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剣の娘  作者: 田中
第十一章 北の戦場
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戦いの後

 馬を走らせ陣に辿り着いた時、ストークと共にいた者は十数騎しかなかった。

 振り返ると歩兵や落馬した者が必死に陣に向かっている様子が遠くに見えた。

 歩兵は砦から出てきた敵の歩兵隊に刈られ、落馬した騎士団員は銀の甲冑を着た騎士に槍で貫かれていた。


 ストークはその様子を見て部下に命じる。


「銀の甲冑を着た者を狙え!!」


 部下は矢をつがえ、突出して団員を狙っていた騎馬の一団に向け矢を放った。

 放物線を描き飛来した矢は確かに敵を捕らえたが、その騎馬隊は黒鋼の矢を跳ね返した。


 曲射とはいえ、黒鋼の矢は鉄の鎧を貫く事が出来る。

 致命傷にならずとも、戦力は削げるはずだ。

 ストークの考えを無視するように、騎馬隊は陣からの攻撃に気付きこちらに向かって来た。

 その中から、黒い馬に乗った赤い髪の人物が飛び出してきた。


 ストークはそれが何者か測りかねた。

 何故ならその人物は鎧を着ておらず、黒い見慣れない服を着ていたからだ。

 その人物を追う様に他の騎馬がその後ろ駆ける。


 黒い馬は驚くべき速度で拒馬を飛び越え、ストーク達に迫った。


「接近してくる騎馬兵を狙え!! 相手は鎧を着ていない!! 当てれば落とせるぞ!!」


 ストークの指示で部下が一斉に矢を放つ、しかし黒馬は横に飛んでそれを躱した。

 雪の地面に矢が突き立つ、乗り手の指示ではない。

 馬は自分の意思でこちらの攻撃を読み、矢が放たれた瞬間、横にステップしたようにストークには見えた。


 黒馬は速度を落とさず、真っすぐこちらに向かって来る。

 ストークは何年かぶりに弓では無く腰の剣に手をかけた。

 他の敵は拒馬を超えられず、迂回している者が多い様だ。

 飛び越えた者も黒馬のスピードについて行けず、その姿は遠い。


「相手は一騎だ! 奴を討ち取り、そのままエトリアまで退却する!!」


 ストークの言葉で、部下は弓を捨て剣を抜いた。

 ストーク自身抜刀し、黒馬に向けて馬を走らせた。


 赤い髪の馬上の人物は手にした剣を鞘に戻した。

 ストークが訝しんでいると先行した部下が剣を振り下ろすより早く一瞬煌めきが走り、部下の胸から上が雪の中に落ちた。


 その後も黒馬に向かった騎士達は、すれ違った瞬間、鎧ごと斬られていく。

 ストークは己も気づかぬうちに馬を止めていた。

 周りを見れば馬上に残っているのはストーク一人となっていた。


 赤い髪の女がストークに向け声を上げる。


「降伏するなら命の保証はしよう! 武器を捨て投降しなさい!」


 ストークは目の前の女が十一番隊の生き残りが言っていた、敵の騎士隊の隊長だと気付いた。

 話を聞いた時、彼は十一番隊が逃げ帰った事を正当化する為の嘘だと思っていた。

 だが目の前で起こった事を見れば、それが決して誇張では無く真実だったと確信できた。


「……お心遣い感謝するが、部下を殺され俺一人生き残れるほど図太くは無いのでな……黒鋼騎士団十四番隊隊長ストーク・ウルノだ」

「緑光騎士隊隊長、カミュ・ハーテッド」

「フッ、本当に剣聖の名前を名乗るのだな」


 ストークは少しおかしくなって、思わず吹き出してしまった。


「フフッ……そうね。私もジョシュアの名を継ぐなんて、考えていなかったわ」

「随分と剣聖の事を親し気に呼ぶじゃないか?」

「まあ、育ての親だからね」


「……本当に剣聖の娘なのか?」

「ええ、正確には弟子だけど」


 ストークはその言葉に声を上げて笑った。

 自分でもよく分からないが、とても愉快な気分だった。


「クククッ、いやすまん。まさか本物とはな……幕引きには良い相手だ」


 そう言ってストークは剣を構えた。

 馬の腹を蹴りカミュに向かって走らせる。

 振り下ろした剣ごとカミュの刃は彼を両断した。


 ストークはカミュが本物だと確信した時、自分も死ぬ事は何となく分かっていた。

 帝国でも南部出身だった彼は剣聖ジョシュアの逸話を旅の商人から聞いていた。

 どうせ誇張だろうと子供心に思いながらも、剣聖の英雄譚は彼の心をとらえていた。


 だから団長が剣聖の首を取ったと聞いた時、少し残念に思ったものだ。

 英雄の弟子に敗れる事は彼にとって物語の一部になる事の様に感じられた。


 そうか、だからあんなに愉快だったのか。

 彼女の物語を見届けられないのは、少し残念だが……。


 カミュがストークを討ち取りしばらくすると、ジェイク達がようやく追いついてきた。


「カミュ!! 一人で突出するな!!」


 ジェイクは怒りのこもった声でカミュを叱りつけた。


「……ごめんなさい。一人でも逃がして銃の事が知られると危険だと思ったの」

「分からんでもないが……鎧も着ないで、心配したぞ」

「……うん…ありがとう」

「怪我は無い様だな……一度砦に戻ろう」

「……うん」


 少し落ち込んだ様子のカミュを気遣い、ジェイクは彼女と共に砦へ帰還した。


 砦の周辺には、銃士隊が倒した兵士の亡骸が無数に横たわっていた。

 千人長の命で彼らは一か所に集められ、全員火葬される事になった。

 十四番隊の持っていた武具は回収され、敵陣に残されていた武具や資材も全て砦に納められた。


 千人長や兵士たちは銃士隊の強さを称賛し、砦は勝利に沸いていた。

 カミュは集団から離れ、城壁の上で帝国軍の陣のあった方向を眺めていた。


 降り出した雪で赤く染まっていた雪原は白さを取り戻していた。


「カミュ、こんな所にいたのか。火の側にいないと風邪を引くぞ」

「グラントさん」

「元気が無い様だが、何かあったのか?」


「……銃の力は凄いわね。騎士隊なんて要らないと思ったわ」

「俺達はあくまで黒子だ……今日、俺が思ったのは銃士隊は、やっぱり表に出るべきじゃないって事さ」


 カミュはグラントに向き直り、彼に尋ねる。


「どうして?」

「強力すぎるからだ。帝国軍は全滅させたから、銃士隊の事はまだ知られていないだろうがいずれ伝わる。そうなれば子爵様が危惧されていたように、帝国も銃の開発に乗り出すだろう……今日死んだ帝国兵の姿は、明日の俺達だ」


 カミュは再度北に目を向けた。吐いた白い息が風に流されていく。


「今日ね。敵の隊長と話したんだ。言葉が通じて笑い合えるのに、どうして殺し合わないといけないのかな?」

「帝国を止めるには、皇帝に割に合わんと思わせるしかないだろう」

「皇帝かぁ。目の前にいればコテンパンにしてやるのに……」

「ハハッ、コテンパンか。叩き切らない所がカミュらしいな」


 そう言うとグラントは少し笑みを見せた。


「……大事な人を守る為なら、躊躇しないって決めた。でもやっぱり誰も殺したくないって気持ちもある」

「直接、帝都へ乗り込んで皇帝を叩きのめすか……それが出来れば本当に剣聖の再来だな」


「……私はジョシュアのした事を余り知らないの。昔の事はあまり教えてくれなかったから……良かったら知ってる話を教えてくれない?」

「それなら俺よりジェイクの方が適任だ。もう戻ろう。さすがに冷えてきた」


 グラントはそう言うと大げさに腕を摩った。


「フフッ、グラントさんって意外とひょうきんなのね」

「このギャップが、酒場で女にもてる秘訣だ」


 真面目な顔でそんな事を言うのでカミュは破顔した。

 グラントと共に騎士隊の下に戻ると、総出でカミュを迎えてくれた。


 その日はジェイクにジョシュアの話を沢山聞いた。

 まるでおとぎ話のような、英雄譚をカミュは騎士達と共に飽きることなく聞き続けた。

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