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剣の娘  作者: 田中
第十二章 緑光と黒鋼
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十三番隊

 カリアは敗走した帝国軍の追撃を兵に命じた。

 帝国軍はエトリアに帰還する事を優先したが徐々に戦力を削られ、街に逃げ込んだ時には四万いた兵力は三千まで減っていた。


 ちなみに帝国軍の新設部隊はジャハド達、零番隊が使っていた火炎筒を装備した部隊だった。

 彼らは一応の戦果は挙げたが、弓兵の集中攻撃を浴びカサルでの総力戦で全滅していた。


 ジャハドは騎士隊が零番隊と交戦している隙に戦場から姿を消していた。

 馬を奪い逃走したらしく、騎士の死体と蹄の後が雪の上に残っていた。

 カミュは後を追わせたがその行方は杳として知れなかった。

 気にはなったが王国軍を放っておく訳にもいかず、軍と共に動く事にした。


 エゴールが街に敗残兵を連れ戻った時、グレゴリーは既に報告を受けていた。

 彼は兵から詳細を聞くと胸を押さえ倒れた。


 皇帝から預かった四万の兵が敗退した事に、彼の心臓は耐えられなかったのだろう。

 エゴールが彼を見舞うとグレゴリーはか細い声で彼に言った。


「……エゴール……か。指揮は……お前に任せる……そうだ……皇帝陛下が作られた……銃という武器を持つ部隊が……お前達が出立した後……街に到着した……上手く使えば……この街を……守る事も出来よう」


「銃ですか?」


 グレゴリーは枕に頭を預け、天井を見つめたまま答える。


「そうだ……零番隊が持っていた……爆弾を飛ばす武器が………あっただろう? ……あれと似ている」

「ああ、爆破筒の事ですな? しかしアレは五十メートルも飛べばいい所ですよ。飛距離では弓の足元にも及びません」

「フフッ……ゴホッ……銃は……二百メートル先の……鎧を撃ち抜ける。まあ当たればだが……」


 エゴールは無表情のまま、しばし沈黙した。


「そうですな。拠点防衛には使えるかもしれませんな。して規模はいかほど?」

「三千だ……ただ一発撃つのに……酷く時間がかかる……運用法を考えろ」

「……了解しました。時にここを放棄して、帝国に撤退するお考えは?」


 グレゴリーは半身を起こし、エゴールを睨みつけた。


「それだけはならん! 陛下はオーバルを……はぁはぁ……所望しておられる! 撤退は……ありえん!」


 エゴールは荒い息を吐くグレゴリーに肩をすくめ答えた。


「承知しました……何とか方策を考えましょう。閣下はゆっくりとご静養して下さい」

「頼む……全ては……陛下の御為に……オーバルを」


 エゴールはグレゴリーに暇を告げ、寝室を後にした。

 ああは言ったが、エゴールはエトリアは程なく陥落するだろうと考えていた。


 団長の腕を貫き、投石器が破壊されたとき弓兵を打ち倒し、四番隊を全滅させた物。

 恐らくアレが銃なのだ。

 こちらの物は一発撃てば暫く使えないようだが、向こうの物は連発していた様に思う。


 負けだな。

 エゴールは客観的に判断して、そう結論付けた。


 一瞬、国など捨てて傭兵団の時の様に根無し草になるかという考えが頭をよぎる。

 だがエゴールはその考えを振り払った。

 傭兵団と言えば聞こえはいいが平時は山賊と変わらない。

 自分では軍という枠組みが無ければ荒くれ達を統率出来ないだろう。


「まったく、私は補佐役が適任だと言うのに。恨みますよ、団長」


 エゴールは皇帝が送ったという銃を扱う部隊を見る為、彼らのもとに足を向けた。



■◇■◇■◇■



 カミュ達は帝国軍を追って北上、現在はエトリアの南に陣を布き、街の様子を伺っている。


「ナタリア! 止まれ!!」

「やだー!! あのお風呂嫌い!!」


 マーカスがタオルを持ってナタリアを追いかけている。

 彼女はタオルを巻いていたがその下は何も身につけていない。

 若い兵には目の毒だろう。

 カミュは走って来たナタリアを捕まえると、纏っていたマントを体に掛けた。


「ナタリア、駄目よ。女の子が裸で走り回っちゃ」

「うう、だってお風呂熱いんだもん」


 陣には兵の衛生管理の為、移動式の風呂が設置されていた。

 風呂と言っても湯船につかるのではなく、蒸気で体を温め汗を流す物だ。

 ナタリアは従軍していた下女たちと風呂に入っていたが、熱さの為、逃げ出したようだ。


「すまん、カミュ。助かったぜ」

「ナタリア、きれいにしてないと、マーカスに嫌われるよ」

「えっ!? ……オーガ、汚いとナタリア、嫌いになる?」


 マーカスはタオルでナタリアの髪を拭きながら答える。


「嫌いにはならねぇよ。だがきれいにしとかねぇと、お前が病気になっちまうかもしれねぇ。それは嫌だな」

「……分かった。ナタリア、我慢する」

「カミュ、ありがとよ」


 マーカスはカミュに礼を言ってナタリアを風呂に連れて行った。

 彼女の事は、カサルに置いていくつもりだった。

 しかし、カミュがナタリアを教会のシスターに引き渡そうとすると、彼女は泣き喚き教会から逃げ出した。


 シスター達は懸命に彼女を追ったが、黒鋼騎士団の騎士だった彼女が本気をだせば捕まる訳がない。

 追い詰めれば逆にシスターに危険が及ぶと考え、カミュは仕方なく捕まえた彼女を連れて行く事にしたのだ。


 カミュは苦笑してマーカスを見送り、騎士隊のテントに向かった。

 テントではジェイクがグラントとライバーに帝国に渡した情報について聞いていた。

 カミュがテントに入ると、二人はチラリとこちらに目を向け質問を続けた。


「では、単発銃は帝国に渡ったのか?」

「はい、侯爵様が皇帝に献上した所、皇帝は大変気に入ったようで、すぐに量産しろと……」

「どの程度の規模だ?」

「それは分かりません。亡命してすぐに、私はガレス様と共にこちらに送られましたので……」


 ジェイクはグラントに尋ねる。


「単発銃はどの程度、脅威になる?」

「そうだな……俺が知っている物は有効射程は二百メートル程だが、狙って当てられるのはせいぜい百メートルが限界だ」

「なんだ、大したことないじゃないか」

「数がそろえば脅威だ。陣形を取った軍隊はいい的だからな。横に並べて一斉に射撃されれば、精度が悪くても相当な被害が出るだろう」


 グラントの言葉にジェイクは唸った。


「グラントさん、あなた達の銃はもっと遠くから狙えるんでしょう?」

「まあな。我々の銃なら三百メートルぐらいなら狙って当てる事が出来る」

「じゃあ、もし銃が出てきたらお願いね」

「了解だ。しかし、戦闘が続いたからな。弾薬に不安がある」


 カミュはジェイクに尋ねる。


「補給はいつになるの?」

「弾は子爵領で作られているからな。早くても一週間はかかるだろう」

「それまでは弓が頼りね」


 バルガスの提案で鹵獲した黒鋼騎士団の鎧は矢じりや武器に姿を変えていた。

 急ごしらえなので品質は黒鋼騎士団の物より劣るが、騎士団にも通じる筈だ。

 弓隊で腕の良い者には鹵獲した黒鋼騎士団の弓が支給されていた。


「いよいよとなれば俺もこれを使うさ」


 グラントは四番隊が持っていた、滑車の付いた弓を示した。


「ナタリアが言ってたけど、それ本当に石壁が抜けるの?」

「ああ、一本試しに打ってみた。壁の厚さや材質にもよるが、三十センチぐらいの壁なら抜けるだろう」

「……私、それが頭をかすめたの?」

「鍛冶屋に感謝するんだな。カミュが助かったのは額当てのお蔭だ」

「……クリフ」



■◇■◇■◇■



 カミュがクリフに感謝している頃、エゴールは銃部隊の確認を終え騎士団の詰め所に戻っていた。

 威力は確かに目を見張る物がある。しかし、再装填に時間がかかり過ぎる。

 あれではこちらが一発撃つ間に向こうはこちらを殲滅出来るだろう。


 何とかしないと……。


 彼は珍しく暗い表情で、ある隊の隊長がいる部屋に向かっていた。

 黒鋼騎士団はほぼ全部隊がカサル攻略に向かっていたが、一隊だけエトリアに残された隊があった。


 十三番隊。暗殺に特化した決して表に出る事のない殺人集団だ。

 黒鋼騎士団は確かに非道な人殺しの集団だが、エゴールは自分達と彼らは根本的に違うと感じていた。


 エゴールがドアをノックすると中から低い声が帰ってくる。

 ドアを開け入ると、瞬きをあまりしない目がエゴールに向けられた。

 背の低い異様に眼の大きな男だ。


「エゴールかぁ。一番隊の隊長殿がぁ、俺達のようなクズに何の用だぁ?」

「……消して欲しい奴らがいます」

「へぇ……待てぇ、当てよう……団長を殺った奴らだろう? ……どうだぁ、当たりかぁ?」

「……そうです。あいつ等が王国軍の勢いの源になっています。特に隊長の女。奴だけは必ず消して欲しい」

「女ぁ!? ……俺たちが遊んだ後でもいいかぁ?」


 十三番隊の隊長、ニコは舌なめずりをしてそう言った。


「君達が遊んだ後は、女は大体死ぬ間際じゃないですか」

「ギャハハッ、違ぇねぇ!」


 十三番隊は、帝国で犯罪を犯し、捕らえられた者で構成されている。

 連続殺人鬼や味方殺し、捕虜を百人以上殺した者もいる。

 一様に人を殺す事に何の忌避感も抱かず、衝動として殺人を犯さねば生きていけない者達だ。


 こんな連中を訓練し、部隊として作り出した帝国も相当狂っているとエゴールは常々思っていた。

 だが、戦闘能力は異常に高く、素手で戦えば零番隊も敗れるかも知れない程強かった。


「今、王国軍は街の南で陣を布いています。内部に入り込み、緑光騎士隊と呼ばれる隊を消して下さい。隊長は赤い髪の若い娘です」

「ククッ、了解だぁ……報酬は用意しておけよぉ」

「分かっています。前のままで良いのですか?」


 エゴールの問いかけに、ニコは歯をむき出しにして笑った。

 黄色い乱杭歯から、死臭が漂ってくる気がして、エゴールは思わず口元を押さえる。


「人の好みは、そうそう変わらねぇよぉ」

「……分かりました。あなた方の仕事が終わるまでには準備しておきます」

「そりゃぁ、楽しみだぁ」


 エゴールは部屋を後にして、ため息を吐いた。

 彼らの求める報酬が書かれた書類を手に、この街で暮らしている住民には悪いが、百人程、犠牲になってもらうしかないとエゴールは考えていた。


 大人の男女なら罪人で何とかなるだろう。十代前半の美形の少年?

 ましてや赤子など、どうやって団長は手に入れていたのか。


 エゴールは自身の行為に反吐が出る思いで、重い足を引きずった。

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