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剣の娘  作者: 田中
第二章 傭兵ギルドと初仕事
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傭兵ギルド

ギルドカードについての記述を追加修正しました。

 カミュはクリフに紹介された宿に向かった。

 宿はカイザス工房と同じ三番街にあり、看板にはステラとあった。

 中に入ると一階は入り口横に受付があり、背が高くがっちりした体格でかなり強面の男が座っっていた。

 年の頃は四十手前ぐらいだろうか。


「いらっしゃい、嬢ちゃん一人か?」

「ええ、私はカミュ。カイザス工房のクリフの紹介なんだけど、一晩お願いできるかしら?」

「おう、クリフの知り合いか、俺はこの宿の主人でカイルってんだ、よろしくな」


 そう言うと男は笑顔見せる。

 強面の顔からは想像できないような優しい顔だ。


「部屋は空いてる一泊食事付きで五千リルだ、で飯はどうする?」

「御免なさい、今日は外で済ましてきたの」

「クリフと一緒だったんなら、木漏れ日亭か?」

「よく分かったわね」


「あそこの飯は中々いけるだろう」

「とても美味しかったわ。朝食はここでお願いしたいんだけど」

「まかせな、うちも飯には自信がある。部屋は二階の右端を使ってくれ。後でお湯を持っていく」


 そう言って男は鍵をカミュに渡した。


「ありがとう」


 カミュは礼を言って二階に上がった。

 カイルが持ってきてくれたお湯を使い、体を拭いてベッドに入った。

 村で貯めたお金はあるが豊富とは言えない。

 街で何か仕事を探さないといけないな、カミュはそう思いながら眠りに落ちた。


 翌朝、カミュは泊った宿の主人カイルに仕事について相談してみることにした。

 カミュは一階のカウンターで作業していた主人に朝食を注文し、仕事について尋ねてみた。


「私に出来る仕事はないかな? 一通り剣は使えるわ」

「嬢ちゃん剣士かい? 腕に覚えがあるんなら傭兵ギルドに行ってみたらどうだい」


 カイルはカミュの注文を作りながら対応してくれた。


「傭兵ギルド? あまり戦争には関わりたくないんだけど」

「傭兵ギルドっていっても仕事は戦争だけじゃない。荷馬車の護衛や野盗、野獣の討伐なんか荒事関係全般さ」

「それだったら私にもできるかも……」

「行ってみるんなら一番街、国の施設なんかがある通りに事務所を出してるから覗いてみな。ほれお待ちどう」


 カミュと話しながらカイルが料理を出してくれた。


「ええありがとう、行ってみるわ。じゃあいただきます」


 カイルにそう応えて、カミュは出された朝食を食べ始めた。

 朝食はパンに野菜スープ、ベーコンエッグだった。

 シンプルながらパンは焼き立てで香ばしく、スープもベーコンエッグも塩加減がちょうど良く、とても美味しかった。


「ご馳走様。すごく美味しかったわ」

「そう言ってもらえると嬉しいね!」


 そう言うと主人は満面の笑みを浮かべた。

 笑顔は愛嬌があり人の好さがにじみ出ていた。

 宿を教えてくれたクリフには感謝しなければとカミュは思った。


「ギルドを覗いてみることにする、今日も泊るから部屋を取っておいて欲しいんだけど」

「あいよ! 行ってらっしゃい!」


 カミュは食事を済ませ宿を出て一番街へ向かった。


 途中でいきなり十人ほどに道を塞がれる。

 中心にいたガタイのいい男が一人に話しかける。


「おいこいつか?」

「はい、ケニーさんこいつで間違いありません」


 話している男はルカスの取り巻きの一人だった。

 ルカスの率いているチンピラ、確かワイバーンとか言ったか。


「よう姉ちゃん、昨日は好き勝手やってくれたみたいだな?」

「そっちがいきなり襲い掛かってきたから対処しただけよ」

「昨日ルカスさんが連れてた連中は、チームの中でも腕の立つほうじゃねえ、今日は昨日みたいにはいかねえぜ」

「またなの……」


 カミュはうんざりしながら男たちを見た。

 ケニーとよばれた男が言うように少しは腕に覚えがありそうだ。


「此処じゃ目立つ、ついてきな」


 逃げるのは簡単だが、街にいる間追いかけられるのも面倒だ。

 そう考えたカミュは大人しく男達についていくことにした。

 裏路地に面した空き地でカミュは男たちと向き合う。


「途中で逃げ出すかと思ったが、なかなか肝が据わってるじゃねえか」

「いちいち対処するのが面倒だっただけよ」

「なめやがって、生意気な口をきけなくしてやる! お前ら囲め、絶対に逃がすなよ!」


 彼らはカミュを取り囲むように周囲を固めた。

 ケニーが背中にしょっていた鉄でできた棍棒を構える。

 棍棒は長さが百五十センチほどあるだろう、スパイクが付いており殴られると痛いではすみそうにない。

 カミュは剣は抜かずケニーと対峙した。


「おい! ふざけるなよ! なんで剣を抜かねえんだ!!」

「使う必要がないからよ」


 カミュの言葉を聞いたケニーは顔を真っ赤にして突っ込んできた。


 棍棒を横に振りぬく。

 カミュはしゃがんで躱し、振りぬいて無防備になったケニーの右手首をつかむと、右肘に向けて掌底を放った。

 掌底を受けたケニーの右腕は、曲がってはいけない方向に曲がっていた。

 痛みで棍棒を取り落とし、右腕を抱え込みうずくまる。


 それを見た周りの男達は茫然としていた。


「用は済んだかしら。急いでいるから失礼するわね」


 カミュが立ち去ろうとすると取り巻きたちは慌てて道をあけた。


「畜生! これですんだと思うなよ!」


 ケニーが叫んでいたがカミュは無視して元の道へ戻った。

 道行く人に傭兵ギルドの場所を尋ねると、目的の場所はすぐ見つかった。


 石造りの三階建ての立派な建物だ。

 扉を開け中に入ると、大勢の人が受付に並んで順番を待っていた。

 入り口の正面にカウンターがあり、受付であろう女性が五人ほど並んで座っている。

 並んでいるのは殆どが男だが女も何人かいた、それぞれ装備が違っている。


 受付は担当が違うようで、一番人が多く並んでいるところは戦争に関係している事案を扱っているようだ。

 カミュはしばらく街を離れるつもりはなかったので、街に関する仕事を取り扱っている窓口に並んだ。

 こちらは並んでいる人も少なかったので、程なくカミュの番が回ってきた。


「いらっしゃいませ、本日担当させていただきますカリンです。本日はどういった御用でしょうか?」


 栗色の髪の受付嬢カリンが笑顔で聞いてきた。


「仕事を探してる。剣なら一通り使えるんだけど、何かないかな?」

「お仕事の受注ですね、ご利用は初めてですか?」

「ええ、初めてよ」

「でしたらお名前と戦闘スタイル等、基本情報の聞き取りの後、テストを受けていただいて、適性を判断させていただきます」

「テスト?」


 カミュはテストと聞いて昔を思い出した。

 ジョシュアはカミュの理解度を図るため、たまに抜き打ちでテストを出したのだ。

 合格点に届かないと宿題と称して、文字の書き取りや計算問題をどっさり出された。

 カミュの顔が強張っているのを見てカリンが声をかける。


「緊張しなくても大丈夫ですよ、模擬戦をしていただいてお客様の技量を図るだけです」

「技量を図る?」

「正確な力量が解らないと、お仕事も斡旋しかねますのでご理解ください」

「なるほどね、よく分かったわ。テストはすぐ受けられるの?」


「はい、ギルド内に訓練場がございます。そこでギルド所属の教官相手に模擬戦を行っていただきます。ではまず基本情報からお伺いさせていただきます。お名前は?」

「カミュよ」


「カミュさんですね。次に戦闘スタイルは何ですが?」

「主に剣をつかったものね。素手での格闘術もある程度使えるわ」

「剣術と格闘術、受注されるお仕事について希望はございますか?」

「基本的に何でも受けるつもりだけど、街から離れない仕事がいいわね。あと害虫駆除とか虫系の物は外して欲しい」


 その後も出身や病歴、簡易的な人格検査、本人確認のためのサインを記入し受け受付は終了した。


「基本事項の聞き取りは完了しました。人柄的にも問題ないと判断します。ではこちらの書類をもって訓練場に移動して下さい。訓練場は窓口左の入り口を抜けて三番目のドアです。書類は訓練場にいる教官にお渡し下さい」

「分かったわ、ありがとう」


 カミュはカリンに礼をいって訓練場に向かった。

 場所はすぐわかった、中から剣戟の音と気合のこもった声が聞こえてきたからだ。

 ドアを開けて中に入ると数名の人間が、それぞれペアになり模擬戦をしていた。

 離れて模擬戦の様子を見ていた男がカミュに気づき声をかけてくる。


「見ない顔だな。新人か?」


 中背の三十代ぐらいの男で髭を生やしている。

 細身だが鍛えられており、相当な使い手に見えた。


「此処でテストを受けるよう言われてきたの。あなたが教官?」

「いかにも、俺が教官のロッツだ、よろしくな。早速だが書類を見せてくれ」


 ロッツに言われて書類を渡す。


「剣術に格闘術か、師匠は誰だ?」

「コリーデ村のジョシュアよ」

「ジョシュア!? 人違いだろうが剣聖と同じ名前か……まあいい、とりあえず俺と模擬戦をしてもらう。準備はいいか?」

「ええ」

「剣はそこにある模擬専用の物を使ってくれ。刃はつぶしてあるが、当たり所が悪いと骨折する場合もあるからな、気を付けてくれ」

「模擬戦には慣れているから大丈夫」


 カミュは外套を脱ぎ腰の剣や荷物をおいて、模擬専用の剣を手に取った。

 ロッツが言っているように刃はつぶしてあるが、鉄でできており下手に打たれると怪我で済まないかもしれない。

 訓練場の一角でロッツと向き合った。


「では模擬戦を始める。勝敗ではなく技術を見ることが目的だからあまり気負うなよ」

「わかったわ」

「じゃあ行くぞ」


 ロッツはそう言うと打ち込んできた。

 鋭い剣筋だ、しかしジョシュアに比べると遅い。

 カミュはかつてジョシュアがジャハドにしたように、右上段からの振り下ろしに合わせそっと触れるように剣をふるった。

 ロッツの剣が軌道をそれ空を切る。


「何!?」


 ロッツは初撃にかなり自信を持っていたようで、いなされた事が驚きようだ。


「結構使えるようだな。だがこれはどうだ」


 ロッツはスタイルを変え、隙の少ない突きメインの攻撃に切り替えた。

 しかしカミュは連続して放たれたすべての攻撃をいなしていく。


「馬鹿な…」


 ロッツは自分の攻撃がまるで通じないことが信じられないようだ。

 攻撃の手も止まっている。


「テストは終わり?」

「あ? ああ終了だ。しかし驚いたな、お前さん若いのに大した腕だな」

「数年間、毎日修行してたからね」

「なるほど努力の賜物か……俺も慢心してたようだ」


 ロッツはそう言いながら書類にサインをしてカミュに渡す。


「こいつを持って受付に戻ってくれ。技術的には満点だ、どの依頼でも受けれるだろう」

「ありがとう」

「なあお前さんの師匠、ジョシュアって本物の剣聖じゃあ……」

「ふふ、さあどうかしらね」


 ロッツの質問には答えずに訓練場を後にした。

 受付に戻りカリンに書類を渡すと驚いた顔でカミュを見てくる。


「カミュさん、何をしたんですか!?」

「何って、言われた通りテストを受けただけよ」

「ロッツさんが満点を出すなんて初めての事ですよ!」

「そうなの?」


「彼は元傭兵で、剣術のみで様々な戦場を渡りあるいた百戦錬磨の猛者です。傭兵を引退したと聞いたギルド長が自らお願いして教官になってもらったんです。今までのテストでも八十点が最高だったのに……」

「まあいいじゃない。それより仕事を紹介してくれない?」


 カリンは納得できない様子だったが気を取り直してカミュの名前が書かれたカードと何枚かの書類をカウンターに並べた。


「カードはギルドの所属であることを示すものです。報酬の支払いの他、身分証にも使えますから大切に保管してください。紛失した場合は速やかにギルドに報告してください。紛失したカードの使用を差し止め新たに再発行します。それではカミュさんにご紹介できる案件はこちらです」

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