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剣の娘  作者: 田中
第十二章 緑光と黒鋼
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零番隊

 商業都市カサル、戦争が始まる前この街は、ロードリアの各地に点在する金鉱山から産出される金が集まる黄金の街として知られていた。


 だが戦争によりロードリアは採掘どころでは無くなり、エトリアを追われたカリアが逃げ込んだ後は、要塞として街は作り変えられていた。


 その街を見下ろす高台に陣を構え、ジャハドは街を眺めていた。


「ようやくカリアの首を拝めそうだな」

「将軍の所為で随分待たされましたねぇ」


 ジャハドの隣でエゴールが無表情に言う。

 エトリアを出た時は二万程だった軍勢は、将軍の命令でロードリア各地に散っていた帝国軍を招集する事で、四万程に膨れ上がっていた。


「グレゴリーもタマには気の利いた事するじゃねぇか」

「本当にタマにですが……」

「まどろっこしいのは無しだ。破城槌で門をぶち破って、全軍でなだれ込む」


「まあ、それが一番早いでしょうね」

「九番隊と十九番隊を中核として、攻城戦を仕掛けさせろ。門が開いたら突撃だ」

「了解です」


 帝国軍が攻城兵器を前進し始めると同時に、カサルの門が開き王国軍が街の前面に姿を見せた。

 その数、約十万。

 各地の領主が送った騎士や兵士、傭兵などの混成部隊だ。

 リトホルム伯爵が中心となり、領主や傭兵ギルドの協力で集まった者達だった。


「こいつは、予定外だぜ」

「どうします? 一端引きますか?」


 エゴールの言葉にジャハドは歯を剥き答えた。


「それでまた街でうだうだすんのか? 冗談じゃねぇ……エゴール、中央の奥に陣取ってるのが、カリアか?」


 エゴールは遠眼鏡で中央の軍旗を確認した。


「軍旗はそうなっていますが、カリア自ら出てきますかねぇ?」

「こんだけの大軍だ。大将が出ないと締まらねぇだろ?」

「どうなさるおつもりで?」


「零番隊で突撃をかける。俺がカリアの首を取って、奴らの士気が落ちた所で攻撃を仕掛けろ」

「久しぶりですね、団長自ら動くのは」

「ああ、血が滾るぜ」


 ジャハドは抱えていた兜を被り、大剣を担ぎあげた。

 巨大な鎧を着た馬が引かれて来る。

 馬に跨ったジャハドは声を上げた。


「目標は辺境伯の首だ!! 討ち取った者には望むだけの褒美をやろう!! いくぞ!!」

「オオッ!!」


 ジャハドを先頭に百人の黒騎士が後に続く。

 王国軍は最初彼らの無謀な突撃を、嘲笑を込めて眺めていた。

 こちらは十万。いくら黒鋼騎士団といえど、たかが百騎の騎馬兵がどうにか出来る数ではない。


 弓隊が矢を射かけるが、黒騎士達は何事も無かった様に進んで来る。


 カリアは歩兵隊を前進させ、槍衾で騎馬隊を止めようとした。

 だが百騎は勢いを落とす事無く進み続けた。

 彼らの通った後には死体が残された。


「化物か……何をしている騎馬隊で押し潰せ!!」


 カリアの号令で騎馬隊が進軍を止めようと左右から急襲したが、連弩によって次々と打ち取られた。

 黒騎士達は騎馬隊をすり抜け、更に前進を続ける。

 重装兵が辺境伯を守ろうと、前面に展開すると黒騎士達の持った筒から炎が放たれた。

 炎は重装兵を焼き、鎧の上から彼らを蒸し焼きにした。


「グハハッ、結構使えるじゃねぇか!!」


 ジャハドは笑い声を上げながら、燃える重装兵を馬で踏みしだき、辺境伯を守っている近衛騎士達に向け左手を掲げた。

 左手に持った一見弩の様に見えるそれから、丸い鉄の玉が放たれる。

 近衛騎士の乗る馬の足元に落ちた玉は少し転がった後、爆発した。


 爆発は馬ごと近衛騎士を巻き込み、周囲に小さな鋼鉄の楔をばら撒く。

 楔は鎧を引き裂き、近衛騎士は地面に落ちてうめき声を上げた。


 爆発で空いた空白に、ジャハドは馬を駆けこませた。


「馬鹿な!?」


 煌びやかな鎧を纏ったカリアの叫びが耳に届く。

 その顔は驚愕で引きつっていた。

 ニヤリと笑い大剣を握り直したジャハドの前に、一人の騎士が立ちふさがった。


「邪魔すんな!!」


 振るわれた大剣を、騎士は盾で受け止める。

 後ろに押されながらも騎士は何とか持ちこたえた。


「ここは私にお任せを!! カリア様は街に退却して下さい!!」

「すまん、トーラス!!」


 カリアは馬首を巡らし、街へ向け駆け出した。


「なんだぁ、その盾?」

「緑光石の盾だ。貴様らが無敵だった時代は終わりだ」


 ジャハドと対峙した騎士、将軍トーラスはそう言いながら剣を抜いた。


「いざ、尋常に勝負!!」

「……やだよ。急いでる時になんでそんな面倒な事しなきゃなんねぇんだ」


 ジャハドはそう言うと、腰の袋から取り出した瓶をトーラスに投げつけた。

 トーラスはそれを斬り落としたが、中の液体が彼の体に降り注ぐ。


「何だこれは? 酒か?」

「あばよ」


 ジャハドは先ほど重装兵を焼いた筒をトーラスに向けた。

 筒先から炎が噴き出し、トーラスを包む。


「があああッ!!! おのれぇ!! 卑怯者め!!!」

「何とでも言え。俺は使える物は何だって使うぜ」


 燃えるトーラスの脇をすり抜け、ジャハドは逃げ出したカリアに迫った。

 その背中に大剣を振り下ろそうとしたジャハドの左腕を、近年感じた事の無い痛みが襲った。

 彼の左腕には鎧を貫通し団栗ほど大きさの穴が開いていた。


 我に返りカリアの姿を目で追うと、彼は既に街の近くまで遠ざかっている。

 ジャハドは舌打ちをして部下に告げた。


「一端退却だ!! 仕切り直す!!」

「ハッ!!」


 馬首を巡らせ、再度敵陣を突っ切り自陣に引き返す。

 王国軍は彼らの通り道を開ける様に引き、黒騎士達が走り去った後も誰一人その後を追おうとはしなかった。


 雪原を走るジャハドの横目に、黒い兜を被った濃緑の服の集団の姿が見えた。

 集団の先頭に銀の甲冑を着た騎士の一隊が見える。

 その中の一人、風に靡く赤い髪が彼の心に何故か引っかかっていた。



■◇■◇■◇■



 カミュが帝国軍に追いついた時、既に戦争は始まっていた。

 いや、果たして戦争と呼べるだろうか。

 黒鋼騎士団の一隊が王国軍に突撃し、大軍をものともせず突き進んでいく。


 双眼鏡で覗く黒騎士達の先頭にカミュは長年追い続けた男の姿を見つけた。

 男はカリアを守ろうとした騎士を燃やし、逃げ出した領主に迫ろうとしている。


「グラントさん!! 先頭の黒騎士を止めて!!」

「了解」


 グラントは馬上で銃を構え、男の体を狙って緑光石の弾を撃ち込んだ。

 弾は男に命中しカリアは街に逃げ込む事が出来た。

 手傷を追った男は黒騎士達を引き連れ、帝国軍の陣に戻っていった。

 カミュは退却する黒騎士の中で、一際巨大な馬を操る男の姿をじっと目で追った。

 その時、カミュには向こうもこちらを見ている事がはっきりと分かった。



■◇■◇■◇■



 王国軍と合流したカミュは、街に運ばれたトーラスのもとに呼ばれていた。

 包帯を巻かれベッドに横たわるトーラスの横で、沈んだ様子のカリアが椅子に座っている。


「辺境伯様、将軍の具合はどうなんですが?」

「……一命は取り留めたが火傷が酷い……助かるかどうかは彼の生命力次第だそうだ」

「……そんな」


 カリアは顔を上げ、カミュを見た。


「……あんな武器は見た事が無い。連発式の弩、火を噴く筒、目の前で近衛が一瞬で吹き飛んだ……あれは一体なんだ?」

「あれは、黒鋼騎士団零番隊。辺境伯様に迫っていたのは団長のジャハドだと思います」

「あれがそうなのか……カミュ、無理を承知で頼む、騎士隊であの化け物共を倒してほしい」

「もとよりそのつもりです。その為に私はここに来たのです」


 二人が話していると、トーラスが目を開けた。


「ここは……どこだ?」


 炎で喉をやられたのか、かすれた声でそう尋ねる。


「トーラス! 寝ていろ!」

「おお……カリア様……ご無事……でしたか?」

「将軍のお蔭で、私は傷一つ負っておらん。今は無理をするな、ゆっくり休め」

「……それは……重畳……そこにいるのは……カミュか?」


 トーラスは視線をカミュに向けた。

 その瞳はうつろに揺れ、以前会った時の気迫は失われていた。


「はい、将軍」


 カミュはベッドに近寄り、トーラスの側で膝をついた。


「奴と……戦うなら……気をつけろ……あの男は……騎士……ではない。剣での……戦いに……こだわれば……私の……ように……なる」

「はい、肝に銘じておきます」

「カリア様……少し……疲れ……ました。眠らせて……頂き……ます」


 トーラスはそれだけ言うと、目を閉じ呼吸を止めた。


「……トーラス、ゆっくり休め……カミュ、他の黒騎士共はこちらで引き受けよう。騎士隊は零番隊を倒す事に専念してくれ」

「了解しました」


 カミュはカリアとトーラスの亡骸に敬礼をして部屋を後にした。

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