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剣の娘  作者: 田中
第十二章 緑光と黒鋼
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ジョシュアの教え

 カミュはバルジと戦う為、腰から剣を抜いた。

 バルジはアヨセと同じく分厚い鎧と盾を装備しており、武器は戦斧では無くハルバートだった。


「カミュ」


 城壁の上からグラントがカミュに声を掛ける。

 見上げると彼は北にある丘の方向を小さく指差していた。

 指差す方向を見ると遠く高台の上に人影が見える。


 目を細めると、それが黒い甲冑を着ている事が見て取れた。

 どうやらこちらを観察しているらしい。


 この一騎打ちはこちらの力を図る為の物だったようだ。

 だとすれば刀を使う所は見せたくない。


 カミュは直剣だけで戦う事を決め、オニキスを走らせた。

 すれ違いざまに剣を振るう。


 直剣は盾に弾かれた。

 盾を構えたままバルジがハルバートを突き入れる。

 それを直剣で逸らしながら、カミュは少し間合いを取った。


「貴公、ふざけているのか? 隊員の話では、貴公の剣は我らの装甲を容易く断ち切ったというではないか?」

「別にふざけてないわ。唯、今は使いたくないだけ」


 バルジはカミュが丘を見た時、釣られて見たが彼の目ではジャハド達を見つける事が出来なかった。

 カミュの言葉を訝しみながらハルバートを操った。

 繰り出される攻撃を、カミュは剣で触れる様にいなしていく。



■◇■◇■◇■



 高台の上で二人の戦いを見ながらジャハドは唐突に声を上げた。


「思い出したぞ!! あの赤髪、剣聖の所にいた小娘だ!!」

「……そう言えば、剣聖と話していると、子供が団長に斬りかかってきましたね。確かにあの子供も赤い髪でした」


「帝国や王国の北だと、それほど珍しくねぇから、何処で見たか思い出せなかったぜ」

「本当に剣聖の弟子ですか?」

「ああ、あの躱し方。間違いねぇ」


 ジャハドは馬首を巡らしエゴールに命令した。


「エゴール、様子見は止めだ。今から全軍を以ってカサルを襲撃する。例の鎧も容易しろ」

「零番隊の新装備ですか? ゴテゴテして嫌だと言っていたのでは?」

「あの娘は全力で潰す。今度は止めるなよ」


 エゴールは肩をすくめそれに答える。


「……しかたありませんね。では一旦陣に戻りましょう。そうそう、新設部隊も到着しているそうですよ」

「んじゃ、そいつらも戦列に加えろ。指揮はお前に任す。俺の標的はあの娘だ」

「やれやれ、了解しました。でも首を取ったら、こちらに加わって下さいよ」

「グハハッ、任せろ」


 二人は馬を走らせ、高台から去った。

 カミュはそれに気付く余裕も無く、バルジの攻撃を躱していた。

 装甲は硬く、刀でなければ断ち切るのは難しい。


 バルジは防御を固め攻撃はそれほどしてこない。

 慎重な性格の様で、こちらがわざと見せた隙にも乗ってはこなかった。


「何が目的だ? 何故隊長を斬った攻撃をしてこない?」


 カミュはそれに無言で返した。

 彼女はジョシュアの授業を思い出していた。


 防御の硬い相手と対峙した時、ジョシュアはどうするように言っていた?

 装甲の隙間、甲冑の留め金。

 駄目だ。盾に隠れて隙間は見えない、接合部分も自分が学んだ物とは違う。


 後は……。


 カミュはオニキスを操り、バルジから間合いを取った。

 一気に加速させ、すれ違う様に彼に迫る。


 バルジも同様に馬を走らせ、ランスの様にハルバートを構えた。

 そのハルバートを剣で逸らしながら鞍の上に立つ、そしてその勢いのまま飛んだ。


「なッ!?」


 バルジはカミュの姿を追って、思わず視線を上げる。

 それと共に持ち上がった盾を足場にして着地すると同時に、面頬の隙間、彼の右目に両手で剣を突き立てた。

 雪原からの照り返しを受けて、赤い髪がキラキラと輝き舞った。


 ジョシュアは言っていた。

 獣も人も瞳は弱点だ。

 どんな生き物も瞳だけは柔らかく鍛える事が出来ない。


 その時こうも言っていた。

 野生の生き物の視力を奪ったなら、必ず止めを刺せ。

 目が見えなければ、獲物が取れず大半の生き物は飢えて死ぬ。

 無駄に苦しめる事はするな。


 カミュは右目に突き入れた剣を、梃子のように動かし、柄を捩じる。

 捩じった剣を引き抜き、横に飛んで雪の地面を転がった。


 起き上がりバルジに目をやると、持っていた盾とハルバートは手から抜け、雪の上に落ちた。

 その手は馬の動きに合わせぶらぶらと揺れている。

 バルジを乗せた馬はそのまま走り、彼は滑る様に馬の後ろに落ちた。


 立ち上がったカミュに、オニキスが駆け寄り顔を寄せる。

 それを撫で、カミュはバルジに近寄った。

 脳を破壊されたバルジは既に絶命していた。


 見守っていた隊員が駆け寄りカミュに声を掛ける。


「隊長、凄かったですね!! あんなの初めて見ました!!」

「カミュ殿、流石でござる!!」

「カミュ様、お怪我は御座いませぬか!?」

「カミュ、上の連中にも応えてやれ」


 ジェイクの言葉でカミュが見上げると、城壁の上で兵達が歓声を上げていた。

 カミュが右手を突き上げると歓声は一際大きくなった。


「流石、剣聖の娘だ!!」

「剣聖、万歳!!」


 誰かの叫びが伝播し歓声は街に広がっていく。

 ジャハドが与えた衝撃で暗く沈んでいたカサルの街の王国兵は、カミュとラムザが黒騎士を打ち取った事で、彼らが決して倒せない相手ではないと気付いたようだ。


 一人残されたライバーは、逃げるタイミングを逸し騎士隊に囲まれていた。


「お前は何者だ!? 兜を外せ!!」


 槍を突き付けられたライバーは観念したように兜を脱ぎ捨てた。


「お前、ライバーじゃないか!? やっぱり帝国に逃げていたのか!?」


 騎士の声を聞き、ジェイクがライバーに駆け寄った。


「……ライバー、お前には聞きたい事が山ほどある。一緒に来てもらおうか?」

「はい。言う通りにします……もう疲れました。誰かの下について生きるのは……」


 ジェイクがライバーを兵に引き渡した時、北の雪原に帝国軍が姿を現した。

 副長が敗れ、どうするべきか迷い動けずにいた十一番隊は、味方と合流すべく北に逃げ去った。


 ジェイクは帝国軍がその十一番隊を飲み込み、こちらに迫ってくるのを確認し号令をかけた。


「全員騎乗!! カミュ、君も早くオニキスに乗れ!! 攻めてくるぞ!!」


 城壁の上で騒いでいた者達も、慌てて持ち場に走っている。

 門が開き、兵が街の外に溢れ出てきた。

 カミュはオニキスに跨り、突出しこちらに向かって来る異様な鎧の騎士を見た。


「あれは……」


 その巨大な騎士が手にした大剣が、彼女が追い続けた相手である事を示していた。

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