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剣の娘  作者: 田中
第十三章 帝国へ
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ゴーゴリとミュラー

 手紙を投げ込んだ翌日、砦の前に並んだ帝国軍を見てミュラーは呆れた声で言った。


「本当に出て来るとは……砦にこもっておけば、幾らでも時間を稼げたろうに……」


 帝国軍から立派な黒鋼の鎧を着た騎士が進み出る。

 騎士は穂先の長い槍と巨大な盾を持っていた。


「王国軍将軍ミュラー!!! 私は帝国軍南方守備隊ゴーゴリ・スクラート!!! 貴様に一騎打ちを申し込む!!! 本当に私が無能かどうか、自身の手で確かめるがいい!!! まあ姑息な策に走る者は、大抵腕に自信が無い者と相場は決まっているがな!!!」


 その声はミュラーのいる後方まで届いた。


「あれを書いたのは私では無いのだがなぁ……」

「どうされますか、将軍?」

「……大将同士の一騎打ち等、やや前時代的ではあるが、名指しされたら出ない訳にもいくまい……カミュの所で武具を借りて来る」


 ミュラーは今後の事を考え、ゴーゴリの挑発に乗る事にした。

 騎士隊のもとを訪れたミュラーに、カミュは心配そうに尋ねた。


「将軍自ら出なくても良いのでは無いのですか?」

「あれだけ大声で喚かれたら、王国軍全員に聞こえただろう。受けなければ士気に関わる」

「……影武者として、騎士隊の誰かが出るというのは?」


 カミュの言葉にミュラーは笑みを見せた。


「カミュ、君は自分はどんどん危険な事をしていく癖に、他人の事となると臆病だな。心配いらない、これでも武闘派として知られたトーラス将軍の下にいたのだ。腕に覚えはある」

「……分かりました。ご武運を」

「ああ。ありがとう」


 鎧を身につけながら、ミュラーはカミュに頷きを返した。

 カミュの後ろにいたエゴールが、ゴーゴリについて口を開いた。


「将軍、あの男は槍には相当自信を持っていました。ですがそれ以外は大した事はありません。接近戦を挑めば有利に事を進められる筈です」

「接近戦か……カミュ、剣を借りていくぞ」


 ミュラーは騎士隊の備品である緑光石の剣を、左右の腰に挿した。

 副官を振り返り肩に手を置いて言う。


「死ぬつもりはないが、万が一の時は君が次の将軍だ。必ずクラドリオンまで攻め上り、皇帝を討て」

「ハッ! ですが、私はまだまだ未熟者ですので、閣下の下で学びたいと思っております!」


 副官は敬礼してミュラーを見つめた。


「……私もだよ。もっとトーラス様の下で色々教わりたかったさ……君の期待に応えられるよう努力しよう」


 ミュラーはトーラスから引き継いだ馬に乗り、王国軍の陣と砦の中間に広がる雪原に進み出た。


「私がミュラーだ!! ゴーゴリ!! 貴殿の挑戦を受けよう!!」

「待っていたぞ!! その首、この手で引きちぎってくれる!!」


 ゴーゴリは馬を加速させ、すれ違いざまに槍を突き出す。

 ミュラーはそれを剣で逸らしながら、突きの重さに内心冷や汗を流した。


 ミュラーは筋肉はしっかりついているが、どちらかというと細身だ。

 ゴーゴリは身長はミュラーとさほど変わらないが、重さは倍近くあるだろう。


 スピードで翻弄する。ミュラーはそう決め馬を走らせた。

 エゴールのアドバイスに従い、馬を寄せ両手に剣を持ち斬撃を加える。

 盾に阻まれるが、それを無視してミュラーは攻撃を続けた。


 ミュラーの連撃にゴーゴリは防戦一方となった。

 黒鋼の盾が、少しずつ削られていく。


「おのれ小癪な!!」


 苦し紛れで突き出した槍を、ミュラーは双剣で絡めとり、左手の剣を捨てその柄を掴む。

 槍を脇に挟み込みミュラーは馬を後退させた。

 槍を放し損ねたゴーゴリは、引きずられる形で雪原に落馬した。


 受け身を取りきれなかったのか、うめき声を上げている。


「自身が無能では無いと証明し損ねたな」


 起き上がったゴーゴリに剣を向けてミュラーは言った。


「クッ、このような屈辱耐えられるか!!」


 ゴーゴリは盾の裏に手を伸ばし、取り出した物をミュラーに向けた。

 破裂音が響き、ミュラーが大きく体勢を崩す。


 その間にゴーゴリは雪原に落ちた槍を拾い上げ、馬上のミュラーに突き出した。

 槍はミュラーの脇腹を捕らえたが、鎧の表面を滑り今度はゴーゴリが体勢を崩す。


 転びかけたゴーゴリの体が、槍に支えられて止まった。

 見上げると、槍の柄をしっかりとつかんだミュラーと目が合った。

 兜の奥の瞳が、怒りに震えている。


「あ……」

「……別に銃を使うのが悪いとは言わん。だが一騎打ちに銃や炎を持ち出す者は許せぬ」


 低く怒気のこもった声が響き、振り上げた剣が打ち下ろされた。

 剣は兜ごとゴーゴリ―の頭蓋を両断した。


 膝をつき倒れたゴーゴリから流れ出た血が雪原を染めた。

 ミュラーが右手を突き上げると王国軍からは歓声が、帝国軍からはざわつきが起こった。


「貴様らの大将は死んだ!!! 砦を明け渡すなら、命だけは助けてやろう!!! 嫌だと言うなら皆殺しだ!!!」


 ミュラーの声を聞いた帝国軍は、砦に引き返し硬く門を閉ざした。


「……そう上手くはいかんか」


 そう呟いたミュラーに副官の率いた騎馬隊が駆け寄る。


「将軍、ご無事ですか!?」

「ああ、鎧のお蔭で助かった」


 ミュラーの甲冑には頭に受けた銃弾と、脇腹に受けた槍により凹みと傷がついていた。


「頭の傷は大丈夫なのですか!?」

「一瞬、意識が飛びかけたが、問題ない……トーラス様の姿が頭に浮かんでな……」

「将軍……」


 ミュラーも副官もトーラスが焼かれた時その場にいた。

 一合も剣を交えることなく、トーラスは焼かれた。


 戦争はどんなに美辞麗句を並べても、人殺しである事は変わらない。

 ジャハドの行為は効率を考えれば正しいのだろう。

 それでもミュラーはジャハドのした事に強い憤りを感じた。


「……大将の首を取ったんだ。恐らく近いうちに落とせるだろう」


 ミュラーはそう言うと騎馬隊を連れて陣に引き返した。


 彼が言った言葉通り、一週間後、砦の城壁には白旗が上がっていた。

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