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Fabula de Yu  作者: モモ⊿
一章-アカデミー -
8/43

第七話-雷神と雷閃姫-

前回から数ヶ月経ってしまいました。

お待ちいただいた方、すみません。

ありがとうございます。

-------



正直、この人とは戦いたくなかった。


私は覇権戦争が開戦する少し前に士官学校を卒業し、そのまま戦時軍へと組み込まれた。


運良く武勲を上げて昇進を重ねて行った結果として、運悪く多くの戦場を渡り歩く事になってしまった。

そんな日々の中で、ただ一度だけ見て今でも忘れられないあの光景が、今対峙している男が作り出したものなのだ。


一般市民にまで(正確には違ったが)手を出そうとしているこの男の所業を見て、今は怒りに燃えている。

だが、やはり勝てるかどうかはわからない。


魔力により伸縮可能な柄を持つ巨大なハンマー、ミョルニル。

振り回す度に暴風が発生し、地面に振り下ろす度に雷撃が(ほとばし)る。

そんな様子から彼に付いたあだ名が【雷神】というものだった。

ピッタリ過ぎて笑えない。


彼の魔力属性は雷。

触れたものを焦がし尽くし、その速度は全属性中最速。

まさに敵対する相手を(ほふ)る為にあるような属性だ。


そして、私の魔力属性も雷。


雷と雷がぶつかり合うとどうなるのだろう。

まさか、爆発なんてしないだろうか?という取り留めのない思考を続けている。

何度目かの攻撃をかわしながら。


私の武器は刀。

普通なら、重厚なハンマーの攻撃を受け止める事は出来ない。


なので今のところ防戦一方なのが癪だが、もう少しで私の魔力が溜まる。

そうすれば…


「オラオラどうしたぁ!!さっきから避けてばっかりじゃねぇか!!あの威勢はどこに行ったんだぁ!?」


横薙ぎに振り回されるハンマーの上を飛び、下をくぐる。

ほんの数センチ差ですれ違う暴威。


そして痺れを切らした彼が、振り回す速度を上げた。

咄嗟の事だった為に避け切れない、が、丁度良かったようだ。


金属と金属のぶつかり合う音が響く。

ベルジアントが力を込めて振り抜いた一撃を、私は手に持つ刀で受け止めた。

刀は電撃に包まれており、刀身に触れる直前のところで暴威の塊を受け止めていた。


「ほう…!」

「…待たせて済まない。私はスロースターターでな、やっと準備が終わったよ。ここから…反撃させてもらう!」



-------



瞬間、フレデリカの姿が消えた。

次の瞬間には、ベルジアントの後ろに立つフレデリカ。

その右腕が閃く。


「うぉっ!?」


一瞬前までベルジアントの首があった空間をフレデリカの刀が横薙ぎにした。

間一髪で避けたベルジアント。

体勢を崩しながらもミョルニルを振る。

その時にはフレデリカは高く跳躍していた。

中央の吹き抜け二階分を飛び、その天井に足を付けた。

そして、その姿がまた消えた。


再び響き渡る、高く鋭い金属音。

天井を蹴って加速したフレデリカの速く重い一撃をベルジアントはミョルニルの柄で受け止めている。

続いて発生したのは電撃。

フレデリカの刀とベルジアントのハンマー、その接している部分からお互いの属性である雷が迸り、それが外に溢れ出ていた。


バチバチという音を立ててお互いの力を押し付け合う。

だがそれも数瞬。

空中に体があったフレデリカはすぐに身を翻して着地。

そして地を蹴り、ベルジアントに迫る。


その速さはまるで雷のようで、蹴られた地面は黒く焦げていた。

その手に持つ刀は青白く発光しており、その刀身に雷の熱が宿っている事を示している。


その速さでもって次々と繰り出される連撃をベルジアントは正確に弾いていく。

隙を見てミョルニルを振り回すが、フレデリカはそれもかわしていく。

その速さと、隔絶された実力差により、誰も手出しなど出来ない。


二人が身を離したタイミングでベルジアントが口を開いた。


「正直言ってお前さんがここまでやるとは思ってなかったよ。なぁ、雷閃姫(らいせんき)フレデリカ。こうして直接戦うのは初めてだな。オレは何度かお前さんの戦いを見ているんだぜ」


「ほう、光栄だな。雷神ベルジアントに褒めてもらえるだなんて。だが、その中身はあのベルジアント卿ではないのだろう?ならばその言葉も怪しいものだ」


「フ…まぁ聞けって。確かにあのベルジアントは死んだ。今この身体を動かしているのはこの頭に入った電脳であるオレだ。だけどな、オレはベルジアントが死んだと思わせない為に造られたんだ。他国に対する抑止力としてな。共和国との覇権戦争が終わっても、帝国はあちこちに戦争を吹っかけてる。つい数年前にもあの魔術大国リィンバース滅ぼしただろ。そういう国は他にもある。その中には反乱分子が残ってる国もあって、ベルジアントとしてのオレはそこに視察団として送り込まれるワケだ。反乱分子としてはカモだわな。そこでオレを仕留められれば帝国に打撃を与えられる。だが、それは叶わない。オレは強いからな!!」


胸を張って笑いながら話すベルジアント。


「…自慢話か?」

「あぁ、そう取ってもらって構わんぞ?事実、オレが造られてからこの身体に傷ひとつ付いた事が無い。

「私が知っているベルジアント卿も傷ひとつ負わない強者だったがな」


「だから聞けって。その強者ベルジアントをこれからも生きている事にする為にオレは造られたんだ。言うなれば帝国の為だ。そんなオレをここでお前が殺していいのか?」

「なに、殺しはしないさ。貴様と部下もろとも捕縛して、帝国軍へと引き渡す。そうすれば貴様らの悪巧みはおしまいだ」


「それはどうかな…?」

「なに?」

「まぁいいさ!だったら見事にオレを捕らえてみるがいい!!」

「そうさせてもらおう!」


同時に地を蹴る両者。

部屋の中央で雷撃が閃く。

互いに一歩も引かず、刀を振るい、ハンマーを打ちおろす。

身体へのダメージは少しずつ溜まっていく。

そして、何度目かの鍔迫り合いをお互いに身を引いて終わらせた二人は、次の一撃で決めようと力を溜め始める。


二人の体から湧き出てくる雷を帯びた魔力。


フレデリカの隙を突いてベルジアントの部下が攻撃を仕掛けるが、その身体を覆う魔力の雷撃をくらって吹き飛ばされていった。


そして、二人が共に、魔力を最大限に研ぎ澄ませ、自身最強の攻撃を繰り出そうとした時、部屋全体が閃光と衝撃に包まれた。


☆★☆★☆★☆


時は少し遡る。

ユウ、バナー、アサギが対するのは、かつて倒したロキの弟であるヴァーリ。

ヴァーリの手には、赤く煌めく三叉槍。


「行くぞユウとアサギ(おまえら)!こいつをぶっ飛ばしてこんなとことはオサラバだ!」

「そうだな、この薄暗さにはウンザリしてきたところだ」

「粘着質な兄弟にもね」


三人は自らの武器を出現させ、構える。


「コロス!!」


三叉槍による多彩な攻撃を捌きつつ、的確なダメージを与えていく三人。


通常、剣で槍に勝つ事は不可能だ。

リーチが二倍ある武器と相対する為には、二倍以上の技量を必要とする。

つまり、三人がヴァーリに勝てる道理は無い。

一対一ならば。

だが、一対一ではない。


ユウ達三人はお互いの動きやクセ、各々の武器による攻撃方法などを熟知している。

だからこそ、一糸乱れぬ連携が可能となる。

ヴァーリによる攻撃で三人も少しずつ傷を負うが、致命傷には至らない。

アサギとユウが弾き、空いた道筋を最短距離でバナーの拳が打ち抜いた。


「ガハッ!!!」


バナーの拳によって壁際まで吹っ飛ばされたヴァーリ。

口の端からは血が流れ出している。

対する三人も腕や足にいくつもの切り傷が付いている。


「どーうだ分かったかこの野郎!お前一人じゃ俺達三人には勝てねーんだよ!ヒャッハァ!!」

「何でアンタが悪役みたいになってんのよ!!」

「イッテェ!?その竹刀で叩くなよアサギ!」

「うるさい!」

「お前らほんと余裕だよな…」


「ククククク…たしかに、少しはやるようだ。あのバカを殺したってのも合点がいった。もうお遊びは終わりだ」


そう言いながらヴァーリは、二本目の三叉槍を取り出して左手で構える。

そして両槍を縦に回し始め、そのまま三人に近付いていく。

穂先が地面に擦れ、爪痕の様な痕が刻まれる。

いわば槍の刃による嵐。

その暴風域に入ったものは切り刻まれてしまうだろう。


「うっわ。当たったら痛いぞあれ」

「それはそうね」

「そうだな。だからバナー、頼んだぞ」

「おう!!って何でだよ!?」

「ほら来るぞ」

「あれ、試してみなさいよ」

「あれ!?あーあれか!!」

「あれって?」

「ちゃんと見てろよユウ!師匠(せんせい)との修行の成果だ!」


そう言うとバナーは歩を進め、身体に巡らせている魔力を両腕に集中させ始めた。


素戔嗚(スサノオ)-紅蓮の型-】


バナーの魔力の性質は炎。

その炎の輝きが両腕に集まり、形を成していく。

それは今までバナーが使っていた、拳を覆うだけのナックルとは違い、肩から指の先までを覆っている。

そしてその炎が消えた後には、紅く煌めく鎧が顕現していた。

バナーの魔力が、確かな質量を持ってバナーの両腕に装着されたのである。


「よっしゃ行くぞ!!」


獰猛な笑みを浮かべて走り出すバナー。

襲い来る槍の嵐に恐れもせず突っ込み、そして。


「なん…だと…!?」

「ハッハァ!!どうだこの野郎!!」


バナーは魔力の鎧に守られたその両手で、槍の穂先を完全に止めていた。

硬い岩盤で出来た床さえも削った槍の威力を完全に封じ込め、更に勢いまで止めてみせたのだ。


ヴァーリの動きが止まった一瞬を突き、アサギが側面から竹刀を振り抜いた。

その軌道は正確にヴァーリの胴を捉えており、ヴァーリは即座に槍を手放して後ずさった。

竹刀とは言うが、アサギの魔力で生み出したものなのでその硬度は鉄の棒に匹敵する。

ガラ空きの胴体をそんなものでぶっ叩かれれば、肋骨が折れてもおかしくはない。

事実、後退したヴァーリは床に膝を付いて動けずにいる。


「勝負あり、ね。大人しく降参して。これ以上の抵抗は無意味よ」


「クッ…クックックッ…こうやって、あのバカ兄貴も殺したのか?確かにお前らは強い。だが、この程度ならアイツがやられる訳ない…ククク…まだ実力を隠してる訳か…ならば、これはどうだ?」


両腕を広げて詠唱を始めたヴァーリ。

それと同時に、バナーが持っていた槍が赤く明滅しだした。


「なんだこれ!?魔力が奪われる!!」

「早く捨てろ!!」

「ダメだ!手が(ひら)けない!!」


「クククク…さぁ、絶望を味わえ!血脈の牢獄(ブラッディジェイル)!!」


ヴァーリが魔法名を叫んだ瞬間、三叉槍が紐のように形状を変化させ、三人を取り囲んだ。

そして足元から天井まで、赤い結界が形成され、その内部の魔力が急速に高まっていく。


「その結界はお前らの魔力を吸い取って、臨界に達したら爆発する!自らの魔力で焼き尽くされるがいい!!」


「おいまずいぞ!?本当に魔力吸われてるし!」

「俺の弓も剣も通じない!」

「くっそ!!」


「大丈夫だよ〜」


「えっ?」


焦る三人に、やんわりと声を掛ける人影。


「ユリさん!?」

「今助けるからね、三人とも!」


万物の(センターオブ)中心(ユニバース)!!』


ユリが魔法を発動させる。

すると、三人を囲んでいた結界が一瞬でヴァーリの元へ移動した。


「なにっ!?」


そしてそのまま、ユウ達三人とヴァーリの魔力を吸った結界は臨界を迎え、大爆発を起こした。

床から天井までを繋ぐ、魔力による爆発の柱。

本来ならそれは、対象者の魔力を吸い上げ尽くした上で発動し、抵抗する術を失くした者が燃え尽きるまでその暴威を振るうはずだったのだろう。

しかし、四人分の魔力を一気に吸収した結果として爆発の威力は凄まじいものとなり、それが直接触れた床と天井は耐える事が出来なかった。


ヴァーリが爆発に包まれた数秒後、天井が崩落を開始。

更に床が割れ、結界外に爆発が拡がったのである。


ユリが防御魔法を発動させ、ユウ達は無事だったが、老朽化した遺跡はそうはいかなかった。

壁や床、天井へと瞬く間に広がる無数のヒビ割れ。

更に地響きまで轟き始め、中央で戦っていたフレデリカとベルジアントですら、その成り行きを見守る体勢になっていた。


そして、遂に崩壊が始まった。

ヴァーリがいた壁際からどんどん崩れだしたのを見て、そこにいた面々は当然この場から退散する事になったのである。


「なんじゃこりゃ。ヴァーリ(あいつ)め、結局何がしたかったんだ」

「おい!逃げる気か!!」

「逃げなきゃ頭上の何トンもの土に潰されて終わりだぜ?俺はそんなのごめんだからな。この決着は今度だ!!おら!お前ら逃げんぞ!!」

「くっ!待て!!」


ベルジアントが気絶した部下を抱え上げ、その他の動ける部下達と共に一階部分の出口へ向かう。

追おうとしたフレデリカだったが、その眼前に天井部分の巨石が崩落して来たせいでそれは叶わなかった。


「チッ…!」

「とも!わたし達も!!」

「あぁ!行くぞみんな!!」

「はい!!」


フレデリカとユリ、マナとスカイはその身体能力で二階へと飛び上がる。

残されたヤージュ達四人だったが、ヤージュが自分の元に集まるように声を掛ける。


「行きますよ!捕まっててください!」


ユウ達三人が自分の体にしがみ付くのを確認したヤージュは、竜翼人(ドラゴニュート)の持つ特殊能力、有翼化を発動し、そのドラゴンによく似た翼を、広げて一気に飛び上がった。


「うおお!?」

「ヤージュ先生ハンパねー!!」

「ちゃんと捕まりなさいバナー!!」


騒ぐ生徒達を尻目に、そのままの勢いでフレデリカ達と同じく、二階部分の通路を飛び抜けて出口から脱出に成功した。



「ふぃー!危なかったなー!!」

「あぁ…!ヤージュ先生、本当にありがとうございます」

「とんでもない。正直言って、結構ギリギリでした」


謙遜しているが、実際にヤージュが居なかったら生徒達の無事な生存は難しかっただろう。


「しかし、大変な事になったな。あの森の中心部が崩落したせいで森の木々も、まるで流砂の様に土の中に潜り込んで行く。これではもうあの遺跡の調査は難しいだろう」

「そうですね。僕の父に、発掘調査をこの国のプロジェクトとして発足出来ないか掛け合ってみます」

「そうですね。僕もナオ様に話して、学院の研究員から人員を確保しましょう。もちろん護衛の部隊も含めて」


大人達が今後の話し合いをしている。

子供達はと言うと。


「ユリさん!あの魔法凄かったです!赤い結界がバヒュッてあいつの方に!」

「語彙力…」

「ああん!?」


「あれはね、本来は一体多数の戦いの場で、多数側に掛けられている補助魔法の効果を、少数側に移す為にあるの。そうすれば、数の不利を覆せるんだ〜」

「凄い…だからあの時、多数側だったわたし達から少数側だったヴァーリに、あの魔法の効果が移ったのね…」

「あ…ドラクロワの女神…?」

「ユウ、なんだそれ?」

「少しは真面目に歴史の授業を受けなさいバカバナー。この前やったばっかじゃない」

「まぁまぁ!説明ヨロシク!」


「まぁいいが…派遣戦争勃発の数年前、ドラクロワという小国を呑み込もうと帝国が戦争を仕掛けた。お目当ては、その国に伝わる武具。なんでも、遥か昔の創世の女神達から授かった神代(かみよ)の武具だったそうだ。剣を一振りすれば山が消え、盾を構えれば津波すら防ぎ、その鎧は火山に投げ込まれても傷一つ付かないと言われていたらしい」


「んなバカな…!」


「あぁ、実際帝国も半信半疑だったそうだ。ただ、ドラクロワの研究所が創り出す武具や兵器は当時でも最先端の技術だったそうで、その兵器廠(へいきしょう)を含めた研究所を、丸ごと自国に抱え込みたかったのではないかと言われている。そうして大国に呑み込まれんとする小国は、瞬く間に大国の支配下に置かれた。しかし、首都の陥落も目前となった情勢を覆していった、ある少女がいた」


「その少女がドラクロワの女神?」


「そう。少女が率いる部隊は首都を進発した後、小さい農村や町を解放しながら、共に立ち上がる国民達をまとめ上げ、遂に国内から帝国の勢力を一掃した。最後まで数の不利を物ともせずにな。その後はドラクロワと帝国の間に停戦が為され、技術協力の見返りに支配下に置かれないという協定も結ばれた。しかし、その偉大なる戦果を挙げた少女は、停戦合意が為された頃には姿を消していたそうだ。それ以後、ドラクロワでその少女を見た者はいない」


「で…それが…ユリさん…?」

「ユリ、あなたそんな事してたんだ」


ユウ、バナー、アサギ、マナに見つめられ、少し照れながらもユリは頷いた。

その頬は少し赤く染まっている。


「懐かしいなぁ。あの頃はね、ドラクロワのお姫様とお友達だったの。だから、その子を助けたくてつい…!」


笑顔で舌を出しながら答えるユリ。

その様子に、四人は力が抜けてしまう。


「それで、ユリ?伝説の武具っていうのは実在したの?」

「マナは相変わらず鋭いなぁ。伝説の武具(そんなの)は嘘。ドラクロワを守る為についた嘘が、逆に脅かす事になっちゃった。それが、わたしが頑張った理由の半分、かな」


はにかみながら話すユリをポカンと見つめる四人。

そこへヤージュ達が近付いて来た。


「皆さんお待たせしました。今後についての僕たちの話は終わったので、これより学院に帰還しましょう」

「よーっしゃー!やっと帰れるー!!」


帰れると聴いて騒ぎ出す生徒達。

車が置いてある所に向かって歩き出した。


その様子を見つめる人影には気付かずに…


「あ、森の出口じゃない?」

「イヤッホー!!暗くてジメジメした森とはオサラバだー!!」

「わーいわーい!」


騒ぎながらバナーとユリが走り出す。


「あの二人には物凄く近しいものを感じるわね」

「奇遇だなマナ。私もそう思っていたところだ」

「フレデリカ。あなたはもう少し共和国(こっち)に居るんでしょう?」

「あぁ。ナオ殿と会談があるからな。それが終わるまでは居るつもりだ」

「だったら、ユリをウチの学院で学ばせてみたら?」

「ほう、それはいいかもしれないな。私の部下になってからは常に私の側に居たから、あまり遊ばせてやれなかった。それが可能なら是非お願いしたい」

「うん。ナオのバカにはわたしから言っておくわ」

「バカ…あぁ、じゃあ頼む」



和やかに会話をしている各々。

そこに投げ込まれた小さな(やいば)


「危ないっ!!」

「えっ!?」


トスッという軽い音が聞こえた時には全員が、自分達に向けて憎悪を放つ者を認識していた。


「クソがぁぁぁ!!お前に用はねぇんだよ!!そこの女!!お前が俺をこんな風にしたんだ!!代償を払ってもらう!!」


喚き散らしながら槍を持ってユリに突進して行くのは、ヴァーリだった。

その姿は火傷や裂傷で血に塗れ、既に満身創痍なのが見て取れる。

最初に放ったナイフはユリを目標にして飛んで来たものだったが、ユリを庇ったバナーの右腕に刺さった。

その痛みに(うずくま)るバナーを、今度はユリが庇う。


だが、それを黙って見ている者達ではない。

其々がその凶刃を阻止せんと動き出していたが、その中でも最速を誇る者が、ヴァーリとユリの間に割って入った。


「いい加減にするがいい。お前の出番はもう終わりだ」


雷閃姫フレデリカはそう呟き、雷を纏うその刀を一閃した。


「ガッ…ハ…!!」


血を吐きながら倒れ伏すヴァーリ。


「安心しろ、命までは取らん。お前はあの組織に繋がる証人だ。だが、ユリやあの子達をつけ狙ったのは許さん」

「グッ…ククククク…」

「何がおかしい」

「あのナイフを受けたガキ…助からんぞ…!」

「なに?」

「帝国領の辺境地域の森に生えている毒草から精製した毒薬を塗ってある。保ってあと三日だろうな…クククククハーハッハッハ!!グァッ!!」

「黙ってろ」


「バナー!!おいバナー!!」

「しっかりして!わたし達を見なさい!!」

「うる…せえって…聞こえてんよ…」

「傷口とその周りだけ凍結させる。毒の周りを抑えられるかも」

「頼む!!」


マナが応急処置をしている間に、ヤージュが車を回して来た。

気絶させたヴァーリはトランクに縛って押し込み、そのまま州都マリーへ。

州央病院へと運び込まれたが、そこでも確たる治療法は見つからなかった。



バナーに充てがわれた病室で、首都ゼルコバに連れて帰るか、安静にさせておいた方がいいのか、などの話し合いがヤージュと医師達によって行われている。


「わたしがもっと気を付けていれば…」

「やめなさい、ユリ。たらればの話をしても仕方がない。今は待つしか出来ん」


病室の前の廊下。

暗い面持ちで待ち続けるユウ、アサギ、フレデリカ、ユリの四人。

そこへ、マナが戻って来た。


「マナ…どこに行ってたんだ?」

「ちょっとね。それより、ユウとアサギ。今すぐ出発の準備をしましょう」

「…え?」

「…何を言っている…?苦しんでいるバナーを放って学院に帰るとでも言うのか!?」

「落ち着きなさいユウ。あなたは一歩引いて、あらやる可能性を考えて動かないといけない立場。もっと冷静に、三手先の可能性を探るように心掛けて」

「…悪かった…落ち着いた方が良いのは分かった…だが、俺には今、何かを考える余裕は…」

「バナーの事なら大丈夫。偉大なる大魔導師サマが来てくれたわ」


静かな廊下に突然、コツコツと足音が響き出した。

暗い廊下の向こうから、ある人物が姿を現した。


「何を勿体ぶってんのよナオ!早く来なさい!」

「あ〜もうそんなにガミガミしないで。可愛い顔が台無しだゾ☆」

「キモッ!!」

「それは呼んでおいて叫んでいいセリフじゃないねぇ…」

「うるさい!アンタにはいいのよ!それより何しに来たか忘れた訳じゃないでしょうね!?」

「そんな訳無いでしょうが。私の大切な生徒の危機なんだ。これでも最大限飛ばして来たんだよ」


のんびりと話しながら病室に入って行くナオ。

不審者と思った医師達と、驚きながらも医師達を取りなすヤージュ。

そして、ナオがおもむろに詠唱を開始したかと思ったその瞬間、バナーを透明な膜が包み込んだ。


「ふぅ。バナー君の意識が無いからすんなり上手くいった」

「ナオ先生?これはもしや…」

「えぇ、ヤージュ先生。バナー君の時を止めました。まぁ正確に言うと、止まってるのと同じくらい、この膜の中の時を遅くしたっていう事なんですけど。これでかなり時間を稼げる。その間にユウ君、アサギさん、私の知人のヤブ医者の所に行って、その人をここに連れて来てください。私はこの魔法を維持する為にこの場に残らなければなりません。詳しい場所はマナに伝えてあります」


「そういう事なら僕の車で」


「いえ、ヤージュ先生には学院に戻って貰わないといけません。学院長である私がここにいて、更に全学年主任のあなたまで学院に不在となると、他の先生達の負担が大きくなる。分かっていただけますね?」

「…はい。分かりました。では、後のことはよろしくお願いします」

「はい。私に任せてください。絶対にバナー君を治して、笑顔で学院に帰らせます」


ヤージュは捕虜としたヴァーリと一緒に学院へと帰っていった。

バナーを残していく事に後ろ髪を引かれていたが。


そしてユウ達はと言うと、マナの言う通りに出発の準備を進めている。


「それでマナ、詳しい場所はどこなんだ?」

「ここから車で二日程の距離にあるカタミラ州に行くわよ」

「車で?でもヤージュ先生は…」


『そこは僕にお任せください!』


「スカイさん!?」

「ここからは僕の車で行きます。さぁ早く行きますよ!」


会話しながら、病院の入口に向かう。

そこに停めてあったスカイの車に乗り込んだユウとアサギ。

ユウは助手席、アサギとマナは後部座席に座る。

アサギがドアを閉じようとした時、そこに乗り込んできた人影がひとつ。


「待って待って〜!」

「ユリ!何でアンタまで?フレデリカはいいの?」

「大丈夫!わたしのせいでバナー君がケガしちゃったから、わたしも力になりたいの!ともにそう言ったら、行っておいでって!」

「ユリさん…」

「さて、では行きますか!」

「お願いします、スカイさん。そういえばマナ、ナオ先生の知り合いの医師の方には、これから向かうって事は伝えてあるのか?」

「ナオが使い魔を送ったそうよ。こっちが着くまでに解毒の方法や材料などを特定して貰うようにお願いしておくってさ」

「そうか。帰って来たらお礼を言わなきゃな」

「バナーと一緒に、ね」





〜〜〜カタミラ州・トライタン湖の(ほとり)〜〜〜


「先生ぇ〜!クロウ先生ぇ〜〜!なんか来た!なんか来たよ!!」

「サザナミてめぇ!なんかって何だよ!?偏差値二かテメェは!!」

「でもなんか分からないんだってば!!」

「あぁん!?」

「あれは使い魔ですね。見た目の悪趣味さと、込められた魔力によるとナオ様のモノと推測されます」

「おう、ヨシキリ!お前は有能だな。アレ撃ち落とせ」

「ええっ!?何故ですか!?」

ナオ(あいつ)の使い魔が良い報せを持って来た事なんざねぇだろうが!またクッソめんどくせー話に決まってる」

「なるほど、確かにそうですが、もう遅いようです…」

「ん?」

「先生ぇ〜!この使い魔が手紙を持ってました〜!はいどうぞ!!」

「サザナミィ…!はぁ…まぁいいか、読むだけ読んでやるか。貸せ」


しばらく、手紙を読む音とサザナミが使い魔と遊ぶ音が響く。


「…ふむ」

「先生?手紙にはなんと?」

「やっぱりクッソめんどくせー話だった。だが、俺じゃなきゃやれないってんなら、やってやる。ナオの野郎に貸しを作るのも悪くねぇしな」

「それでは?」

「あぁ、準備しろテメェら。早速取り掛かるぞ。明後日にはナオの生徒がここに来る。それまでにこの毒の解毒法を探す!」


クロウの右手には小瓶が握られている。

ナオがバナーの傷口から僅かな量だけ吸い出し、小瓶に詰めたのである。

それを基に解析を始めるクロウ達。

いつも何かと賑やかな湖畔だが、今回は更に慌ただしくなりそうだ。



そしてユウ達は大切な仲間の為、新しい土地へ向かう。

必ず救うという決意を胸に刻みながら。

漢バナー、名誉の負傷。

ナオ先生がまたトンデモ魔法をサラッと使いましたが、あの人はああいう人なので追及しないでください。


謎の医師クロウと、その助手のサザナミとヨシキリ。

次話以降で活躍してくれる事と思います。


慌ただしいユウ達の旅はもうちょい続きまして、その後は学院祭とかやれたらいいなーと思ってます。


まぁ、本当にそんな風に運べるかわからないですけど。


それではまた。

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