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剣の娘  作者: 田中
第二章 傭兵ギルドと初仕事
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ワイバーンのアジトへ

 屋敷に戻るカミュに付いてきたアイン達は、庭の様子を見て目を見開いた。

 門前にいた二名も含めて二十人ほどが全員気絶している。


「お前……何をしたんだ?!」

「何も特別なことはしていないわ。茂みに紛れて不意を突いただけ」

「これだけの人数を気付かれずに倒せるわけがないだろう!?」

「そうね、何回か危ない場面はあったけど礫をつかって何とか出来たわ。私もまだまだね」

「まだまだ……だと……?」


 アインは二の句が継げなくなった。

 これだけのことを成しておいて、まだまだとは一体何処に目標を置いているんだ。


 気を取り直してアインは仲間たちに号令を出す。


「手分けして全員を拘束、一か所に集めろ」

「はっハイ!」


 衛視たちは号令で我に返ったようだ。

 しばらくかけて全員に手かせを嵌め、庭の中央に集めた。


 カミュたちは二人を見張りに残し屋敷に入った。

 ロビーにいた五人を拘束し庭にいた二人に渡す。

 二階にいた幹部たちも外に運び出した。


「ジャッカルの幹部は全部で八人いたはずだから後二人足りないな」

「どうするの?」

「中心メンバーはほとんど逮捕できた。残りの二人は我々でも対応できるだろう。後はボスとご対面だな」


 カミュたちは二階奥のウォードの部屋へ向かった。

 ウォードは拘束されたまま床に転がっていたが、意識は取り戻しているようだ。

 カミュの顔を見ると口を開いた。


「戻ってきたのね、カミュだったかしら。まさかこの私が手も足も出ないなんてね。力を手に入れてから、この街じゃ私より強い奴には会ったことがなかったのに」


「貴女が知らないだけで、この世には貴女より強い人は沢山いるわ。それより貴女さっき叫んでいたわよね。奪われる側には回らないって、それって結局、貴方と同じような思いをする人を作っているだけじゃないの?」


 ウォードは何か言いかけたが、悔しそうに目を逸らした。


「ジャッカルの首領ウォードだな。住居の不法占拠及び住民に対する暴行恐喝容疑で逮捕する」


 アインがシーツを外し、改めて手錠を掛けた。

 ウォードに靴を履かせ、衛視の一人が彼女を庭に連れていった。


「彼らはどうなるの?」

「大半は何か月かの強制労働で済むだろう。幹部連中は監獄行きだな。まあ報告されている事案の中に、殺人は含まれていないからボスのウォードでも五年もすれば出てこれるだろうさ」


「そう、次はワイバーンのほうね」

「ああ、ジャッカルはウォードを筆頭に少数精鋭の武闘派集団で構成されていたが……」

「少数精鋭? あれで?」


「お前がおかしいんだよ! とにかく来るときにも話したが、ジャッカルは構成人数がワイバーンの三分の一程度、ワイバーンは百三十人を超える集団だ。ジャッカルの捕縛に成功したことでカブラス様に報告すれば人員も増やせるだろう」


「時間をかけて大勢で動いたら逃げられるんじゃないの?」

「確かにそうなんだが……」


 少し考えた後、カミュは口を開いた。


「実は昨日ワイバーンのルカスともめちゃって」

「何だと!!」

「今朝も絡まれたし、子供たちも迷惑してるみたいだから、さっさと終わらせたいのよね」


「…どうするつもりだ」

「このままワイバーンのアジトに直行して全員叩きのめそうかなっと」

「本気で言っているのか! 百三十人だぞ!」


「ジャッカルのメンツより弱いんでしょ。なら何とかなるわ」

「そういう問題じゃない!」

「いいから行きましょ」

「おい!ちょっと待て!!」


 カミュはアインを無視してワイバーンのアジトへ足を向けた。


「デイブ! 本部に連絡して護送用の馬車を回せ! あと応援要員をワイバーンのアジトに寄越せ! 俺はカミュに同行する!」


 アインが仲間に支持を出し追いかけてきた。


「本当にこのまま向かうのか?」

「ええ、アインさんは別に付き合わなくてもいいわよ」

「アインでいい。そういう訳にはいかん、衛視としての責任がある。しかしなぜそんなに急いでいるんだ?」


「昨日ルカスと揉めたって言ったでしょ。その時に奴ら子供たちから金を毟り取ろうとしていたわ。この街じゃ相変わらず孤児院は少ないし、子供には仕事なんかないんでしょ?」


「……確かにお前の言う通りだ。孤児院はあるが戦災孤児が増え全員を受け入れる余裕はない。子供を雇う者もあまりいないだろう」


「私もそうだったわ。生きていくために悪いこともした。ギリギリの生活なのにルカスみたいな奴に搾取されたら生きていけない」

「カミュ、お前孤児だったのか」

「そうよ、ロイとジョシュアに助けてもらわなければ、この街で死んでいたでしょうね」


 アインはカミュの横顔をみた。

 その顔には悲しみと懐かしさが浮かんでいるように見えた。


「調べたいことがあるから、時間を掛けたくないってのもあるけど、ルカスを捉えればあの子たちも少しは楽になるんじゃないかと思って」


「根本的な解決にはならんが、何もしないよりはましか。孤児の問題は俺も気になっていた。折をみて領主様にも進言してみるよ」

「アイン! あなた領主様に直接進言できるような人なの!?」


 カミュはまじまじとアインを見た。


「こう見えて騎士なんだぜ」

「唯のお巡りさんかと思ってわ」

「……よく言われるよ」


 話しながら歩いているとワイバーンのアジトが見えてきた。

 石造りの古い砦のようだ。

 すこし離れた場所からカミュがアジトを見ていると、アインが説明してくれた。


「昔は外部要塞として使われていたんだが、街が大きくなることで都市に飲み込まれたんだ。過去には兵士の詰め所として使われていたようだが、新しい詰め所が一番街に出来たことで打ち捨てられたみたいだな」


「ジャッカルのアジトより侵入しにくそうね」

「カミュ、どうするんだ?」

「コソコソせずに今回は正面から乗り込みましょう。アインはここで待ってて」

「おい!」


 そう言うとカミュはアインを置いて真っすぐ砦の入り口へ向かっていった。

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