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Fabula de Yu  作者: モモ⊿
二章-妖精王の帰還-
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第四十話-絶望-

(ニグラム)であるリドニスが喚んだ、(ルブラム)(イエルア)

この二体の悪魔が出現してから始まったのは、悪魔達による一方的な蹂躙だった。


ヤージュ達と一緒に突入した共和国兵も含め、戦おうとする者は五十名ほど。

その全てをあしらい、切り裂き、突き刺し、屠っていく。


フマイン、ヤージュ、スカイなどが攻撃を仕掛けるも、無駄だった。

最初は攻撃が当たり、リドニスに傷を負わせる事が出来る。

だが暫くすると、その傷は跡形もなく癒えていて、それまで当たっていた攻撃が当たらなくなり、そして反撃されて吹っ飛ばされる。

結果としてダメージが濃厚なのは攻撃を仕掛けた側という悪夢のような状況。


だが、それでも心は折れない。

故郷を取り戻すという強い意志のもと、戦い続ける者たち。

そんな彼らを助ける為にこの地に来た者たち。

この悪魔を倒さねば、目的は何一つとして達せられない。

心が折れる時は死ぬ時だ。


「お、らぁっ!!」


『チッ!』


「次はこっち!」


『グッ!?』


協力し、交互に攻撃して、反撃を受ける前に離れる。

そしてまた違う者が攻撃をする。

そんな子供だましとも言えるヒット&アウェイ戦法が悪魔たちに有効だったのは偶然だった。

魔界でそんな事をしてくる者はおらず、対する者は即座に叩き潰してきた身からすると、この戦法は初めて出会うものであり、すぐに対応する事が出来ずにいたのだ。


『チョコマカと、鬱陶しい!!』


手に持った赤い二又槍を用いて、大振りな攻撃を繰り出す(ルブラム)

標的だったアサギはスルリと身をかわし、空振りして伸びきった右腕をフマインが斬った。


右腕を押さえ、大きな隙が出来たニグラムに対しフマインが構える。


【奥義・天照(あまてらす)


普段は居合術を用いるフマインが、抜き身の刀身を大きく後ろに逸らす。

その刀身が輝き出した。

それはまるで真昼に中天で大地を照らす太陽の様に。

リドニスが張った結界内は薄暗く、悪魔召喚の為に出現した赤い魔法陣が禍々しく光っていて、それが大きな光源となっていた。

だが今は違う。

フマイン自身が太陽になったかのように、その場から闇が散っていく。


そしてその光の(つるぎ)は美しい軌道を描きながらニグラムの身体に吸い込まれていき、その身体を斜めに切り裂いた。


右下から左上に切り上げ、刀身を返して真っ直ぐ下に切り下げる。

右肩から足の付け根あたりまでを深々と切り裂いた天を照らす剣。


『ぐああああああ!!!』


「やった!!」


ニグラムは、フマインに切り裂かれた胴体から光を放ちながら爆散した。



同じ頃。



『コノ、クソ虫どもがぁぁ!!』


イエルアが用いるのは大きなハサミ。

一メートル半程の大きさのソレを、突き刺し、挟み切り、撫で斬りにする。

更にどういう仕組みかは分からないが、瞬時に二つの剣の状態に変化させ、間断なく攻撃を繰り出す双剣としても使用してくる。

非常に厄介な相手だった。


何人もの共和国兵士、ランドの部下である親衛隊員が倒れて行くなか、グラディオとアヤネがイエルアに斬り込んだ。


「一緒に来てくれとは頼んでないぞ」


「頼まれなくてもあなたが行くなら行くわ。それがわたしの道だもの」


「ふ。なら、我が道が尽きる迄ついて来てもらおうか!」


「ええ。こんな所では終わらない。決して!!」


クラウ・ソラスを掲げ、アヤネとの息の合ったコンビネーションでイエルアを追い詰めていくグラディオ。

二人の攻撃の合間に僅かに生まれる隙。

それに合わせて反撃を仕掛けるイエルアだが、それも大楯を構えたランドに阻まれる。


『チィッ!』


「はっ!!」


剣を受けた盾を使い、大きく弾いたランド。

左手が大きく後ろに逸らされたイエルアが、残る右手の剣を振り下ろす。

グラディオがそれをクラウ・ソラスで真正面から受け止めた。


一瞬の硬直。


グラディオの後ろからアヤネが飛び上がり、グラディオを飛び越えつつドリームライナーを大きくふりかぶり、頭上から振り下ろした。

鈴の様な音色を響かせ、イエルアの身体を縦に一閃。

驚愕の表情のまま、断末魔も上げずに塵と化したイエルア。


「よし!!」


「あとはお前だけだ、リドニス!!」


各々が手に持つ武器をリドニスに向ける。

ちょっとした邪魔が入ったが、最後の戦いの仕切り直しだ。


『ククク… ちょっとした邪魔、だと? どこまでおめでたいんだお前らは。 我らは魔界に君臨する五大貴族。

我らの他の二柱が消息を絶ち、覇権争いから降りて以降は我ら三柱がそれぞれのやり方で魔界を支配している。それこそ、お互いの利害が一致すればこうして共闘が出来るくらいには()()()、な。

魔界に暮らす数多の魔獣や魔族が、なぜ我らを王として崇め、従うのか分かるか?

我らが彼奴(きゃつ)らより強いからだ。

数千だろうが数万だろうが敵ではない。有象無象のクズども。数十万単位でやっと、飽きが来る程度。

かつての五柱の悪魔王たちは単体でそれら全てを叩き伏せる事が可能だったからこそ、王になった。

つまるところ我らは、無敵だ』


リドニスの背後に浮かぶ巨大な魔法陣。

鈍い光だったソレが、急に赤く輝いた。


「あれは…」


「まさか、そんな…」


『倒せたと、思ったか?』


『ハ。そんな訳ないだろうがゴミども』


魔法陣から現れたのはニグラムとイエルアの二体の悪魔。

フマインやグラディオが付けた傷は跡形もなく消え、完全なる状態で復活を遂げている。


「…あの魔法陣をどうにかしなきゃ勝てないって事か」


「だがどうやって」


「さぁな。今分かってる事は、このままじゃ俺たちは全滅するしかないってことだけだ」


唯一の救いは、敵が悪魔三体だけであるという事。

しかしその救いは、同時に絶望の理由だった。


『死ね。皆ひとしなみに。然すれば救いがもたらされる。我らは不滅。お前たち人間やエルフに倒す術はない』


戦列に戻ったニグラムとイエルア、そして空中から地面を睨むリドニス。

たった三体の悪魔を相手に、途方もなく長い時間が費やされた。

ある者は永劫を感じ、ある者は刹那で息絶えた。


一人、また一人と戦える人間が減っていく。


「このままでは…」


絶望に呑まれ、武器を手放す者もいる。

地面に倒れ伏す者も増えてきた。


ただ、そんな中でも希望を失わずにいる者がいた。


「ッラア!!」


イエルアの双剣に自らの双剣を叩きつけ、相手の目を自分に向けさせたユウ。


『ほう? この期に及んでまだお前のような者がいるか』


「当たり前だ。俺たちはお前たちを倒す為に来た。諦める訳には行かないんだ」


『フム。人間にしてはなかなか興味深い個体だな。よし、()()()()()使()()()()()()


「なに?」


イエルアがユウの双剣を弾いた。


「しまっ…」


そしてガラ空きとなった胴体へ向け、その大きなハサミを突き刺した。


「ユ…ウ…?」


「がはっ…」


呻き声と共にその口から出たのは大量の鮮血。

その血はユウとイエルアの立つ地面をドス黒く染めた。

そして、イエルアが姿を消した。

支えを失い、グラリと地面に倒れたユウの身体。

その中心にはイエルアの双剣が刺さったまま。


「ユウ!!!!!!」


一番近くにいたマナが絶叫しながら駆け寄った。

その異変に気付いたバナーとアサギも駆け寄る。


「血…血が…止まらないの…」


ユウの身体を抱きかかえるマナが、イエルアの双剣を抜き、自らの魔力を用いて傷を塞ごうとするが、大量の出血は収まる気配を見せない。


「私が!!」


アサギが光魔法にて治療を試みる。

だがその瞬間、ユウの全身から黒い影が吹き出した。

吹き飛ぶマナとアサギ。


「ユウ…?」


踏みとどまったバナーが呟く。

そして、ユウの身体から黄色いオーラが滲み出していく。


「なんだ…これ…」


そのオーラがユウの全身を覆った。


「ぐああああああああ!!!!!」


苦悶の表情を浮かべ、叫び声を上げるユウ。

バナー達はユウに駆け寄ろうとするが、噴き出すオーラに阻まれ、近寄ることが出来ない。


「がああああああああ!!!!!!!!』


一際大きくオーラが爆発し、戦場全体をその衝撃が駆け巡った。

そして、ユウが立ち上がった。

()()()()()()()()()()()()()


「ユウ…?」


「ダメだマナ。あれはユウじゃない」


「…何言ってんのよバナー。あれはユウよ」


「なら何であの黄色い悪魔は消えたんだ。何でアイツが持ってた剣をユウが持ってるんだ」


「それは…」


「おい悪魔。そいつの中は居心地いいか?」


『ク…ククククク…ああ、イイね。なかなかの魔力を持った人間だったようだな。これは、その女(マナ)との魔力回路か? 上手く使えんが問題ない。 今から我の魔力を流し込んでこの身体を掌握してやろう。 そして貴様たちはこいつの手にかかって死ぬのだ』


「そんな…ユウ…」


「…おいボケカスユウくんよ。お前、そんな奴に乗っ取られるほど弱っちかったっけ?」


『無駄だ。我が入り込んだ事により、この者の精神は奥深くに沈み込んだ。何も見えず、何も聞こえぬ暗闇にて眠りについているようなものだ』


「あぁそうかい。だったら簡単じゃねぇか。テメエをぶん殴ってオネンネさせりゃイイって事だろ」


『クハハ。やってみても構わんが、ダメージを受けるのはこの者、ユウの身体なのだぞ? 人間の身体はとにかく脆いから、我がオネンネする前に身体の方が先に死んでしまうかもなぁ』


「そんなヤワな奴じゃねえよ。なあおい!! そうだろうが、ユウ!!!」


バナーがユウに殴り掛かる。

ルブラムとリドニスは上空に浮かび、その戦いを見つめていた。

フマインやヤージュ、スカイも、バナーとイエルアの戦いを見ている。


形勢はイエルアが優勢だった。

それもそのはずで、イエルアは愛用のハサミの様な双剣で容赦ない攻撃を繰り出せるのに対し、バナーはユウの身体を気遣いながら攻撃をしなければならなかった。


『さっきの威勢はどうした?』


「るっせえ!!」


『手加減をして勝てるとでも思っているのか?』


「うるせえって言ってんだろうが!!」


『ハァ。ダメだなお前は。この期に及んでもまだ、お前も、仲間も、そしてこのユウという者も生きて帰れると思っているのだろう。そんな訳ないだろうがっ!!』


双剣を使い、バナーを弾き飛ばしたイエルア。


『もういい。めんどくさくなった。コイツを殺して、我が直々にキサマらを殺してやる』


スラリと双剣を構え、ユウの身体に向けるイエルア。

先ほど突き立っていた傷は塞がっていたが、イエルアは再びユウの身体の中心にその刃を突き立てようと、振りかぶった。



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