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剣の娘  作者: 田中
第十三章 帝国へ
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終戦

 ベギンナムの放った銃弾は月夜の胸に命中した。

 月夜はそのまま仰向けに倒れる。


「月夜さん!!」

「フハハッ!! 人が神である予を阻もうとするからだ!!」

「貴様!!」


 カミュは玉座のある壇上に駆け寄りよじ登った。

 その間にベギンナムは隠し扉に滑り込む。


 カミュは月夜に駆け寄り彼女に声を掛けた。


「月夜さん、しっかりして!!」


 弾は鎖帷子で止まっているが、胸骨が折れたのか月夜はうめき声を上げている。


「カミュ……様……皇帝を……追って……下さいませ」


 そう言いながら月夜はカミュに、グラントからもらった物を手渡した。


「お早く……」


 玉座のある壇上の下に、近衛騎士を倒した隊員たちが駆け付ける。

 雪丸もエゴールに肩を借りながらこちらに向かってきた。


「カミュ殿、ここは我らに任せて皇帝を追って下され」


 カミュが隊員たちを見回すと全員頷きを返した。


「月夜さんをお願い!」


 カミュは月夜をその場に残し、皇帝の後を追った。

 鍵の掛かった隠し扉を刀で破壊し暗い通路をひた走る。

 通路を抜けたカミュを銃声が襲う。

 銃弾は左足を打ち抜き、カミュは思わずその場に膝をついた。


「予をここまで追い詰めるとは、大した手練れだ。褒めて遣わす」


 そう話すベギンナムの手に単発銃が握られていた。

 ベギンナムの腰や胸に、銃を固定する為の革のベルトが複数覗いている。


「お前なんかに褒められてもねぇ」

「……無礼は許そう。そちにはジャハドの代わりに、実験台になってもらうからのう」


 カミュは会話の間にベギンナムの周囲を確認した。

 緊急時の避難場所だろうか。

 酷く殺風景な部屋には、入り口以外に奥にもう一つ扉があるだけだ。


「断るって言ったら?」

「そちに選択する自由は無い。傷は無い方がいいが手足が無くとも実験には使えよう。特にその目は博士たちがずっと研究したがっていたからのう」


 そう言うとベギンナムは持っていた銃を捨て、腰から単発銃を二丁抜きカミュに向けた。


「次は右足だ」


 カミュはベギンナムが引き金を引く瞬間、右足で飛んで月夜から受け取った銃を構え引き金を引く。

 弾はベギンナムには当たらず、背後の壁にめり込んだ。


「降伏しなさい!」

「もうそれは使えんだろう? それに銃の数は余の方が多い。さっさと諦めよ」


 ベギンナムは発砲した銃を捨て、胸元から銃を取り出す。


「試してみる?」


 カミュはベギンナムの両手の銃を狙い引き金を絞った。

 破裂音が部屋に木霊して、薬莢が床を転がる音と銃が落ちた乾いた音が響いた。


「連発だと……」


 ベギンナムは手を抑え、カミュを睨みつけた。

 その手からは薄く血が滲んでいる。


「諦めるのはお前よ」


 カミュは左足を引きずりながら、ゆっくりとベギンナムに近づいた。


「予は神だ!! 逆らう事は許されぬ!!」


 ベギンナムは次々と銃を取り出すが、カミュはそのことごとくを弾き飛ばした。


「おのれ!!」


 六丁目の銃を取り出し、カミュがそれを銃弾で弾いた所でスライドがロックした。


「フハハッ! 残念だったな! 弾切れか!」


 ベギンナムはニヤ付きながら、七丁目の銃を取り出した。

 カミュは銃を捨て一歩ベギンナムに近寄った。


「貴様を実験台にするのは止めにしよう。予を傷付けた報いを受けよ」


 ベギンナムはカミュの眉間に銃を向ける。

 引き金を引こうとしたベギンナムの右手が宙を舞った。


「は? ……ぎゃぁあああ!!」


 カミュは刀を鞘に納め、血を吹き出したベギンナムの腕を握りしめた。


「ぐぁあああ!! 何を!? 何をする!?」

「お前は死なせない。これから戦争をやめると宣言してもらう」


 カミュが握った事で、出血はほんの少し弱まっている。

 その腕をカミュは皇帝の衣服を割き強く縛った。


「これでしばらく死なないでしょ」

「ググッ、貴様…。…神である予に向かって……」

「お前は神じゃない。この世の何処にも神なんていない。いるとすればきっと人が触れられない何処かよ。私が触れられるお前は、決して神なんかじゃない」


 そう言うとカミュはベギンナムを引きずって、謁見の間に引き返した。

 引きずられている間も、ベギンナムはぶつぶつと自分は神だと呟いていた。


 謁見の間は敵兵が詰めかけていた。

 騎士隊は追い詰められ、壇上でそれに対処している。

 カミュは玉座の前にベギンナムを盾にする形で進み出た。

 その首に刃を添わせる。


「動くな!! 動けば皇帝を殺す!!」

「陛下!!!」


 帝国兵はカミュに捕えられた皇帝の姿を見て動きを止めた。


「誰ぞ!! 誰ぞ予を助けよ!!」


 ベギンナムは声を上げたが、首にかかった刃が兵の動きを封じていた。


「エゴールさん、この城にも皇帝が民に声を掛ける為の場所があるんでしょう?」

「はい、ございます。城の正面テラスで時折、皇帝は民衆に向け演説を行っています」

「そこに案内して頂戴」

「こちらです」


 カミュはベギンナムをエゴールに預け謁見の間を進んだ。

 帝国兵はカミュを睨みながらも道を開けていく。

 隊員達も月夜を抱えその後を追った。

 帝国兵の一人にカミュは言う。


「テラスの下に民を集めなさい」

「貴様、陛下をどうするつもりだ?」

「いいから行きなさい。やらないとこの男、殺しちゃうわよ」

「グッ」


 カミュがそう言ってベギンナムに刀を突きつけると数人の兵達は走りさった。


 隊員達に守られながら辿り着いたテラスの下には、帝国兵に集められた民が上を見上げ不安げに話をしていた。

 カミュはベギンナムをテラスに立たせ、耳元で囁く。


「戦争は終わったと、帝国はオーバルに降伏したと言いなさい。そして徴兵した民はもとの場所に帰るようにと」

「……この状況では誰も信じるものか」

「あら、帝国民にとってお前は神なんでしょう? ……そうだ最後に自分は神ではないと付け加えるのも忘れずに」


「……予が言うと思うのか?」

「言わないつもりなら、お前は一生、暗闇と音の無い世界で、喋る事も出来ず生きていく事になる」

「どっ、どういう事だ!?」


「目と耳と口を壊すだけ、心配しないで殺さないから」


 カミュは無表情でそう言った。ベギンナムは青い顔でカミュを見た。

 銀の瞳は真っすぐベギンナムを見ている。


「……うっ、嘘であろう? よっ、予は軍事国家エディル帝国の皇帝じゃぞ」

「それが何なの?」

「皇帝じゃぞ!? 帝国では予は神じゃ!!」

「よく分からないんだけど、皇帝だったり神だったりするからって、どうして私がやらない理由になるの?」


 カミュは心底、不思議そうにベギンナムに尋ねた。

 話を聞いていたトーマスが深く頷きながら答えた。


「皇帝なんて関係ないぜ。お前が例え本当に神だったとしても、隊長だったらやる」

「そうそう。だからさっさと言ったほうがいいぜ」


 その声を聞きながらベギンナムはカミュを見た。

 その瞳は一度もベギンナムから逸れる事は無かった。


 銀の瞳が輝いている。その瞳がやると言った事は必ずやると言っている。


 ベギンナムはベクフットの目を怖いと思った事は一度も無かった。

 あの男はより良い条件の国を探し放浪していた。

 富や権力を求める者は屈服させる事が出来る。

 だがこの娘はそんな物は欠片も求めていない。


 自分の力に屈しない相手を前にして、ベギンナムは生まれて初めて怖いと思った。

 虚ろに視線を漂わせ、ふらつく足で民に向き直り口を開く。


「予は……」



■◇■◇■◇■




 カミュから遅れる事数日、ディアーヌは帝国の首都クラドリオンを眺めていた。

 強固な城壁に守られた巨大な砦の様な街だ。

 斥候の報告では、数日前に街の周囲や街にいた人々が急に移動を始めたという。


「あの馬鹿げた計画が成功したのか……」

「カミュは上手くやったようですな」


 ミュラーはディアーヌにニヤッと笑いながらそう口にする。

 その顔がムカついたディアーヌは無言でミュラーの頭を殴った。


「ぐがッ! 将軍、いきなり何を!?」

「いや、なんとなくな。大体お前は反対していたではないか?」

「普通反対するでしょう?」


 頭をさすりながらミュラーが涙目で答える。

 伝令がディアーヌ達に走り寄る。


「街の門が開きます!! 帝国は降伏したようです!!」

「行こうか、ミュラー?」

「そうですね」


 その日、十年近く続いたエディル帝国とオーバル王国の戦争は終わった。

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