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Fabula de Yu  作者: モモ⊿
一章-アカデミー -
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第十七話-あなたとワルツを-





今回の防衛戦が一先ずの終着をみたという事は、プレビニエンスのハーピィ達や、冒険者達の町であるディフィデリのゲイル達に知らせてある。

銀仮面の存在などは伏せて、だが。




侵攻してきた巨人族達はとりあえず全員を一箇所に集め、待機してもらっている。

ゲイルの指示によって簡単な食事も提供され、怪我の処置もされた彼らは誰一人として反抗などはしていない。

その強靭な生命力もあり、死者はいない。

だが、彼らの長であるグロックがベルジアントの口車に乗せられ、呪術師に精神を操られていたとはいえ、多種族を攻撃し、その生活圏を脅かしたのだ。

自分達に下る処罰などを考えて、皆一様に口数は少ない様だ。



ゲイル達冒険者の者達は、骨折などの重傷者は数名いたものの死者は出ておらず、日を置けば全員が完治するだろうとのことだった。



プレビニエンスのハーピィ達は、怪我に関しては一番軽い。

彼女たちが得意とする空中からのヒットアンドアウェイの攻撃法は、巨人族相手に特に有効だったからだ。

一番大きな怪我をしたのはベルジアントの攻撃を受けた者達だが、その怪我も重傷ではなく、数週間で治るとのことだ。



ここまでの報告を全て把握し終えたのは、ベルジアント達が去ってから一日が経過した頃だった。



その頃には既に陽は傾き、共和国最北の地であるテルミナス山脈から、遥か西方の地へとその輝きは進んでいく。

代わりに東方から静かにやって来る宵闇は、戦闘で疲れた精神面を鎮めてくれる程の星達の瞬きを、空いっぱいに連れてきてくれていた。



満点の星空の下、各陣営の長が集められた。


プレビニエンスからミサ。

冒険者達からゲイル。

巨人族からグロック。

そして、今回最大の功労者として、ユウとマナが参加している。

バナーとアサギは少し離れた場所に控えている。


皆一様に押し黙る中、ユウが最初に声を出した。


「皆さん、お集まりいただきましてありがとうございます。 今回の件の全ての事柄に関わった者として、僭越ながらこの場の議長を務めさせていただきます。まず、責任をどう科すか、それを話し合いましょう。ミサさん」


朗々と口上を述べたユウ。

呼ばれたミサは穏やかな笑みを浮かべて、それに応える。


「はい」


「ミサさんが治めるハーピィの国、プレビニエンスは、グロックさんが率いる巨人族達に責任を問いますか?」


「問わないわ」


「なっ…!?」


「聞いて、グロックさん。あの大男、ベルジアントがした事を全て聞きました。貴方達が騙されたという事は明確。戦闘を行うという決断をしたのも、止むに止まれずの事だったと。だから私達は、あなた達巨人族に責任を追及しません。ゲイルさんはどう?」


「俺達冒険者ギルドも責任を問わない。ハーピィ達にも俺達にも死者はいなかった。あれだけの混戦になったにもかかわらず、だ。俺はあの戦いが始まった段階でグロック(お前さん)に突き飛ばされて、その後は戦ってない。だが俺の部下の殆どが、巨人族の連中はわざと負けるようにしていた、と証言してる。お前さん達が戦いに不慣れなのは知ってるが、それでも巨人族だ。そこらの人間が束になっても敵うわけがないのさ、普通はな。それなのにあっさりと無力化されたのは、あらかじめそういう指示が出されていたからじゃないかと思ってる。どうなんだ?」


「……」


「おいおい、ここでだんまりはないだろう。()()()()()()()()()()()、ここで果たさないといかんぞ」


「すまない…どう言ったらいいものか分からなくて…そういう指示をしていたというのは当たっている。ベルジアントに連れられ、気付いたら人間達と戦う事になっていたから。傷付ける前に捕まってしまえば、まだ罪は軽いんじゃないかと思ったんだ。あとは俺が全部背負って戦って、俺が罪を被ればいいと…」



「グロックさん、ベルジアントと一緒に呪術師がいる事を知っていましたね?」


ここまで静観していたユウが口を開く。


少し驚いた表情で頷くグロック。


「どういう事だ?じゃああの素振りは芝居だったのか?」


「呪術師からの魔法が作用してくるのは分かってた。だが俺も魔力を扱えるし、巨人族は元々魔力耐性が高い。だから術にかかったフリをして、俺の独断専行で戦いが始まった事にすれば、その責任は俺だけのものになる。そう思ったんだ…」


「なるほどな…お前さん、芝居の才能あるんじゃないのか?なんてな!」


ガハハハと笑い出すゲイルにつられて笑うグロック、ミサ。


この場の雰囲気が変わっていく。


年季の入った冒険者であるゲイルと、数百年間ハーピィの国を治めるミサが、戦犯と目されていたグロックと共に笑い合う事で、責任を問わないという言葉に真実味が生まれていく。



「責任の所在と追及に関してはこれで終わりでよろしいですね?」


三者の笑いが落ち着くのを待って、場を締めるユウ。

その言葉に、ゲイルとミサが頷く。



「では、皆さんの今後について話し合いましょう」


先程より少しばかり晴れた表情のグロックと、その肩を叩いて手を痛めるゲイルと、それを笑いながら嗜めるミサ。


それぞれの気持ちは落ち着くところに落ち着き、今この様子こそが、これから先の未来を指し示している。




〜〜〜




翌日、プレビニエンスの広場と、冒険者の町ディフィデリにそれぞれに属する者達が集められた。


それぞれの場所で、ミサとゲイルが壇上に上がる。


そこで発表されたのは、これより後は巨人族を自分達の元に迎え入れるという事だった。


今回の戦いで壊れた町の修繕や、プレビニエンスとディフィデリ両方の町にとっての害獣の駆除、その他諸々に協力してもらう代わりに、巨人族に住環境を提供する。


人間とハーピィと巨人族が共に暮らしていく共同体を形成するのだ。


巨人族の大柄な体躯、有り余る膂力を借り受けられる人間達。

今までのように隠れ住む必要が無くなり、安心出来る環境を手に入れられる巨人族。


双方にとって有益な取引である。


そしてこの事によって、巨人族が人間と同じ場所で暮らせる者達なのだと世界に知らせる事が出来る。

かつての様に(いたず)らに巨人族を討伐する事は無くなったが、まだまだ魔獣と同様の扱いをされている彼らを、不必要に恐れる必要は無いのだと示す事によって、共存の道を示す。


つまりそれは、巨人族が自分達の為に他人を害したり、人間からの迫害を理由に闇の陣営に所属する必要が無くなる、という事にも繋がっていく。



どんな世界でも、どんな時代でも、他人を攻撃して屈服させるより、他人を受け入れて(たす)け合い協力していく方が遥かに心地が良いものなのだ。




その日の夜。

三者相互協力が結ばれた事を祝して、盛大なパーティーが開かれる事になった。

場所はプレビニエンス内の大音楽堂。


種族の特性で女性しか誕生しないハーピィ。

自然な流れとして、その国であるプレビニエンスは成り立ちから数百年間にわたり男子禁制だったのだ。

それはミサの請願によってユウ達が訪れた事により、終わりを告げた。


そして今、淑やかで静かに音楽を楽しむ場だった音楽堂は、ヒトとハーピィと巨人族が互いに手を取りながら笑い合う場として生まれ変わった。


ハーピィは自らの羽根や動物の皮を使ってハーピィ独自の楽器を持っており、それは澄んだ鈴の様な音色を奏でる。

人間は元より騒ぐのが好きな民族であるし、町の酒場はいつも様々な楽器の音でいつも賑やかだ。


いつの間にか音楽堂の中央は、手を取り合って踊る場所となっていた。


ゲイルがふざけてグロックと踊り、慣れてないグロックは振り回されて目を回している。

何人かの冒険者はミサに手を差し伸べているのだが、護衛隊長のアルジェが鬼の形相で立ちはだかり、なかなか難儀しているようだ。


スロウなペースでゆったりと流れる舞踏曲。

二種族が奏でるメロディーがこの場の空気を優しく包み込んでいた。





「おい、刀バカ女」

「何よ、ステゴロバカ男」


「お前、踊れるか?」

「竹刀しか握って来なかった人間がそんな教養を持ってると思う?」


「そうか。じゃあ俺が教えてやるから来い」

「えっ?ちょっとバナー!」




バナーがアサギの手を引いてダンスホールへと進んでいく。

アサギを相手に優雅な一礼を決め、戸惑う彼女をリードしながら華麗に踊りだした。


リズムに合わせて体を揺らす者が殆どだったその場で、洗練されたダンスを踊るバナーとアサギ。

バナーのリードが上手い為、アサギも無理なく合わせられている。


「…どこで覚えたのよダンスなんて」

「昔、ちょっとな。俺様にも色々あるのさ」

「ふーん…」





中央のダンスホールを見下ろす位置にあるテラス席。

普段はミサや幹部の者が演奏会を鑑賞する為のその席から、下を見下ろす男女が二人。



「バナーのやつ、ダンスが出来るなんて知らなかったぞ」

「男同士でダンスを披露する事なんて無いでしょ。それとも何かしら?先にあなたがバナーと踊りたかった?」

「よしてくれ気色悪い…」

「アハハハ!今の顔!」


よほど面白かったのか、お腹を抱えて笑うマナ。


その笑顔を見つめていたユウが、不意に手を差した。


「あいつ程上手くは踊れないが、お相手してくれませんか?」


「バカね。ここにはわたし達しかいないんだから、上手くなくてもいいじゃない。わたしもダンスはした事ないもん」


「じゃあ、俺たちなりのダンスを…」

「ええ、それでいいのよ、きっとね…」





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