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剣の娘  作者: 田中
第十二章 緑光と黒鋼
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ラムザとガレス

「一騎打ちですか?」


 エゴールに命令を伝えられた十一番隊の副長のバルジは困惑気味みに答えた。


「そうです」

「何故我々が? ……それにどう理由をつけて、一騎打ちを申し込むのですか?」

「十一番隊が選ばれたのは団長がそう命じたからです。一騎打ちの理由は隊長の敵討ちでもなんでもよろしい」

「……了解しました」


 黒鋼騎士団でジャハドの命令は絶対だ。

 これまでも何度か説明なくジャハドから命令される事はあった。

 長く騎士団にいる団員はいつもの事だと達観している者が多かった。


 騎士団がまだ一介の傭兵部隊だった頃から、ジャハドのある種、動物的な勘の様な物で戦功をあげ、皇帝直属の部隊にまで成り上がったのだからそれも仕方の無い事かも知れない。


 バルジは隊を率いカサルの街へ向かった。

 王国軍は現在、外部には展開しておらず、街の中に閉じこもっているようだ。

 街から少し離れた場所に隊を待機させ、自ら使者として旗を掲げ城壁近くまで向かう。


「私は黒鋼騎士団十一番隊隊長代理バルジ!! 緑光騎士隊の隊長にお目通り願いたい!!」


 張り上げた声に、城壁の上で監視をしてた弓兵が答える。


「帝国軍がカミュさんに何のようだ!?」

「我が隊の隊長アヨセ・ミロンの仇を討つため一騎打ちを申し込む!! 騎士の誇りが掛かっている!! どうか取り次いでもらいたい!!」


 弓兵はその言葉を鼻で笑った。

 彼は緒戦の時も城壁の上で街を守備していた。

 黒騎士がトーラスを卑劣な手段で倒した事もしっかり見ている。


「ごめんだね!! カミュさんは今や王国軍にはなくてはならない人だ!! 焼き殺されてたまるか!!」

「そんな卑劣な真似はしない!! それとも戦う勇気がないのか!!」


 バルジも必死だった。団長の命令は絶対だ。

 それに彼はアヨセが死んだ時、右翼で兵達の指揮を執っていた。


 中央にいた隊員が引いた為、包囲網の維持が出来なくなり勢いに負けて退却したがその事を今も悔やんでいた。


「ふざけるな!! カミュさんを馬鹿にすると許さんぞ!!」


 彼はカミュが投石器を破壊した作戦も城壁の上からずっと見ていた。

 彼女の赤い髪は戦場で目を引いたし、黒馬を駆り戦場を駆けまわり、騎馬兵達を救い殿(しんがり)を務めた事も知っている。

 その活躍に心を奪われた者の一人だった。


 彼がバルジと言い合っていると守備隊の隊長が騒ぎを聞きつけ駆け付けた。


「何を騒いでいる?」

「隊長……敵の黒騎士がカミュさんと一騎打ちがしたいと騒いでいるんです」

「何?」


 隊長はバルジを見下ろし、後方で待機している黒騎士の集団を眺めた。


「待つように伝えろ。俺は上に報告してくる」


 隊長は上官に報告する為、その場を後にし守備隊詰め所へ向かった。

 守備隊の大隊長は報告を受けカリアに伝える事にした。


 大隊長はカミュのお蔭で緒戦で下がった士気が回復してきた事を感じていた。

 ここでバルジを放っておくとカミュが逃げたと噂が立つかも知れない。

 それは全体の士気に影響を及ぼす可能性があった。


 大隊長はそんな自分の懸念も含め、カリアに報告を上げた。

 カリアは大隊長を下がらせ、カミュを執務室に呼んだ。


「何の御用でしょうか、辺境伯様?」

「休んでいた所を悪いな。実は街の前で黒鋼騎士団の騎士が騒いでいてね」

「敵の騎士がですか? 討ち取れば良いのでは?」


 カリアはカミュの言葉に苦笑して答えた。


「そうもいかん。向こうはたった一人だ。それにカミュを名指しで指名して一騎打ちを申し込んでいる。断ればせっかく上がった士気も下がるだろう」


「……そんなに影響があるとは思えませんが?」

「気付いていないのか? いまや君は剣聖の名を継ぐ者として兵達から見られているのだぞ」


 そう言えば作戦の後、街に帰還すると妙に皆、妙に自分を誉めてくれるなとは感じていた。


 だが、あの作戦が成功したのは騎馬隊や工兵隊、騎士隊や銃士隊、関わった人達全員の力があったからだ。

 カミュ自身は考えた作戦を淡々と実行しただけだと思っていた。


「はぁ、そうなんですか? ……ではその騎士と戦えばいいですか?」

「……君。少し変わっていると言われないか?」

「えっ! 私、変ですか!?」


 カリアはカミュの様子に少し呆れた顔をした。


「まぁいい。そういう所も兵が君を慕う理由なのだろう……戦ってくれるのは有難いが、気をつけてくれ。私はトーラスが目の前で焼かれるのを見た」

「分かっています」


 カミュは騎士隊を連れて街の外に出た。

 そこにはバルジが一人、馬に乗って待っていた。

 離れた場所には黒鋼騎士団の一隊、以前砦で戦った者達が待機しているのが見えた。


 城壁の上には兵達が見物の為に集まっている。


 騎士隊が姿を見せると黒騎士の一人がバルジ駆け寄った。

 その後を追う様にもう一人騎士が馬を走らせる。

 騎士隊はその行動に全員が武器に手をかける。


 バルジは駆け寄った騎士に声を掛ける。


「ガレス殿、ここは私に任せてもらおう。貴公は隊と共に待機していてくれ」

「バルジ殿! 貴公が戦う前に私にやらせて欲しい!」

「ガレス様、一体どうしたんですか!? 突然飛び出して!?」


 ライバーは騎士隊の姿を見て、突然飛び出したガレスを追い慌てて後を追ったのだ。


「あの紋章! あいつはリトホルム家の人間だ!」


 ガレスが見つめる先にはラムザの姿があった。

 騎士隊の騎士達は緑光石の甲冑を身につけてはいたが、それぞれ家の紋章を胸に刻んでいる。


 ガレスは復讐を誓った相手の一人、リトホルム伯爵家の紋章を騎士隊の一人の胸に認め、衝動的に動いてしまったのだ。


「たしかに騎士隊にはリトホルムの四男坊が居たはずですが……」

「伯爵の末子だな……フフフッ良いぞ。奴を殺せば少しは溜飲が下がる」


「ガレス殿、一体何を言っている? とにかく下がってもらえないか?」

「いや、引くことは出来ん」


 ガレスはバルジとライバーが止める間も無く馬を騎士隊に近づけた。



■◇■◇■◇■



 街の様子がうかがえる高台の上で、ジャハドとエゴールは遠眼鏡を覗いていた。


「なんだ、あいつ?」

「十一番隊に回した王国騎士のようですな」

「余計な事しやがって。隊長の赤髪が引っ込んだら奴の腕が分からんだろうが」

「おや、別の騎士が出てきましたね?」

「雑魚はいいんだよ。俺は赤髪が見てえんだ」


 ジャハド達の思惑を他所に、進み出た騎士とガレスの戦いは始まろうとしていた。


「よくも父上を侮辱したな!!」

「フンッ、お前の噂も聞いているぞ。素行の悪さゆえ、伯爵家を放りだされたのだろう? 子供も躾けも出来んとはバーザムの器も知れるというもの」


「おのれ、言わせておけば!! 国を裏切った貴様に父上を悪く言う資格等ない!!」

「侯爵様は裏切ったのではない。不甲斐ない王に変わり国を立て直そうとされただけだ」


 ガレスの挑発に乗り進み出たラムザにカミュは声を掛ける。


「ラムザ、止めなさい。それとガレス。何と言おうと侯爵の所為でオーバルの民が傷ついた事に変わりはないわ」

「貴様が隊長か? お前の事も知っている。平民出の小娘が隊長とはな。こんな子供に率いられている隊などたかが知れているわ」


 ガレスの言葉に隊全体が怒気に包まれた。


「父上のみならず、隊長まで愚弄するか!!」


 ラムザは腰から剣を抜き、ガレスに馬首を向けた。


「止めなさい、ラムザ。怒りは剣を鈍らせる」

「やらせてやれよ、カミュ」

「そうですよ、隊長。親を侮辱されて黙ってるなんて騎士の名折れだ」


 カミュは助けを求めてジェイクに目をやった。

 だがジェイクは諦めろという様に首を振った。

 カミュは仕方がないと、ラムザにオニキスを寄せた。


「ラムザ、貴方の腕は上がっている。でも敵は未知数だわ。防御に専念して敵の隙を狙いなさい。貴方の突きは一流よ。その一撃に全てを集中させて。怒っちゃ駄目、冷静にね」

「……分かりました。隊長」


 それだけ言って、カミュはラムザのもとを離れた。

 カミュの言葉でラムザは幾分か落ち着きを取り戻したようだ。


「お綺麗な隊長殿にアドバイスでも貰ったのか? 貴様も貴族だろう? あんな小娘に顎で使われて平気なのか? ……そうか、お前、隊長殿のご寵愛を授かったんだろう? さすが下賤の出だ、やる事が商売女と変わらんな」


 ライバーの挑発にラムザは眦を釣り上げたが、カミュの言葉を思い出し深呼吸を一つした。


「裏切りの騎士ガレスよ。貴公は父を侮辱し、恩人であり尊敬している我々の隊長を愚弄した。ゆえに私は貴公に決闘を申し込む」

「望む所よ。貴様のような世間知らずのガキに私が負ける訳なかろう」


 ガレスはそう言うと馬を走らせラムザに斬りかかった。

 ガレスの斬撃は重かったがラムザは盾でそれを凌いだ。

 緑光石の盾は黒鋼の剣を防いだがその表面には浅くない傷が刻まれていく。


「防御しているだけでは私は殺せんぞ。それとも今更死ぬのが怖くなったか?」


 ガレスはラムザを挑発しながら次々と攻撃を放つ。

 その攻撃をラムザは盾で防ぎながらじっと耐えていた。


 彼らの後ろではバルジとライバーがそれを見ていた。

 二人とも、ガレスの暴走を止める事が出来ず、ただ見守るしかなかった。


「ライバー殿、ガレス殿は普段からああいった人物なのか?」

「いえ、以前は冷静で、口汚く人を罵る方では無かったのですが……」

「……予定とは違うが致し方ない。行方を見守るしかないか……」


 話の間にもガレスの攻撃は続き、ラムザの盾はボロボロになっていた。


「邪魔な盾だ」


 ガレスは盾を吹き飛ばそうと剣を振り上げた。

 ラムザはガレスが振り上げた瞬間、馬を寄せ振り下ろされた剣の根元、ガレスの籠手を弾くように盾を振った。


「なッ!!」


 ガレスはラムザの目の前で、体を広げる様に体勢を崩した。

 その隙を見逃さず、ラムザは突きを放った。

 緑光石で作られたエストックは、ガレスの胸を貫き、その剣先は背中まで突き抜けた。


「がふッ……馬鹿な……この私が……こんな……小僧に…」

「ガレス様!!」


 ライバーが駆け寄るが、ガレスは既にこと切れていた。


「ラムザの勝ちね」


 カミュがそう言うと、騎士隊は歓声を上げた。

 ラムザはガレスから剣を抜き、馬をカミュのもとに寄せた。


「はぁはぁ……隊長……やりました……」


 ラムザは荒い息を吐きながらカミュに言った。


「無事で良かった……見事な突きだったわ」


 カミュはラムザに声を掛けると、バルジに視線を向けた。


「そちらにとっても予定外だったようね」

「ああ、彼の言動は詫びよう。その若者は立派な騎士だ」

「それで、まだやるの?」

「当然だ。これからが本番だ」


 ジャハドは、その様子を見ながら喜びの声を上げた。


「見ろ、エゴール! 赤髪が戦うみたいだぞ!」

「団長。そんなにはしゃが無くても……」

「いや、予想外にさっきの勝負も面白かったな。何か狙ってるとは思っていたが、盾で受け流すとはな」

「中々、いい腕でしたね」

「おッ! やるみたいだぞ!」


 ジャハド達の視線の先では、カミュとバルジがお互い武器を構え対峙していた。

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