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剣の娘  作者: 田中
第十三章 帝国へ
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謁見の間

 一週間後、帝都についたカミュ達はクラドリオンの中心、皇帝の宮殿の中にいた。

 カミュと雪丸は簡素な服を着せられ、手には手枷を嵌められていた。

 入れらた牢は石造りで鉄格子の嵌った窓からは雪が時折入ってくる。


「カミュ殿、冷えるでござるな」

「そうね。窓があるんだから、火ぐらいくれてもいいのにね」

「こう寒いと、旅の途中の雪山で遭難しかけた時の事を思い出すでござる」


 雪丸は牢の寝台に腰かけ、体を丸めてそう話した。


「なんで雪山なんかに……」

「滞在した村で、病で苦しんでいる村人がいたのでござる。その病に利く薬が、山の中程にある植物の根だというので、泊めてくれた恩返しに猟師と山に入ったのでござる」

「それでどうにか出来たの?」


 雪丸は頷き続ける。


「根は手に入ったのでござるが、天候が吹雪に変わりましてな。猟師と二人雪洞を作ってそこで吹雪を……」

「黙れ!」


 雪丸の話は看守に遮られた。


「陛下がお呼びだ。さっさと出ろ」

「やれやれ、まだ話の途中だというのに」


 看守達は二人を引き連れ、冷たい牢屋を抜け進んでいく。

 やがて廊下は石畳から、大理石が敷き詰められた物に変わった。

 廊下の先には、黒い甲冑を着たエゴールが待っていた。

 彼は同じ鎧を纏った者を十人程連れている。


「貴方たちはここまでで結構です」

「ハッ!」


 看守からカミュ達を引き取り、黒騎士に囲まれる形で廊下を進む。

 兜で顔が見えない為、敵か味方か判別がつかない。


 エゴールが裏切っていれば終わりだな。そう思いながら歩みを進める。

 廊下には大きな窓にガラスが嵌められ、そこからは雪の積もった広大な庭が見えた。


 庭の見える廊下を離れ、更に奥へ進む。

 廊下の上には明かりの灯ったシャンデリアが並んでいた。

 所々に衛兵が立っている。


 一際大きな扉の前で、エゴールは止まった。


「陛下の命により、捕虜とした緑光騎士隊の二名を連行してきました」


 扉の横の衛兵達が頷きを返し扉を押し開けた。


 太い彫刻の施された柱が並び、床の上に敷かれた絨毯が部屋の奥まで伸びていた。

 天井には恐らく神話がテーマであろうフレスコ画が全面に描かれていた。

 部屋の両脇はテラスの様になっており、十名程か潜んでいるのが確認できた。


 遠く二階ほどの高さの壇上に冠を被った男の姿が見える。

 脇には黒いローブを着た小柄な老人が控え、室内には二十名程、近衛兵らしき騎士が並んでいた。


 エゴールは黒騎士二人以外には部屋の外で待つように告げた。


 カミュと雪丸、黒騎士達を連れて皇帝の前に膝まづく。

 黒騎士達は、エゴールに倣う様にカミュ達を無理やり跪かせ同様に跪く。


「陛下、敵の緑光騎士二人、隊長と筆頭騎士を連れてまいりました」

「その二人が予の黒騎士を奪った者達の首魁か?」


「はい、後れを取り騎士団を失った事、面目次第も御座いません。私はいかような罰も受けますので、共に逃げ出した者達には寛大なご処置を賜りたく」


 エゴールの言葉に皇帝は興味が無さそうに答えた。


「そちの事などよい。それよりそこな二人はジャハドより強いのであろう?」

「仰せの通りです。隊長の赤髪の娘は団長を倒し、隣の東洋の男はそれに匹敵する強さでございます」

「面白い、縛を解け」

「陛下、よろしいのですか?」


 ゲオルクがベギンナムに問い掛ける。


「構わぬ。この部屋に何人の近衛騎士がいると思っておる」

「畏まりました。エゴール部下に命じ、手枷を外せ」

「……二人の手枷を外しなさい」


 黒騎士達がカミュの手枷をはずしている間に、ベギンナムはベクフットに問い掛けた。


「そこな二人、そちが負けたジャハドより強いらしいぞ。勝負してみよ」

「畏まりました」


 ベクフットはエゴールの前に進み出た。

 カミュの目を見て、口角を上げる。


「フッ、なるほどな。ジャハドでは勝てん訳だ」

「ベクフット殿、どちらと先に戦われますか?」

「……では、まずそちらの異国人と戦うとしようか」


 ベクフットは雪丸を指名した。

 エゴールは腰から黒鋼の剣を抜き、無言で雪丸に手渡した。

 そのままカミュの腕を掴み部屋の脇に移動する。


 カミュは視線をチラリと上に視線を向けた。

 その後、向き合ったベクフットと雪丸に視線を戻す。


「異国人か。ベクフット、痛めつけてもよいが、やり過ぎるな。その者は予が飼う」

「御意」

「飼う……でござるか?」


 雪丸は剣を上段に構え、ベクフットに目をやった。

 近衛騎士は胸当てと部分鎧を付けマントを身に纏っていた。

 ベクフットも同様の装備で、抜いた剣はマントに隠され判別しづらい。


「フッ!」


 雪丸の踏み込みに合わせベクフットは踏み込み、振り下ろされる前の剣の柄頭に突きを放った。

 雪丸は剣はかろうじて手放さなかったが、体勢を崩し慌てて間合いを取る。


「中々の踏み込みだ。しかし君では私には勝てんよ」

「今のは様子見でござる」


 ベクフットは首を振り剣を構えた。

 雪丸の攻撃はことごとく、彼に届く前に潰される。

 雪丸の体には傷が無数に刻まれた。


「だから勝てんと言っただろう。陛下の命もある、もう諦めたまえ」

「……」


 雪丸は剣を構えた。カミュと戦った時の構えだ。

 右手を顔の横に置き、柄頭に左手を添える。


「構えを変えても、結果は同じだと思うがね」

「……そうとは限らぬ」


 雪丸の踏み込みは先ほどより早かった。

 それに合わせる様に、ベクフットは突きを放つ。

 先ほどと同様、ベクフットの剣は雪丸の剣の柄頭を捕え、その剣を弾き飛ばした。


 だが、それは弾き飛ばされたのではなく、雪丸は突き入れられる一瞬前に剣から手を放していた。

 突きを掻い潜る様にベクフットに迫り、伸びきった右手首に右手を伸ばした。


「何!?」

「お主の事は聞いておる。腕は確かにいいが、カミュ殿には遠く及ばんな」


 ベクフットの腕を取った雪丸を、皇帝は珍しく興味深げに見た。


 雪丸は掴んだ手首を絞め上げ、肘に左手を打ち付けた。

 ベクフットの右腕はあらぬ方向を向いていた。

 痛みのあまりとり落とした剣が渇いた音を立てる。


「練習した甲斐があったでござる」

「貴様……」


 ベクフットは雪丸の手を振り払い、右手を抑え雪丸を睨みつけた。


「見事じゃ。そこな異国人、褒めて遣わす。今後は予の為に働く事を許そう」

「……お断りいたす。お主の様な下種に仕えるなど、拙者の矜持が許さんでござる」


「……なんじゃと? よう聞こえなんだ。もう一度言ってみよ」

「耳の悪い御仁でござる。下種に仕える気は無いと言うたのじゃ」


 ベギンナムは近衛騎士を指差し手を振った。

 部屋にいた近衛騎士が雪丸を取り囲む。


「頃合いでござるな。やるでござるぞカミュ殿!!」

「上も終わったみたい!! 月夜さん!!」


 カミュが叫ぶと、何かが投げ入れられ部屋に煙が立ち込めた。

 二人に向けて黒騎士達から剣と刀が投げ渡される。

 それを受け取り、二人は近衛騎士と戦い始めた。


「何事じゃ!! ゲオルク、ベクフット何とかせい!!」

「何故黒騎士が!? 銃騎士隊、何をやっておる!! 撃ち殺せ!!」


 ゲオルクはテラスに目をやるが、配置した筈の銃を持った者達の姿は見えない。


「エゴール、貴様、何をしておる!? さっさとその黒騎士共を取り押さえろ!!」


 エゴールに向かってゲオルクは叫ぶ。

 エゴールはチラリを黒騎士達を見た。

 黒騎士達は身構えたが、エゴールはゲオルクに向き直って無表情で答えた。


「お断りします。私は仕えるべき方を見つけましたので」

「貴様……」


 ゲオルクは舌打ちをして衛兵を呼ぶ笛を鳴らしたが、駆け付ける者は誰もいなかった。

 その様子を横目にエゴールは傍らの黒騎士に声を掛けた。


「さて我々も仕事にかかりましょうか?」

「お前、土壇場で裏切ったんじゃないかと、ヒヤっとしたぜ」

「それは良かった。敵を欺くには、まず味方からといいますから」


 エゴール達はカミュ達に駆け寄り、戦闘に加わった。

 月夜がテラスから破裂筒を投げ込む。


 爆発と同時にドアが開き黒い甲冑の騎士が部屋になだれ込んだ。

 彼らはドアを固定し、声を張り上げる。


「隊長!! 上の奴らと部屋の近くにいた衛兵は片付けました!! 早く皇帝を!!」

「分かった!!」


 カミュが皇帝に向け駆け出すと、ベクフットがその前に立ちふさがった。


「通す訳にはいかん」


 そう言って左手で剣を構えたベクフットに、雪丸が斬りかかる。


「カミュ殿、ここはお任せを!!」

「異人が……先ほどの様にはいかぬぞ」


 ベクフットは雪丸に任せ、カミュは皇帝に近づき壇上に上がろうとした。


「下郎が寄るな」


 皇帝が玉座についたボタンを押すと、階段状になっていた玉座の手前部分がスライドし、巨大な獣が飛び出してきた。

 咄嗟に躱し床を転がり剣を構えた先には、四つ足で唸り声を上げる黒い甲冑の獣がいた。


「まさか……ジャハドなの?」


 カミュは見覚えのある、丸みを帯びた甲冑に思わずそう口にした。

 鎧は両手両足に太い鉤爪を備え、体の至る所から刃が伸びている。


「そうじゃ、その者の名はジャハド。まあ、薬によって既にその名も理解はしておらんじゃろうが」


 皇帝の言葉にカミュはジャハドを見た。

 その動きは獣じみており、もはや人の動きとは思えなかった。


「一体何を……」

「わが帝国がこれから世界を席巻する為の兵士。その試作品よ」

「試作品……」


 唸り声を上げる黒鋼の獣に、カミュは剣を握りしめた。

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