物語の終わり
倭国、紀柳の九条家の蝉の声が聞こえる縁側で、二人の子供に雪丸が話を聞かせている。
「という訳で、カミュ殿は皇帝の口から民衆に戦争の終わりを告げさせたのじゃ」
「父上、唐土での話の時も思いましたが、流石に話を脚色しすぎでは? カミュ殿が強すぎでございます。人とは思えぬ。まるで鬼神のようじゃ」
雪丸は息子の頭を撫でながら嬉しそうに言った。
「全て誠じゃ。しかし紅丸も言う様になったのう」
「兄様。五月は父上のお話面白うございました。兄様はちがうのですか?」
「そうでは無いが、余りに荒唐無稽な話ゆえ、父上の悪い癖がでたのではないかと思うたのじゃ」
「嘘ではないぞ。そう思うなら、月夜に聞いてみるがよい」
「叔母上に……叔母上も思い込みが激しい所がありますからなぁ」
紅丸は雪丸の居ない間、弟の時高に武家の作法を学んでいたらしい。
その影響か随分慎重な性格になったようだ。
あの戦いの後、ベギンナムの宣言で戦争は終わった。
長い戦争により貧困に喘いでいた民衆は、皇帝自らの言葉に歓喜の声を上げた。
その後のベギンナムが言った、予は神ではないとの宣言に泣き崩れる者もいたが、時が経つと彼らはそれぞれの在所へ帰って行った。
帝国内部には少なからず戦争を続けるべきだという声もあったが、ベギンナム自身が何かに怯え、戦争はしないと声高に訴えた事でその声は鳴りを潜めた。
それでも反発する勢力はいたが、それはディアーヌが強引に武力でねじ伏せた。
皇帝は隠居の様な形で城に引きこもり、帝政は崩壊した。
ディアーヌは暫くクラドリオンに留まり、帝国が落ち着くまで治めていたようだが、騎士隊は早々にミダスに帰還したので詳しい事は分からない。
その後、雪丸と月夜はロランが仕立てた使節団の船で、倭国は紀柳まで帰ってきた。
長い船旅に思いを馳せていると、小夜が雪丸に声を掛けた。
「旦那様、お客様がお見えで御座いまする」
「はて、今日は約束は無かったと思うが……小夜、一体どなたじゃ?」
「赤い髪の異国の方で御座いまする。お名前は……」
雪丸は小夜の話を最後まで聞かず、早足で玄関へ向かった。
夏の陽光を浴びて赤い髪と銀の瞳が輝いている。
「久しぶりね、雪丸さん。この国は奇麗だけど暑いわね……それで早速だけど手伝って欲しい事があるの」
「本当に久しぶりでござる。して手伝って欲しい事とは?」
「ミダスからの交易船が、唐土の海賊に襲われているらしいのよ。それが結構手強いらしくて……」
「海賊退治でござるな。で何時から取り掛かるので?」
「船は港に待たせてある。準備が出来次第、出航よ」
「ハハッ、相変わらずでござるな」
雪丸が笑っていると、その後ろから彼によく似た子供が二人こちらを覗いている。
「その二人が話していた子? 二人とも可愛いわね」
「紅丸、五月。先ほど話したカミュ殿じゃ。二人とも御挨拶するのじゃ」
女の子が進み出でチョコンと頭を下げた。
「五月で御座いまする。父上がお世話になり申した」
「あら、行儀のいい子ね。こんにちわ、私はカミュ。私の方こそ貴女のお父さんにはお世話になったわ」
男の子がおずおずと進み出てカミュを見て呟く。
「赤い髪……この方がカミュ殿……とても父上が話していた鬼神とは思えぬ」
「……鬼神? ……雪丸さん、どういう事かしら?」
「それはでござるな……紅丸、余計な事を……」
「紅丸君、詳しく話してくれる?」
カミュの迫力に若干怯えながら、紅丸が話し始めようとするのを雪丸が止めている。
その様子は周囲の蝉の声に負けないくらい賑やかだった。
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