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Fabula de Yu  作者: モモ⊿
二章-妖精王の帰還-
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第二十二話-出航-


翌朝。


俺達四人はセントラル港に停泊中の大型船が見える場所にいた。


「停泊しているのはあの船だけか」


「学院のエンブレムも書いてあるし、間違いなさそうだな」


「本当にやるの…?」


「ここまで来て何言ってんのよアサギ。昨夜(ゆうべ)話し合ったじゃない。わたし達は今から、()()をするのよ!」


「マナ、なんか楽しそうだね…?」


()()()()()()…ウフ、ウフフ…」


「ダメだ。長いこと生きてきてるから初めてやる事に関しての渇望が凄い」


「さぁ!!行くわよ!!」


「シーッ!声がデケェよ!」


「ゴメンゴメン…あ、あの人たちがいいんじゃない?」


船へ向かう人達がぞろぞろと歩いて来る。

操船の為の技術者の方々だろうか。

俺達はその人達が通り過ぎるのを待ち、その後ろに付いて一緒に歩き出す。


彼らの服装が制服などではなくて助かった。

俺達の私服姿でも浮く事は無く、紛れ込む事が出来た。



近付く程にその船の大きさに驚く。

千人くらいは収容出来るんじゃないだろうか。


オルナーテがある西の大陸までは航路で行くしかなく、更に先遣隊として、本隊が到着するまで陣地を設置し、確保し続ける必要がある為、三百人の騎士団員も同行している。

更にその三百人用の食料や陣地設営の為の物資の輸送も兼ねている。

その為にこの大型船なのだろう。

普段は客船として使用されているが、今から行く先には、そのきらびやかな雰囲気は似合わないだろうな。


「この船の名前、ビッグエデン・プリンセス号ですって。完全にナオの趣味ね」


「おい見ろ、そろそろ乗り込むぞ。乗ったらこの人たちに着いてそのまま船倉の方に行って、船員の為の部屋を確保しよう」


「分かった。ユウ、何日かかるか分かってるのか?」


「さぁな?」


「マジか。なぁ、俺達って船旅は初めてだよな?」


「お前は共和国(こっち)に来る時に乗ってきたんじゃないのか?」


「あ、そうだった。でもあの時の記憶ってあんまり無いんだよなー、何でだろ?」


「それこそ、さぁな、だ」


「そりゃそうか」




前を歩く船員達がガヤガヤと大きな声で話しているから、俺達も音量をあまり抑えずに会話をしている。

やがて、タラップを登って船内に入った。


俺たちを含めて三十人程だろうか。

そのまま階下の船室に向かうのだろうと思っていたが、そのまま船の舳先の方へと歩いていく彼ら。

どこに行くんだ?と不思議に思っていると、デッキに出た所で止まった。


何故ここで止まるんだろうと思い、集団の先を見やると、そこにはよく見知った人がいた。



「皆さんおはようございます。僕の名前はヤージュ。この航海の責任者の一人です。皆さんは共和国港湾局の方達ですので、こちらのリストとお名前を照合させていただきます!では、二名ずつ進んでください。済んだ方から割り当てられた船室へどうぞ!」



サーっと血が引いていく感覚。

振り返ってみると、他三人共同じ様な顔面になっている。


「おいヤッベェゾ!!このままじゃバレるヤン!!」


「おお落ち着くノだバナー氏。拙者達は決してバレないはずでござるるる」


慌てふためきながらソロ〜〜っと後ずさりし始めた俺達に、後ろから声を掛ける人が。


「今度から隠密の訓練も課そうかな?」


ビクーン!!って文字がピッタリ過ぎるくらいビックリした俺達。

だってその声はヤージュ先生より聞き覚えがあって、その姿はほぼ毎日、尊敬の念を込めて見ているから。


「フ、フマイン師範…!」

「師匠が何故ここに…!?」

「フマインまで何やってんのよ!?」

「師範違うんですこれはあの!!」


四者四様の反応をしつつ、その実ほぼ同じ反応をしたマヌケ四人組。

それが俺達だ。


俺達なのだ…



…………



「ふぅ…」


ヤージュ先生のため息が響く。


「君達にはもう少し分別があると思ってましたよ。ナオ先生がわざと今日の出航の時間を知らせていたとしてもね」



沢山ある船室の一室で、俺達四人は正座をして、腕組みをしたヤージュ先生に叱られている。

ヤージュ先生は怒らない。

その代わりに叱る。

そしてその時の話はいつも正しい。

反論の余地など無い。

というか反論しようなどという気持ちはこれっぽっちも湧かない。



「この船に君達がいるという事は、出航してから戻るまでの間、騎士団に君達分の穴が開くという事です。それでなくても今回は千人規模の動員が予定されているのに。通常の任務を受け、そして無事に遂行出来る人材はとても大事なのです。それがどんなに小さくても。そう、例えば子猫と偽られた迷子のイビルキャットを探す事だとしてもね」


「え、ご存知だったんですか?」


「知っていますとも。君達が受ける任務に大小があり、そのバランスが取れているのは、僕やナオ先生が他の騎士団員との兼ね合いを考えて、きちんと割り振りをしているからです。騎士団本部に任務完了の報告をすれば、自動的に僕とナオ先生、その他の騎士団教導官達もその報告書を読む事になるのです。そうそう、スカイ君も読んでるみたいですよ。君達の活躍を嬉しく思っているそうです」


「スカイさんが?スカイさんにも自動で報告書が行くんですか?」


「いいえ。彼はいつもブルースカイ州にいる訳ではないですからね。本部に寄ったり、自宅に送ってもらったりしているみたいです。二年前のあの森での任務以降、一緒の任務が無くて残念がってましたから、今度その様な任務を与えようかと考えてます」


「あ、嬉しいですそれ!いつになりそうですか!?」


「バナー君?話を逸らそうとしても無駄ですよ?」


「イヤダナァ、ソンナツモリハナイデスヨォ〜」


「こっちを見なさいバナー君。口笛を吹かないっ」



バナーが見事な自爆をして誤魔化すのにも失敗したその時、部屋のドアがノックされた。



「ヤージュ様、今よろしいでしょうか?」


「はい、どうぞ」


ドアを開けて入ってきたのはピシッとした黒い厚めのジャケットを着た老紳士だった。

その人は部屋の中央で正座をする四人組を見ても全く動じず、ヤージュ先生に話し掛ける。


「全船員の乗り込みを確認しました。これより出航準備に入ります。十分程で出航出来ますが、よろしいでしょうか?」


渋くてよく響くバリトンボイスが特徴的なロマンスグレーの老紳士。

…俺もあんな風になりたいな。

なんて考えていると、ヤージュ先生がこちらを見つめている。

俺達を追い返すにはこれが最後のタイミングだ。

どうやら俺達の航海は後悔と共に終わりを告げるようだ…


「はい、よろしくお願いします艦長。この度はご協力いただきまして、本当にありがとうございます」


ん?


「いえいえ。他ならぬヤージュ様とナオ様からのご依頼ですから。それでは、これより暫くの間、皆様を無事に目的地へ送り届ける為、尽力させていただきます。私の名前はセイド。どうぞよろしくお願い致します」


途中から室内にいる全員に向かって、にこやかに自己紹介をしてくれたセイド艦長。


全員の挨拶が済んだところで、艦長は退室した。


「あの〜ヤージュ先生?俺たち、行っていいんですか?」


「おや、そのつもりで来たのではないんですか?」


「はい!もちろんそのつもりで来ました!」


「なら、覚悟もしているのでしょう?」


「覚悟?」


「死に対する覚悟です」


「っ…」


固くて冷たい声音で話すヤージュ先生。

その迫力にバナーは黙り込んでしまう。


「どうしました?君達や僕たちがこれから戦いを挑むのは、この世界の法則を捻じ曲げる事が出来る存在である悪魔です。

しかも一体や二体ではなく、数百体はいるでしょう。強さもピンキリですし、最上位の個体には、僕やフマイン先生でも勝てるかどうか怪しい。

その後には悪魔王リドニスが控えています。

史上最大級の殺戮を行なった張本人がね。

僕達はそんな最強最悪の悪魔王が支配する国を奪還しに行くんですよ?この中の誰が死んでもおかしくない。

殺されて、意識はそのままで屍体人形(グール)に転化させられるかもしれない。

悪魔王の手先として残った者達に牙を剥くでしょう。

艦長も船員の方達も、先発部隊と後発部隊で合わせて千人もの騎士団員も、僕もフマイン先生も、一人残らず死への覚悟はしています。

君達は…どうですか?」



こんなタイミングで、俺は二年前の事を思い出していた。

あの時、歴戦の猛者であるベルジアントと会敵する可能性があると聞かされた時、バナーが言ったあの言葉。

今回は俺が言おう。



「やるしかないなら、やるしかないんじゃないですか?」



一歩踏み出して、腹に力を込めて、ひと言ずつ話す。



「この二年で俺達はいくつもの任務をこなしてきました。中には命の危険があったものもあります。上手くいかなければ死へと直結するような。

ですが、それを全て乗り越えて俺達四人は、今ここにいます。

悪魔王とその軍勢は、今まで戦ってきた者達より遥かに強いでしょう。

ですがそれを打ち倒す為の鍵をグラディオさんとアヤネさんが握っている。

彼らを護り、彼らが力を尽くせるようにする。

その為にヤージュ先生が、フマイン師匠が、騎士団員がいる。

それなら俺達も騎士団員として、力を出し尽くします。

やらせてください。

俺達はもう、周りに護られるだけの存在ではなく、周りを護る事が出来る」



目を閉じて腕を組み、何かを考えているヤージュ先生。

やがて…


「…君達が僕の生徒になってからのこの二年間、僕も一緒になって任務を遂行する事がありましたね。

その時から少しずつ感じてはいましたが…

ユウ君の言う通りですね…

君達はもう立派な騎士団員だ。

僕の生徒だからといって、侮るのはもうやめにします。

これからは同じ騎士団員として、仲間として、一緒に戦いましょうね」



「はいっ!!」



「ま、そうなったら僕の部下という事になりますから、今までよりもっとビシバシいきますからね。覚悟してくださいね」


「ヤージュ…あなた、笑顔が怖いわよ…」


「おや、心外ですね?心からの笑顔ですよ?さぁ、もうすぐ出航です。皆さんも自室へと入って、夜までゆっくりしてください。夜になったら大ホールで今回の作戦をお話しします。とは言っても、君達が知ってる以上の話はありませんけどね」



そんな言葉で締めくくられ、退室を促された俺達は自室のカギを受け取り、グラディオさん達と一緒に廊下に出た。



廊下を歩きだすと、横に並んだ三人がいきなり腕を振りかぶり俺の背中へと…



「イッテェ!!」






「フフ。楽しそう。あの子達なら本当に、頼りになるかもよ?」


「そうだな、アヤネ。彼らを護り、彼らに護られる。そんな風になっていこう」






旅立ちの汽笛が鳴り響いた。

最後の四人の様子は、乱暴なハイタッチだと思ってください!!

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