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Fabula de Yu  作者: モモ⊿
一章-アカデミー -
3/43

第二話-契約-

アカデミーの始業式における、ゼルコバ元首襲撃事件から一夜が明けた。

ユウ、バナー、アサギの三人はロキとの戦闘の後の満身創痍の状態で保護された為、大事をとって寮ではなく救護室で休むように指示が出た。

バナーとアサギのケガは治癒魔法にて回復をしたのだが、体力や精神的なものはそうはいかない。

そしてユウは、一度自分の魔力が空になり、そこに他人(マナ)の魔力が注ぎ込まれ、更にそれも空にするという無茶をしてしまった為、歩く事もままならない状態であった。

体の痛みや、初めて戦場を目の当たりにした精神的ショックも合わさり、相当な疲れに襲われていた三人は、治療後の食事を取ってすぐ、泥のように眠った。


翌朝、もう一度治癒魔法をかけられ、自分の魔力も回復しつつあったユウも起き上がる事が可能になっていた。

しかし、念の為に午前中も休めとの救護師長の指示により三人はヒマを持て余していた。

アサギは自分のベッドを抜け出してユウとバナーの部屋に来ており、前日の事を改めて確認しあっていた。


「あれ、もう一人いるのね?カーテン閉まってるけど」

「そのようだ。今朝俺達が起きたらいて、それからずっと寝ているみたいだが」

「ふーん」

「なぁユウ、ロキ(あいつ)に初めて会った時さ、帝国の人間だって言ってたよな?」

「あぁ、そう言ってたな」

「じゃあ昨日、元首の車列を襲った奴らって全員帝国の人達なのかな?」

「それはまだ分からないわ。私達は事件のすぐ後にこの救護室に入った。入ってから今まで、トイレ以外にはこの部屋を出てないんだもの。廊下で会う人はみんな救護師さん達だし」

「そうだよなぁ。先生達もクラスの奴らも誰一人見舞いにとか来なかったもんな。救護師さんも忙しそうだから話しかけるのも躊躇っちゃうし」

「そうなのよね。だから私達は誰にも昨日の事情を聞けていない。そして、ユウ(あなた)の隣にずっといる、その子は誰なの?ロキを倒したのもその子のおかげ、よね」

「あぁ、それは間違いない。だが俺もまだ状況を把握出来てないんだ…この子、マナの魔力を使って矢を放って、それがロキに当たるのは見た。そしてあいつが、俺の力じゃどうしても無理な程の魔氷(まひょう)に覆われていくのも…」

「ユウ本人の魔力じゃ作れない程魔力が通った氷だったのか」

「ああ、あれ程の魔力を込めるのは俺には無理だ」

「じゃあ尚更、この子から事情を聞き出さないとね。…何で一緒のベッドで寝ているのかも含めて」

「それは俺にも分からん。…おい二人とも何だその目は。俺はロキに矢を射た後から夜の食事で起こされるまで気を失っていたんだぞ。そしてその食事の時にはこの子はいなかったんだ」


そうなの?と目線でバナーに問いかけるアサギ。

それに対して肩をすくめつつ答える。


「それは本当なんだよな〜。こうして対面してベッドがある訳だし、メシの時も少しは二人で話をしたけど、その時は確実にいなかった」

「ふぅん…じゃあいつのまにかいなくなって、いつのまにかユウの隣で寝てたのね。不思議な子…あの車列の中にいた車から出てきたんだから、元首の関係者よね」

「そのはずだ。だからこそ、その点も含めて誰かが事情を説明してくれるはずなんだがな」


そう言いつつ、なんとなくこの部屋の入口を見やるユウ達三人。

そうしてから間もなく、複数の足音がこちらに向かっているのが聞こえ始めた。


「どうやら、その誰かさんが来たみたいね」


三人の視線を集めるドア。

そのドアが開く前に外側で何かを話す声が聞こえる。


「御身だけで入るなんてダメに決まっているでしょう!せめて三人は付いて入らなければ!」

「いらんとゆうておろうが!!ワシを助けてくれた恩人の三人なのだぞ!ワシ自身が言葉を交わさずして何とする!護衛がワラワラいては話も出来んわ!」

「ですが…!」

「くどいぞジン!!」


救護室の前で言い争う声がする。

そしてその中心人物は前日、壇上に立っていたあの人物である事に気付いた三人は、若干顔を青ざめさせていた。


「まぁまぁジンさん、ならば僕が一緒に入ればよろしいでしょう?元首守護隊長である貴方は入口を守っていてください」

「分かりました。ヤージュ様がご一緒ならば心配などいりませんね」

「様はいりませんよ。僕はもうただの教師です」

「ヤージュ、ジン、もうよかろう?早く挨拶をしたいのだ!」

「はいはい、僕も入りますからね」

「うむ!」


ーーガラッーー


「む?なぜ頭を下げておる?怪我人なのだろう!さ、早く楽にしなさい!」

「え?…っと…」

「大丈夫だ三人とも。楽にしなさい」


入って来るのが元首だと分かった瞬間から三人とも頭を下げて待っていたのだが、元首とヤージュ先生のどちらも楽にしろというので、そのまま体を起こした。


「うむ、それでいい。三人とも始業式の場にいたのであろう?ならば自己紹介はいらんだろうが、一応な。ジャヤ・スイガーノだ。あの襲撃の時、ワシとマナを助けてくれてありがとう。そなたらがロキという男を抑えていてくれなかったら、今頃どうなっていたか分からん。結果として敵方はヤージュ達の奮戦もあって退散させる事に成功したが、ロキ以上の実力者は他に数人もいなかったらしい。な?ヤージュ」

「ええその通りです。昨日、彼が乗った車列を襲った連中、不協和音(ディソナンティア)と名乗っていましたが、あの場にいた彼らの人数は二十一名でした。そのうち逃亡したのが十一名、捕らえたのが四名、そして六名が戦闘により死亡しました。更に、捕らえた四名のうち三名が今朝、服毒死しているのが発見されました。口の中に仕込んでいたのでしょうね」

「ふん…最初から最後まで気に食わぬ連中よ。獄中自殺する程の覚悟を持ちながら、何故暗殺などという忌むべき手段に出てしまったのか…」

「ええそうですね。ですが、捕らえた四名のうちあと一人は、ユウくん。君が凍結させたあの男なのです。あの男を縛り付けている氷は、術者である君にしか解く事は出来ない。下手に手出しをしたら氷漬けのままロキの体がバラバラになってしまいますからね。そこでユウくんにやってもらいたいのは」

「マナとの契約だっ!!」

「僕の言葉を取らないでください…ゴホンッ…そう、マナと正式な契約を結び、あの氷を生み出している魔法を解いてもらいたい」


元首、ヤージュ、そしてここまで全く言葉を挟めないでいるバナーとアサギ。

その四人の視線を浴びているユウの背中を冷や汗が伝う。


「…マナとの…契約…?」

「うむ。それについては本人から説明してもらおう。おい、マナ!!起きなさい!寝ていないのはバレておる!!!」


ユウの隣で寝ていた物体がモゾモゾと動き出し、そのまま体を起こした。


「相変わらずうるさいなぁ。そんなデカイ声出さなくても聞こえてるって」

「ならばワシらの話が始まる前にでも起きておけばよかったではないか。白々しく狸寝入りなどしおって。こんな様子ではネルンの事をバカになど出来ぬぞ」

「だからうるさいって。ネルンとかもう何年も会ってないし。それでなに?わたしが説明するの?」

「当然であろう。お主がユウくんを選んだのであるからして」

「はいはい、分かったわよ」


そう言いつつユウのベッドから降りたマナ。

そのまま部屋の中心まで進み、ユウの方を向く。


「改めまして、わたしはマナ。この世界の根幹を造った天使の一人。氷の属性を司る者よ。ユウ、貴方にはわたしと契約を結んでもらいます。そしてわたしの力を使いこなして、この世界の深淵を解き明かして欲しいの」


「「「…は?」」」


スンッとした表情で話し出したマナに、ユウ、バナー、アサギの三人は全く同じ反応を示した。


「ほら、こうなるじゃないの」

「お主の説明が下手過ぎるのだ!」

「なんですって??大体の事は話してるじゃないの!」

「肝心なところを全く説明していないところが問題なんだと思いますよ、マナ様」

「なによヤージュまで!あーもうめんどくさい!ヤージュ(あんた)に任せる!!」

「えぇ??分かりましたよ…ではまず、マナ様の正体から、でよろしいですか?」

「好きにしなさいよ!!」


プリプリと怒って部屋の隅に歩いていったマナの代わりに、ヤージュ先生が部屋の中央に進み出た。


「三人とも、マナ様の言った事は本当だ。この国がマナ様と出会ったのは約百年前。その頃からマナ様はこんな様子だったようでな」

「こんなって何かしら!?」

「突然現れて、自分は世界創生の一端を担った天使である、と言われて即座に信じられる人間はいませんよ、マナ様」

「そうね、今なら分かる。人間って、森羅万象の支配者みたいな顔してるけど、結局のところは自分達に都合の良い部分しか信じられないのよね。百年も生きられない種族だから仕方ないんでしょうけど」

「つまりだ三人とも。マナ様はこうして共和国に接触した。最初のうちはやはりその存在を疑われていたそうだ。そしてあらゆる角度から、能力の証明という名の実験が行われた。無論、マナ様に勝てる人間など世界的にもそうはいないから、マナ様自身の協力を得られるものに限られた。だがそれでも、このお方が人智を超えた能力を持ち、人間では測る事の出来ない超常的な存在だという事を証明するのに、時間はかからなかった。何を隠そう、元首の住まいである魔水晶宮殿(クリスタルパレス)も、マナ様が作り出したものなのだ。そうして、共和国はマナ様を秘密裏に国家群運営の中枢に迎え入れた。その頃はまだ平和な時代だったのだ。各国の人間は自国の繁栄のみを考えていればよかった」


初っ端から語られた内容に絶句してしまうユウ達三人。

それもそのはず、こんな話は酒場の与太話としても転がっていない、到底信じられるものではなかったからだ。

だが、それを信じている者が目の前にいて、更にマナの凄まじい魔力や魔法を間近で見ているので、それはやはり真実なのだと思わざるを得ない。


「さて、ここから僕達とマナ様の関わりについて話していこう。ジャヤがこのアカデミーを卒業して、この国唯一の軍である魔法聖騎士団(マジックパラディン)に入団したのが今から四十年前」

「あ、ワシ今六十二歳ね。学院は四年で飛び級で卒業したのだ!」


ピースサインをビシッと決めつつ笑顔で話す元首。


「やはり君は公式の場とのギャップがありすぎるな…」

「これが本来のワシなんだから仕方あるまいて!公式の場、昨日の始業式とか?ああいう場でのああいう立ち居振る舞いは元老院に支持された演技に過ぎんしな!」

「だからそういう事を簡単に話すな!!…あぁもういい…僕はもう気にしない。話を戻そう。お互いの利益を共有し、かつ平和的な共存の道を探り合って国同士が手を取り合いつつ大きくなってきたゼルコバ共和国。対して、大小様々な国を圧倒的な軍事力で屈服させ、時には攻め滅ぼして併呑してきたバルーバ帝国。あの国が次の標的と定めたのが、この共和国だった。それが今から五十年以上前の事。ジャヤが入団したのは各地の小競り合いがそのまま戦闘行為になり、遂に両国間が戦争状態に陥った時代だった。僕が入団したのは三十五年前で、ジャヤが大佐になった頃だった。僕はジャヤ付きの士官として配属され、共に各地で戦った。そしてなんとか共和国有利のまま、戦争が終盤に差し掛かった頃、共和国のお偉いさんに引き合わされ、僕たち二人はマナ様に会った」


室内にいる全員の目が、窓から外を見ているマナに注がれる。


「懐かしいね。もうそんなに前なんだ…その頃のわたしは、この国にはいたけど、特に何をしていた訳ではなかったの。わたしと契約出来る人間はいなかったし、戦争に加担するのも面倒だったし」


続きをどうぞ、ばかりに沈黙するマナ。

その声は先程までのような陽気さは感じられなかった。


「ここからはワシが話そう。マナと引き合わされたワシらだったが、共和国上層部のその意図は掴めなんだ。だがすぐに思い知らされたのだ。我が軍が帝国軍に放っていた密偵が、命を賭して届けてくれた一報によってな。曰く、帝国上層部に人魔戦争を画策する一派あり…とな」

「人魔戦争…?それってもしかして、人間同士の戦争に巨人や亞人などの多種族を巻き込もうとしたって事ですか?」


人魔戦争という言葉を聞き、ユウが真っ先に質問した。


「その通りだ。ワシらはその報を受け、帝国領土内の辺境地域で、その一派が潜んでおった城を強襲した。それには、もしや敵は亞人達以上のモノを使おうとしているかもしれぬ、とマナにも同行を頼んだ。そしてその判断は当たっていたのだ。其奴らは、マナと同じようにこの世に顕現しておった女神達の力を使役していた。人間の兵器を使った戦い方ではまるで歯が立たず、強襲部隊は徐々に追い詰められていった。だが、マナと一緒に進軍していたワシらは、マナ本人の力と、その一端を借り受けつつ数多の敵を倒しながら城の最奥部に辿り着き、遂に首謀者を倒した。その時の戦闘時にぶつかり合った膨大な魔力により、城の形は変わってしもうたがな。一族を人質に取られ、無理矢理に戦争参戦を約束させられた亞人達は人質と共に解放した。そしてその首謀者は帝国内での徹底抗戦派の首魁でもあった。事実、其奴を倒してすぐに帝国内に講和の空気が流れ出したのだ。そして三十年前。遂に共和国と帝国は和平条約を結んだ。ここまでが、共和国と帝国の戦争、今は覇権戦争なんて呼ばれておるな。その大体の流れじゃ」


戦争を戦い抜いた当事者から語られる、この国の歴史書には載っていない真実。

歳若い三人は言葉を発する事も出来ず、ただ聞き入るしかなかった。

次に言葉を発したのは、ずっと窓辺で話を聞いていたマナだった。


「わたしは和平条約が結ばれた後、共和国中枢から抜けた。わたしの力はもう不要だったし、この国の人間はわたしが与えた智識に自分達の知識を掛け合わせて、どんどん勝手に発展をしていってたから。そうして自由気ままに暮らしていたわたしは、三年前のある日を境に夢を見るようになった。わたしが雨の中、かつての仲間達と一緒に殺されてしまう夢…」

「それ!!俺が見てるのと同じ…!?」

「そうよ、ユウ。あなたとわたしは三年前から魂が繋がったの。何故かはわたしにもわからない。夢の中で、あなたは殺されるわたし達を見ていた。わたしもそんなあなたを見ていた。だから昨日、あなたを見た時にあなただってすぐ分かった。そして直感した。この人ならわたしと契約出来るって」

「契約…」

「そう。さらに言うと、資格の無い人間に他者の魔力は毒にしかならない。つまりあの時わたしの魔力を使えた事で、わたしとあなたの間に魔力回路が出来た。おそらく今のわたしの身体も、あなたの魔力で構成されているわ。あとは正式に契約を結ぶだけ」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!話が急展開過ぎて着いていけない。えっと、マナさん?と契約したとしたら、俺はどうなるんですか?この学院には通えなくなってしまうのですか?」


『それについては私が説明しましょう』


突如聞こえた声に全員が同じ方向を向く。

そう、ユウの隣にあるベッドを。

閉まっていたカーテンが開き、中から長身の男性が姿を現した。


「…何故そんなとこにおられるのです、ナオ先生。辺境地域の調査に出向いていたはずでは?」

「いやいや、ヤージュ先生おはようございます。皆さんも、おはようございます。調査任務は昨夜遅くに終わりまして、今朝方こちらに帰って来たのですよ。どうにも眠かったのでここで仮眠を取っていた次第ですはい〜」


ゆったりと喋るナオ先生と呼ばれた男。

学生三人はまだキョトン顔で固まっている。


「三人とも紹介しよう。こちらは、ナオ・ジークムント・アリステス先生。この学院の学院長であり、更に共和国が所有する最高戦力である、魔法聖騎士団(マジックパラディン)の騎士団長、そして最高魔導師であらせられる。つまりこちらの世界での最強の魔導師だ」

「いやいやそんな、私なんてしがない一人の魔法使いですよ。この地位もたまたまです。後継者が現れればすぐにでも譲りますよ」


にこやかに談笑している雰囲気なのだが、それを文字通り凍りつかせようとする者がいた。

マナだ。


「あんた…よくもノコノコとわたしの前に姿を表せたもんね?あの時の約束はまだ果たしてもらってないけど??」

「やぁ、マナ。久し振り。その話はまた今度にしよう」

「あんたはいつもそうやって逃げて来たわよね!?今度という今度は!!」

「マナ。今はその事よりも、この子に対しての説明が先じゃないかな?(マナ)この子(ユウ)の今後を決める大事な契約の儀式だよ?」

「くっ…そうね、その通りだわ。じゃあ説明頼んだわ…」


釈然としない様子でナオ先生に背を向け、壁際まで歩くマナ。

その隙にガッツポーズをするナオ先生。

それを見ていた学生三人に向けて、人差し指を口に当ててシー、という仕草をする。

どうやら肩書きをまとっただけの様な傲岸な人物では無いようだ。

そんな仕草を見て少し緊張が和らいだのか、ユウが続きを促す。


「それで、ナオ先生?俺のこれからについてですが…」

「うん、それね。君達三人は、当面は自由にこの学院で過ごしてもらって構わない。自分達の学生生活を存分に楽しんでください。ただし、私が適切だと思う時期が来たら君達には、魔法聖騎士団(マジックパラディン)選抜試験を受けてもらう事になる」

「えっ?」

「文字通り、魔法聖騎士団(マジックパラディン)に入団する為の試験だ。この試験は特殊でね。一年に一回とかではなく、私や各軍団長がスカウトして、その人物に適切な試練を課す。それをクリアした人物が晴れて入団するというわけだ。あぁ、これはまだいつにするか決めてない。半年後、一年後、もしかしたら君達が卒業する年かも。君達三人の適性は素晴らしいものがある。だがまだ能力は未熟だ。だからこの学院でその能力を思うままに伸ばしていって欲しい」

「つまり、当面は学生でいい、と」

「うん。その通り」

「はぁぁぁ、良かったぁぁ…」


脱力しつつベッドに寝転がるバナー。

ユウとアサギも安心した表情を見せる。

それを見て説明を再開するナオ先生。


「よし、君達三人の今後についてはそんな感じだ。質問等が今後出てくるだろうから、私やヤージュ先生にいつでも話に来てね。ということで、ユウ君。マナとの契約の説明をしよう」

「…はい」


弛緩した空気を締め直すように一番重要な話に流れを戻した。

表情を改め、姿勢を正すユウ。


「マナと契約を結んだからといって、君の身体に何らかの変化が起きるわけじゃない。ただ、マナとの魔力回路がより強固なものとなり、マナの魔力を自分のものとして使えるようになる。二人の同調率が高まっていけば、マナの使う大魔法もユウ君が使えるようになるかも。あ、それからユウ君には今後、マナと一緒に暮らしてもらうから」


「「「は?」」」


またしても三人同時に声が出た。


「当然でしょ。契約ってそういうものだもん。勿論、四六時中一緒にいるというわけではないよ。マナも自由に行動するし。お互いの居場所を知る事が出来たりするけど、それは契約の福音の一部だから。本質はさっき言った、魔力回路にある。まぁその話はマナとじっくりするといい。…ユウ君、最終確認だ。マナと契約を結ぶかい?」


部屋中の視線が集まる中、窓際にいるマナを見るユウ。

マナもまた、ユウを見つめている。


「…結びます」

「本当にいいんだね?これは一時的なものではない。君に一生付いて回る、いわば呪いのようなものだ。君の意思とは関係なく魔力回路の同調率は高まり続け、本来なら望むべくもなかった強大な力を得てしまうだろう。その力が災いとなる時も来るかもしれない。それでも君は、契約を結ぶんだね?」


もう一度マナを見るユウ。

そして、マナは微笑した(わらった)

その微笑を見てからナオ先生を見るユウ。

その瞳にはもう迷いはなかった。


「契約します!」


先程より力強く、自らの意思を込めた言葉。

それを聞いたこの国の最高魔導師もまた、笑う。


「分かった!それならここで契約の儀を執り行う。ヤージュ先生、準備をお願いします」

「はい」


ヤージュ先生がベッドを部屋の隅に移動させ、空いた部屋の中央に魔方陣を描き出すナオ先生。


「二人とも、この陣の中に。そして両手で握手をするんだ。私が、ここに両者の名を記す、と言ったら、自分の名前を言いなさい」


言いながら、精霊紙で出来た契約書を差し出す。


「はい」


魔方陣の中に入った二人が手を結んだ時、マナがユウを見つめて言った。


「…よろしくね」


その表情が何を物語っていたのか、ユウにはまだ分からなかった。

だからこそ、安心させるように答える。


「こちらこそ、だよ」


二人は笑顔を交わし合う。

結んだ両手の上に契約書が置かれる。

そして輝き出した足元の魔方陣。

ナオ先生が呪文を紡ぐ。


「天にまします我らが創造神よ。その名においてここに契約を結ぶ。彼ら二人の魂を結び付け、連綿の鎖で縛りたまえ。彼ら二人の絆が未来永劫続くように。もしもこの世界の多くの人から存在を忘れられようとも、お互いの事は決して忘れぬように。ここに両者の名を記す!」

「ユウ!!!」

「マナ!!!」


二人の名前が契約書に描かれていく。

それが終わった瞬間、契約書が宙に浮き、一際輝き出した。


「これで契約は成った」


ナオが宣言し、魔方陣の輝きが減少していく。

そして契約書が二枚に増え、ユウとマナの胸の中に吸い込まれていった。

驚く二人に説明を続ける。


「この契約書は今後、二人の魂と直接結び付く。お互いが棄却する事に同意したとしても、それは叶わず、どちらかの魂が永遠に失われた時、初めてその効力は失われる。二人とも、心せよ。互いに助け合い、謙虚に、優しく、絆を育んでいってくれ」


「はい」

「分かったわ」


ここに、ユウが夢に見た少女、マナとの永遠の絆が約束された。

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