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剣の娘  作者: 田中
第十三章 帝国へ
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ジャハドの最後

 カミュが皇帝に向かって駆け出した後ろで、雪丸はベクフットと向き合っていた。


「もはや先ほどの手は通じん」

「で御座ろうな」


 ベクフットは左腕一本だが、動きを読まれれば攻撃を潰される。

 先ほどはベクフットの虚を突いた事で腕を取れたが二度目は無いだろう。


 どうせ読まれるなら……。


 雪丸は刀を鞘に納め、右手を柄に沿わせた。


「抜刀術かね。無駄だ、その技は知っている。今度は剣では無く命を失うぞ」

「この技は拙者が知る最高の技でござる。これが通じねば、小手先の技など無意味でござろう?」

「無駄だと言うのに、異国人の考える事は分からん」


 ベクフットは首を振り剣を構えた。

 雪丸はゆっくりと呼吸を整える。


 ベクフットの瞳は雪丸の体に流れる信号をはっきりと捉えていた。

 それは雪丸の呼吸に合わせ静かになっていく。

 殆どそれが感じられない程、微弱になった時それは爆発した。


 彼我の距離は大人の足で十歩程離れていただろう。

 その距離を雪丸は一瞬で詰めた。


 繰り出される剣の力を伝える為の起点を狙う為、ベクフットは見極めようと雪丸を見ていた。

 しかしベクフットが考えるより遥かに速く、雪丸は懐に飛び込んで来た。


 ベクフットは焦り、攻撃を阻止しようと咄嗟に突きを放つ。

 雪丸はその踏み込みに合わせる様に右に抜け、刀を抜き打った。


 ベクフットの剣は狙いを逸れ雪丸の左肩を貫き骨を削り、雪丸の刀はベクフットの体を抵抗なく通り抜けた。


「ガフッ! ……防御を……捨てたか……見事だ」

「……この大陸で見た……一番美しい剣技……でござる」


 ベクフットの体は上下に別れ崩れ落ちた。

 雪丸は刀を杖替わりに膝をついた。

 貫かれた左肩から血が流れ、床に血だまりを作っている。

 テラスで騎士隊を援護していた月夜が雪丸に駆け寄る。


「義兄上!!」

「……拙者の事は良い……皇帝を逃がすな」

「なれど……」

「いいから行け!!」

「……分かり申した」


 月夜は壇上に向け駆け出した。



■◇■◇■◇■



 カミュは剣を構えジャハドを見た。信号の流れ方が滅茶苦茶だ。

 唸り声を上げる黒い獣がカミュの方を向いた。


「ア……アカ……ガ……ミ……アカガミ!!」


 そのスピードは、カミュが今まで見たどの生き物よりも速かった。

 振り上げた右腕に銀の剣が輝いている。


 咄嗟に受け流そうとしたが、力を流しきれずカミュは弾き飛ばされた。


「緑光石の剣が!?」


 カミュの剣はジャハドの右手から伸びた剣に断ち切られていた。


「フハハ!! 最強の兵士に最強の武具!! オーバルのお蔭でさらに強い兵士が作れそうじゃ!!」


 皇帝は壇上で笑い声を上げている。


 ライバーが言っていた、ガレスが騎士隊から奪った緑光石の剣。

 それはジャハドが失った右腕の義手に組み込まれていた。


 カミュは剣を捨て腰の刀に手を伸ばす。

 黒鋼は斬れた。緑光石は斬れるのか……。


 ジャハドはこちらを伺う肉食獣の様に、カミュの前を左右に移動している。


「アカ……ガミ……オデハ……マケデ……ネェ」


 酷く聞き取りにくい声でジャハドが言う。


「ほう、まだ意識が残っておるのか? 薬を改良する必要があるな」

「そうでございますな陛下。完全に意識を飛ばさねば、目標の自爆兵は作れませぬゆえ」


 自爆兵……。

 カミュの脳裏に皇帝の試作品という言葉が浮かぶ。

 彼は完全に実験材料にされてしまったようだ。


「ジャハド!! もうやめましょう!!」


 カミュの声に反応して、ジャハドが襲い掛かる。

 その右腕は一抱えはある大理石の柱を一瞬で破壊する。

 カミュは攻撃をギリギリで躱しながらジャハドに呼び掛ける。


「人をやめてまで勝って一体何になるの!?」

「フハハ!! 無駄じゃ小娘!! その者は予のいう事しか聞かん!! さあ、その娘を殺せ!!」


 皇帝の声はジャハドの攻撃を激化させた。

 攻撃を躱しカミュはジャハドから距離を取る。

 居合を放つ隙を与えず、ジャハドはカミュに襲い掛かる。


 カミュは刀を抜き放ち、ジャハドの剣を弾く。

 しかし力を受け流しきれない。


 もっと速く。

 私の知っている居合以外で最速の刀の技は一つしか無い。


 カミュは右手を顔の横に置き、柄頭に左手を添えた。

 あの時を思い出し呼吸を整える。


 全てを切っ先に……。


 四つ足で床を蹴りジャハドの巨体がカミュに迫る


「アカガミィ!!!」


 彼との立ち合いを思い出し、カミュはジャハドに踏み込んだ。

 力の全てを切っ先に乗せる。


「さよなら、ジャハド」


 振るわれた刀は両手を広げ襲い掛かった、鎧に覆われたジャハドの体を真っ二つに断ち割った。

 二つに分かれたジャハドの体は、勢いのまま床の上を火花を散らし滑り、やがて止まった。


 膝に手をやり肩で息をする。


「ジャハドが!?」

「陛下ここは危険です!! 避難いたしましょう!?」

「……そうじゃな」


 玉座の後ろに有った隠し扉に手をかけたゲオルクの首が、ゆっくりとスライドして床に落ちた。


「逃がす訳には参りませぬ」


 月夜が短刀を構え、皇帝の前に立ちふさがる。


「退け!! 異人!!」


 破裂音が室内に響いた。

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