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剣の娘  作者: 田中
第二章 傭兵ギルドと初仕事
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クリフとの再会

 カミュは廃屋を後にして、ミダス三番街のカイザス工房へ向かった。

 五年程ミダスで暮らしていたが、三番街は職人たちの店が多く、あまり出向いたことはなかった。

 カイザス工房はすぐ見つかった。

 看板は鎧の上に剣と金づちが交差して描かれており、その上に屋号であるカイザス工房の名が刻まれていた。


 ドアを開き中に入ると所狭しと武具が置かれている。

 閉店間際だと思われるのに、店内には武具を見ている人が大勢いた。

 奥のカウンターで中年の恰幅のいい女性が店番をしている。


「いらっしゃい、何かお探しかい?」

「すみません、買い物じゃなくて人を訪ねてきたんです。クリフいえクリフォードさんはいらっしゃいますか?」

「おや、クリフにこんな別嬪の知り合いがいるとはねぇ。あの子も隅に置けないねぇ。呼んでくるからちょっと待ってな」


 女性はカミュを残し店の奥へ入っていた。


「クリフ! あんたにお客さんだよ! 赤い髪の美人さん!」


 店の奥から何かが倒れる音と男性の罵声が聞こえる。


「クリフ!! いくら美人が会いに来たからって、道具を粗末に扱うんじゃねえ!!」

「すんません! 親方!」

「客を待たせんな、早くいってこい!」

「はい!!」


 バタバタと足音がして店の奥から青年が顔を出す。

 背が伸びて体もたくましく成長しているが、人懐っこい顔は変わらない。


「久しぶりね、クリフ、背が伸びたわね」

「久しぶり、カミュ。……君はとても綺麗になったね」

「あら、ずいぶんとお世辞がうまくなったのね」

「お世辞じゃないよ、本当に綺麗になった」


 クリフが真面目な顔で言うので、カミュは少し顔を赤らめた。


「きょっ、今日は相談があって来たの、ここじゃ何だから外で話せない?」

「わかった。もうすぐ店の営業も終わるから……そうだな斜向かいの酒場、木漏れ日亭で待っててくれ」

「木漏れ日亭ね、わかったわ」

「すぐ行くよ」


 クリフは店の奥に引っ込み代わりに先ほどの女性が出てきた。


「あわただしくて御免なさいね。戦争の影響でうちも結構いそがしくてねぇ。もうすぐ閉店だからすぐ向かわせるよ」

「いえ、わざわざありがとうございます」


「クリフももうすぐ十八歳になるのにちっとも女気がなくて、心配してたんだよ。こんな綺麗なお嬢さんが知り合いにいるなら安心だね。で一体クリフとはどういう仲なんだい?」


「クリフとは友達で……」

「友達って言ったって、男と女なんだちょっとぐらいあるだろ?」

「いえ私は……」


 女性の勢いに押されカミュがあたふたしていると、着替えを終えたクリフが出てきた。


「女将さん、そのぐらいにしてやってよ。カミュが困ってるよ」

「あらそうかい。でもお似合いだと思うんだけどねぇ」

「行こうか、カミュ。女将さん、ちょっと出てきます」

「はいはい、行ってらっしゃい。じゃあまたねカミュちゃん」

「はい、お邪魔しました」


 クリフと二人で店をでて木漏れ日亭に向かう。


「助かったわ」

「女将さんはすごくいい人なんだけど、話し出したら止まらないんだ」


 木漏れ日亭に入り二人は奥のテーブル席についた。

 店内は落ち着いた雰囲気で、時間が早いせいか客もまばらだ。

 二人はエール酒を注文し、酒がテーブルに置かれしばし沈黙が流れた。

 クリフは真剣な顔になり少しためらった後に口を開いた。


「ジョシュアさんのこと、聞いたよ。大変だったな」

「うん……」


 再びの沈黙の後、空気を変えるように明るい口調でクリフが言う。


「で、相談ってなんだい?」

「実は、剣の事なの」

「剣?」


「ねぇクリフ、一般的な鉄の物よりも、もっと強い剣の作り方をしらない?」

「強い剣?」

「ええ、いまある技を練習してるんだけど、鉄の剣じゃ技に耐えられないのよ」

「う~ん、別の金属を混ぜれば、ある程度の強度は持たせられるけど……どんなことをしたいの?」


「鎧を切りたい。その鎧は普通の鉄の鎧じゃないみたいだった。それを切りたい」

「普通の鎧じゃない? 特徴はわかるかな? 色とか質感だけでもわかれば材質を特定できると思う」

「色は黒で、でも塗ったとかそういう感じじゃなかっわ。宝石みたいな透明感をもった黒」

「宝石みたいな透明感……多分だけど黒鋼だとおもう……まさかカミュ、黒鋼騎士団に復讐するつもりか!?」


「そうよ」

「何を考えてるんだ! 相手は軍隊だぞ!?」


 二人は押し黙り互いを見つめた。

 先に目を逸らしたのはクリフだった。


「カミュは昔から一度言い出すと聞かないからな。わかった協力するよ」

「ありがとうクリフ」

「でも無謀な戦いは容認できない。きちんと作戦を練るんだ」


 クリフはカミュを見つめそう語った。


「分かったわ。今はまだ思いつかないけど方法を探してみる」


 その言葉を聞いてクリフは笑顔になった。


「よし! じゃあ剣に話を戻そう。団長ジャハドの鎧はおそらく黒鋼で作られている」

「黒鋼って?」

「黒鋼は大陸の北で産出される希少金属さ。鉄より強固で軽く粘りがある、武具を作るには最適の素材だね」


「じゃあ同じ黒鋼で剣を作れば、切ることは出来るってこと?」

「それは可能だと思うけど、素材が手に入らないよ」

「何故?」

「黒鋼は主にエディル帝国で産出されるんだ。戦争前は少しはこっちにも流れてきてたみたいだけど、戦争が始まってからはほとんど見ることはなくなった」

「そんな……。他に強い剣を作る方法はないの?」


 カミュはいきなり道が閉ざされたように感じ落胆した。


「緑光石って鉱石で作った剣は、鋼鉄の鎧を真っ二つにしても刃こぼれ一つしなかったって、何かの文献で読んだ記憶はあるけど」

「それを見つければ強い剣が作れるのね!」

「そんな簡単な話じゃない、そもそも緑光石自体あるかないかわからないんだ」


「その文献はどこで見たの?」

「確か店にある鍛冶関係の本のどれかだと思う」

「お願いクリフ、その石について調べて」

「協力するって約束したからな。出来る限りのことはするよ」

「ありがとう」


 その日は食事をしながらお互いの近況を話し、クリフにお勧めの宿を聞いて解散した。

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