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3話・デート? いや、それとも。

 流星群のあの日、勘違いと奇跡が起きた日の次の日からキャッタは毎日ラクレットの家を訪れて、料理を作ってあげていた。


「えっと、お味……いかがですか?」


 キャッタは、何処か不安そうに自らの作った料理を差し出す。


 ラクレットに料理を作り始めてから数日、いくつか分かったことがあった。


 キャッタの作った料理とはいえ、一部食べられないものもあるということ。そして、大体その場合、キャッタの作った料理が、そこまで手を加えていないものであること。


 たとえば、サンドウィッチ。


 中身をキャッタが作ったとしても、パンが買って切っただけのものならば、パンが地獄のような不味さを発するので、そのサンドウィッチとても食べられるものじゃなくなる。


 中の具材も切っただけだったりした場合、目も当てられない。だが、その反面、炒めたり、煮たりすると、簡素に作っても、食べられる料理が出来るということ。


 詰まる所、簡易的でもキャッタが料理したといえることが大事である。それが分かった。


 他にも、どんな料理は良くて、どんな料理がダメなのかを知るために、色々と料理をさせている。今日は漬物だ。その色は、微妙に茶色がかっている。


「いただきます」


「は、はい」


 ラクレットは、恐る恐る漬物を口に運んだ。


 食べられると思って口にしたら、いつものように異界が広がった。そのような事を何度か経験したラクレットは、初めて口にする料理には恐怖を覚えるようになっている。


 キャッタの作った料理は期待している分だけ、よりその恐怖は大きい。


 そう、希望と絶望は隣り合わせなのだ。


 漬物が口に入ったその瞬間、漬物とは思えないほどの強烈な甘みが口に広がる。

 もしかしなくても、塩と砂糖を間違ったはずだ。それに、妙に脂ぎっている。こっちは、あまりにも有り得ないことなので、本当にもしかしてなのだが、全然酸味を感じないあたりから察するに、酢と油を間違えた可能性がある。


 つまり、感想はこうだ。


「美味い!」


 実のところラクレットの味覚は、もう既に十分なほどおかしくなっていたのだった。


 もはや、食べ物の味であれば何でもおいしく感じてしまう。


 見た目と味が合っていないなんて程度の事は、もう二年も経験している。彼にとって重要なのは見た目ではなく、味なのだ。それも、食べ物で表現可能な味の範囲だったらば、どんな味でも美味しく感じるほどに味覚が壊れている。


 だから、漬物の見た目をしていて、味がギトギトの激甘だとして、それは美味しいもの。それも、最高のランクに部類されてしまう。


 控えめに言っても、キャッタに料理の才能はない。


 むしろ、逆方面に才能が突っ切っていると言えるほどに、料理の才能がない。料理を作らせてはいけないタイプの人間だ。だが、本人が味音痴なのと、ラクレットが美味しそうに食べるものだから、勘違いをしてしまい、ここ最近は自分の料理に自信を持つようになった。


 だが、それも仕方のない事だ。


 キャッタには今まで自分に自信を持てることなど、一つもなかった。そんなキャッタが、自分よりも、いや、ごく一般な人々よりも上の位の人に認められれば、当然、自信を持つようになる。


 キャッタは、一安心とホッと息を吐いてから、満面の笑みをラクレットに向けた。


「ありがとうございます」


 むしろ感謝したいのはこちらの方だ。ラクレットはそう思う。


 だが、満面の笑みでお礼を言われるのに悪い気はしない。むしろ嬉しい。ラクレットは、ここまで純粋な感謝と言うのは、ほとんどされたことがなかった。


 ラクレットはその膨大な力を持つが故に、魔界にいた期間はそれなりに長い。


 そこでは、何をしようと、基本的には純粋な感謝などされなかったのだ。


 虐げられている弱い魔族を助けても、その助けた者が人間ということで、どこかおびえた様子の感謝だったり、時たま見つける捕まった人間を助けても、そこは魔界であるので、これからどうすればいいのか分からないといった不安交じりの感謝だったりと、真っ直ぐで、純粋な感謝というのはあまりされたことはないのだ。


 いや、それが無かったとしてもキャッタの純粋さはとてつもない。


 まず普通に暮らしていれば、これほどまでに純粋な気持ちで感謝されるなんてことは滅多にないだろう。


 それに、キャッタの小動物的な可愛さは、他に代えがたいものがある。シキも黙って、キャラ作りでもしていれば、それなりには小動物感は感じられるのだが、彼女は言動がどうも小動物らしくない。それこそ、彼女の種族らしく、淫魔らしいと言える。


 ここ数日は我慢出来ていたが、我慢出来ずについに手を出してしまった。




「ひゃっ……」




 突然の事に、キャッタも声を上げてしまった。


 ラクレットは、キャッタの頭を撫でていた。


 ここ数日間、毎日このような感謝をされていたのだが、これがとてつもなく可愛く、自然と手が頭に伸びてしまいそうだった。それを必死に耐えていたのだが、今日、ついに、その頭を撫でてしまったのだ。


「え、えっと、これは……?」


 戸惑ったようにキャッタがそう言う。頭を急に撫でられたら、こういう反応をしてもおかしくないだろう。


「いや、つい……手が、伸びてしまってな。あー、おまえ、可愛いから」


「か、かわっ……」


 キャッタは実にうぶな少女であった。いや、そうでなくても、恋した相手に可愛いと言われれば、誰しもがこのような反応をするだろう。


 この数日、ラクレットと過ごす時間は少なくなく、その間に、より彼の事を好きになっていたのだ。


 キャッタは顔を真っ赤にして俯いた。それが、より可愛らしく見えたのか、ラクレットはずっと撫でていたい気分になった。だからといって、いつまでもこうしているわけにもいかないので、手をキャッタの頭から離して話を切り出すことにした。


「あ……」


 キャッタは少し名残惜しそうにしているのを見て、撫でたい衝動に再度駆られたが、なんとか自制し、口を開く。


「さてと、今日はいつものお礼がしたいと思っていたところだし、お前の作ってくれた料理を食べ終わってから、どっか出掛けないか? キャッタ」


 お礼としては、多すぎるくらいのお金は既にキャッタに渡してあるので、本当はその必要は無いのだが、どうしても、感謝しきれない気がしていたのだ。


 どうやっても食べられなかった、ちゃんと食べ物の味がするものを食べさせてもらったという恩を返しきれてい気がしていたのだ。


 それに対し、キャッタは、お礼としてのお金ですらも、十分を通り越して、二十分、三十分に受け取っている気がしていた。だから、こんなお誘いを受けたらば、こう思う。


「え? そ、それは、デートですか?」


 キャッタは、思ったことが自然と口から出ていた。


 それに対して、ラクレットは、少しふざけたように返す。どうも、目の前の小動物をいじらずにはいられなかったようだ。


「そうかもな、まぁ、デートとも取れるな」


 キャッタは純粋な少女である。そう言われたら、簡単に信じてしまう。これは、デートなのだと。


 キャッタは、いまだに、あの夜の事が告白であると思っている節がある。一応、ラクレットは説明したのだが、どうも微妙に伝わっていようにも感じられた。も


「は、はい、え、えっと、一旦帰って、じゅ、準備して……」


 ラクレットは、微妙に慌ただしくして部屋から出ようとしたキャッタを呼び止める。


「キャッタ」


「は、はひっ!」


 急に声を掛けられたので、驚き、少し飛び跳ねるキャッタ。


 実際は、そこまで急でもないし、大きな声を出したわけでもないのだが、デートという単語に、緊張してガチガチになっていたキャッタにはそう感じられたのだ。


「準備ってなんだ?」


「え、えっと……」


 それは、着替えとか、いろいろと女性的な準備を……と、までは、言うほど度胸がないのがキャッタである。

 シキがこの場にいたならば、ラクレットを説得して、キャッタを帰したのかもしれないが、女心のよく分からないラクレットは、キャッタの内心などつゆ知らず。

 その疑問を口にしていた。


「えっと、そ、その、き、着替えを……」


 キャッタは、とりあえずはそう言った。流石に色々と準備するなんてことは、はしたないと思ったのと、とてつもなく恥ずかしかったので、口が裂けても言えなかった。


「えっと、この服装でそのラクレットさんと一緒に歩くのは、えっと、その、不釣合いと思いますので、せ、せめて、一番マシな服でも着てこようかと……」


 もっともらしい言葉を並べてみるが、ラクレットには何も伝わらない。そんな彼は素で返答を続ける。


「なぜだ? 別に、一緒に歩いていてもおかしくない。大丈夫だって」


「え、いや、だって、その……」


 デートということで、キャッタはもっと可愛らしい服装で出掛けたかったのだ。なぜか、そこはラクレットに伝わった。でも、根本的なところは分かっていないのが、ラクレットである。相変わらず素で返答を返す。


 だが、それがキャッタの心にクリーンヒットした。


「ああ、心配するな。その服装だって可愛いぞ、キャッタ。それに、服だったら、途中で買えばいいだろ? お前に似合いそうなのをプレゼントしてやるから、このまま行こうぜ」


 こう言われてしまえば言葉を返すことは出来ず、キャッタは真っ赤に染めた顔を上下に動かす事しか出来なかった。


 基本的に、初心で純粋なキャッタは、こういうことを言われてしまうと、恥ずかしさや嬉しさなどの色々な感情が混ざった、よく分からない感情に頭を支配され、オーバーヒートを起こしてしまう。そうすると、顔を赤くして、基本的に首を振る事しか出来なくなるのだ。


 キャッタがそうして思考停止しているうちに、ラクレットはよく分からない色をした、謎の混沌炊き込みご飯と、油と砂糖で漬けられているギトギト激甘漬物を平らげていた。


「ああ、片付けは、シキがやってくれるだろうし、さっそく出発しようぜ、キャッタ」


 ラクレットは、キャッタの腕を取り、歩き始める。


 思考停止したキャッタは、コクリ、コクリ、と頷きながらそれについて行くだけであった。


 そうして、キャッタの思考力が戻る頃。二人は既に、ラビリンスの市街地、それも、高級店の立ち並ぶ街道にいた。


「え、えっと、あれ?」


「どうした? キャッタ?」


「い、いえ、な、なんでもないでひゅ……です……」


 キャッタからすればこの驚きは当然の事で、気が付いたら街中にいたのだ。それは、驚く。


「さて、まず、何から見ていく? キャッタ。好きな物とか、欲しい物とかあったら、言ってくれ、多分大体買えるからな」


「え、えっと、そ、それは……」


 そんなことを突然言われても、誰しもが困る。


 それが、キャッタならなおさら。デートで、求めるのは相手のみで、物品は思い出になるものが欲しいとは思っているが、何か好きな物を好きなだけ買ってもらうというのは、邪な感じがした。


 けれども、ラクレットの好意を断るわけにもいかず、躊躇いつつもキャッタは小さく返事をした。


「そ、その、ふ、服を……せめて、その、見た目だけでも、ラクレットさんに釣りあうように……」


 一言でキャッタを表すならば、『いい子』である。もちろん、その言葉は本音で、せめて、ラクレットと一緒にいても迷惑じゃない程度には、見た目だけでも良くしようと考えたのだ。


 しかし、この選択が、後の彼女自身を苦しめるとは思いもしなかっただろう。


 ここは、高級店が立ち並ぶ街道である。そこにある服屋が一般的な価格であるはずがない。そのことに、キャッタはいまだ気づかない。


「その、どうですか? 似合いますか?」


 キャッタは着せ替え人形と化していた。もちろん、ラクレットの。


 ラクレットが選んだ服を着ては、それを見せ、気に入ったらラクレットが購入リストに入れるということを何度も繰り返していた。


「おお、これも似合うぞ」


「は、恥ずかしいですけど……ラクレットさんが、こういうの好きならば……」


 今、キャッタが試着しているものは、ホットパンツと、かなり着丈の短いへそだしのトップスである。肌を露出させることになれていないキャッタは、その恰好がまるで下着姿のように感じられて、とても恥ずかしく思っていた。


 それに、何より、パンツはともかく、キャッタは、ブラジャーなどという物は持ち合わせていない。そもそも、そんなにお金に余裕はないうえ、胸もそこまではないので、気にしてはいなかったのだが、今、この時になって、初めてブラジャーを付けていないことを後悔した。なにせ、このトップス、少し動いただけで、服の中が見えそうなのだ。下からのぞいた場合には、きっと、普通に見えてしまうだろうし、上からだって、多分見えてしまう。現に、キャッタ自身の視点からだと、服の中身。その二つの小さなふくらみが見えてしまっている。


「え、えっと、もう、し、閉めてもいいですか?」


「ああ、じゃあ、次のやつに着替えて」


「は、はい」


 試着室のカーテンを閉め、一刻も早く着替えようと、急いで試着していたホットパンツと、へそだしブラウスを脱ぎ、ラクレットに指定された次の服に着替えた。たった今脱いだ、そのボトムズとトップスが購入リストに加わっていることも知らずに。


「え、えっと、これはいかがでしょうか?」


「むー、うーん、いいんだが、いいんだけどなぁ……」


 キャッタの着用している服は、緑に白の線が入ったジャージである。確かに、可愛いのだが、服のお蔭というよりは、キャッタそのものが可愛いだけで、むしろ服は足を引っ張っているようにも感じられた。


「まぁ、それは、保留だな」


「は、はい」


「次で、最後……みたいだな」


「そ、そうみたいですね」


 カーテンを閉じ、最後の服を手にする……それは、少し切るのに抵抗があった。だが、ラクレットが着てほしいと言うならと、キャッタは自分を鼓舞し、着替えた。


 着替えたには着替えたものの……カーテンを開けるのには、少し抵抗があった。なにせ、その恰好は、既に二つ前の露出多めの服以上に恥ずかしい物だったからだ。


「え、えっと、ラクレットさん」


「なんだ?」


「ちょ、ちょっといいですか?」


 キャッタは、カーテンから手だけを出して手招きした。


 ラクレットはそれに応じ、試着室に近寄って行く。


「えっと、少しだけカーテンを開けて覗いていただけますか?」


 これがキャッタの振り絞った、最大限の勇気だった。


 ラクレットが覗いたその先にはランジェリー姿のキャッタがいた。


「そ、その、恥ずかしいし、色々見えちゃっているので、あんまりじっと見ないでください」


 そう、キャッタが着ているピンクのベビードールは、物凄く薄い生地で出来ているため、中が透けて見えていた。普通なら下着が見えるぐらいなのだろうが、キャッタは下はともかく上は着用していないので、丸見えとなっていた。恥ずかしそうに両手を使って、隠してはいるものの、それでも、酷く恥ずかしいことに変わりはない。


「ああ、お前、ブラつけていないのか」


「は、はい、え、えっと、ひ、必要ないと思っていましたので」


 過去形なのは、もちろん、今現在進行形で必要だと思わされているからである。


「じゃあ、あとで、シキにお前に合いそうなの、セットで買わせておく」


「え、でも、それは……」


 流石に悪いと言葉を続けようとはしたのだが、ラクレットがその続きを言わせてはくれなかった。


「心配しなくても大丈夫だ、ああ見えてもシキはそう言うのには詳しいはずだしな」


 なにせ、淫魔なのだから。などとは言えないが、根拠はその通り、彼女が淫魔だからだ。きっと、下着なら彼女ほど詳しい人もいないだろうと、ラクレットは思っていた。


 キャッタに断りたい気持ちはあるものの、すっかり買うムードになっている以上、性格上、彼女は何も言うことが出来ず、流されるままにシキに買ってもらうことになった。


「さてと、なんか、気に入ったのがあれば、それに着替えてくれ、とりあえず、大半は購入リストに入れといたから、問題ないはずだし、好きなの着てくれ」

 と、そこで、キャッタは、初めて知った。ラクレットが複数服を買おうとしていることに。


「え、その、購入リストって……」


「ああ、俺がお前に似合うと思ったの片っ端から買うことに決めたから」


「そ、そんな」


「心配するな、金はいっぱいあるし、多分買えるだろう」


「そ、そうじゃなくて……」


 それは、キャッタの心臓にあまりよくない知らせだった。自分のために多く金を使わせてしまうのがひどく申し訳ないと思ったのだ。誰もが思うことであるが、これもまた、キャッタならば、人一倍そう思ってしまっている。


「じゃあ、俺、会計行ってくるな」


「いや、ちょ、ちょっと待ってください」


「ん? なんだ? なんか他に欲しい物でもあるのか?」


「そ、そうじゃなくてですね、えっと、ちょっと待ってください」


 キャッタは、とりあえず近場に合った灰色のチュニックとホットパンツを身に着けて、試着室の外に出た。


「その、会計には一緒に……」


「ああ、そうか、何買ったのか気になるのか」


「いや、まぁ、それもそうなんですけど」


 どちらかと言うと値段の方が気になるキャッタである。


「よし、じゃあ、付いて来い」


「は、はぁ……」


 購入リストを店の人に手渡し、会計をしてもらう。


 そうして、開示された金額は……キャッタはそこで気絶してしまった。


 見慣れないほどの桁が並んでいたのだ。キャッタでは想像できないくらいの金額が、そこには提示されていたのだった。


「きゃ、キャッタっ!」


「お、お客様っ!?」


 ラクレットは倒れるキャッタとしっかりと抱きとめ、椅子の上に寝かせた。


「お連れ様は大丈夫でしょうか」


「……ええ、とりあえずは。気絶しているだけのようですね」


「大変じゃないですか、どういたしましょうか、病院に……」


「いや、大丈夫です。たぶん、すぐ目覚めると思いますので」


 直感ではあるが、ラクレットはキャッタが大丈夫だと思った。実際は、これもラクレットの高い魔力感知によるもので、キャッタに流れる魔力が正常であることに無意識の内に理解したから、問題ないと分かったのだ。


「えっと、とりあえず、会計の金額ですが、これで足りるでしょうか?」


 ラクレットは、屋敷を出る際に適当にカバンに詰めて来た札束を少々乱雑に掴み、取出し、店員に渡した。


 その札束を見て、店員は驚愕した。


「足りるも何も、多すぎます!」


「え? そうなのか?」


 会計は普段シキに任せている上に、呪いの解除意外に目的もなく、趣味もないラクレットは自分で金を使うことがほとんどなかった。だから、金銭感覚がまるでなかったのだ。


「ああ、じゃあ、チップって事で。ああ、あとは運送料とか。そのリストの裏に描いて有るところまで、運んでください。じゃあ、お願いしますね」


 そう言い残し、キャッタをお姫様抱っこし、店を去ろうとしたが凄い形相をした店員に、先ほど出した札束の半分を返された。


「え? いや、遠慮しないでくださいよ」


「遠慮じゃないんです。本当に。その、もう、これだけでも、十分なんてものじゃないんで、本当に勘弁してください」

 と、押し付けられるように、半分を返された。


 それもそのはず。ラクレットが出した金額はとんでもないもので……小貴族の全財産の2~3倍の金額であった。


 ラクレットの出した札束が、もしも一般的に使われている百ギリー紙幣ならば、こうはならなかっただろうが……ラクレットの出した札束を構成していたのは、単位が大きすぎるため扱いづらいとのことで、まず流通していない一万ギリー紙幣だったのだ。そんなものを札束で持っている時点でおかしい。保存用としてならともかく、まず持ち歩く物じゃない。それを見た店員は、ラクレットの存在そのものに恐れをなしていたのだったが、ラクレットはそれに気づく由もなく、不思議そうにしながら店を去るのだった。


 次からは、超VIP待遇になること間違いなしであった。


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