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Fabula de Yu  作者: モモ⊿
一章-アカデミー -
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第十五話-オーバーフェンス-

マナの氷の盾を粉砕し、ユウの頭部に迫るベルジアントの大槌。


「ユウ!!!」


マナが叫んだ瞬間、グシャッという音が響く。


ベルジアントの手には、確かに何かを叩き潰した手応えがあった。


「おやー?もう終わっちまったのかぁ、君の冒険譚は〜」


ニヤニヤしながらハンマーをどかすベルジアント。

だがその下にあったのは、ユウの形をした氷の像だけだった。

ユウ本人ではなく、その氷像の頭部を潰していたのである。


「なんだぁ、コイツァ…」


長く生きてきた彼でさえ、見た事の無いモノを見た。

そして左腕を伸ばして確認しようとした。


確認しようと()()()()()()


それにより生まれた一瞬の隙。


だが、それは致命的な隙となる。


音も無く頭上から降ってきた()()は、ベルジアントが無造作に伸ばした左腕を襲う。


先程ミサが風魔法を撃ち込んだ部分。

服装のみを傷付けたかに見えたあの攻撃は、ベルジアントが感知出来ない程の細かい傷を無数に付けていた。


そして、上から降って来た(ユウ)の小太刀によって、巨人族が投げた岩を粉々にした時と同じ無数の斬撃が、その傷を襲う。


結果、ベルジアントが伸ばしていた左腕は、硬質な音を立てながら肘から先が宙を舞う事になった。


森での時と同じく、無音で着地し、すぐさまマナを庇うように後退するユウ。

その姿を見たマナは、おずおずとユウの袖口を握った。


「ユウ…?」


「おう」


「ホントにユウなのね…?」


「俺だよ。無事だ。なんだ、心配したのか?」


「心配したに決まってるじゃない!!もうっ…!!」


「悪い。だけど俺にも何が起きたか分からないんだ。マナの盾が砕けた瞬間、気付いたら天井あたりに浮かんでた。下を見たら二人が見えて、それで、そのまま…」


「それって…」


マナはリサを見やる。

遥かな昔よりの友に想いを馳せたその時、ベルジアントがハンマーを地面に叩きつけた。

地面に張った氷を割りながら派手な爆砕音を立てたそれは、マナの思考を断ち切った。



「おいおい、イチャイチャしてんじゃねぇよ…!しっかし、マジかよ。この腕を斬った奴なんて、ベルジアント(前のオレ)の時だって一人もいないんだぜ。やるなぁ、お前。そういや名前は?」


「…ユウ」


「ユウか。それだけじゃねぇはずだが、今はまあいい。覚えたよお前の事。さて、続きをやろうか」


「な…続きだと?左腕を失ったんだぞ?」


「それがどうした?俺はまだ生きてる。お前も生きてる。闘いってのはどっちかが死ぬまで終わらない。そういうもんだろ?あの時と違って、ここの天井は崩れたりしねーぞ」


「どうしてもやるんだな…」


ベルジアントの表情には先程までのニヤニヤした笑みは無かった。

代わりに表に現れていたのは、歴戦の戦士たる勇壮な面持ち。

ふと、ユウは思う。


どうしてこの人は悪に加担しているのだろう。

もしかしたら、フレデリカと同様に自分と肩を並べて戦うような道もあったのではないか。


しかし、今目の前にいるこの男は明確な敵だ。

それもユウにとっては圧倒的な強者。

不意打ちで左腕を落としたが、正直右腕一本だとしても勝ち目があるとは言い難い。

それでも、ここでは戦うしか選択肢は無いのだ。


ユウは決意を新たに言う。


「ベルジアント卿。あなたが強い事は知ってる。だが、俺は今死ぬつもりは無い」


「ハッハッハ!奇遇だな、オレもだ」


豪快に笑うその間も、ユウからは視線を切らない。

完全なる一対一。

マナは静かに見守るしかない。



次第に張り詰めていく空気。

氷の洞窟の中であるにも関わらず、寒さは感じない。


そして、どちらともなく動き出した。



☆★☆



ユウは低い姿勢でベルジアントの懐に飛び込み、小太刀の二刀を逆手に持ちながら飛び上がり、下から切り上げる。


ベルジアントはそれをミョルニルの柄で弾き、飛び上がった反動で身体が伸び切ったユウの胴体に向けてミョルニルを叩きつけた。


だがユウはその破壊の鉄槌を両刀で受け止めた。

金属がぶつかり合い、激しくも澄んだ音が響く。

だがそれも一瞬。


ユウは空中で受けたミョルニルの勢いを利用して後ろに飛び退(すさ)った。

もしベルジアントが両腕が万全の状態で全力で振り抜いていたなら、踏ん張りの効かない空中で受けた時点で、両の小太刀は粉々になっていただろう。


着地したユウは、今まで低く保っていた姿勢を起こし、小太刀を順手に持ち替える。


そして、疾駆。


瞬く間にベルジアントとの間合いを詰めたユウは今まで以上の速さで斬撃を繰り出していく。


しかしベルジアントはそれを躱し、弾き、時には反撃さえ入れてくる。


ーーー敵わない。

ユウの脳裏に浮かぶ敗北の予感。


速さは、力だ。


薄い紙切れ一枚でも、速さをその身に宿せば手の皮を傷付けるように。

鋭い刃を持つ名刀が、動かさなければ何も切れないのと同じように。


暴風の様な威力を持って襲い来るベルジアントの攻撃。

そのひとつひとつが圧倒的な速度を有している。

彼の持つ大槌-ミョルニル-は彼が持つからこそ、その真価を発揮する。


数ヶ月前、あの森に眠る遺跡で見た光景が蘇る。

あの時、ベルジアントがフレデリカと互角の戦いを繰り広げたという事は、フレデリカの速さと互角かそれ以上という事だ。


フレデリカとベルジアントの属性は雷。

全属性中で最速を誇る。

そして雷属性の魔力には、切断と分解が宿る。

フレデリカは刀を用いて切断を活用しているのに対し、ベルジアントは大槌を用いて分解を活用して圧殺する。

雷属性が最も攻撃的な属性と言われるのはそれが理由だ。



ユウの属性である氷属性には、停止と収縮が宿る。


あらゆるモノの動きを停止せしめ、膨張するエネルギーを収縮させて抑え込む。

全属性で最も制圧に長けた属性、それが氷属性だった。


つまり、ユウは自らが使役する属性に相反する形で身体強化魔法を施し、全属性中最速の雷属性に速さで勝負を挑んでいたのだ。


そしてその無茶をベルジアントも見抜いていた。

先程から、ベルジアントの攻撃をユウが避けていられるのがその証拠。


つまるところ、彼は試していた。

自分の腕を落とした強者を。

彼の属性が自分に敵対し得るものだと分かりながらも、実力は自分の方が上だと信じている。

彼の表情には、愉悦そのものが浮かんでいた。


-まだ壊れてくれるなよ?-


頑丈なオモチャを手に入れた子供のような。

そんな獰猛な思考が滲み出している。


敵わない。

今のままでは。

だから、ユウは次の手を打っていた。


ベルジアントの攻撃を飛びながら避けたユウがまた距離を取る。

そんなユウをベルジアントは追わない。

自分の速さの方が優っていると確信しているからだ。


業を煮やしたベルジアントが叫ぶ。


「おいどうした!?オレを倒してそこのお姫様を守るんだろう!?よけてばっかりじゃいつまで経ってもオレは倒せんぞ!!」


「分かってるさ…」


「あン?」


一言呟いたユウが、また突撃の格好を取る。

姿勢を低く、地を這う影の様に動いて、二刀を構えながら突っ込んで行く。


「まーた突撃(それ)かい。残念だがもう飽きた。終わりにしようぜっ!」


ベルジアントは自身の誇る最高速でミョルニルをユウに叩きつける。

それまでの手加減した速さではなく、恐らくはフレデリカでさえ対応出来るかどうかという速度。


飛び込んで来るユウにその暴威をぶつけ、粉々にして終わり。

あとは残った天上人(てんじょうびと)のマナを連れ去るだけだ。


()()()()()()()


今まで何人もの戦士を屠って来たベルジアント。

いつもの様に、目の前に動かなくなった身体が横たわると思っていた彼の思考は、目の前の存在に壊される。


「なん…だと…?」


ベルジアントが思い浮かべていたものとは違う現実。

それは、自分の攻撃で砕け散るはずだった敵が、未だ健在で目の前にいるという現実。

そしてあろう事か、最高速で繰り出したはずの攻撃を、その手に持つ小太刀の二刀で完全に受け止めている。


どんなガードをも破壊し、直撃した身体をも破砕する力を持ったベルジアントの本気の攻撃を受け止められるものなどいなかった。

無論、一撃必殺だけが彼の強みではない。

無尽蔵な体力と、広範囲に及ぶガード不能の攻撃で圧倒的な死を撒き散らす。

それが、彼を世界で五指に入る強者に押し上げた力。


その力を、真正面から受け止めたユウ。


「やっと効果が出たか。あんた、タフすぎだ。そろそろこっちもヤバかったから、間に合ってよかった」


「何を言ってやがる?」


「あんたが俺の事を侮ってるあいだに仕込めなかったら、今度こそ俺は死んでた。良かったよ、あんたが本当に強くて。おかげで俺はあんたを超えられる」



ユウは、氷属性を二刀に纏わせて戦っていた。

停止と収縮。

その力を刃からベルジアントへと徐々に刷り込ませていった。

ユウが仕込むと言ったのはその事。

ジワジワと毒のようにベルジアントの雷属性を侵食していくユウの氷属性(まりょく)

最高速が速すぎるならば、追い付けるまで遅くしてしまえばいい。


ユウとベルジアントの攻防で、ユウが突撃を繰り返していたのには理由があった。

突撃しての最初の一撃はベルジアントが迎え撃つ。

その初撃をかわし、ユウは斬撃を繰り出す。

それはベルジアントの鋼鉄の腕や武器などで阻まれ、致命的な傷は付けられないが、ユウの狙いはその傷にあった。


ベルジアントは己を絶対の強者だと知っている。

だから自分に届き得る攻撃を察知出来るし、完璧にガードする事が出来る。

そうしてガードした部分に刻まれる、見えるか見えないかという程度の小さな傷。

そこからベルジアントの魔力に影響を及ぼす。

小さな傷の積み重ねにより蓄積されたユウの魔力が、ベルジアントの魔力を減速、収縮させ、武器同士のぶつかり合いで負けない程に弱体させたのである。



「なるほどなぁ。ますます気に入ったぜ。壁が高いなら、その壁を低くしてしまえばいいってか。実際にそれが出来るヤツってのもあんまりいねーんだけどな。面白いヤツだぜホントによぉ!!」


自分に匹敵する者になったユウと鍔迫り合いをしながら笑うベルジアント。


だが彼は知らなかった。

ユウはマナと魔力の繋がりを持っている事を。


そして忘れていた。

ここが、()()()()()()()()()()()()()



「言ったはずだ」


ユウの言葉に怪訝な表情を見せるベルジアント。


「あんたを、超えるってな!!」


ユウが二刀を振り払う。

ベルジアントの大槌-ミョルニル-が押し切られた。


驚愕に目を見開くベルジアント。

ミョルニルを握る右腕は大きく後ろに逸らされた。

彼にすぐ反撃は出来ない。


「う、おおおおおおおおお!!!!!」


ユウが得た最大の勝機に、ありったけの力を込めて二刀を振るう。

左右交互に何度も繰り出される斬撃が、ベルジアントの鋼鉄の身体に吸い込まれていく。






次回、決着。

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