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剣の娘  作者: 田中
第一章 受難の少女
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物語の始まり

 エルスト大陸の西端に位置するオーバル王国


 西と南に海を持ち、西大陸との貿易により富を得て、広大な国土を支配していたオーバル王国も建国後三百年以上が過ぎ、嘗ての繁栄も陰りが見え始めた。


 現在の王も暗愚ではないが、傾きかけた国を支えられる器ではなく、経済の不安定さから治安の悪化を招き、国の討伐隊が野盗に返り討ちにあう事も、珍しい事ではなくなっていた。


 国は当てにできないと、各地で領主の独立及び都市による自治の宣言など、混乱は広がっていった。


 建国歴305年、オーバル王国の北にあるエディル帝国は、この混乱に乗じて版図を増やすべく南進を開始する。


 オーバル王国の北端にあるリーフ村、農耕と畜産で生計を立てているいたって平凡な村が戦争の初めの犠牲となった。


 7歳の誕生日、カミュは母と一緒に野イチゴやキノコを取りに、村から近隣の高台にある森の中に来ていた。


 赤い髪に緑のスカーフを巻いて、銀色の瞳が特徴的な可愛らしい顔立ちの少女だ。


 母親も長く艶やかな赤い髪の持ち主で、こちらは一般的な青い瞳をしている美しい女性だ。

 日が傾きかけたので、「そろそろ帰りましょう」とカミュに声をかける。


「キイチゴはジャムにするの、でねキノコはオムレツがいいなぁ」


 カミュはそう言って母に微笑む。


「キノコのオムレツは、お父さんも大好きだものね」


 母も笑ってそう返した。


 収穫はまずまず、二人は談笑しながら家路を急いだ。


 森を抜け、高台から村を望むと様子がおかしい。

 方々の家から煙が上がり炎上している建物も見える。


 村の中心で炎に照らされて一際大きな人影がみえた。

 それは祭りの時に見た影絵のようだった。


 何人かの村人が武器を手に人影に襲い掛かる、しかし人影が手にした身の丈ほどの剣を振るうと、村人の体はバラバラに弾け飛んだ。


 その炎に照らされたシルエットは大声で笑っていた。


「お母さん……」


 カミュが不安に駆られ母に声をかけた。

 母はカミュを村人が狩りの時に使用する猟師小屋に連れていき、こう言った。


「ここで隠れているのよ、お母さんは村を見てくるわ。見つかるといけないから明かりはつけちゃダメ。わかったわね」

「……うん、お母さん早く帰ってきてね…お父さんも一緒だよ……」

「ええ! 勿論よ!」


 日が暮れて真っ暗になっても、カミュは言いつけを守り明かりはつけなかった。

 猟師たちが寝具に使用する毛皮に包まり、明るくなるまで母を待ち続けた。


 日が猟師小屋の窓から差し込みカミュの顔を照らす、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。

 猟師小屋に母の姿がないことを確認すると村に向かった。


 カミュの家は村のはずれにあったので燃えてはいなかったが、家には誰もおらず、箪笥の引き出しやクローゼットの中身が散乱し荒らされていた。


 両親の部屋に行くと誰かが倒れている。


「おとうさん?」


 思わず駆け寄りゆする。


「おとうさん起きてよぉ!!」


 冷たい。

 触った手をみると赤黒いものが付いていた。


「嘘……」


 カミュは家から飛び出し教会を目指し走った。


「牧師様なら、きっとお父さんを助けられる」


 教会の牧師は医療の知識を持っており怪我をした村人の治療を度々行っていた。


 教会に着いて愕然とする、扉は開け放たれ中には村人が大勢倒れている。

 老若男女問わず全員ピクリとも動かない。


 牧師は説教台の前でもたれかかるように死んでいた。


 カミュは教会を後にして、フラフラと母を探してさまよい歩いた。


 そこかしこで人が倒れている。


 特徴のある赤い髪を見つけカミュは駆け寄った。

 暴行を受けたのか服は破られ半裸状態だ。


「お母さん!」


 母親はうっすら目を開けるとカミュを見た。


「……カミュ……」

「お母さん!! 大丈夫!?」


 母を見ると腹部から血が滲んでいる。

 息も絶え絶えに母親が言う


「カミュ……よく聞きなさい……暖炉のレンガに……小さな穴があいたものがあるわ……」

「何言ってるの!? そんなことより血がでてるよぉ!!」


「いいから聞きなさいっ!! ……暖炉の右側上のほうよ……そのレンガを外したら……中に……お金が入っているから……」

「……うん……うん」

「……それを持って逃げなさい……」


「お母さんも一緒じゃなきゃ嫌だよぉ……」


「お母さん……は行けないわ……一人でいくのよ……南に行きなさい……わかったわね……愛してるわ、私の可愛いカミュ……」


 母親はそう言うとゆっくり目を閉じる。


「お母さん!! お母さぁん!!」


 何度揺さぶっても母親は二度と目を開けなかった。


 どれぐらい泣いたのか、うつろな目をしてカミュは立ち上がり家に向かう。


 カミュはいわれた通り暖炉にあった小さな穴の開いたレンガを外し、中にあった僅かなお金と、遠出のときに父親がかぶっていた帽子を手に取り、生まれ育った村を出て街道を南に向かった。

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