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剣の娘  作者: 田中
第十三章 帝国へ
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銀眼の男

 エゴールはカミュとの対話の翌日、兵に武装解除させ城を明け渡した。

 殆どの兵は投降したが、将軍と一部の騎士はそれに反発し城の最上階に立てこもった。


 兵が鹵獲した爆破筒で立てこもっていた部屋のドアを破壊し中に踏み込むと、立てこもっていた三十名程は将軍も含め全員自決していた。


 ミュラーは兵に案内され死んだ者達を見ながら、皇帝とはそれほど絶対なのかとうすら寒くなった。

 今の王国軍では無謀な作戦には意見を具申するし、王に対してそこまで心酔している者もいないだろう。

 ミュラーは帝国軍のエトリアの民に対する扱いに怒りを覚えていたが、その光景を見て怒りも引いて行く気がした。


 エトリアの帝国軍が降伏して十日ほどが過ぎていた。

 ミュラーはエトリアを奪還した事をカリアに報告し、それを受けてカリアはカサルを離れエトリアに向かった。


 久しぶりのエトリアの執務室で、カリアは山積みの報告書を確認しながらため息を吐いた。


 降伏したエゴールから民の中に暗殺者はいないという証言は得ていたが、それを鵜呑みにする訳にもいかず住民の取り調べは続いていた。

 また、既にエトリアで暮らしていた帝国の民についても、捕虜として扱うのか帝国に送り返すのか重臣達の間で意見が割れていた。


 領民に対する賠償責任を取らせる為、帝国に対する人質として使うべきだという意見も出たが、伝え聞く皇帝の気性を考えると切り捨てる可能性が高い。

 さりとて送り返せば兵として徴用される事も考えられる。


 また食料の問題もある。

 囚人の様に扱えば、生産性の無い者に衣食住を与えなければならない。


 帝国民を領地復興の労働源として使う案も出たが、ロードリア領は未だ北部は帝国の支配下にある。

 五万近くの人々を監視し働かせる為には、兵の数が圧倒的に不足していた。


「エトリア奪還は長年の夢だったが、これでは気軽に街へ行くことも出来ん」

「カリア様、今は戦時下で御座います。そのような発言は慎まれるべきかと」

「分かっている。愚痴ぐらい言わせろ。しかし、ミュラーめ。面倒事を全部、私に押し付けおって」

「仕方ないでしょう。将軍は現在、北へ向かう為の準備中です」


 側近のフィリップはそう言って涼しい顔をしている。

 この男はカリアの教育係だった頃から口うるさく、領主になった後もその態度は変わらなかった。


「横に突っ立ってないで、お前も半分やれ」

「恐れながら、私の権限を越えている様に思います。残念ですがお手伝いする事は出来ません」


 フィリップの言葉に、いつかその涼しい顔を引きつらせてやると思いながら、カリアは作業を再開した。

 彼は何度か似たような事を思い、実際に実行に移して膨大な作業をやらせたりもしたが、フィリップの顔が引きつる事はなかった。


 この無駄に能力の高い側近のお蔭で、黒鋼騎士団に攻められても、カリアは生き残る事が出来たのだが、その事を恩に着せるでもなく、フィリップの態度が変わる事は一度も無かった。



■◇■◇■◇■



 カリアが書類仕事に忙殺されている頃、街の北では北進の準備が着々と進められていた。

 ミュラーは城に備蓄されていた帝国軍の武具等を鹵獲し兵に分配した。


 その中には零番隊が使っていた火炎筒や爆破筒、銃等も含まれていた。

 エゴールが妙に協力的だった為、武具の使用法や欠点も兵に伝える事が出来た。


 殆どの帝国兵は王都に送られ、捕虜収容所に収容される事になった。

 幹部だった者は帝国についての情報を得る為、エトリアに留め置かれた。


 その中の一人、エゴールの下をカミュは訪ねていた。

 城の独房に入れられている彼は、月夜が言っていたように無表情に一点を見つめていたが、カミュの姿を認めると笑みを見せた。


「エゴールさん、ありがとう。貴方のお蔭で王国兵は無駄に命を落とさずに済んだわ」

「いえ、こちらこそ部下を救って頂き、感謝しております」

「それで、今日来たのは聞きたい事があったからなの」

「何でしょうか?」


 カミュは少し躊躇したが、自分を納得させるように一つ頷き、口を開いた。


「ナタリアから聞いたんだけど……」


 エゴールはナタリアと聞いて少し驚いた様子だった。


「生きているのですか?」

「ええ、彼女は戦闘で心に傷を負って、子供に戻ってしまった。今は騎士隊で保護しているわ」


「そうですか。ありがとうございます。彼女は私の様な古参では無く、部隊を増設する際に兵の中から抜擢された者です。略奪行為にも手は染めていない筈。回復したら捕虜交換に応じてやって下さい」

「そう……」


 カミュはその事を聞いて少し気持ちが軽くなった。


「すみません、話がそれました。それで聞きたい事というのは?」

「私の目について、暗殺者の男も、そして貴方もこの銀の瞳を見て驚いていた。ナタリアは近衛騎士に同じ目の人が居ると言っていた。その人の事が詳しく知りたい」


 エゴールはカミュの目を見つめ、一度ゆっくり瞬きをすると静かに語り始めた。


「彼は皇帝の近衛騎士で名はベクフット。あの男は帝国で唯一団長と互角、いえ恐らく団長より剣の腕は上でしょう」


 ジャハドより強い。

 カミュはかつてジョシュアから聞いた話や、ギルドで聞いたジョシュアを負かした戦士の話を思い出した。


「もっと聞きたいわ。詳しく教えてくれない?」

「私もそれほど詳しくは知らないのです。我々が皇帝に召し抱えられた時には、既に近衛騎士として仕えていました」


「ジャハドより強いって知っているって事は、その人はジャハドと戦ったんでしょう? どんな戦い方をしたの?」


「……説明しづらいのですが、団長の攻撃を全て行動に移る前に潰していました。なんというか、起点を潰すと言えばいいのでしょうか? 予備動作で足に力が集中すると、そこを狙われるのです。その時は団長が力で押し切る形で勝ちましたが、ベクフットが本気だったのか疑問です」


 本気ではない?

 ベクフットはジャハドに勝ちを譲ったのか?

 何故そんな事を……。


 カミュは疑問をエゴールにぶつけた。


「どうしてそう思うの?」


「あの頃は、黒鋼騎士団が設立されて間もない頃でした。皇帝は鎧や武具の出来にかなり喜んでいました。団長が抜擢されたのも、最強の戦士が最強の鎧を着れば無敵だという皇帝の考えからです。そこでベクフットが団長を下せば、皇帝の機嫌を損ねると思ったのではないでしょうか?」


 カミュはこのまま攻め上れば、いずれその男とも戦う事になるだろうと考えた。

 これまでカミュが様々な人達に勝てたのは、剣術や体術は勿論だが瞳の力が大きい。

 同じ力を持つ者に果たして勝つ事が出来るだろうか。


 黙り込んだカミュにエゴールが声を掛けた。


「私はベクフットと戦っても、貴女が負けるとは思えません」

「それは何故?」


「同じ目の力を持つのなら、剣聖に師事した貴女が勝つ。そう思えるのです……何も根拠も無く言っているのではありません。私は団長と剣聖の勝負も、バルジと貴女の戦いも見ました。貴女は剣聖の技を完全に受け継いでいる。それに完全武装の団長を倒した。団長に勝つために剣以外も使ったのでしょう?」


 そう言ってエゴールはカミュを見返した。


「ええ、ナイフや煙幕、それに礫も使ったわ」

「やはり……その柔軟性が恐らくベクフットには無い。彼は団長と戦った時、体術等は一切使わず、剣のみで戦いました。まあそれで団長と互角に渡り合ったのですから、使う必要が無かったのかもしれませんが」


 少し苦笑してエゴールはそう話した。


「……ありがとう。参考になったわ」

「そうそう。まあ、有り得ないでしょうが、部下に加えていただけるという話。実現出来れば必ずお受けします」

「……冗談のつもりだったんだけど……本気なの?」


「ええ。あの時、私は自分でも意識せず、貴女の前で跪き頭を垂れていました。あんな気持ちは皇帝にも……団長にさえ持った事がない。命令に従う事があれほど心地よかった事は、今まで一度もありませんでした」


 そう言うとエゴールは、その時の事を思い出したのか少し笑った。

 その表情に嘘は無いようにカミュには思えた。


 この男の持つ情報は、帝国に進軍する上で多くの味方の命を救うだろう。

 何がエゴールの気持ちをそこまで引きつけたのかは分からないが、考える価値はあるかも知れない。


「うーん。たぶん無理だと思うけど、一応掛合ってみるわ」

「ハハッ、期待しないで待っています」


 エゴールに再度、礼を言いカミュは独房を後にした。

誤字報告ありがとうございます。

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