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Fabula de Yu  作者: モモ⊿
二章-妖精王の帰還-
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第二十話-悪魔に追われし者-


「何でこんな街中に悪魔がいるのかっていう話は後回しにした方がよさそうだな」


『グギャ!ニンゲン!キエロ!コロスゾ!!』


「よく見たら、こいつら低級悪魔(インプ)か。これなら相手が五匹でも問題ないだろ。いくぞ」


「いいのか?やっちゃっていいのかユウ!?」


「あぁ。ぶちかませ!」


「っしゃー!!行くぜー!!」



バナーがインプ達の前におどり出る。

先頭にいたインプが咄嗟に反応して鉤爪を振りかざすが、バナーの方が早い。

鉤爪が振り下ろされる前に懐に入り、渾身の右ストレートをその胴体に叩き込んだ。


そいつは数メートル吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられて霧散した。

それを見た残りのインプ四匹は慌ててバナーを取り囲むが、やはり低級な悪魔らしく、既に俺達三人の事を忘れている。




「シッ!!」



アサギがその内の一匹の首を綺麗に刎ね、刀の錆とした。


アサギの武装創造(アームズクリエイト)

この二年でその刀の鋭さが増したように思う。


以前はずっと竹刀の形をメインに使っていたが、今回の様に敵を確実に倒さなければならない場面では迷いなく刀の形を取るようになった。

その刀は無駄な部分が一切なく、洗練された魔力によって造られていて、とても綺麗だ。

薄緑に輝く刀身には刃紋が浮かんでおり、それはフマイン師範が持つオエドの伝統武器、江戸刀(えどとう)に酷似している。

フマイン師範の道場で師範代に任命され、任務が無い日は学院の下級生を相手に指導をしているそうだ。

そういう日々の当たり前な事から、自分の武器を創造すると、とても強い力を持つ。


創造に必要なのは想像力なのだ。






「オラァ!!」



バナーが二匹目の胴体に拳で風穴を開けた。

バナーの素戔嗚(スサノオ)も強くなった。

拳から肩の辺りまでだった装甲の範囲が広がり、今は上半身を完全に覆うように。

まだ下半身をカバー出来ないのが悔しいと言うバナーだが、その代わりに魔力を通せば装甲化する特殊なプレートを衣服に装着していて、防御面での心配はほぼ無用になっている。





「よそ見してんじゃないわよ!」



マナが地面に手を付けて、何もない地面から氷の柱を突き出す。

その先端は目標を違わずにインプを貫く。

先ほど、猫(仮)のキャロットちゃんを捕まえる為に地面に氷を生み出して足を滑らせたのと同じ要領。

地中の水分を操作して凝固させ、自分の魔力と混ぜ合わせた氷柱を作って攻撃する。

空気中の水分を操作するより、そちらの方が魔力の消費が少なく済み、かつ氷柱を生み出すのも早いそうだ。




あっという間に五匹のうち四匹を倒した俺達。

残った一匹は慌てふためき、その翼を広げて空へと逃亡を図った。


…最後は俺が働かなきゃな。


魔力を足に流して地面を蹴る。

加速(アクセラレート)】された体が地を駆け、周囲の建物の壁がすぐ目の前に迫る。

俺はそのままジャンプして壁に着地、速度を緩めずに壁を走る。

上しか見ていないインプを壁走りで追い越し、俺はそこから更に飛んだ。


『ギギッ!?』


自分の斜め上から飛び込んで来た俺の姿に、知性をあまり感じられない叫び声をあげて驚くインプ。

それもそうだろう。

翼を持たない人間に追い付かれる事なんて普通は無いのだから。


二年前のベルジアント(あいつ)との戦いでは、俺の速さでは勝てなかった。

あの時はなんとか奴を退けたが、あれから俺は自らを速める訓練と、相手を遅滞させる攻撃方法の両方を磨いている。


鍛錬を重ね続けている身体速度の強化によって、壁走りまで出来てしまった。

ぶっつけ本番だったが、出来てしまって自分でもビックリ。



「じゃあな」


ズ ッ パ シ。


胴体を二刀で横薙ぎにして両断。

背後で存在が消えたのを確認して、そこで初めて気付いた。


…着地どうしよ。



ふと、目線を自然と合わせたマナが、ため息を吐きながら魔力を集中させた。

さすが相棒。



「まったくもう。後先考えずに飛び出すからこうなるのよ」



ブツブツと言いながらも、練り上げた魔力を地面に放出。

すると、ビシッという音と共に周囲の水分が凝固し、大きな氷の滑り台が出現した。



「おお〜!!」

「凄い!」



バナーとアサギが歓声を上げるなか、俺はその滑り台の頂点に足をつけ、滑走していき、地面に着地した。


「ふう。ありがとな、マナ」


「もしここに十分な水分が無かったらうまくいかなかったんだからね。いつでも出来るわけじゃないって覚えときなさいよ?」


「うん。ごめん、助かった」


「分かればいいのよ」


プイッとそっぽを向くマナ。

また怒らせてしまったかも。


「にしても、低級悪魔(インプ)の中でも更に低級だったな?」


「多分、奴らは偵察などに長けた奴らなんだと思う。小柄だったし、魔力もそんなに感じられなかった」


「あー、ナルホドなー」


「お前、ホントに理解してるか?」


「してるよ失敬だな!お前失敬だぞ!と、そんな事より、おーいお二人さん、大丈夫か?」



通路の奥にいた二人組に声を掛けるバナー。

こういう時、バナーの物怖じしない性格は非常に頼りになる。


見たところ、彼らに怪我は無いようだ。



男性は、長身痩躯。

金髪、青い目、整った顔立ち。

少し薄めに開いた両目と、一文字に引き結ばれた唇、そしてピンと斜めに立つ両耳。

その両耳には凝った意匠のピアスが付いている。

頭部意外の全身は濃い緑色のローブに包まれているが、腰から吊り下げた両手剣からはただならぬ気配を感じる。


女性は、小柄な体格。

髪は肩くらいまでの長さでゆるいウェーブ。

(はしばみ)色の瞳を持つ目は大きく、強い意志を感じられる。

上半身は赤褐色の装甲鎧(スケイルアーマー)に包まれているが、何故か肩だけ出ている。

下半身はゆったりとした身幅のスカートを履いていて、そのせいでチグハグな印象を受けた。


そんな風に彼らを見ていると、男性の方が口を開く。


「助けてくれてありがとう。私達はここより遥か遠い国から来た。この国の軍事を司る者に会いたいのだが、どこに行けばよいだろうか?」



少しの沈黙。

四人で輪になって顔を寄せ合う。


「軍事をって、ナオ先生か?」


「あぁ、そうだな。だが…」


「どうした?」


「バカ。他所の国から来たって人を簡単にナオ先生に会わせられる訳ないでしょ」


「それもそうね。ねぇ、あなた達!」


四人で少しヒソヒソ話をして、彼の問いへの答えを出そうとしたのだが、その前にマナが言葉を返してしまう。


「私達はあなた達が会いたい人と顔馴染みで、あなた達を会わせる事が出来る。でも、それは本来簡単な事ではない。それくらいは分かるわよね?」


「…あぁ。ぶしつけな願いである事は重々承知している。だが、我らには時間が無い。どうか頼めないだろうか」


「…まずは、その人に繋げられる人をご紹介します。そこで俺達も含めてあなた達の事情を聞かせてくれませんか?ご紹介する人の判断次第では、あなた達が求める人に直接、要望が届きます。一先ずはそれでご納得いただけませんでしょうか?」



「………」



黙り込んでしまった。

最短で軍事のトップに会いたいのだろうが、現実的にはすぐには無理だ。


これ以上の手はこちらも思い付かないが、ナオ先生に近いのは確かなのだ。

俺達以外の適任は数少ないだろう。


黙り込んでから数秒が経過した頃、それまで黙っていた女性の方が話し出した。



「ねぇ、この人達、嘘は言ってないよ。まずは信じてみよう?」


「……」



「そちらの女性(ひと)の言う通りです。俺は嘘を言ってない。あなた達にとって、悪い話じゃないはずだ。時間が無いと言うなら、尚更です」



「…ふう…分かった。従おう。どこに行けばいい?」




なんとか説得に成功したようだ。

彼らはまだ警戒しているようだけど、信じてもらうしかない。



彼らを連れて六人で学院へと戻る。

向かうのはヤージュ先生の部屋。

こういう場合、やはり一番頼りになるのはヤージュ先生。

ナオ先生への取次も出来る立場だし、他の先生より断然親しいからだ。


学院内を歩いている途中ですれ違う生徒達から、好奇の目が向けられるが、二人は慣れているのか、意に介していない。




コンコン、とドアをノックすると、すぐに中から返事が聞こえた。


「失礼します」


「おやユウ君。それにみんなも。どうしたんですか?おや、そちらの方たちは?」



俺は彼らと会った経緯を説明するも、まだなんの事情も聞いていない為、その話はすぐ終わってしまう。


「なるほど。お二方。こちらへ」


部屋の入り口のあたりで待っていた彼らは、ヤージュ先生に促されてヤージュ先生のデスクの前へと進む。


「見たところ、貴方はエルフですね。そしてあなたは…マナ様と同じ天上族」


「えっ」

「えっ」


マナと、小柄な女性が同時に声を上げる。

お互いに気付いてなかったのか。


「まずは事情をお話しください。このゼルコバ共和国の軍事のトップはこの学院の学院長でもあるお人です。余程の事情がある事は既に分かりました。あなた達の援助を学院単位で行うのか、共和国を挙げて行うのか、それについての判断を仰がねばなりません。さぁ、そちらへ座って、ゆっくりでいいのでお話しくださいますか」


ヤージュ先生の優しい笑顔に少し安心したのか、女性はすぐにソファーに座り、男性もゆっくりとその隣に腰を下ろした。

そして口を開く。


「暖かいお心遣い、感謝する。私の名前はグラディオ。グラディオ・トゥラム。こちらは、アヤネ・ダズリング」


グラディオさんに紹介された女性、アヤネさんが会釈で応える。


「トゥラム?もしやあの、トゥラム家?」


「ご存知でしたか…」


「ええ。この国でも世界の歴史は教えるのです。 あの事は、近代史でも大きな出来事の一つですから」


「ヤージュ先生ぇ?ちょっとだけ、分かるように説明して欲しいってばよ?」


バナーの言葉に、顔を見合わせるヤージュ先生とグラディオさん。


「それは、私の口から。私の家であるトゥラム家は、この国より遥か西方の大陸を治めていたエルフの一族の長を務めていました。ですが、二百年前のある出来事をきっかけに、栄華を誇った都は破壊の限りを尽くされ、エルフ族の殆どが死にました…」


「…ある出来事って?」


「悪魔達の侵攻です」





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