第三十七話-宵闇の双剣士-
殴る、撲る、殴って、撲って、殴り倒す!!
それがバナーのやり方だ!!
ユウたちと別れて左の宮に忍び込んだ俺たちが最初に入った部屋は王宮の武器庫だった。
しかも間の悪い事に、そこに悪魔がわんさか集まってたせいで一気に大乱闘になった。
そこに居たのはヒトが作った武器を扱える高位の悪魔ばっかり。
この国で作られた武器ってことは、エルフやドワーフが作ったってこと。
つまりただの剣が炎熱を帯びていたりとか、自在に伸び縮みする槍とか。
フマイン師匠とリナさんは、難なく敵の攻撃を捌いて反撃してる。
自分の手の届く範囲内でコンパクトに反撃してるから、スマートでスピーディーだ。
ロコマさんは魔法をメインに扱う魔法戦士。
詠唱時間が必要な魔法が多いって言ってたから心配になったけど、ロコマさんも自分専用の魔法武器を持ってた。
小振りで幅広な刀身が反り返った剣を右手に構え、左手には鋭いダガー。
右手の剣で敵の攻撃を受け流して、左手のダガーを急所にねじ込んで倒す。
その戦い方は、野山を駆けて山野を巡る流離いの旅人、流離い人に近い。
大魔法も会得しておきながら、軽快で防御力の高い戦い方をもこなすロコマさん。
自分は後方支援職だから、なんて謙遜してたけど、かなり戦い慣れてる。
「ッラア!!」
そんで今、俺が戦ってる相手は身体がデカくてうるさい悪魔。
長い斧をガハガハ笑いながらブンブン振り回してくる。
そのせいで師匠たちが戦いづらそうにしてるし、何より他の悪魔が巻き込まれてる。
「テメェこら!! 仲間まで攻撃してんじゃねえか!!」
『アァン!? なかまってのはなんだ!? こいつらは部下で、道具なんだよ! 』
「ふっっざけんな!! 」
『グァッ!!』
怒りに任せた拳でぶん殴った。
デケエ図体してるけど、防御力はそれほどでもなさそうだ。
何歩か後ずさったデケエ悪魔がこっちを睨みつけてくる。
負けじと睨み返そうとしたその時、その悪魔の背後にいる人物に目を奪われた。
そいつは静かにこっちを見ながら歩いてくる。
バカでかいプレッシャーを感じる。
強え。
俺以外も気付いたみたいだ。
フマイン師匠、アサギ、ロコマさん、リナさんが、それぞれ戦ってた悪魔を蹴散らしてオレの隣に並ぶ。
『ナンダぁ?』
斧を持つ悪魔が背後を見る。
『ロ、ロイド様!!』
「おいアサギ、ロイドってたしか」
「その通りよバカバナー。カイン王の御長男の名前ね」
「だよなぁ。あー、やべーぞ。アイツめっちゃ強え」
「うん、みんな油断しないでいこう」
「はい師匠」
「ロコマさんとリナさんも気を付けて」
「はい!」
全員でロイドに対して戦闘態勢をとる。
さっきのデケエ悪魔がなんかうるさく捲し立ててた。
『ロイド様、あいつら生意気なんすよ!やっちゃってくだせぇ!!』
「うっわ、三下のセリフ…」
『アァン!?舐めた口利いてっと容赦しねえぞ!!ロイド様はリドニス様配下で三体しかいない将軍級悪魔の一柱なんだからな…え?」
突然だった。
ロイドが両腰に佩いた刀を左手で一差し抜いて、隣でギャアギャアと喋ってた悪魔の首を斬った。
『おいおい、誰だか知らねえけど、オレの事を喋り過ぎだ。身内の情報を簡単に敵に渡してどうすんだっての』
自分の身に何が起こったのか分からないといった表情のまま、デケエ悪魔は灰になって消えた。
手に持ってたハンマーは音を立てて床に転がる。
『さて。お喋りな奴が紹介してくれたが改めて、な。
オレはロイド。
リドニス軍の将軍級悪魔であり、不死体悪魔の一柱。そうそう、今頃はもう一柱の不死体悪魔のルークがお前らの仲間と闘ってるはずだ。そんでお前らの相手はオレってわけ。
ま、恨みも何もねぇが、シんでくれや』
スラリと抜いた両刀を構えたロイド。
恐ろしいまでの圧を感じる。
でも、怖くない。
「慎重にね、みんな」
「はい」
「ボクも頑張っちゃうよ〜!」
「リナは壁とか壊さないように」
独りで戦うわけじゃないから、かな。
「いくぞ」
『来い』
師匠が飛び出す。
まともな剣を持ってるのは師匠だけだ。
目で追えない速度で交わされる剣戟。
今、下手に手を出したら邪魔になる。
ロイドの剣の腕は師匠と互角。
お互いに肩や腕に斬り傷が付くけれど、それ以上の痛手にはならない。
数回の斬り合いを終え、距離を取る二人。
『お前強いなー!! オレ相手にここまで保つヤツなんてそうそう居ないぜ?』
「そいつはどうも。キミの刀も凄いね、それ。氷属性と炎属性を一本ずつ使うなんて、そうそう出来る事じゃない」
『あぁ、こっちがヴォーパルソード。こっちがフラムベルジュだ。オレが親父みたいに慕ってたドワーフの職人が造ってくれたんだ。その手で守るべきものを護れる…ようにって………』
「そっか。それで、護れたのかい?」
『…あ、えっと、どうだったっけな、忘れちまったよ、ハハハ。
…さぁ、続きだ続き!殺し合いを続けようぜ!』
「よーっし!次はボクが!」
「リナさんごめんなさい、次は俺に行かせてください」
「バナーくん?」
「俺の力が通じなかったら、この先も足手まといにしかならない。だからここは…」
「…分かった。でも、ボクが危ないと判断したらどんな状況だったとしても介入する。いいね?」
「はい。よろしくお願いします」
『お?相談は終わったのかい少年? オレの剣はその鎧ごと斬っちゃうよ?』
「やれるもんならやってみろ。お前の剣は全部防いでやる」
『言ったな〜? じゃあちょっと本気出そうかな〜』
「来いよ」
【素戔嗚-三の型-】
【紅息吹】
魔力を回す。
全身へと。
俺の身体を覆う鎧が紅く染まり、そして熱を帯び始める。
願うことはひとつ。
あの氷を溶かせる程の熱を。
【初めの呼吸】
『おお!? すげえなお前! 炎の鎧なんて久々に見たぜ』
ロイドが斬りかかってくる。
師匠が自分の剣であいつの剣を防いだように、俺はこの鎧で剣を防ぐ。
右から迫ってくるなら右腕を。
左から迫ってくるなら左腕を。
簡単な話だ。
ただ、普通は怖くて出来やしない。
俺の鎧の強度より相手の剣の鋭さが勝った場合、俺が出した腕はそのままスッパリ斬られておしまい。
だからそうならないように、俺は素戔嗚にふたつの特性を付加した。
『おらぁ!!』
ロイドの剣が俺の右腕をなぞる。
そこには一筋の傷が付く。
次は左腕。
その次は胴体。
だが…
『くっそ、自信満々な理由はそれか。斬ったはしから再生しやがって』
「ああ。お前みたいな双剣使いとずっと手合わせしてて思ったのさ。お前らがドヤ顔で自慢してくる手数の多さを上回るスピードで、俺の鎧が再生したらどうか、ってな」
『なるほどな。 でもそれだけじゃオレには勝てねえぜ? それとも攻撃は全部他のヤツに任せるってか?』
「まさか。一人で戦えないんじゃ意味がねえ。防御は大事だがそれが全てじゃない。だから俺はこうした」
『あ?』
鎧の傷を再生させた部分から、一際明るく赤いオーラが飛び立ち、俺の背中へ。
今までロイドから受けた傷の分もすでに背中に回っていて、それらは一つずつ重なって俺の背中にあるモノを形作る。
『翼…?』
「耐えれば負けねえ。でも勝てねえ。だから耐えるメリットを考えた。この翼はお前の攻撃の強さ。この鎧が受けた攻撃が強ければ強いほど、俺はそれを使える。
さぁ、ここからは俺の番だぜ、宵闇の双剣士!」
紅い翼が羽ばたき、フワリと浮かぶ。
【素戔嗚-三の型-終の吐息-】
【郝嵐翼】
ロイドを上回るスピードで迫り、その身体に拳を叩き込む。
ロイドの剣が俺に向かってきた時には、もう俺はそこに居ない。
翼が羽ばたき、鳴動し、縦横無尽の機動を可能にする。
俺の拳がロイドの朽ちない身体を打ち据える。
ダメージはあるのか無いのか不安になってきた頃、遂に青と赤の双剣がロイドの手から滑り落ちた。
すぐそばの壁に寄り掛かり、ズルズルと倒れたロイド。
「はぁ…はぁ… どうだ参ったかコノヤロー」
『あー、ハハハ… 参ったね、どうも… 不死者になって、どうやっても疲れないし、死なないし、もうこのまま生き恥を晒し続けるしかねぇと思ってたのによ… 悔しいぜ…』
「…そのわりに笑ってんじゃねぇか」
『あぁ、悔しいのは本当だ。それは一人の戦士として、お前に負けた事が悔しい。だけどな、お前の拳を受ける度に頭が冴え渡っていくのが分かった。そんで忘れちゃいけなかった事を思い出した。
アイツは…リドニスは…本当の不死だ』
「…なるほどな。話はわかった。リドニスがどんだけヤベーやつかってのもな」
「うん。これ以上の悲劇を生ませない為に私たちは来た。リドニスを倒せば、その目的は達せられる。例え不死だろうが、こっちもそれを承知で来てるのよ」
『は。そうか。じゃあお前らの健闘を祈るよ。オレはここにいる。リドニスからの支配も解けたから命令される事もない。二百年ぶりの自由だぜ』
これを楽しまなきゃ損だろ、と笑って話すロイドをその場に残し、俺たちは先に進んだ。
俺たちが侵入した地点からずっと奥に進んだ地点、王宮の正面入口に近い壁に隠し通路があった。
ロイドが教えてくれた通路だ。
狭い螺旋階段を登るとそこは暗い回廊。
玉座の間のすぐ隣の部屋に出る。
進行方向からバカでかくてドス黒い魔力を感じる。
遂にリドニスとの戦いが目前に迫ってきた。
「はぁ…」
アサギが小さくため息を吐く。
「どした?」
「ん、やっとここまで来たんだなって、ね」
「そうだな。オルナーテに来て半月以上。船旅も含めればひと月くらいはこの為に行動してるんだよな」
「うん。気を引き締めていきましょう。ここで負けたら私たちまでアンデッドにされちゃうかも」
「うっわ、それは絶対にイヤだな」
「顔」
長く暗い回廊を抜け、狭い螺旋階段を再び降りた先の小さな部屋。
外の様子を見て慎重に、と思ってたら、もう戦闘の音が聞こえる。
ユウ、もうリドニスと戦ってんのか。
俺らも行くぜ!と意気込んで玉座の間に入ってみたら、既にそこは血の海だった。




