劇に使う殺陣(たて)の構成に協力してもらえないか尋ねた。


「殺陣でござるか?」

「そう孤児院の演目でリンデと元傭兵のビクトルって人に教えないといけないの」

「剣劇でござるな。構わんでござるが拙者の剣術は騎士の物とは違うが、それはよいので?」


 雪丸の剣技は刀を使う為に磨かれている。騎士の動きとは根本的に違う。

 だが大事なのは客に受けるかどうかだ。


「リンデは騎士役だけど、ビクトルは魔物の配下だから騎士の動きじゃなくてもいいと思う。脚本家のヒューゴには派手にしてくれって言われたわ」

「派手でござるか……難しい注文でござるな。拙者の剣術は地味ゆえ……」


「雪丸さん……この前の月夜さんとの立ち回りは、十分派手だったわよ」

「そうでござるか?」

「取り敢えずギルドの訓練所で少し相手してもらえない?」

「分かり申した」


 カミュは台本を開き、一騎打ちの場面を確認する。

 リンデがやる騎士のバーンズは、正統派の剣技を学んだ者とある。

 一方、魔物の配下、デミトリは魔物の剣士としか書かれていない。

 これなら雪丸の剣術でも違和感はないだろう。逆に見慣れない動きは客に驚きを与えるかも知れない。


「内容はお任せだから、手合わせしながら決めていきましょ」

「承知したでござる」


 二人は宿を出てギルドに向かった。

 カリンに声をかけ、訓練所へ向かう。

 二人は練習用の鉄剣を手に取り、向かい合った。


「それじゃやりましょうか」

「おう」


 カミュも雪丸もなるべく派手な動きを心掛け剣を振るっていく。

 二人は派手さを第一に考えていたため本来の半分の力も出していなかったが、周囲にいた傭兵たちは二人の動きに驚きの声を上げた。


「上段からの打ち下ろしを受け流して、すくい上げる動きはなかなか派手で御座るな」

「雪丸さんの三段突きも結構いいかも」


 二人の動きはまるで剣舞のようで、休憩しようと打ち合いを止めた時、周囲から歓声が上がった。


「ふむ、なかなか受けは良いようでござるな」

「さっきの感じで提案してみましょうか」

「お二人ともお見事でございまする。練習試合でございますか?」


 いつの間にか傭兵に混ざって二人の様子を見ていた月夜がカミュ達に声を掛けた。


「月夜さん。演劇で使う殺陣の動きを決めていたの」

「演劇、お芝居でございまするか? カミュ様と義兄上がお出になるのですか?」

「いや、やるのは孤児院の人達じゃ」

「……差し出がましいとは思いまするが、先ほどの様な動きは一般の人には無理ではないでしょうか?」

「あ……」


 月夜の指摘に二人は顔を見合わせた。

 二人とも派手にする事ばかりに頭が行き、演じる人間の事は考えてはいなかった。


「ゆっくり演じれば、他の人間にもやれるのではござらんか?」

「でも、ヒューゴは迫力が欲しいって言ってたし……」

「迫力でござるか……」


 考えこんだ二人を見て、月夜が口を開いた。


「取り敢えず見てもらって、演じる方の技量に合わせて変えてゆくのはどうでしょう?」

「……そうね。それが良いかも。雪丸さん、明日孤児院について来てもらってもいい?」

「分かったでござる」

「そうだ。月夜さんも一緒に来て。孤児院の人達にも紹介したいし」

「畏まりました」


 ギルドを後にしステラに帰る道中で、カミュは月夜に今日はどんな仕事をしたのか尋ねた。


「本日は街の近くの牧場で、野犬の駆除を行いました」

「野犬? 見つけるのが大変だったんじゃない?」

「ローグ村で猟師殿達から追跡について学びましたゆえ、比較的簡単に巣を見つける事が出来ました」

「へぇ、凄い」


「それで、全て退治したのか?」

「いいえ、襲ってきたものは斬りましたが、子犬は牧場主の方が育てるそうでございまする」

「そうか。子犬は助かったか」


 雪丸はなんとも言えない表情でそう言った。


「義兄上は相変わらず、犬がお好きのようでございまするな」

「まあのう。国元の太郎丸は元気かのう」

「私が最後に会った時は、紅丸と五月と一緒に駆けまわっておりました」

「そうか。二人にも早く会いたいのう」


 雪丸の言葉を聞いて、月夜は彼に尋ねた。


「義兄上、それでお城で報酬は頂けたのですか?」

「おお、そうじゃ!月夜喜べ、何と百五十万も頂けたのじゃ!」

「それは凄い!では、目標まであと五十万でございまするな」

「うむ、二人で稼げばそう時を置かず貯まるじゃろう」


 月夜と雪丸は嬉しそうに笑った。

 カミュは彼らが帰国してしまうのを寂しく感じたが、雪丸も月夜も家族が待っている。

 ここは喜ぶべき所なのだろう。

 今すぐという訳でも無い。二人との時間を大事にしようとカミュは思った。


 翌日、カミュは二人を連れて孤児院へ向かった。

 ウォードは月夜との再会を喜び、彼女に今まで何をしていたのか尋ねている。

 その様子を見ているとカミュの姿を見つけたヒューゴが駆け寄ってきた。


「カミュ、殺陣はどうだ?」

「取り敢えず、見てもらおうと思って」

「もう出来たのか!?」

「彼は雪丸さん、倭国って国の戦士よ。彼に協力してもらったの」


 ヒューゴは雪丸を見て、顎に手を当てた。


「異国の戦士か……面白い。そういうテーマで一本書けそうだな」

「彼の剣術は騎士のものとは違うけど、ギルドで練習していた時は結構受けたわ」

「……いいぞ。魔物の剣士が使う、見慣れない剣技。最高だ。取り敢えず見せてくれ」

「分かったわ」

「ちょっと待て、昔の伝手を使って芝居用の剣を用意した。取ってくる」


 ヒューゴは屋敷に駆け戻り、装飾のされた剣を二本持って来た。


「これを使ってくれ」

「分かった」


 カミュと雪丸はヒューゴから剣を受け取り、二、三度振った。

 役者が使うためか、随分と軽い。


「ヒューゴ、これ打ち合っても大丈夫?」

「丈夫な木を使っているから、問題無いと思うが……」

「まあ、壊れたら、代わりの物を買って来るわ」


 あの木剣は結構、頑丈な作りだ。壊れる事は無いだろう。

 ヒューゴはそう思い、殺陣を始めるよう二人に促した。

 カミュと雪丸は向き合い、ギルドから帰ったあと打ち合わせした通りに剣を振るった。


 カミュは普段あまりしない大振りを多用し、雪丸に切りかかる。

 雪丸はそれを弾き、三段突き等を織り交ぜた剣術で剣を返していく。

 二人の動きを見て、庭で作業していた男たちも手を止め見入っている。


 剣を打ち合い、鍔迫り合いになった時、カミュの剣が嫌な音を立てた。


「折れちゃった」

「力を入れ過ぎたでござるな」

「ヒューゴ、ごめん。代わりを用意するわ」


 カミュがそう言ってヒューゴを見ると彼は小刻みに震えていた。


「怒ったの? ごめんってば」

「……素晴らしい。これだよ!! 俺が求めていた物は!! 大体、中央劇場の芝居は前から真剣さが足りんと思っていたんだ!! いかにもお芝居ですといった殺陣で、観客の気持ちが盛り上がる訳が無い!!」


 ヒューゴは興奮して捲し立てた。

 カミュも雪丸もその勢いに押されている。


「殺陣は採用だ。もっと丈夫な剣を用意して稽古を始めよう」

「このまま、使うの? でもリンデやビクトルが出来るか分からないわよ」

「練習あるのみだ。カミュ、雪丸。二人にも朝の稽古に付き合ってもらうぞ」

「毎日ステラから通うのは大変でござるな」

「ここに泊まればいい。ウォード部屋は空いてるんだろう?」


 二人の殺陣を見て口を開けていたウォードは、ヒューゴに問い掛けられ我に返った。


「えっ! 部屋!? ああ、空いてるわよ」

「ふむ、では二人とも今晩から泊まってくれ」


 雪丸がカミュに小声で耳打ちする。


「強引な御仁でござるな」

「芝居の事しか考えて無いのよ」


 ヒューゴはそんな二人を置いて、ウォードの横に立つ月夜に目を向けた。


「所でその娘は誰だ?」

「この娘は月夜ちゃん。雪丸さんの妹よ。アクロバットがとても上手なの」

「月夜と申します。よろしくお願いいたしまする」

「雪丸の妹という事は、異国の者か……雪丸もそうだが変わった格好をしているな」


 ヒューゴの疑問にカミュが答える。


「彼女は国で、忍び……密偵みたいな事をしてたのよ。服は忍びの装束だそうよ」

「女の密偵か……それも良いな。カミュ、お前は面白い仲間が多いな」

「そんなに面白いかなぁ……」


 ヒューゴは異国の戦士、女の密偵と呟きながら、何やら考えこんでいる。


「そうだ。ウォード。お金足りてる?」

「カブラスって人がくれたお金があるから、取り敢えず大丈夫よ。バニスが上手くやってくれてるわ」

「そう。足りなくなったら言って。お城で受けた仕事で結構沢山もらったから」

「分かった。でもあんまり大金を持ってる事は言わない方がいいわよ」


 ウォードの言葉にカミュは首を傾げた。


「どうして?」

「狙われるかもしれないでしょ」

「私も雪丸さんも大丈夫よ」

「二人の心配はしてないわ。さっきの見たら誰も襲おうなんて思わないでしょ。そうじゃなくて周りの人や孤児院の子供達が攫われたりするかもしれない」


 カミュ自身は大丈夫でも、子供達や三番街の人達、図書館やギルドにも顔見知りなった人たちは結構いる。

 彼らが攫われ人質にされたら、確かにまずい。

 ヒューゴに金を貸した高利貸し等、ミダスにも悪人はいる。

 気をつけないとなとカミュは改めて思った。


「分かりました。気をつけます」

「うん、素直でよろしい」


 ウォードはカミュの返事に笑みを浮かべた。

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