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剣の娘  作者: 田中
第九章 孤児と演劇
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孤児とお話

「それで、台本を貰って帰って来たと?」

「……はい、すいません」


 ウォードはカミュが膝の上に乗せている台本を見て、深くため息を吐いた。


「カミュ、子供達は勿論、ここに居るのは全員、演技なんてした事の無い素人よ。そんな芝居でお客さんが喜ぶと思う?」

「でもねウォード、お話はすごく面白いのよ!」

「でもねじゃ無い!」


 ウォードがテーブルを叩くと、カミュは首をすくめた。


「私だって、劇場で色んな物を出したい。でも最初は確実に出来る事からやるべきじゃないの?」

「それはそうなんだけど……」


 カミュは俯いて膝の台本を見つめている。


 ウォードは、カミュの膝の上の台本を一冊手に取りページをめくった。

 最初は流し読みしていたウォードだったがページが進むにつれ目が真剣になり、最終的にはベッドに腰かけ最後まで読み終えた。


「どう……だった?」


 恐る恐るカミュが訪ねる。

 ウォードは台本を閉じ、カミュの目を見た。


「面白かった。それにこんな話を舞台にした人はいないと思う……でも一つ問題があるわ」

「何?」

「この話を孤児の彼らに聞かせるのはどうかしら?」


 カミュもそれは感じていた。

 親を無くした彼らに、親を探す物語を演じさせる。

 話だけ聞けば確かに残酷だ。


「確かに導入部は子供達が親を探す為に、魔女の下を訪れる所から始まっているわ。でもお話の肝はそこじゃない」

「そうね。主眼は子供たちの成長に置かれている。それは認めるけど小さな子にそれが分かるかしら?」


 確かにウォードの言う事はもっともだ。

 ヒューゴの脚本では、子供達は旅の間に親が消えた理由を知り、困難を乗り越え親を奪った魔物と戦い、それに打ち勝ち希望の光を手に入れた所で物語は終わっていた。

 カミュは同じ孤児として育った経験から、たとえ親がいなくても未来がある事を孤児たちに感じて欲しかった。


「私は……子供たちに希望を持って生きて欲しい」

「……希望……分かった」

「それじゃあ……!?」


「……やるかどうかは子供達の反応次第よ。取り敢えず今日はここに泊まって行きなさい」


 そう言ってウォードはカミュの持っていた台本を手に取った。


「私はこれを他の連中に渡して、読むように言っておくわ。貴女は食事の後に子供達をお風呂に入れて、お風呂上りに読み聞かせるのよ。それでこの話を劇でやりたいか聞いてみなさい」

「うん、分かった」


「それとカミュ、前も言ったと思うけど、思い付きで突っ走るのは止めなさい」

「……はい、お姉様」


 ウォードはしょうが無い子ねといった様子で苦笑した。


「まあ、その思い付きのおかげで、私はこの街で舞台に立つって夢が叶いそうな訳だしね。それじゃカミュ、貴女も食事の準備を手伝ってきて。私も後で行くから」

「はーい」


 カミュはウォードと一緒に部屋を出て、台所へ向かった。


 台所では、ジャッカルのメンバーの一人がタニアや他のシスターと共に調理を行っていた。

 タニアに尋ねると彼の名はロンゾ。元料理人だそうだ。

 ロンゾの指示で子供達も皿を並べたり、料理を盛り付けたりしていた。


 カミュが手伝えることは無いかとロンゾに聞くと、リンゴの皮剥きをお願いされる。

 リンゴを剥いていると、以前からカミュの事を知っているミリィが様子を見に寄ってきた。

 ミリィはカミュの皮剥きを見て目を丸くして話しかけた。


「カミュお姉ちゃん、凄く速いね!」

「フフッ、ミリィも練習すれば早く剥ける様になるわよ」

「本当?」


「ええ、私も昔はこんなに早く剥けなかったわ。でも毎日料理をしてる内に出来るようになったのよ」

「ミリィもやりたい!」


 ミリィの夢はお菓子屋さんだった筈だ。

 なら包丁は使えた方がいいだろう。


「じゃあリンゴを持って、包丁じゃなくてリンゴの方を動かすの」


 カミュはミリィに包丁を握らせ、彼女の手の上から包丁を握り剥き方を教えた。


「ワッ! すごい!!」

「さあやってみて。ゆっくりで良いから慎重にね」


 カミュはミリィがリンゴを剥くのを見守りながら、隣でリンゴを剥いた。

 二人が作業をしていると、いつの間にか台所に来ていたウォードも食事の準備を手伝っている。

 台所は食堂に併設されておりトレーを持ったジャッカルのメンバーや年長の男の子たちが、カウンターに詰め掛けている。

 彼らは劇場で作業をしていたようだ。


「ロンゾ、腹減った!!」

「腹減ったぁ!!!」


 メンバーの一人がロンゾにそう言うと子供達も声をそろえて言う。


「行儀よく待てないのかよ。今日は鶏のトマト煮とサラダ。デザートはリンゴだ」

「やった!! 肉だぁ!!!」


 ロンゾの言葉に大人も子供も歓声を上げた。

 ウォードやシスターたちが鍋から料理を盛り付けトレーに乗せていく。

 手伝っていた子供達はサラダをカウンターに並べていた。

 ミリィはレッドの所へ自分で剥いたリンゴを皿に乗せて駆け寄った。


「お兄ちゃん、このリンゴ! ミリィが剥いたんだよ! 食べて、食べて!」

「そうか……上手に剥けてる。偉いぞミリィ」


 レッドはリンゴの皿を受け取りミリィの頭を優しく撫でた。


「えへへ」


 ミリィは嬉しそうに笑っている。


「ボス、盛りを多くしてもらっていいですか?」

「なに言ってるの! アンタのを多くしたら他の人の分が減るでしょ! 皆一緒!」


 大柄なドミノには少し物足らない様だ。

 そんなドミノの皿に少年の一人がニンジンをこっそり入れようとしていた。


「そこっ!! 好き嫌いしない!!」


 ウォードの叱責で少年はスプーンに乗ったニンジンをすごすごと自分の皿に戻した。

 その後、配膳を終えシスターも含め、全員が席に着いたのを確認してウォードが口を開く。


「今日も一日お疲れ様でした。それじゃいただきましょうか?」

「いただきます!!」


 皆、美味しそうに食べている。

 カミュはウォードの隣に座って、その光景を眺めながら、食事を口に運んだ。

 トマト煮は、シンプルな味付けながら、とても美味しかった。


「なんだか、お母さんって感じね」


 カミュがウォードにそう言うと、彼女は盛大にため息を吐いた。


「結婚もしてないのにね……子供達は良いのよ。子供なんだから……うちの男共はガタイはいいのに、子供みたいな奴が多くてね」

「それでもなんだか楽しそうよ」


 カミュの言葉に、ウォードは笑みを浮かべた。


「そうね。この雰囲気は嫌いじゃない。なんだか一座を思い出すわ。一座には夫婦もいて、その子供達もいた。皆で一つの家族って感じだった」

「そう」


 そう言って食事を再開したカミュの目にリンデの姿が映った。

 リンデの表情はまだ硬かったが、タニアに話しかけられて言葉を返している。

 彼も少しずつではあるが前を向いているようだ。


 食事が終わり片付けが済むと、ウォードはカミュやシスター達と女の子を連れてお風呂に向かった。

 部屋の壁を抜いて作ったという浴場は広く清潔だった。


 比較的年長の子が小さい子を洗ってやっている。

 元は垢にまみれていた子供達も今ではすかっり綺麗になっている。


「最初は大変だったのよ。何年もお風呂に入っていない子なんて、いくら石鹸で洗っても泡立たないぐらい汚れてたんだから」

「ご苦労様です」

「シスター達と総出で洗って、服も洗濯して、一瞬、私は何やってんだろ、とか思ったわ」


 湯船につかってそう話すウォードは、それでも幸せそうだった。


「そうそう、気をつけてね。こんな風にッ」


 ウォードは手桶を窓に投げつける。


「覗いてくる奴がいるから」


 顔面に手桶が命中した男が、ぎゃっと悲鳴を上げて窓から消えた。

 それを見て、子供達が手を叩いて笑っている。


「なんか、手馴れてるわね」

「性懲りもなく、何度も覗こうとするからね。いい加減慣れたわ」


 風呂から上がり、子供達を拭いてやり、ウォードに服を借り着替えを済ませた。

 服はウェスト等は丁度良かったが、胸のあたりがブカブカでカミュは少し微妙な気持ちになった。


 筋肉の所為だろうか……。

 まあいい、カミュは気持ちを切り替えた。


 男の子が風呂から上がるのを待ってカミュは二階に上がった。

 椅子に座り、パジャマを着た子供達を椅子の周りに集めた。

 小さな子達はカミュの周りで床に座った。

 年長の子の中には、ベッドに座り興味なさそうにしている子もいた。


「なぁに? お姉ちゃん?」

「これからお話を読みまーす」

「お話!?」

「どんなの!?」


 お話と聞いて彼らは瞳を輝かせた。


「このお話は、大人たちがいなくなった村で、子供達がお父さんとお母さんを探す為に冒険するお話よ」

「えっ……お父さんとお母さんを探すの……?」


 まわりに集まった子供たちは途端に目を伏せた。


「皆、聞いて……私も孤児だった」

「えっ? お姉ちゃんも?」

「そうよ。でも元気に生きてる。私は皆に笑って生きてほしい。そのためのヒントがこのお話にはあると思う」

「ヒント?」


 カミュの言葉で目を伏せていた何人かはカミュを見上げた。


「そう、ヒント。笑って生きるためのコツみたいな物かな?」

「よく分かんないよぉ」

「そうね。じゃあ取り敢えずお話を始めましょうか」


 カミュが話始めると、最初は悲しそうに顔を伏せていた子供達もいつの間にか顔を上げていた。

 物語が中盤に差し掛かると、ベッドに座っていた子もこちらに顔を向けている。


 カミュが物語を語り終えると、皆カミュを見つめていた。


「今、劇場を作ってるでしょう? そこでこのお話を皆に演じて欲しいの?」

「演じる?」

「そう、お話に出てきた子供達にあなた達がなるの」

「私、キャロが良い!」


 女の子の一人が手を上げ、登場人物の名前を上げた。


「えーっ、キャロは私がやるの」

「俺はトマスがいいな」

「お前はトマスって言うより魔物の配下のガブルだろ!」

「なんだとっ! なんで俺が大喰らいのガブルなんだよ!?」


 皆、やる気はあるようだ。

 カミュは手を叩いて子供達を落ち着かせた。


「はいはい、皆、聞いて。誰が何の役をするかは、明日このお話を作った人が決めてくれるわ」

「えーっ、キャロが良いのに……」

「何の役になるかは明日のお楽しみ。さあお話は終わり。ベッドに入ってもう寝なさい」


 少しぐずる子もいたが、全員をベッドに寝かせ、カミュは子供部屋を後にした。

 ベッドに寝かせる時、ミリィがお話読んでくれてありがとうと言って、笑顔を見せてくれたのがカミュの心に残った。


「どうだった?」

「皆、役を取り合ってた」

「そう……それじゃあ、どうなるか分からないけど、取り敢えずやる方向で進めましょうか」


 ウォードと話し、カミュは用意された部屋で横になった。

 配役は明日ヒューゴが決める。

 カミュは彼がこの話を選んだのは、短く演じやすいという理由だけでは無いような気がしていた。

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