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剣の娘  作者: 田中
第二章 傭兵ギルドと初仕事
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ギルド長

 アインはカミュが落ち込んでいる間に、部下たちに指示を出し、捕縛した者たちを護送馬車に放り込んだ。

 ワイバーンは一部砦外にいたものを除き九割近くが収容された。

 夕方までには殆どの作業が終了し砦から撤収する運びとなった。


「カミュ、いつまで落ち込んでいるんだ」

「だって、村の皆は今まで一度だって私がおかしいとか言わなかったのよ」

「慣れていたってことも有るんだろうが、気を使ってたんじゃないのか?」

「そうなの!?」


 カミュがまた落ち込みそうになったので、アインは慌てて話題を変えた。


「まあお前のお蔭で、厄介な問題が解決できたんだ。胸を張って良い」

「そうよね。ルカス達は捕まえたし、子供たちもちょっとは楽になるかな?」

「そのことなんだが、子供とはいえ悪事に手を染めるのは容認できない」

「そんな!! 彼らはスリや盗みをしないと生きていけないのよ!!」


「話は最後まで聞け。今回の依頼はギャングの幹部連中の捕縛が目的だった。しかし結果はギャング団の壊滅だ。本来なら幹部が居なくなることで、分裂し小さくなった組織を一つずつ潰していく計画だったんだ。つまりその為の予算が浮くわけだ。こいつを新しい孤児院の創設に回せるかもしれん」

「そんなこと出来るの?」


「子爵様も戦災孤児や難民については頭を悩ませていた。どうにかしたいと思案していたようだが、ない袖は振れないからな。今回の事でおそらくお前は子爵様に呼ばれるだろう。謁見の際に褒美として孤児院の件を願い出れば叶うと思う」


「……あんまり偉い人には会いたくないんだけど……仕方ないか」

「取敢えずはギルドに戻るか。俺も依頼完了の証人としていかないといけないしな」

「……そうね。戻りましょう」


 カミュたちはデイブ達に後を任せ、傭兵ギルドへ向かった。

 傭兵ギルドではカリンが出迎えてくれた。


「おかえりなさい。カミュさん、アインさん。依頼はどんな調子ですか?」

「ただいまカリン。依頼は片付いたわ」

「片付いたってどういうことですか!? 開始から一日目ですよ!?」


「おう、カリン。カミュの言ってることは本当だ。ギャング団はどちらも壊滅したよ」

「壊滅!? 幹部の捕縛じゃなくて壊滅!?」


 カリンは混乱している。

 今回の依頼は普通であれば、幹部が単独行動もしくは少人数で動いているところを襲撃し、一人ずつ捕縛していくのが常道だ。


 何故、いきなり壊滅することになるのか。

 意味が解らない。


「カリン落ち着け、壊滅したのは本当だ。ワイバーン、ジャッカル共に殆どの幹部の身柄を確保した」

「アインさん、何言ってるんですか!? そんなことあんな少人数で出来るわけないでしょう!?」

「あー、それなんだがな……、俺たち衛視隊は、ほぼ何もしていない。やったのはこいつ一人だ」


 カリンは信じられないようにカミュを見た。


「カミュさん、違法な武器とか所持していないですよね」


 カリンがジトっとした目でカミュを見てくる。

 カミュは妙に迫力のあるカリンに少したじろいだ。


「違法な武器を所持していたのは、寧ろルカスの方でな。カミュは剣と小石ぐらいしか使っていないよ」

「本当ですね!?」

「ああ、確かだ。この目で見たからな」


 カリンの追及に対して、見かねたアインが助け舟を出す。


「アイン、助かったわ。なんかウォードより怖い」

「ギルドも傭兵の管理には気を使っているからな。所属している奴が犯罪まがいのことをしてると分かりゃ、責任を負うのはギルドになる」

「なるほどね」


 カリンはアインの答えで、信じられないながらも納得したようだ。


「解りました。では今回の依頼は完了したということで処理しておきます。アインさんこちらにサインを頂けますか?」

「おう、了解だ」


 アインは書類にサインをした。


「確認しました。ではこちらは経理に回しておきます。後ほどお呼び致しますので、ロビーでお待ちください。後カミュさんおそらくギルド長に呼ばれると思いますので、そのつもりでいて下さい」


「ギルド長!? なんで!?」

「今回の件について、経緯の説明をしてもらうことになると思います。普通一人で出来ることではありませんから。ではお待ちください」


 そう言ってカリンは書類を持ち席を外した。

 残されたカミュはアインと二人ロビーのベンチへ腰を下ろした。


「……また普通じゃないって言われた」

「気にすんなよカミュ。規格外も悪くないさ」


 そう言いながらアインはカミュの肩を叩く。


「規格外って言わないで!」


 カミュはアインを睨みつける。

 アインは落ち着けと言うように両手を胸の前にあげた。


「まあギルド長の呼び出しは当然だろう。今回の依頼はチームに向けたものだ。たった一人で依頼以上の事をやってのけたんだからな。大人しく呼び出しに応じろ」

「サッと終わらして、お金をもらって帰るつもりだったのに……」


「近いうちに子爵様からも呼ばれるだろう。カミュ、どこに逗留している?」

「三番街のステラって宿よ」

「おっ、カイルのとこか」

「知ってるの?」

「ああ、カイルの嫁さんだったステラには、ガキだった頃にずいぶん世話になった。三年前に亡くなっちまったが……」


「……宿は奥さんの名前を付けたのね」

「ステラは街でも評判の美人だった。なんでカイルなんかにって男どもは嘆いたもんさ。俺はカイルの事もよく知っていたし、お似合いだと思ったがね」


 二人が話していると支払いカウンターからカミュの名前が呼ばれた。


「書類の処理が終わったみたいだな。俺は詰め所に戻るよ。じゃあなカミュ、お疲れさん」

「ええ、お疲れ様、アイン。またね」


 アインを見送りカミュは支払いカウンターへ向かった。

 支払い担当の女性がカミュをみて声をかける。


「カミュさんですか?」

「ええ」

「ギルドカードの提示をお願いします。後こちらの書類にサインをお願いします」


 カミュは書類にサインし、カードと一緒に受付の女性に渡した。

 女性はカードと書類を確認し、カードをカミュに返した。


「確認は完了しました。こちらが今回の報酬です。お確かめください」


 女性は布で出来た袋をカウンターに置いた。

 カミュは受け取り中身を確認した。


 金貨が十枚入っている。

 カミュは金貨など初めてみたが、ジョシュアに貨幣の種類は教わっていたので、一枚が十万リルだということは知っていた。


「確かに受け取ったわ」

「ではこちらが受取証です」


 女性は判子の押された紙を差し出す。

 カミュは紙を受け取り金貨の袋にいれ、服の内ポケットに仕舞った。


「カミュさん、ギルド長が面会したいそうです。ご一緒に応接室まで来ていただけますか?」

「分かったわ」

「ではご案内いたします」


 女性は訓練所があった場所とは逆の右の扉から奥に進んだ。

 カミュも後からついていく。

 彼女は両開きの大きな扉の前で立ち止まり、扉をノックした。


「ギルド長、カミュさんをお連れしました」

「おう! 待ってたぜ! 中に案内してくれ!」


 部屋の中から野太い大声が返答する。

 受付の女性は扉を開きカミュに中に入るように促した。

 部屋に入るとソファーに腰かけた、もみあげの大男が笑ってこっちを見ている。

 髪型も含め図鑑でみたライオンのようだ。

 隣にはカリンが窮屈そうに腰かけていた。


「お前がカミュか!? 俺はギルド長のバランだ!! 話はカリンから聞いてるぜ!! ロッツが満点つけたんだって!?」

「ギルド長、いつも言ってますが普通の音量で話せないんですか? カミュさんがびっくりしてますよ?」

「だから普通に話してるじゃねぇか!!」


 バランは大声で話し続けている。

 この男はこれが基本らしい。

 カリンが諦めたようにため息をつく。


「カミュ!! そんなとこに突っ立ってないでこっちに座れ!! 詳しく話を聞きたい!」


 カミュはバランの向かいのソファーに腰かけた。


「で、何を話せばいいの?」

「詳細な経緯だ!! どういう行動をとったか時系列に沿って説明してくれ!!」

「……わかったわ」


 カミュはバランにギルドを出てからの行動を詳細に説明した。

 カリンがバランの横で内容を書き留めている。

 ワイバーンのアジトから、衛視隊が撤収するまでを全て話し終え説明を終了した。


「ふむ!! 詳しく聞いても信じられんな!! しかし実際に幹部どもは捉えられカブラス殿から報酬も届いた!!」

「ねぇ……、もう帰っていい?」


「個人的にはこれほどの技をどうやって身に着けたのか詳しく聞きたいが!! 仕事終わりで疲れもあるだろう!! それはまた後日としよう!! ごくろうだった!!!」

「カミュさんお疲れ様でした」

「……じゃあ失礼するわね……」


 カミュはギャングを相手にするより疲れたと、ギルドを後にし宿であるステラに向かった。

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