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剣の娘  作者: 田中
第十二章 緑光と黒鋼
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中間管理職の苦悩

 騎士隊が兵達と共に排除した暗殺者は九十名程、その際には反撃を受けて負傷した者や、寝込みを襲われ隊員が起こす前に死亡していた者もいた。


 暗殺者は全員、王国軍が渡した衣服を身につけており、武器は歩哨を殺して奪った物の他、放置してあった斧や料理用のナイフ、中にはフォーク一本という者もいた。


 隊員たちが動き回ったため確かとは言えないが、足跡を追った月夜が言うには陣の外に逃げ出した痕跡もいくつかあったらしい。

 捕虜を尋問した所、彼らは黒鋼騎士団の暗殺部隊だという。


 捕えた者は多くは無かった。

 全員質問に対する受け答えはしっかりしているが、話しているとどこか異質な物を感じさせた。

 カミュは被害状況と分かった事をミュラーに報告した。


 ミュラーはカミュからの報告を受けると、すぐさま受け入れた人達を陣から離して隔離し兵の監視下に置いた。

 彼らは王国軍の対応に怯えを見せたが反抗する事無く大人しく従った。


 ミュラーは陣の外に急遽作られた野営地に移動する人々を見ながらため息を吐いた。


 帝国側が住民に暗殺者を紛れ込ませているなら街を解放した後、奴隷として暮らしているというエトリアの民の裏付け調査を行わなければならない。


 その事を考えると気が重くなる思いがしたが、ミュラーはそれはカリアに任せようと思い直し、自分はエトリア攻略に専念する事にした。


 ナタリアは、あの後、泣きつかれて眠り、起きた後はカミュかマーカス、彼らがいなければ下女や騎士隊の誰かに引っ付くようになった。

 顔の知らない人物が近づくと酷く怯える為、常に誰かが側にいる必要がある。


 暗殺者の存在で王国軍には多少の混乱はあったが、予定通り攻城戦を開始した。


 エトリアの防衛についた帝国軍は作戦が始まると街の防衛を放棄、城に立てこもった。

 ミュラーは住民や街に残っていた帝国の民を集め、見張りを付け監視させた。


 その後、街の時と同様に攻城兵器で城門を破壊しようとしたが、帝国軍の抵抗が激しく攻めあぐねていた。


 彼は将官を集め城の攻略について意見を募る事にした。

 会議は街の行政を担っていた建物の一室で行われた。

 街の見取り図を机に広げ、ミュラーが将官達に向け口を開く。


「さて、まずは状況を説明しておこう。城は周囲を堀で囲まれ、南北の城門は跳ね橋が上がり使えない。石造りの橋がある東西の門は閉ざされ、橋は落とされている。橋を架けようとしたが、城壁からの攻撃が激しく工兵隊も近づけん。帝国軍が街を放棄したのは、戦力を集中する為と考えられる」


 ミュラーの言葉に騎士の一人が問いかける。


「こちらは十万です。多少の犠牲を覚悟すれば可能では?」

「私も弓矢程度なら、それも考えた。しかし奴らは黒鋼騎士団が使っていた爆弾や銃を使って攻撃してきた。被害が大きすぎる。今後の事も考えると兵の損耗は出来る限り避けたい」


 別の騎士が口を開いた。


「いっそ城を包囲する兵を残して、先に進んだ方が良いのでは?」


 その提案にミュラーは首を振った。


「城には黒鋼騎士団の生き残りがまだ残っている。出来れば奴らはここで叩いておきたい」

「降伏を勧告するのはどうですか?」

「それはもう行った。奴らは最後の一兵になっても、城を明け渡す気はないそうだ」

「……マジかよ。どうかしてるぜ」


 偵察隊のロッドが思わずそう呟いた。


「あの……城の抜け穴を通って潜入するのはどうでしょうか?」


 騎士の一人がそう提案する。


「抜け穴? まあ城には付き物だが……君はそれが何処にあるか知っているのか?」


「はい、私は戦争が始まる前、カリア様の従者としてお側に仕えていました。その時にカリア様が抜け穴を使って街に出るのを見てしまったんです。カリア様には口止めされていたのですが……」


 まだ若い騎士は、言いにくそうにそう答えた。


「抜け穴か……しかしあまり大兵力を送り込むことは出来んのだろう?」

「そうですね。入り口も人一人が通るのがやっとの大きさでしたから。それに抜け穴が今も使えるかは分かりません……」


「ふむ、使えれば内部から、跳ね橋を降ろす事も出来るかもしれんな……一考の余地はあるか」


 カミュは抜け穴の話を聞いて手を上げた。


「降伏の話ですが、兵の全てが死を望んでいるとは到底思えません。指揮官の命令に従っているだけなら、上を叩けば兵は降伏するのではないでしょうか?」


「恐らくな。しかしどうやって指揮官を探す? 大勢で捜索等行なえば発見されるだろう?」


「捜索は私の仲間にうってつけの者がいます。彼女ならきっと指揮官が何処にいるか突き止めてくれる筈……」


 ミュラーはカミュの顔を見た。

 その顔は自信に溢れ、しっかりとミュラーを見返した。

 ミュラーは集まった全員を見まわし口を開いた。


「他に意見のある者は居るか?」


 部屋はざわめきに包まれたが、特に意見は出なかった。


「ふむ、ではカミュの意見を採用し、指揮官を捜索し排除する方向で進めたいと思う。引き続き城の包囲は続ける。各自持ち場に戻ってくれ」


 ミュラーの言葉を受けて将官達は部屋を後にし、それぞれの持ち場に戻って行った。



■◇■◇■◇■



 城の執務室でエゴールはため息を吐いていた。

 十三番隊を奴隷と一緒に街の外に出すのは、ニコのアイデアだった。


 それは成功したようだったが、王国軍が混乱も無く攻めて来たという事は暗殺は失敗したようだ。

 その事にエゴールは残念に思うと同時にどこかホッとしてもいた。


 これで彼らに対する報酬を選ばなくてよくなったからだ。

 エゴールは王国軍から降伏勧告が来た時、再三、グレゴリーに降伏を進めた。


 街全体を守る為には兵力が足りず、城に引きこもるしか手は無かったが、それも時間の問題だ。

 帝国からの援軍は期待できず、後は物資を消費して抵抗を続けるしかないからだ。


 仮に援軍が来たとしても敵は十万だ。王国軍は援軍にも十分対応できるだろう。


 その事をグレゴリーに伝えたが、彼は皇帝の命は絶対だと口にするばかりで首を縦には振らなかった。


「打つ手無しですか……」

「エゴール様、敵の動きが止まりました。奴らは橋を架ける事を諦めたようです」

「そうですか。城壁の銃部隊、および爆破筒部隊には交代で休憩を取るよう伝えて下さい」

「ハッ!」


 いっそ、グレゴリーの首を土産に王国軍に投降する事も考えたが、黒鋼騎士団として非道な事を行って来た自分は、投降しても極刑は免れないだろう。

 自分だけならいいが、騎士団員も同じ運命を辿らせるのは気が進まない。


 エゴールは無駄とは知りつつもグレゴリーを説得する為、重い腰を上げた。

 彼の後を黒い影が追って行ったが、その事にエゴールが気付くことは無かった。

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