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剣の娘  作者: 田中
第十三章 帝国へ
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守る為に

 将軍達が軍勢を待っている間、王国軍は捕虜にした人々に事情を聞いた。

 彼らは意外にも王国軍に対して、それほど敵意は向けて来なかった。


 それによるとマイユにいた帝国兵の内、実際に兵士としての訓練を受けていた者は全体の二割に満たなかった。

 それ以外は急遽徴兵され、クラドリオンからマイユに送られたようだ。


 彼らは銃を渡され撃ち方だけを教えられた。

 そして十分な装備も持たされずここに来たらしい。

 食料も足りておらず行軍途中に脱落する者もいた。


 ディアーヌは城の倉庫を解放し、食料を配給した。

 配給を受け取ると、彼らはそれを仲間で分け合って食べていた。

 配給係が食事は全員分あると伝えると驚いた顔をされた。


 今クラドリオンには、百万近い人が集められている。

 しかし、彼らは少ない食事と寒さで疲弊している。

 カミュが話を聞いた男はそう語った。


「ねぇ、あなた達は何でそこまでされて、皇帝に逆らおうとしないの?」


 彼らと一緒に仮設の天幕を張っていたカミュは興味本位で尋ねた。

 尋ねられた男は、不思議そうな顔で言った。


「陛下に逆らう? あの方の言葉は神の言葉だ。神に逆らうなんて出来る訳ないだろ? 逆らえば地獄に落ちる。従っていれば幸せになれるし、死んだあと天国で暮らせる」


「……皆そう思ってるの?」

「当たり前だろ。皆、教会でそう教わる……あんたの国じゃ違うのかい?」


 カミュは思い出す。

 この街に来るまでに通過した、小さな町や村にも必ず教会があった。

 帝国の言葉はそこまで読めないので、聖書に何が書いてあるかは分からなかったが、教会には必ず男の像が祀られていた。

 美しい肉体を持った神々しい姿に、これが帝国の神なんだなとなんとなく思っただけだ。


「ねぇ、教会にあった像は……」

「あれは陛下の姿を国民全体が知れるように、先代の皇帝陛下の頃から祀られる様になったんだ。辺境でも陛下の姿を知る事が出来るなんて有難いだろう?」


 カミュは絶句した。この男はニコニコと笑顔で話している。


「それじゃあ、あなた達が戦うのを止めたのは?」

「陛下はマイユに行き、そこの指揮官に従えとおっしゃられた。その指揮官が止めろと言ったから止めた」

「じゃあ、指揮官が最後まで戦えって言ってたら……」

「そん時は最後まで戦っていただろうね」


 皇帝と神の同一化、それは恐らく先代の皇帝が始めたのだろう。

 オーバルでは熱心に教会に通う者もいれば無関心な者もいる。

 それで後ろ指をさされる事も無いし、教会も強要はしない。


 この国ではそうでは無く、生まれた時から皇帝は神だと教えられ育つようだ。

 神の言葉は絶対で逆らえば地獄が待っている。


 カミュは騎士隊に戻り、信仰の事をエゴールに聞いた。


「エゴールさんも、皇帝を神だと思っているの?」

「いえ、我々は傭兵として様々な国を渡り歩いていましたので、あの男を神と思ったことはありません」

「皆が皆って訳じゃないのね」

「皇帝を神だと信じているのは民衆だけでしょう。貴族や一部の商人等は逆らえば、命が無いから従っているだけです」


 カミュは民衆とは戦いたくなかった。

 皇帝さえ何とか出来れば、戦争を終わらせられるのにと強く思う。


「皇帝さえ捕えられれば、奴を民衆の前に立たせて、神では無いと言わせてやるのに……」

「ふむ、面白いですな……やってみますか?」

「そんな事出来る訳ないでしょ。クラドリオンには凄い人数が集まってるって聞いたわ」

「手はあります。ただし、私を信用していただければですが」


 エゴールはそう言うと珍しく笑みを浮かべた。


「おい、へんな真似をすれば、叩ッ斬るって言ったよな」


 トーマスが剣に手をやる。

 カミュはそれを制してエゴールに続きを促した。


「騎士隊の事は報告してあります。向こうは黒鋼騎士団が敗れた事も、私が捕えられた事も、もちろん知っているでしょう」

「それで?」

「私が捕虜と共に反乱を起こし、逃げ出した事にするのです。逃げ出す時に騎士隊の隊長である貴女を人質にした事にして」


 トーマスは剣を抜いてエゴールの喉元に突き付けた。


「ようやく本性を現したな」

「トーマス!」

「隊長、騙されちゃ駄目です。こいつは隊長を捕らえた手柄で帝国に返り咲くつもりだ」

「そう思うのが普通でしょうね。私を信用出来ないのであれば、斬り捨てて下さって結構です」


 カミュはエゴールの顔を見た。

 その顔は無表情で、本心はうかがえない。


「続きを話して」

「私がいれば、クラドリオンの宮殿までは行ける筈です。皇帝にも何度かあった事がありますから」

「でも、貴方は会えても私は皇帝に会う事は出来ないんじゃないの?」


「あの男は武力の優れた人材には異常な興味を示します。団長が取り立てられたのもその事が大きい。黒鋼騎士団を倒した者となれば、直接会いたがるでしょう」


 カミュは以前から不思議に思っていた事をエゴールに聞いた。


「私は貴方が付き従っていたジャハドを倒した。黒鋼騎士団も今はもうない。その原因となった私に何故そこまで協力するの?」


「……何故でしょうね。私も不思議です。ただ貴女には団長には無い、光の様なものを感じます。それは私が今まで生きてきて感じた事の無かったものです」


「何を訳の分かんねぇ事を!」

「そうですね。私も訳が分かりません」


 エゴールはそうトーマスに返し笑みを浮かべた。


「逃げ出した捕虜は騎士隊がやればいいの?」

「隊長!? まさかこいつの話に乗るんですか!?」

「ええ、このまま進んで民衆を殺したら、私はもうジョシュアの弟子と名乗れない気がする。エゴールさん、それでどうなの?」


「そうですな。雪丸殿とマーカス殿、月夜殿は目立ちすぎます。他の者なら兵士という事にすれば大丈夫でしょう」


 武器は騎士隊から奪った事にすれば、持ち込む事も出来るだろう。


「分かったわ。将軍に話してみる」

「隊長、危険すぎます。考え直して下さい」

「……トーマス。貴方も知っているでしょう。敵の中には子供もいるのよ。貴方は彼らを斬れる?」

「……斬りたくはありません。でも何で隊長がそんな事しないといけないですか!?」


 カミュはトーマスを見返し微笑みながら言った。


「剣聖ジョシュアは、守る為に剣の力を使えと私に教えたわ。それには帝国の人たちも含まれていると思うのよ」

「隊長……」


 トーマスはカミュの笑顔を見て、エゴールに突き付けていた剣を収めた。


「エゴール。もし隊長が死ぬような事になったら、俺は必ずお前を殺す」

「はい、承知しております。ですが恐らくそうはならないでしょう。そんな気がするのです」

「だから、訳分かんねぇ事言うなよ!」


 顔をしかめてエゴールを睨むトーマスを見て、カミュは少し笑った。

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