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Fabula de Yu  作者: モモ⊿
二章-妖精王の帰還-
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第三十八話-闇の宴-

時は、バナー達が玉座の間に至るより少し前に遡る。




悪魔軍が占拠するフロスタル王宮の正面に展開したのは、ヤージュとスカイが率いる共和国軍の精鋭・八百人。

対するは、リドニス配下の低級〜中級の悪魔が千五百体と、それを統率する将軍級悪魔(ジェネラルデーモン)が数体。

数では不利な共和国軍だが、仮にも数十万人からなる共和国軍の中の精鋭だ。

通常の人間の力量は超越していた。


魔法攻撃に長けた者(キャスター)弓術に長けた部隊(アーチャー)が後方に配置され、槍兵(ランサー)剣兵(セイバー)戟盾兵(シールダー)は前方を固める。


巨躯の悪魔や、武器を使う通常の悪魔は地上戦を好む為、王宮前の戦端が切られた瞬間から敵味方入り乱れる大混戦となった。

翼を持つ悪魔や、遠距離魔法を使う悪魔もいる為、それらへの対抗も必要であり、共和国軍の遊撃部隊が所狭しと駆け回っていた。


この場において、その遊撃部隊を指揮しているのはスカイだ。

ヤージュは空から戦場全体を見ながら本隊を指揮している。

その完璧な指揮に生じる僅かな隙間を遊撃部隊が埋める。

悪魔軍に対しては共和国軍が善戦している。

優勢であるとも言えた。


しかしそれも、この大陸を照らす西陽が海の彼方に沈むまで。

辺りが暗くなるにつれ、悪魔たちの力は増す。

そして、リドニスの影響力に惹かれてこの地に集まっているのは悪魔だけではなかった。


闇に沈んだ岩陰。

その闇の中からスルリと飛び出して来た蝙蝠(こうもり)

一人の兵士がその蝙蝠に気付く。

そして、その様子がおかしい事にも。

闇を見通す眼を持つ蝙蝠の眼球は、通常は黒い。

しかしその蝙蝠の眼は、あまりにも人間らしいものだった。

その不気味な眼と目が合った瞬間、蝙蝠は笑う。

獰猛な牙を隠そうともせずに。


そして次々と闇から出てくる蝙蝠が集まり、一人の人間の姿形を取った。


目はそれらしく顔に収まるも、牙の獰猛さはそのままに。

その男は、呆気に取られて声すら出せない兵士に飛び付き、首筋にその牙を突き立てた。


そこでようやく、近くで戦っていた兵士が異変に気付く。


「ヴァンパイアだぁぁぁぁ!!!!!」


血を吸い尽くした兵士をゴミのように捨て、口元を血で濡らし、恍惚の笑みを浮かべる吸血鬼(ヴァンパイア)

その後ろには、同じような黒いローブで全身を包む者達が並んでいる。


『今夜のご馳走は我らにとって最上のものとなりそうだ。この地の夜会は二百年ぶり。それも最後にして最大のもの。

吸血鬼の王(ヴァンパイア・ロード)たる私が、あの悪魔に代わって惨劇の夜に仕立て上げよう…』


「くっ! まさかヴァンパイアまでこの地に巣食っていたとは! 隊列を組み直せ!! 篝火を起こして闇を払うのだ!!」


ヤージュの指示を聞き、すぐに行動を起こす兵士たち。

炎の魔法を使って篝火を焚き、松明を手に持ち、自分たちの周りから闇を追い出していく。


闇の眷属であり、かつ、それに属する者たちの中で最上位に位置するヴァンパイア。

闇が深くなる程にその力は増す。


ならば対抗する武器となるのは光である。

兵士たちは火の光を味方に付け、超人たる身体能力を誇るヴァンパイアとの戦いを繰り広げ始めた。


悪魔と同時にヴァンパイアとも交戦を開始。

数では劣るが質で優っていた共和国軍だが、質の面でも互角とされてしまい、徐々に劣勢の色が濃くなっていく。


ヤージュはその身に雷電を宿し、槍を構えて吸血鬼の王と対峙する。


『ふん。音に聞こえし光の守護者か。相手にとって不足無し。今宵のメインディッシュとなってもらおう』


「嫌ですね。そっちこそ、明日の朝日に照らしてあげますよ。串刺しにして。串刺し公の名に相応しいと思いません?」


『串刺し公とは懐かしい。いかにも、私の名前はヴラド。夜の支配者たる吸血鬼の王。吸血鬼の王は私ただ一人だ。

…派閥争いという下らないことをしている悪魔たちとは、違うのだ!!』


ヤージュに躍りかかるヴラド。

ヤージュが繰り出した槍は正確にその胴を貫く軌道を描くが、ヴラドの手から出現した槍によってそれは叶わない。


激しく火花を散らしながら繰り広げられる槍術戦。

闇の中にありて、その火花は互いの顔を照らす。

片方は愉悦に口の端を吊り上げ、片方は憮然とした表情を崩さない。



ヤージュ対ヴラド戦が次第に熾烈になっていくのに呼応するかのように、戦場全体も混乱の坩堝と化していった。

悪魔もヴァンパイアも命を持つが、人間のそれとは在り方が違う。

彼らはこの世界に根付く命ではない為、致命傷を負い、命を散らしたとしても其々の命が根付く世界に還るだけ。

悪魔は悪魔界に、ヴァンパイアは幽魔界に。

この世界での身体は活動する為に必要なだけであり、中身が無くなった瞬間に崩れ落ちる。

つまり、()()()()()()()()()()()

しかし人間が死ねばその体は当然其処に残る。

倒した敵の死体は無く、倒れ伏した仲間の死体は地面に積み重なる。


その結果何が起きるかというと。


目に写るのは仲間の死体のみという状況。

これがどれだけ士気に影響するか。

倒しても倒しても倒しても、倒したという実感を得られず、敵の数を減らしているとは分からない。

代わりに自分たちの数が減っているのは目に見えて実感出来てしまう。


次に倒れるのは自分かもしれないという恐怖。

戦場に立つからにはその覚悟をしているだろうが、すぐ目の前にその恐怖を体現しているモノがあるのだ。

もう光を返さない暗い双眸が、まるで自分の事を恨めしく見つめているかの様だ。


恐怖は瞬間的に伝わってしまう。

そして、次の瞬間に恐怖は絶望へと変わる。

『どう足掻いても勝てない』と。

ヤージュのような英雄ですら苦戦を強いられている。


そもそも指揮官であるヤージュが自らの槍を振るっている時点で戦局としてはかなり悪い。

指揮官とは後方で指揮を飛ばすための者。

崩れ掛かっている陣に援軍を送り、突き破れそうな戦端を鼓舞し、そうして大きな戦場の中で小さな勝利を重ねていき、最終的な戦場全体の勝利を目指す。

最初から有利なまま終わる戦場なんて無いに等しい。

ましてこの戦場は人間同士の戦場ではないのだから。


そうして精強な共和国軍の精鋭部隊がジワジワとその数を減らしつつあるその時、ひとつの大きな影が戦場を横切った。

次いで聞こえたのは大きな翼が羽ばたく音。


「来た」


ヤージュが空を見上げて呟いた。

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