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Fabula de Yu  作者: モモ⊿
一章-アカデミー -
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第八話-あのジャック野郎によろしく-

よう、俺だ。

クロウだ。

突然だが、俺の家兼診療所はトライタン湖のすぐそばにある。

かなり大きいが遠浅の湖で、波はほとんど立たない。

天候も年間を通して落ち着いている為、キャンプをしに来た者達がいつでもそこかしこにテントを張っている。


俺はそこで生じる様々な事故で怪我をした人達や、少し南に行った所にある町の住民達の治療をしながら暮らしている。

大きな手術を何件もこなす設備は無いが、骨折などの大怪我でも応急処置をして大病院に移送するくらいは出来る。


それがクロウ診療所。

だがそれは表の顔だ。

地下には俺による俺の為の薬学研究所がある。

通称ラボ。


玄関に休診の札と近くの病院の案内図を掛け、俺は今ラボにこもっている。

それもこれもナオ(アイツ)が持ち込んだ厄介事のせいだ。

何でも、どっか遠くの方にしか自生していない毒草から作られた毒を解析して解毒薬を作れときた。

ナメやがって。

医療は慈善事業じゃねーって何度も言ってんのに。


まぁいい。

スパッと解毒してやって、ナオの野郎に治療代をたんまり請求してやる。


バタバタと走り回る音がする。

あの足音はサザナミだ。

普段ならうるせぇと怒鳴るところだが、俺が言った事の為に必要なんだろう。


「うわぁー!!先生ぇー!!」


上から何かを倒して色んなものが割れる音が聞こえるが、まぁ…よしとしてやろう…

三日メシ抜きで勘弁してやる。


ヨシキリは俺の隣の机で手伝ってくれている。

こいつは静かな奴だ。

だがテンションが上がると手が付けられなくなる。

ラボの物を壊した数はサザナミよりヨシキリの方が多い。


さて、サザナミとヨシキリの準備は出来たようだ。

俺?

俺はとっくに自分の準備を終えて、椅子に座ってコーヒーを飲みながら二人の様子を見ていたところだ。

手伝えばいいじゃないかって?

馬鹿を言うな三枚におろすぞ。

俺の助手二人にしか出来ないから任せているんだ。

俺は監督しているだけ。


そしてここからは助手二人には出来ない事だ。

だから俺がやる。


サザナミが運んで来てくれたデカイ装置。

あらゆる薬や毒を解析してデータ化し、薬効や解毒の作用などを検証出来るスグレモノだ。

こいつに毒薬のサンプルをセット。

解析を始める。

どの程度の細胞破壊能力を有しているのか、その致死量は?など。

刃渡り三センチのナイフに塗られてたらしいが、それを放った奴の話では、そんなに少量でも三日で死ぬと言っていたらしい。

ならば少量でも致死量に至り、かつそれなりの即効性もあると言う事だ。


十八歳の近距離パワータイプの少年。

前衛を受け持つ事が出来るという事は、魔法や属性に対する耐性は高い。

その耐性を超えて、すぐに高熱が出たという。

体内の抵抗力の高さに救われたな。

そうでなきゃ俺に依頼が来る前にお陀仏だ。


「先生、解析が終わりました。主な毒素は三種類。アカニチン、キノーネ、クロシビンです」

「ご苦労、ヨシキリ。成る程な、こりゃーこの毒使った野郎も騙されたな?」

「その様ですね」

「どゆこと??」

「いいか、サザナミ。この毒は三種類の毒を混ぜ合わせただけの代物(しろもの)なんだよ。それに成分調整も全く行われてねぇ。ただ混ぜ合わせただけのせいで、全体の危険性はピカイチだが、毒素同士が反発してやがる。こんなパチモンを、遠くの森にしか生えてない毒草から抽出した、なんて嘘付いてばら撒いてる奴がいるって事だ。そいつを探すのは騎士団の連中に任せるしかねぇが、この毒は放っておくわけにはいかねぇ」

「各種の毒に対する解毒薬を使えば、中和出来るでしょうか?」

「多分な。サンプルで実験するぞ」

「はい」


三種類の毒に対応するそれぞれの解毒薬のデータを打ち込み、それをこのパチモンの毒に使用してみる。


「BINGOだ」


毒素同士が反発していたのが良かったようだ。

データ上では、解毒薬はそのままの効力を発揮し、毒薬全体を無毒化した。


「俺にかかればこんなもんだ。まぁ、キノーネやクロシビンを解析出来る施設なんてこの世界中探しても数ヶ所しかねぇから、俺を頼ったのは正解だったな」


『ピーンポーン』


「あん?」


休診だって書いてあんのにチャイムが鳴りやがった。

よっぽどの大怪我か、字が読めないバカか、それとも…


「サザナミ、ヨシキリ、見てきてくれ。ケガ人だったら呼んでくれるか」

「はーい!」

「分かりました」


さて、その間に俺は解毒薬があるか確かめておくか。

ウチに無ければ、近くの病院に行かなきゃならん。


薬というモノは使い方を間違えると、良薬が毒薬になる。

世界的に有名な鎮痛剤であるモルヒネは、ガンやその他の重病が引き起こす痛みを和らげる作用がある一方、ケシを原料とするアヘンから精製される。

優れた鎮痛剤ではあるが、極めて依存性が高く、危険なシロモノだ。

どっかの国とどっかの国がそのアヘンを原因とした戦争を起こし、戦敗国には敗残兵や薬物中毒者などで溢れかえる、見るも無残な光景が広がったそうだ。


と、そんな話はどうでもいい。

つまり、使う奴によっては毒にも薬にもなっちまうってこった。


さてコーヒーでも飲もう。

…それにしても遅いなあの二人。


『ピーンポーン』


「あ…?」


あの二人に対応させたはずだが…?


「はーい?」


俺が地下から上がって玄関を開けるとそこには、揃いの制服を着た軍人っぽい奴らが立ってた。

その先頭に立ち、一人だけ赤い軍服を着た奴がニコニコしながら話しかけてきた。


「初めまして。クロウ先生ですね?」

「…あんたらは?」

「私どもはバルーバ帝国軍において特殊な任務を専門に請け負う部隊であります。その任務の一環としまして、本日はクロウ先生に是非ご同行頂きたい案件がございまして、こうして訪問致しました。私どもの車を用意してありますので、こちらへ」

「おいおいちょっと待て。こっちの都合はガン無視か?アンタらの対応の為にちっこいのが二人来たはずなんだが、そいつらはどうした?」

「あぁ、あの子達も大人しく車に乗ってくれていますよ。さぁこちらへ」

「ふーん?そうか。じゃあ車までは行ってやる。あいつらを降ろしたら帰ってくれ。付いて行くつもりは無い」

「…いいでしょう。ご案内します」


こいつの笑顔、一瞬凍りついたな。

最初からどっからどう見ても怪しい奴らだが、これで確信した。

それに今日か明日にはユウとかいうガキ達が着く。

解毒薬の準備も出来てないし、とっとと片付けちまおう。


「なぁアンタ。帝国軍の部隊ってのは本当か?」

「えぇ、そうですよ。栄えある皇帝陛下直属の部隊です。要人警護などを主に」

「ちょっと待った」

「…はい?」

「皇帝直属の部隊だと?そんなモンは存在しねぇ」

「帝国民ではない先生が何故そんな事を知ってるというのですか?今年に入って新設された部隊なのですよ」

「そんなワケねぇだろ。今の帝国に皇帝はいねぇ。皇位継承権(こういけいしょうけん)を持つ次期皇帝はまだ二十歳にもなってないはずだ。帝国法では二十二歳を超えると成人と認められ、そこで初めて皇位を継ぐ権利が発生する。つまり、まだその次期皇帝には如何(いか)なる軍や部隊でも指揮権を持つ事はあり得ない。そうだろ?つまらねぇウソはやめとけ。分かったらさっさとウチのガキ共を返せ。殺すぞ」


「驚いた…!こんな田舎で隠遁(いんとん)生活を送る変わり者が、我が帝国の事情にそこまで詳しいとは。では正直に申し上げましょう。先程の話は大嘘でございます!我々はあなたを帝国へ連れ帰るという任務を受けました。その為に様々な部隊から手練(てだ)れの隊員を集めたのです。先程あなたは殺すぞと言いましたがそれはこちらのセリフです。さっさと言う事に従いやがれ、テメェこそ殺すぞ」


「はっはぁ!!本性出しやがったな大根役者が。おいサザナミ!ヨシキリ!!聞こえてんなら俺のとこまで来い!!」


「無駄だ。ウチの隊員が拘束を」

「ぐぁっ!?」

「ガハッ!!」

「なに!?」


診療所から少し離れた駐車場から、二人分の呻き声が聞こえた。

おそらくあの二人が拘束されていたのは本当なんだろうな。

だが、ただの人間にどうにかなる二人じゃねぇんだなーこれが。

ガサガサッという音と共に、二人が上から降ってきた。

ヨシキリは綺麗な着地をしたが、サザナミはコケた。

カッコいいはずなのに、残念だ。


「お待たせしました先生」

「イタタ〜!あ、お待たせしましゅた!」

「噛んだ」

「うるさいヨシキリィ!」


そんな会話を交わしている間に、他の軍服共が駆けつけて来た。

その中の二人は腕と腹をそれぞれ押さえている。

二人を拘束していたのだろう。


「おう、お前ら。この人達が遊んで欲しいそうだ。多少なら()()()()()()から、遊んで来い。先頭のあいつは俺がやる」


「やったねヨシキリ!遊びの時間だ!」

「うん。記録によると三年前の()()()()()()()()()以来だ。遊ぼう、サザナミ」

「うん!いっくよー!!」


俺の横で準備運動するかの様に二度ほどジャンプしたサザナミの姿が消える。


「ゴフッ!!」


サザナミが次に姿を現した地点には軍服野郎が一人立っていたが、サザナミの拳によって吹き飛ばされて数メートル先の木に激突、地面に落ちて動かなくなった。


「なに…?」


「よーっし!ドンドン行くよー!」


次々とサザナミに吹き飛ばされていく軍服達。

腕や武器で防御を試みるも、そんなのお構い無しに吹き飛ばされていく。

ある者は木に、ある者は自らが乗って来た車にぶつかり、またある者は木立を抜けてトライタン湖の湖面を漂っている。

その全ての者はピクリとも動かない。


「くっ!何をしている!もう一人のガキを盾にしろ!!」

「はいっ!!」


指揮官である赤服野郎に声を掛けられ、ヨシキリを捕らえようと手を伸ばした軍服。

その手が、腕ごと変な方向に曲がった。

悲鳴を上げて転がる軍服。


「僕に気安く触らないでください」


ヨシキリを捕らえようとする他の数人も、腕や足を変な方向に曲げられて悶え苦しんでいる。

それもヨシキリが相手の腕や足に触れる事なく。

ただその方向に手を動かしただけで、何かに弾かれたかの様に腕や足が曲がる。


「気を付けた方がいいぞー。ヨシキリはサザナミ程優しくないからな〜」

「こんな奴らに優しくする必要性を感じません」

「ま、その通りだ」


サザナミは力を司る。

その体を武器にして、殴る、蹴る、吹っ飛ばす。

威力は自分の意思でコントロール出来る為、普段の力仕事から相手を吹き飛ばす荒事まで使い途は様々だ。


ヨシキリは知を司る。

その目は相対する者の魔力量や魔力密度を見抜き、防御が薄い部分を正確に見抜く。

そして自分の魔力を基にした不可視のエネルギー力場を両手や両足などの身体の各所に発生させて攻撃する。

その状態で相手の部位をなぞれば、力場によって弾かれ、衝撃に耐えられなければ、肉が沈み、骨が折れるのだ。

そう、今目の前で地面に転がっている奴らの様に。

こちらも普段は、大きな物や触れられない液体を浮かせたりなどをして上手に力を使っている。


「なんだこれは…こんな事をしてどうなるか分かっているのか…?」

「あ?先にバカな話を吹っかけて来たのはそっちだろうが。俺達を(さら)うつもりだったんだよな?だったら抵抗するのは当たり前だし、お前らにはそれを制する力が無かった。ただそれだけだ。残念だったなぁ」


最大限に唇を引き上げ、赤服をバカにしてやった。

思った通りにキレてくれたようだ。


「…死ね」


軍服の左右の(そで)からナイフが飛び出し、それを握って走って来る。

その速さは大したもんだ。

元々暗殺者だったのかもな。

普通の奴なら首を落とされて終わってただろう。

普通の奴なら。

俺が手を講じる前に俺と赤服の間に入った人影が二つ。

言わずもがな、サザナミとヨシキリだ。

二人のその手は、俺の首を正確に狙っていた赤服のナイフを一本ずつ受け止めている。


「な、なん…だと…?」

「砕け」


二人がそのまま手を握り締めると、大振りなナイフが脆くも砕け散った。

二人の手は無傷だ。


「どうなっている…何故私のナイフが素手で…」


「素手は素手だがな、ただの手じゃねぇんだよ。この二人は三年前に滅びた魔導大国リィンバースの忘れ形見だ。当時あの国が最新鋭の技術を注ぎ込んだアンドロイド。それがこいつらだ」


「ア…アンドロイドだと…?それは我が帝国でもまだ理論上のものでしかないのに、何故それをお前如きが所持している!?」


「おい、こいつらをモノみたいに呼ぶな。確かに機械の体だが、こいつらの中には人格も感情もある。人を誘拐しようとするクソ野郎であるお前らよりもっとマシな人格がな」


「クッ…そうか、なるほどな…この二人がいなきゃ何も出来ない訳か」


「見え透いた挑発だなぁおい。万策尽きたか?まぁいいぜ?その挑発に乗ってやる。二人ともちょっと下がっててくれ」


「はい」

「はーい!」


「ふん、お前自身に私を退けるだけの実力があるとは思えんが…?」


「あぁ、倒せはしねぇだろうな」


「だったらどうするつもりだ!?私は後ろで転がっている者達ほど弱くはないぞ!?今からお前達を黙らせて…」


「うるせぇ」

次元(ディメンション)断裂(ティーリング)


「やr……?」


ゴロリと転がり落ちる赤服の首。

体は力を失ってグニャリと崩れ落ちる。


「黙るのはお前だけだ。倒すとかなまっちょろいもんで終わらせる訳ねーだろうが。サザナミ、()()()()()は奴らの車に放り込んで来い。ヨシキリ、その車ごと燃やして灰にしろ。それが終わったら二人で気絶してる奴らの回収。森の入口のデカイ木に縛り付けて放置しろ。軍には俺が通報しておく」


「はーい!そういえば先生、その腕使うのって久しぶりだね!」


「ん?あぁ、そういやそうだな」


表面を波立たせながら普通の腕に戻っていく俺の腕。

肘から先をメスの様な形に変えて、赤服の首を飛ばしてやった。

物理的に斬ったわけじゃなく、首と胴体の間にある次元を切り取った。

だから自然と二つは別れ落ちたってワケ。


赤服のその顔は自分が何故死んだか分からないといった疑問の表情を浮かべたままだ。

自分が負ける事を考えられないヤツってのは幸せ者だな。



俺はアイツらとは違うタイプのアンドロイド。

流体金属とでも言えばいいかな。


鉄鋼以上の強度を誇るが、自在に形を変えて衝撃をいなす事が出来る特殊な身体をしている。

元々俺はこの世界にはいなかったんだが、俺の世界が滅びる際にナオの野郎に連れて来られた。


「君はこっちの世界にいた方がいい」


とかなんとか言って。

そのままナオの学院に通ったり、帝国内で医療を学んだりして過ごしてきた。

覇権戦争はつまんなかったから関わってねぇが。


リィンバースには世話になった時期があったから、あの国の崩壊の兆しが見えた頃からあそこに住んだ。

そしてあの崩壊の日、瓦礫に埋め尽くされた中心街の研究所跡地からあの二人を拾えたのは運が良かった。



さて、後の処理は二人に任せたことだし、俺は解毒薬の準備に勤しむとするか。


明日にはガキどもが着くからな。



おっと、その前にコーヒー飲も。



クロウの流体金属は、ター○ネーター2の敵を思い浮かべてください。

それです。

知らない人は「T-1000」ってググって動画を見てみてね。


はい、クロウ達は普通のヒトではありません。

ですが、人です。



今回も読んでくれた人に感謝を。

ではまた。

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