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剣の娘  作者: 田中
第十三章 帝国へ
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帝都へ

 カミュはミュラーに計画を伝える為、マイユの城の会議室へ向かった。

 石造りの廊下は冷たく、蝋燭の明かりがその暗い廊下で揺らめいていた。


 兵に案内された会議室のドアをノックすると、中から女性の声が返って来た。


「入れ」

「失礼します」


 部屋の中にはミュラーの他、彼の副官、そして黒髪の女性とその副官らしき人物がカミュを迎えた。

 女性がカミュを見て笑みを浮かべる。


「お前が黒鋼騎士団の団長を倒したというカミュだな?」

「そうです。貴女はリルベスから軍を率いてきた将軍ですね?」

「そうだ。私はディアーヌ。騎士隊の事はミュラーから聞いている。それで用件はなんだ?」

「提案があります」


 ディアーヌは面白そうにカミュを見た。

 ミュラーは提案と聞いて渋面を浮かべている。


「また、無茶な事を言い出すつもりだろう?」

「ミュラー、とにかく聞こうではないか。貴公はこの娘のお蔭でエトリアの城を取り戻せたのだろう?」

「将軍、何度か話しましたが、カミュの作戦はいつも伸るか反るかですよ」

「ククッ、伸るか反るかか。荒唐無稽なら却下すればいい。カミュ、話せ」


 ディアーヌに促され、カミュは口を開いた。


「部下にエゴールという男がいます。彼は黒鋼騎士団一番隊の隊長でした。エゴールに人質として捕まった事にすればクラドリオン内部に侵入できます」

「それで、内部に侵入してどうする? 捕虜として牢屋に入っても出来る事などあるまい?」

「皇帝は強い武人に異常な興味を示すそうです。きっと皇帝と対面する事は出来る筈とエゴールは言っていました」


 ディアーヌは笑みを浮かべ、ミュラーは益々表情を渋くした。


「対面して何をする気だ? 謁見の間にも近衛兵はいるだろう?」

「エゴールは捕虜と一緒に反乱を起こしたという事にします。捕虜役には騎士隊の隊員になってもらいます。彼らと協力すれば謁見の間ぐらいは押さえられます」

「そこを押さえて皇帝を人質にとるのか? そんなにうまく行く訳ないだろう?」


 ミュラーは渋面のままカミュの案を否定した。


「このままクラドリオンに進軍すれば、帝国の民と戦う事になります。それは避けたいんです」


 ディアーヌもミュラーもその言葉に押し黙った。

 帝国は敵だが女子供や老人を殺めることは、二人にとっても望んだ事ではなかった。


「帝国は皇帝の威光で動いています。彼さえどうにかできれば、民と戦わずに済む道もあると思うんです」

「駄目だ。その話はエゴールの言っている事が真実である事が前提だ。いままで協力的だったのも、カミュの身柄を確保する事が目的だったのかもしれない」


「ミュラーいいではないか」

「将軍!?」


 ミュラーは思わずディアーヌを見た。


「黒鋼騎士団はすでに無く。騎士隊の役目は終わったと言っていい。失敗しても損害は軽微だ」

「将軍! カミュはロードリアの王国軍とっては英雄的な存在ですよ!」


 ディアーヌは冷ややかな目でミュラーを見返した。


「そうは言うが、私は貴公から聞いた話でしかカミュの事は知らん。リルベスやこれから合流するラドバーンやギルドールの兵にはそれほど影響は出ないだろう」

「しかし!?」


「ミュラー、貴公は一軍を預かる身だ。軍全体の事を考えろ。私は十数名の命で、こちらの損害が減らせるならそちらを選ぶ」

「……」


 ディアーヌは押し黙ったミュラーから視線を外し、カミュに切れ長の目を向けた。


「カミュ、我々はラドバーン、ギルドールの軍勢と合流するまでここに待機する。その後クラドリオンに向け進軍する。お前が帝国の民を傷付けたくないというのなら、我々が到着するまでに事を収めろ。到着時に事が成っていない場合は、我々はそれを待つ事なく攻撃を開始する」


「……分かりました。必ず成功させてみせます」



 騎士隊のもとに戻り、カミュは隊員達にエゴールの策を説明した。


「失敗すれば命は無いわ。無理強いはしない、付き合ってくれる人だけ残って」


 カミュの言葉に何名かは立ち去ったが、殆どの隊員は残ってくれた。


「ありがとう皆。でもマーカス、雪丸さん、月夜さんは連れて行けない。理由は目立ちすぎるから」

「拙者はついて行くでござるよ。拙者の事は捕虜ではなく人質役にすればよいでござる」

「カミュ様。私は単独で潜入いたしまする。きっとお役立てる筈にございまする」


 雪丸は引かないだろうし、月夜は止めても勝手に動くだろう。

 カミュはため息を吐き、口を開いた。


「分かったわ。二人には協力してもらいましょう。マーカス貴方は残って」

「俺は……どうしても駄目なのか?」

「貴方にはジェイクさんを助けて欲しいの」

「……分かった。死ぬなよ。俺はまだお前に一回も勝ってないんだ。まだまだ付き合ってもらうぜ」

「ええ、分かったわ」


 エゴールの後ろにいたトーマスがエゴールを親指で指しながら言う。


「隊長、俺も行きますよ。この男を見張って無いといけないんで」

「ふぅ、分かったわ」


 トーマスも言い出したら聞かないだろう。

 カミュは半ば諦めつつ、彼の参加を許可した。


「隊長、私も参加させて下さい」


「ラムザ……貴方は駄目」

「どうしてですか!?」

「貴方は伯爵家に戻って、領民の為に働く使命があるわ。命はその為に使いなさい」


 ラムザは視線を彷徨わせたが、最終的に小さく頷きを返した。

 カミュは残った隊員の中から、残りの人員を選び準備を始めることにした。

 隊員達が準備の為に去ったあと、一人残ったジェイクがカミュに声を掛けた。


「今回は何も言わないのね」

「止めても君は行くんだろう?」

「そうね」

「皇帝を倒せば戦争は終わる。そうなれば騎士隊は解散するだろう。その解散は君が告げろ。私はやるつもりは無いからな」

「……うん。分かった」


 カミュが天幕で準備をしていると、グラントがカミュを訪ねてきた。


「ジェイクから聞いたぞ。帝都に乗り込むんだって?」

「耳が早いわね。その通りよ」

「……カミュ、これを持っていけ」


 グラントはそう言ってカミュに手を突き出した。


 準備が整ったカミュ達は、馬車に乗り王国軍が出発する前にマイユを離れ、帝都に向けて移動を始めた。

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