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第参話-SEA

 建設途中のビルの陰『工事中。島津建設』と書かれた看板の脇から外の様子を伺う。

 弐四の光学レンズを通して、影のある場所は明度調節されスーツの男が隠れていないか確認する。


 急に左手に冷たい指が絡まった。

 振り返るとユキが口を紡ぎながら嬉しそうに光学レンズを見つめていた。脈拍が急上昇している事を小さなポップアップウィンドが知らせる。更には弐四が『手の冷たい人は心が暖かい』という誰だか知らない人のブログタイトルを表示する。

 調子が狂う、そう思いながらも悪い気はしない。

 ユキの手を握り返しながら視線を戻す。ここを切り抜けなければ電監行きは確実だ。


 安全を確認してしれっと人混みに紛れる。

 ユキのミラージュは外部から解除出来なかったので、見られたら直ぐにバレるだろう。ならば人の海の中ならそれも誤魔化せると考えた。

 平然を装ってルートを進む。他人から見た二人は付き合いたての初々しい恋人にでも見えるだろう、そう考えると変な汗をかいてくる。弐四を通して発汗機能を抑えようとするがドーパミン、セロトニン、ノルエピネフリンが異常な数値を出している。ユキを握る手がかなり暑い。


 感情が目まぐるしく暴れて落ち着かない。が、十分も歩けば少しだけ落ち着いてくる、冷静になろうとした。今はまだ浮ついた気分になっていい時じゃない。


「サトルさん……!」


 喧騒の中ユキの声が耳元で聞こえた、指を差す方にはスーツの男。こちらにはまだ気付いて無さそうだが少しだけ姿勢を低くしてやり過ごす。

 だが、そんな安易な考えが白金の最新鋭に通用するはずは無く、視界に警告を知らせるマークとアラートが脳内で音を立てる。電子警察にしか許されていない犯罪者用脳電子追跡プログラムでポイントを付けられた事がわかった。

 弐四だから気付けたものの、こればっかりは外せない。

 ユキの方を一度見ると状況が分かっているのか、真剣な顔をしている。コクリと頷くと二人は同じタイミング走り出した。

 先程と同様に仮想障壁を弐四が作り出し、人は意識せずに道を開け突っ切る様に駆けていく。

 男達も同じ手は食わないのか人混みに揉まれる事無く付いてくる。目まぐるしく変わる視界と弐四の百近くの自動検索と無数のクラッキング行為、ルートの微調整に脳負荷が段々と重くなっていく。

 血管が膨張していく感覚、脳味噌に心臓がある様に脈打つ。合わせて痛みの波が襲ってくるが、片目を瞑って耐え走る。切れた血管から血液が鼻を通って流れてくるが直ぐに拭う。

 ユキの握る手がギュッと一段強くなると、少しだけ痛みが引いた。そして、自動検索が十数個完了し映し出されたのは監視カメラの映像、そこには二人とスーツの男達を捉えている。この過剰防護壁社会で多重防護壁のすり抜けをこの数分で行なってしまうのは異常だった。

 更にはミラージュと仮想障壁を敢えて何重にも張り、人の波をスーツの男達を巻き込む様に操作までしていた。


 いつしかルートは当初予定していた"秘密基地"から離れ旧東京駅に向かっていた。そろそろ二人の体力も辛く、足取りは重い。

 すると何度目かのルート変更により、六車線の太い通りに出された。弐四の意図は既に理解できなかったが今までの異常行動から信用するしか無かった。

 建物の中でも何でもない通りの真ん中で『目的地到着』の表示。


「はっ!? 到着? こんなとこでか」

「え? ここのどこが秘密基地なんですか」


 辺りを見渡すと、違法路上駐車で取締られた電子ロックの掛けられたカワサキの二輪電駆動車に目的地のマークが重なる。


「おいおい、……弐四、マジかよ」


 かといって迷ってる暇はない、背中のバックパックをお腹に回し諦めて跨る。電子ロックはものの数秒で外れ自動でスターターが回った。


「これに乗るんですかサトルさん!」


 キラキラさせながらユキが言う。ハンドルに掛かっていたヘルメットを渡すと嬉しそうに、笑って腰に手を回した。学生以来だが体は覚えてそうだ。

 男達の姿がミラー越しに見える。


「しっかり掴まってろよ! ホントに!!」

「オッケーです! ヒィィッ!!」


 ユキの言葉の途中でハンドルを全開まで回す、後輪は勢いよく路面を削り、青いテールランプの光を残して四輪電駆動車の群れに混ざっていく。

 視界には速度表記や残存バッテリーに姿勢制御とごちゃごちゃした表記が広がり、持主の趣味丸出しの革命少女のBGMとアイコンが踊り流れる。後ろではユキが呑気にリズムに合わせて体を揺らす。

 ルートは表示されているが目的地は定まっていない。人が多い所は今はダメだ。


「ユキ! 海と山どっちが好きだ!」


「えー! 何ですかー!」


「海と山! どっちが好きだ!」


「んー! 海ー!!」


「じゃあ海に行く!」


「やほー!! 海だー!!」


 弐四はルートを示す矢印にSEAと表示する。


 アップテンポな曲が多い革命少女は悪く無かった。


 ユキは鼻歌混じりで流れる景色を楽しんでいた。


 二人は光る街を駆け抜ける。


 サトルとユキが出会った今日は、もう数時間で終わる。

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